グリモード・プレイスに足をつけた時、エルファバはよろけたが頑丈なシリウスが支えてくれた。
「おい、大丈夫か?付き添い姿くらましをルーカスと一緒に訓練したと思うが、キツかったか?」
シリウスが顔を覗き込んできたので、エルファバは虚ろな目でコクコクと頷く。
「予定より30分の遅刻だぞブラック。」
グリモード・プレイスの居間でマッド・アイが仁王立ちしていた。
「しょーがねーだろ。こいつが親に見つかっちまったんだ。俺は犬になっていたから問題なかったが…様子を伺っていた。来た無言者たちを倒してたんだ。」
「魔法省に理由をつけて身柄を拘束される可能性が高いお前は、なるべく交戦を避けるようにダンブルドアの指示だった。」
「はいはい、悪うござんしたー。」
シリウスは呆然とするエルファバをよっ、と持ち上げる。エルファバは手足をされるがままだらんとさせソファに座らされた。
「ダンブルドアがあと数分で来る。無言者たちとファッジらを巻いているらしい。」
「おーおー、これは驚いた。校長殿は大臣と交戦ときた。それじゃあ俺の予定外の“やむえない交戦”は免除だな。」
「口を慎めブラック。」
シリウスは随分不機嫌なのには理由がある。今回の“エルファバ救出作戦”を実行するにあたり、エルファバの家へ入り込みそのまま姿くらましできる騎士団員はシリウスしかいなかった。リーマスもルーカスも顔が割れており、父親がその2人が入れない呪文をかけている可能性も高く、部屋に侵入するのは無理があった。シリウスはかつてエルファバの家で看病されていたため自由に家の出入りができ、かつ犬になればエルファバの部屋の窓からスムーズに入ることができた。家に帰ってきたエルファバと共に姿くらましできるのはシリウスだけだった。
つまりこの1月から数ヶ月間、いつでもエルファバを助けられるようにシリウスは大嫌いな実家に数ヶ月間缶詰だったのだ。数ヶ月ぶりに外に出れた血の気の多いシリウスは、テンションが上がり意気揚々と無言者数名を倒してついでに父親と渡り合ったということだ。
「デニスたちは魔法省側についたということか。」
部屋に早足で入ってきたのはリーマスだった。前以上に白髪が増え一気に老け込んでいる。きっとリーマスはシリウスより長くこの屋敷にいるに違いない。
「そうだ。一緒に暮らそうだの、魔法を捨てて幸せになろうだの、綺麗事を吐いてたよ。」
「魔法を捨てるだって?」
「ああ。ホグワーツを退学になったのはラッキーだと言ってこの子を懐柔しようとしたが本人が拒否した。」
シリウスは少し誇らしげにエルファバを見る。アウトローな仲間だと思っているのだろう。エルファバは曖昧に微笑み返す。
「で、拒否したら魔法省側行きというわけだ。」
「ひどいな…。」
リーマスは首を振ったと同時に、廊下で何かが燃える音と共に足音が聞こえた。
「ダンブルドア。無事だな。」
校長は何か砂のようなものを今は綺麗になった棚に置き、いそいそと居間へ入ってきた。砂の中から、ムクっと顔を覗かせたのは不死鳥のフォークスだった。目をパチパチとして周囲を見回してからあくびをして自分の砂の中へ戻る。
「エルファバも計画通り戻ってきたと…良かった。」
「計画通りではない。ブラックの奴が無言者数名と交戦しやがった。」
マッド・アイの報告にシリウスは舌打ちをし、ガシガシ頭をかきながらエルファバの隣にドスンと座った。ダンブルドア校長は想定内だったようで、特に驚きもせず一瞬たしなめるようにシリウスを見た。
「エルファバや。」
エルファバに近づき、ダンブルドア校長はしゃがむとエルファバと同じ目線になった。
「校長先生…ごめんなさい。私、ショックで…その、「良い良い、魔法使いにとって杖を折られるということは身を裂かれるような苦しみじゃ。あれはグリンダのものじゃったし、わしは君の本当の威力を知れた。」」
ダンブルドア校長は優しくウインクをする。
「君の本当の能力は、想像以上だった。」
「ホグワーツ城が氷漬けになったというのは本当か?」
「左様。広大なホグワーツ城周辺が氷漬けとなりかつ周りの天候も真冬のようじゃった。」
エルファバはますます自分の行ったことの重大さに縮こまるが、ダンブルドア校長は気にせず続ける。
「あの環境だとしばらくは休校じゃろう。自然に溶けることを考えても、数日は時間がかかると見ておる。わしらにもデメリットはあるが、それはドローレンスやファッジも同じ。お互い魔法は使えず、ホグワーツ城内は休戦じゃ。」
「ハリーたちは退学になりませんか?」
「安心するがよい。君も含め、魔法省は生徒を退学にする権利は持ち合わせておらん。」
エルファバはホッと一息ついたあと、堰を切ったように話し始めた。
「本当、あの人最低だわ…。私が叔父さんを凍らせたなんてでっち上げまでして私を「そのことじゃが。」」
エルファバの話を止め、ダンブルドア校長は重々しく口を開いた。
「残念ながら、君の叔父さんが凍ってしまったことは本当なのじゃ。」
「……何ですって?」
エルファバは助けを求めるようにシリウス、リーマス、マッドアイを見るが誰しもが重々しく思い詰めた顔をしていた。
「…魔法省が、叔父さんに攻撃を…?」
「可能性はある。じゃが、君を捕まえたいがために魔法機密保持法を破ってわざわざマグルを攻撃するリスクを取るとも思えん。」
「じゃあ…一体誰が…?」
ダンブルドア校長は首を振り、口をつぐんだ。
ーーーーー
エルファバがホグワーツ城一帯を凍らせてから数日後。ダンブルドア校長が予想した通り、授業はほぼ休講となった。
城にかけられた魔法はほぼ全て消えたため、城は教育機関として機能しなくなった。宙に浮いていた物やらオブジェが落下する大惨事となったし、ホグワーツにかかっていた保護呪文も一切合切消えた。
しかしハーマイオニー曰く1000年も続くホグワーツ城はこのような事態にもしっかり対応しており、古代ルーン文字で書かれた魔術書を読み解き、その代の校長が手順通り魔法と魔術を施せば数日でホグワーツ城は元に戻るらしい。
が、問題は校長が今不在ということだった。
“自称”校長を名乗ったアンブリッジだったが、ホグワーツ城の再建という大仕事を成し遂げられるほど優れた魔女ではなかった。そもそもその本も校長室にあるが、アンブリッジは氷が溶けた後の校長室にすら入れなかったらしい。
「あのババアのことだから、古代ルーン文字の基礎すら読むことも怪しいわ。」
ハーマイオニーはそう見下したように言った。
そんなこんなで学校は突如休校になり、学生たちは自主学習期間という名の無法地帯化が進んだのだった。フレッドとジョージはこれ幸いとバンバン花火をホグワーツ城内で散らせ、アンブリッジの再建を全力で妨害した。セキュリティが皆無に等しいホグワーツ城に脱獄した死喰い人たちが、乗り込んでくると噂で持ちきりだった。
この2つの理由のおかげで、アンブリッジの機嫌は最高潮に悪くエディのYシャツが美しく着れていないという理由でハッフルパフから10点減点した。その場にいた全員でエディがアンブリッジにクソ爆弾を投げるのを止めたのだった。
唯一、薬草学の授業だけは続行された。温室は魔法とマグルの技術両方使われていたのでエルファバの氷の被害は逃れたのだった。噂によるとスプラウト教授はエルファバがホグワーツ中を凍らせた時、授業を実施しており全く気づかなかったそうだが後々事の全容を知り、哀れなエルファバの末路と自分の愛する貴重な植物たちに被害が及ばなかった喜びが混ざって大泣きしたらしい。
しかし、こんな事態でも(5年生にとっては残念だが)O.W.L.などのテストは予定通り続行される決定が魔法省よりなされた。取り急ぎ収集がついた大広間は、食事時間以外はテストがある5年生と7年生の自主学習用スペースとして開放された。その日、ハリーたち5年生はその大広間でテスト勉強に明け暮れていた。
「なあ。あの噂本当だったんだな。」
ロンは大広間で勉強中、向かいに座っていたハリーとハーマイオニーに声をかけて顎で後ろを指す。
「うわっ。」
ハリーが声を出すのは無理もなかった。今しがた端っこの席に座ったセドリックの左目から頭にかけて、紫の巨大なイボたちが覆っていた。1人で座り、羽ペンと羊皮紙を開いて勉強に取り組んでいた。周りの生徒たちもセドリックを遠巻きに見て、ヒソヒソと嘲りながら去っていく。
「嘘でしょ?あれエディがやったの?」
「フレッドが言ってた。エルファバの杖を折らせたセドリックにブチ切れて、“いぼいぼの呪い”をかけたんだって。セドリックも抵抗しなかったらしいよ。」
「可哀想にセドリック…今魔法省でインターン中でしょう?」
「マダム・ポンプリーに言えばすぐに治してもらえそうだけど。」
「セドリックったら、変なところで律儀なんだから…。」
「あの一件でセドリック、相当なヘイトを買ったよね。嫌がらせもすごいって聞いたよ。」
「ううっ、見てるだけで寒気がしてくるよ…ああ、噂をすれば。」
今度はハーマイオニーとハリーの後ろにエディとルーナが駆け寄ってくる。セドリックに反して、かなり嬉しそうでスキップしながらやって来た。
「さあ、みんな。準備は整ったわよ。」
「本当?」
エディが高らかに言うとハリーはガタッと立ち上がった音が、静かな大広間中に響いた。
「うん。パパが今日発売のやつにハリーのインタビューが載るってさっき連絡してきたもン。雑誌のサンプルも送ってもらったンだ。」
「最高だ。これであのババアをホグワーツから追い出せるかな。」
興奮気味にロンが言う。ハーマイオニーは入って来たばかりのセドリックが、そそくさと大広間を出て行ったのを横目で見てから大きく頷く。
「ええ。手筈は完璧なはずよ。」
「よおよお、イタズラの準備が整ったと聞いたぜ!」
フレッドとジョージがニヤニヤしながら、エディの背後から現れた。
「俺たちの手で」
「我らのホグワーツを」
「「取り戻す!!」」
「エルフィーもね。」
「どのタイミングで言うんだ?」
「今日発売のやつだから、今日の夜6時にお披露目会だよ。フレッドとジョージがみんなに招待状を配るんだ〜。あいつが無様に堕ちる様をしっかりこの目で見てやるんだ。」
「楽しみだ…うまくいくといいな。」
「我々は皆の衆に招待状をお送りするので、一足早く失礼するとするよ。」
「では6時に、大広間で。」
フレッドとジョージはもったいぶって、気障ったらしく咳払いするのでみんなが笑った。
その数時間後。
アンブリッジは、輝かしい自身のキャリアの第一歩を散々な形で破壊されたことにこれまでにない憤りを覚えていた。廊下の角でキスしていたレイブンクロー生の2人から20点減点を行い鼻息荒く、夜のホグワーツをずんずん歩いていた。
あの不思議な魔術を暴発させる君の悪い女子学生は、この歴史あるホグワーツ城を氷漬けにしこの城にかかっているすべての魔術を無効化した。新聞には載せないように口止めし、生徒たちにも口止めの教育令を刊行して親にも言わないようにしているが、どこからかその情報が漏れて、ウィゼンガモットはファッジの管理能力を疑問視する声がから出ている。しかもあの赤毛双子。ホグワーツ城の再建に勤しむ自身を小賢しいイタズラグッズで全力で妨害していた。
教授たちも一切力を貸さず、教育者としてあるまじき光景であった。
それにハリー・ポッター。存在が害悪である。
ハリー・ポッターが虚言を吐いたことで結果ファッジに寄り添い、最高の地位を得ることができた。しかし毎授業ごとに虚言を吐き続けて、体罰をしてもめげず、挙句に闇の魔術に対する防衛術を学ぶ学生サークルも作っていた。
先日は忌々しい氷の娘とハリー・ポッター、そしてダンブルドアを一斉に捕縛する最大のチャンスだったが、結局どれも中途半端に終わった。ファッジが不機嫌になったがダンブルドアを追い出しホグワーツという強大な機関の権利を掌握できたと必死におだててなんとか気持ちが収まったのであった。
これもホグワーツ城の校長という、一生キャリアの中で輝き続けるであろう称号のためにはこの犠牲も必要なのかもしれないと思い始めた。
アンブリッジは自分で自分の機嫌を保ち、校長室(自称)へ戻ろうとした時だった。
「アンブリッジ校長!大変です!」
監督生であるパンジー・パーキンソンが血相を変えて後ろから息を切らしてこちらに走ってきた。
「ミス・パーキンソン、何事なの?」
「あいつらが…スリザリン以外の寮生たちが一斉に…校長の根も歯もない噂を…ばら撒いています…!!」
アンブリッジは慌てて廊下を走り、すぐ近くの大広間に向かう。今は夕食時で、ほぼ全校生徒が大広間にいるはずだ。大広間の入口には生徒たちが群がり何かの雑誌を見ながらザワザワ騒いでいるのが目に飛び込んでくる。
「どきなさい!どきなさい!」
アンブリッジは生徒たちを叱りつけ、押し倒し、大広間の中心までやってきた。中の大広間はもっと異様な光景だった。
食べ物が載った大皿とカボチャジュースが宙に浮かび、机と椅子が撤去され生徒たちは立食している。その間を花火が駆け巡り、各々それを避けながら食事をしていた。天井からはアンブリッジの顔がプリントされた横断幕が吊るされており、「私が魔法界の面汚しです!」「皆、私に従いなさい!」と言っていた。
「さあさあ、レディースアンドジェントルメーーーーーーーン!!!よってらっしゃい見てらっしゃい!!哀れなガマガエルが丸焦げになる様を見れる貴重なチャンスだよーーーーー!!!」
長身のハッフルパフ生は喉に杖を押し付け、拡声呪文を使い小さいテーブルの上に立って高らかに叫ぶと、大量に雑誌を宙に巻いた。
「招待状は皆さん持ってる?大広間に入ると、今話題の雑誌に変わるよ〜!」
「…ミス・スミス…!」
「あ、よーやく
エディの顔はハッフルパフのシンボルであるオレンジ一色にペイントされている。ニヤッと笑うとその白い歯がよく目立った。生徒たちはアンブリッジの存在に気づくと一斉に大広間の壁側に寄り、エディとアンブリッジの周りに大きな空間ができた。
「今は一体何時だと思ってるのかしら?すでに寮に戻るべき時間のはずなのにこんな大声で…他の生徒たちも…!ハッフルパフから「減点する?どうぞご勝手に。今日はあんたの最期を拝める日だからね。あ〜あ、そうね。“シックス・センス”ばりのどんでん返しをあんたにしてやる、最高のクライマックスを迎えるのよ。」」
「何を言っているのですか…?」
そう言うが否や、エディは棒立ちになるアンブリッジに宙に浮かんだ雑誌をひっつかみ、投げつけた。
「読んでご覧よ。あたしたちの…この数ヶ月の集大成をさ。」
アンブリッジはエディの無礼な態度に憤慨しつつも、今しがた投げつけられた雑誌を拾い上げる。その表紙には水色の文字に金色の縁取りで“クィブラー”と書かれ、その下にはニタニタ笑う自分がガイコツを積み上げたピンク色の玉座の上に座っている。
そしてアンブリッジの前には大きく、真っ赤な文字が浮かび上がってきた。
『魔法省最大の悪女〜魔法大臣上級次官ドローレンス・アンブリッジ女史の悪事を人気ライターのリータ・スキーターがすっぱ抜く〜』
「な…にを…?」
「右下もよく見てみろよ。傑作だぜ。愛しのファッジがなんて言うかな。」
今度は顔を赤と金に塗りたくったフレッドかジョージがエディと同じ机に乗り込み、エディを支えながら叫んだ。
アンブリッジは呆然としながら、右下で肩を組んでいる男性2人の写真をまじまじと見た。1人は少し嫌そうな顔で笑うハリー・ポッターだ。なるべく、少し隣の男性と距離を置こうとするもの、もう片方が強引に腕を引っ張り上げるのだ。その人はとてもハンサムで、セピア色の写真でもよく分かる真っ白の歯を見せて笑いかけていた。記事のタイトルはこうだ。
『特別会談スペシャル〜冒険家、ギルデロイ・ロックハートと生き残った男の子、ハリー・ポッターが“あの夜の出来事”を全て告白〜』
ーーーーー
数ヶ月前。グリモールド・プレイスの居間に子供たちは集まっていた。
『はいはいはい、みんな注目、注目!!!』
エディは骸骨の頭がついた松葉杖をカンカン床で鳴らしながら入ってきた。どこからか調達してきた紺色のぶかぶかローブを引きずり、部屋の端で仁王立ちする。ソファに座る、エルファバ、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ジニー。そして姿あらわしでソファの後ろでフレッドとジョージが現れたところでエディはわざとらしく咳払いをした。
『お集まりの皆さん、本日はお時間をどうもありがとう。集まってもらったのは他でもないわ。』
エディはチョークを取り出し、壁紙が剥がれ剥き出しになった木製の壁に荒々しく書き込んだ。
“アンブリッジをいかにホグワーツから追い出すか?”
『あー、エディ?』
『いい?こいつのせいであたしたちの輝かしい青春が奪われているわ。1年そして2年、あたしのホグワーツ生活は最高だったわ。友達、教授、授業!それにエルフィーと仲良くなれたし?』
ハーマイオニーの声を無視し、エディは恭しくエルファバにお辞儀するとエルファバもコクっと会釈する。
『けど、今のホグワーツは最悪よ。教育令、教育令、教育令!!体罰!!差別…!!あたしたちの大好きなホグワーツじゃない!!その全ての根源は?アンブリッジ!!』
ロンはそうだそうだ!と野次を入れ、ハリーもウンウンと頷く。
『こいつを今ここで叩き潰さないと、このイギリス魔法界にとって大損害よ!』
『エディ…?』
男子勢がやいやいピーピー囃し立てる中、ハーマイオニーは、恐る恐る手を挙げて興奮するエディを制止した。ロンは”やっぱりね“という顔をして腕を組み、首を振った。
『エディの言うことはすっごく分かるんだけど…その、方法はあるの?たしかに鼻持ちならないババアよアンブリッジは。けれど魔法省の偉い人で私たち生徒は、そいつを辞めさせる方法なんてないはずよ。それに、きっと今ここで悪いことをしてるんだから魔法省はこれが終わったら然るべき対処をしてくれるはずよ。』
『おいおい正気かハーマイオニー?今この魔法省の現状を見てそう言ってるのかい?』
ロンはやれやれと言った顔でハリーを見た。エルファバはそれをたしなめるように睨み、間に挟まれたハリーはどちらの味方をすればいいか分からないと2人から顔をそらす。ジニーは負けじと身を乗り出した。
『けど、この会議を開いているってことは考えがあるのよねエディ?』
『ない!!』
ジニーは頭を抱え、フレッドとジョージは吹き出し、エルファバは恥ずかしさに顔を赤らめ、ハリーがエルファバを慰めた。
『けど…けど、なんかあるはずなのよ!あの性悪女、常習犯だわ!あいつのホグワーツでの悪行を新聞にリークして晒すとか、いろいろ!』
『日刊預言者新聞が僕ら学生の言うことを聞くかな。ファッジの息もかかってたらお気に入りのアンブリッジのこと悪く書けないよ。』
ハリーは侮蔑の色を含みながら吐き捨てるように言った。
『うーーーん、日刊預言者じゃなくてもいい!なんか有名な新聞でリークできそうなことない?』
『……あ。』
しばらくの沈黙の後、ハーマイオニーが何かを思い出したように声を上げた。
『ハーマイオニー!!!何かある?!?!』
『媒体はともかく、手段はあるわ。』
ここでもまさかの大穴にみんなが驚いた。ハーマイオニーは少し嫌そうだが自自信ありげに答えた。
『リータ・スキーター。あいつの弱みを握れば、多分調べてくれる。』
『リータ・スキーター?あの嘘ばっかの記事を書く?』
『…なんか聞いたことあるその名前。』
『私のこと、セドリックとハリーを弄ぶビッチって書いた人よエディ。』
『…あ!エルフィーと叔父さんのこと書いた人!?うっげー!』
エディはオエーッと吐く真似をする。エルファバも肩をすくめた。
『ええ、そいつよ。』
『めちゃくちゃいいアイデアだけど、あいつ“週刊魔女”とかのゴシップがメインだろう?魔法省のこと書いてくれるかな?』
『あいつは魔法省の裁判で記者として入ってた。多少魔法省にも通じてる。』
フレッドの疑問にハリーが答えた。エディはパッと顔を輝かせ、クルッと周り、壁をタンタンっと手のひらで叩いた。
『決まりね。リータ・スキーターを使いましょう!』
事がさらに進展したのはその数日後、ミスター・ウィーズリーのお見舞いをしに聖マンゴ病院へ行った時のことだった。ミセス・ウィーズリーがマグルの治療で蛇に噛まれた部分を治療しようとした事でミスター・ウィーズリーに激怒し、子供たちはそこから避難していた。ロンはあくびをしながら言った。
『あーあ、僕お腹すいちゃったよ。』
『どこかにカフェとかレストランとかあるといいんだけど。』
『案内板が廊下のどこかにあったはずよ。見てみるわ…6階ですって。そしたらそこの階段を登って…』
ハーマイオニーがキョロキョロしていると、病院内を歩いているとやたら騒がしく、婦人たちが色めきだっていた。
『なんだい、有名人でも来てるのか?』
『あら、魔法界でもそんなボランティア的なことをするのね。マグルの病院だとよくあるのよ!』
『あんまり話は聞かないけどね。『ほらほら、みんな押さないんだ!急がなくても私はみんなに愛とサインを送るまでどこにも行きませんよ!』』
キザなセリフを吐くその声に、エルファバ、ハーマイオニーは顔を見合わせ、ロンとハリーも口を開けていた。
『ハーイ!このギルデロイ・ロックハートとの写真会!病気と闘う君たちに、悪と戦う私が応援に駆けつけましたよ!』
ライラック色のローブをなびかせ、ブロンドヘアをしっかり整えたロックハートは広い廊下で仁王立ちしてうっとりした魔女たちに握手とウインク、あるいは手の甲にキスをしていた。魔女たち数十名がロックハートを取り囲み、ロックハートがキザなセリフを吐くたびに黄色い声援を上げている。
『…誰あれ?』
『そっか、エディは知らないわよね。あの時、まだ入学してなかったから。私が1年だった時に闇の魔術に対する防衛術の教授をやってた人よ。』
『教授とは言い難かったけどな。まあ、アンブリッジよりよっぽどマシだけど。』
事態を理解できていないエディにジニーとフレッドが説明を入れた。
ハーマイオニーは、何かが降りてきたかのようにニンマリと笑い、ツカツカとロックハートの前に歩いて行った。
『ハーマイオニー、何する気だ?』
ロンとハリーは慌ててついていき、エルファバ、エディ、ジニー、フレッドとジョージもそれにならった。
『あーら、ロックハート教授!お久しぶり!』
ハーマイオニーは魔女たちの黄色い声援をかき消す大声で、ロックハートにそう言い放った。完璧なスマイルを振り撒いていたロックハートはハーマイオニーを見るなり凍りついた。
『…みっ、ミス・グレンジャー…!?』
『ちょっとお話しできます?元生徒のよしみで。』
エルファバは久しぶりに見るハーマイオニーの悪い笑みに寒気がした。
(この笑みはハリーが怒った時にエルファバを盾にできると言った時以来だ。)
『えっ、いや、その『あれ、それとも、私たちとの大冒険の話をする?お漏『行きます!行きますったら!』』
ロックハートの慌てっぷりにさっきまで騒いでいた魔女たちはシンと静まり返り、怪訝そうな顔でロックハートそしてハリーを眺めていた。
『あれってハリー・ポッター?』
『さすがロックハート、生き残った男の子と面識があるなんて。』
『けど、最近ハリー・ポッターって虚言癖すごいんでしょう…?』
エルファバはその魔女をムッと睨むがハーマイオニーが廊下の端にロックハートを連行したので慌ててついていった。ハーマイオニーは自分たちとロックハート、そして寝ている肖像画しかいないことを確認すると早口でエディに告げた。
『エディ、適任者がいたわ。』
『…適任者?』
『ええ、あのガマガエルを倒す以外にも大事なことってあるわ。ハリーの汚名を晴らすこと!』
『えーっと、それとその色男がどういう関係が?』
当のハリーも全く理解ができないと言わんばかりにハーマイオニーとロックハートをキョロキョロ見ている。ロックハートも廊下の角に後退りしながら口をパクパクさせている。
『エディ、この人魔法界だと有名な冒険家なのよ。めちゃくちゃペテン師だけどね。この人の名声を使ってハリーに真実を対談してもらうの!』
『き、君らに、協力?』
キョドッていたロックハートはここでやっと声を発した。明らかに不満そうである。ハーマイオニーはジロっとロックハートを睨む。
『あら、断れるお立場ですか?いいのよ。今からでもあなたの冒険話が全て人から取ってきて、その人には忘却呪文をかけて全て自分の手柄にしてるって。』
『っ!っだっ、誰がお前たちの言うことなんぞ信じるか!しかも、ハリー・ポッター!君は、最近“名前を言ってはいけないあの人”が復活したとかなんだとか言って周囲の気を引こうとしているらしいじゃないか!それに関する話を対談だと…?いや、まっぴらごめんだ!そしたら私の株が急行下して』
バキバキバキっ!!
エルファバが無言で氷の塊を手のひらに作り、ロックハートの顔の前に持ってきた。
『…あっ、はい、やります。』
『よろしい。』
『決まりね。』
氷をその辺にぽいっと捨てたエルファバを見たロンはハリーに耳打ちする。
『エルファバが僕らの味方で本当に良かったと思わないかいハリー…。』
『それを言うならハーマイオニーだよ、ロン…。』
ーーーーー
「…っていうわけ。記事もめちゃくちゃ面白いよ〜。」
エディは机から降り、嬉々としてアンブリッジの顔を覗き込んでいる。
「雑誌はこのルーナが協力してくれたの。」
エディが腰を折ると、大広間の端にいるルーナは得意げに笑った。ルーナはルーナで顔を紺色にペイントしている。
「あんたの被害者はごまんといた。あんたに呪いをかけられた人、ミスを押し付けられ魔法省を辞めた人、その他諸々。敏腕記者のリータ・スキーターは全てそれをかき集めてくれたわ。一語一句完璧にインタビューの内容を書き起こして、この完璧な記事を書き上げてくれたの。ねえ、人にこんなに恨まれてるって一体どんな気持ち?」
「有名人ロックハートとハリーのスペシャル対談付き。ロックハートは自分が執筆してるから、ハリーから聞いた話を書いてクィブラーに投稿すれば良かったってわけだ。魔法省のずさんな対応もセットで世間に知れ渡った。」
アンブリッジは記事が読めなくなるほどに握りしめ、震えていた。
「あれ?絶望した?自分の悪事が世の中に「…んふふっ、ふふふふ、あーっはははははっ!!」」
エディは突然笑い出したアンブリッジに顔をしかめ、後退りをした。
「あーっ!おっかしい!何を言い出すかと思えば!これだからあなたたちは教育が必須なのよ!たかだか週刊誌、しかも陳腐なクィブラーなんて記事に出た魔法省の記事なんてだーれが信じるというの?世の中のことを知らないあなたたちにこの私が優しーく教えてあげますわね。魔法省に対する批判の記事なんて毎日山のように出ております!これだって、世の中の人たちからするとちょっとしたエンターテイメントに過ぎません!!」
「その通りだ。こんな記事、毎日いくらでも出てる。」
アンブリッジの背後から現れたのはハリー、ロン、ハーマイオニーだった。エディたちとは違い、いつも通り制服を着こなし顔にペイントはない。アンブリッジの豹変ぶりに少し引いていたエディ、フレッド、ジョージは“ようやく主役が現れた”とニヤニヤしている。
「ああ、ミスター・ポッター。あなたからも減点しなくては。とんでもない嘘を世に広げたことでグリフィンドール、50点減「減点すればいいさ。僕らは真実を話しているから。けど、もっと自分の心配をするべきじゃないか?卑怯者の鬼ババアめ。」」
ハリーの暴言を止めず、ハーマイオニーはクスクスと笑い、ロンは声を上げて笑いそうになったのを咳で誤魔化した。
「お前をホグワーツから追い出すための策はもう1つ用意してるんだよ。」
「あーら、その素晴らしい策を私にも1つ教えてくださいませな。」
アンブリッジは小馬鹿にしたように瞬きを数回繰り返す。そんなアンブリッジに動じずハーマイオニーは一歩進み出て、勝ち誇ったように腕を組んだ。
「ええ、教えてあげるわ。あなたが醜悪であるという決定的な事実を、今この瞬間、魔法省で発表してくれている私たちの仲間がいるのよ。」
「…は?魔法省…?」
「そう。あなたがこのホグワーツでやったことを、クィブラーで載っていた悪行、そしてその他この雑誌に載っけられなかったこと全て、ね。」
「………馬鹿馬鹿しい。生徒がホグワーツを抜け出して魔法省へ行ったとでも?そんな人がこの城内にいるわけ「いるわよ。ほら、あなたが直々に許可を出して魔法省へ出入りできるようになった人。ここまでヒントを出しても分からないかしら?」」
アンブリッジはちんぷんかんぷんだと言う顔をした。ロンの隣にフレッドとジョージが並び、3人で同じ悪い笑みを浮かべた。
ハリーがその人物の名前を口に出したー。
ーーーーー
同時刻、グリモールド・プレイス。
シリウスは犬が吠えるような声でゲラゲラと笑っていた。机に長い脚を乗せ、椅子にもたれて仰け反って今にも頭から落っこちてしまいそうだ。
「さすが、ジェームズの息子だハリー!!クリスマスの時になんか集まってると思ってたが、ここまで大きく盛り上げてくれるとはな!!」
エルファバはシリウスとリーマスに例の雑誌、つまりはこの数ヶ月の集大成を見せていた。机の上にはティーカップが3つ置いてあるが紅茶はすでに冷めていた。
リータ・スキーターを使った魔法省の闇を暴くこと、ロックハートとハリーとの対談。この喜びを皆と分かち合えないのは非常に残念だ。ロックハートはともかくとしてリータ・スキーターに関しては、アンブリッジの悪行はゴロゴロ出てきたもののアンブリッジの報復を恐れて、なかなかみんな証言をしたがらなかった。
しかし、(どういう手段を使ったかは知らないが)どうにかこうにか、リーター・スキーターはアンブリッジの悪行をしっかり記事にしたのである。
ロックハートも隙あればハリーの勇気ある偉業を自分のものにしたがり、内容を改変したのでハーマイオニーが勉強の合間に何度も突き返したのだった。
「リーマスが私にくれた日記帳をヒントにしてハーマイオニーがリータ・スキーターとロックハートに魔法をかけた羊皮紙を渡したの。彼らが書いたことはすぐにこちらにある羊皮紙に反映されて、訂正できたわ。」
一方ルーピンはシリウスの隣で笑っていいのか、分からなさそうな複雑な顔で雑誌を読んでいた。
「その…エルファバ。申し訳ないんだけど、確かにこの記事は最高だ。特にハリーの告発は世間を動かすだろう。けれど、こんな記事嘘も本当も毎日のように掲載されている。魔法省がこの記事1つで動くとは…。」
「そうなのよ。みんなで実行に移す時、同じ指摘をされたの。」
ルーピンは雑誌から顔を外し、怪訝そうに眉を上げる。シリウスもまだ何か面白いことがあるのかと体を上げ、少年のように目を輝かせた。
「だから、もう1つ。言い逃れできない確固たる証拠を魔法省で今…。」
エルファバがそう言いかけたところで、誰かがゴトっとトロールの脚で作った傘立てを倒して、中へ入ってきた。シリウスの母親の肖像画はエルファバが氷を使って剥がしてしまったのでもう物音を立てても叫びはない。
「やだ、トンクス、帰って来ちゃったの?」
エルファバはひどくショックを受けた声を出して立ち上がった。
ショッキングピンクのツンツンヘアなトンクスはキョトンと厨房の入り口で立ち尽くした。
「え、なに?いけなかった?」
「いけなかったわけじゃないんだけど…。」
エルファバはもじもじして、上目遣いでトンクスを見上げた後、少し恥ずかしそうに右ポケットから何かを取り出した。
「…今魔法省で、私の彼氏が頑張ってるから、見て欲しかったの。」
エルファバが右手に持っていたのは、折れたはずの白い杖だった。