『確かにいい考えだとは思うんだけど。』
DAの集まりが終了し、皆が解散した頃。
必要の部屋で、ガタイのいいハッフルパフ生はリータ・スキーターとロックハートが書いた原稿を読み終えた後に呟く。
『正直、こういう政治批判の記事ってかなり出回ってるからこれでアンブリッジを今の地位から引きずり下ろすのは難しい気がする。』
真紅のグリフィンドールロゴ入りクッションに座り、長い脚を弄びながらその男子生徒は言いづらそうにしかし、言葉を選ばずに伝えるとエディはえー!と声を上げた。
『やっぱりそうよね。』
『おい、君めちゃくちゃ乗り気だったじゃないか。』
『もちろん一石を投じる記事になるはずよ。けれど決定打にはならないんじゃないかって私も思ってたわ。』
ロンとハーマイオニーがまた口論を始めそうだったので、ハリーは少し声を大きくしてハッフルパフ生に聞いた。
『けど、もうこれ以上僕らできることはないんだよ。学生の僕らじゃこれが限界だ…。』
『諦めるのは早いよハリー。ここにいるだろう?ホグワーツ生でありながら魔法省へ入り込めそうな奴が…。』
ハッフルパフ生はニヤッと笑った。
『え、誰?』
ロンの素っ頓狂な声に対し、ハーマイオニーがハッと息を飲む。
『そんな…!でもどうやって?』
『なんだい?どういうこと?』
『僕らは君がアンブリッジ撃退作戦を聞きたいってエルファバから聞いてたけど…まさか、協力してくれるのかい…セドリック!』
ハッフルパフのユニフォームを着たセドリックは立ち上がるとハリーより一回りほど大きく、がっしりとしていた。そしてハリーの肩を軽くパンチした。
『頼むよリーダー。僕も“ダンブルドア軍団”の一員なんだ。協力は惜しまないさ。』
ーーーーー
「は…セドリック?」
ハリーからその名を聞いたアンブリッジは、予想外の名前に持っていた雑誌を床に落とした。
「そうだよ。お前が薬で操っていたと思っていた愛しのセドリック・ディゴリーだ。今は魔法省でインターンしてる。お前が直々にセドリックに許可を出したんじゃないか。」
「ばっ、バカおっしゃい!!!彼は、完全に私の味方で…!!!」
「だから、その前提が違うんだよ。」
アンブリッジだけではない。セドリックの名前を出すと周囲の生徒たちもざわつきはじめた。元彼女を城全て凍らすまで追い詰めた悪名高きセドリック・ディゴリー。その元彼女の妹に呪われたのも記憶に新しい。
「セドリックは、最初から僕らの味方だったんだよ。前も、今も、そしてこれからもだ。」
「何をいうかと思えば…。」
笑顔を貼り付け、ェヘンェヘンといつもの調子で咳払いするアンブリッジにハーマイオニーはせせら笑った。
「信じてないのね。まあ、いいわ。あなたが信じなくてもここにいる生徒たちには真実を話して彼の名誉を回復させないと。」
ハーマイオニーはツカツカとアンブリッジの絵が描かれた弾幕の下まで行き、杖を向けた。そうするとアンブリッジの声は消え、弾幕はただの布になった。
そしてハーマイオニーはエディと同じく杖を喉に当てて拡声呪文を唱える。
「さて…どこから話すべきかしら。このアンブリッジの話ほど短く収まらないから「教授とお呼びなさい!!」はいはい。ええっと、まずはエルファバとセドリックのことはみんな気になるわよね。セドリックとエルファバを狙ってた皆さんには申し訳ないけど…あの2人、別れてないわ。」
生徒たちからこれまでで一番大きいどよめきが大広間に響く。
「復縁したってこと!?」
ハッフルパフの上級生が半分泣きそうな金切り声を上げた。
「いいえ。そもそもあの2人は別れたことなんてないのよ。今も仲良くやってるわ。」
「だって!あの2人は中庭で大喧嘩したって…!!」
「ええ。じゃあここにいるみんなに聞くわ。それを、2人が中庭で喧嘩した場面“を実際に”見た人いる?」
再び生徒たちはざわめく。ハーマイオニーの問いに首を振ったり、知らない、誰かに聞いたなど、全員の答えはノーだった。
「みんな、ハリーに対して根も歯もない噂をたっくさん流してくれたわよね。だから私たちもそれをやっただけよ。」
ざわついた生徒たちはハーマイオニーのドスの効いた声を聞いて縮こまり、しかし小声で自分達の憶測をヒソヒソ話す。ハーマイオニーは、アンブリッジを見て嘲笑った。アンブリッジは顔を真っ赤にしてプルプル震えている。
「あらあら、誰かさんはその前提が崩れたことで何かを悟ったみたいね。まあいいわ。続けましょう。フレッドとジョージがまず2人が別れたことを吹聴し、そして私たちの“協力者たち”…あなたが取り締まろうとしてたDAのメンバーよ。みんなで、あの2人が中庭で大喧嘩して別れた“らしい”って広めた。そうすることであなたにセドリックが従ったと思い込ませた。エルファバとセドリック、2人とももちろん承諾済み。そもそも発案者がセドリックだし。」
「魔法省はミスター・ディゴリーの精神状態を把握していたわ…!そんなこと…!」
「そうね。あなたたちは、回復して間もないセドリックに魔法省が承認していない魔法薬を飲ませセドリックの感情を無くさせ、自分達の都合の良いようにセドリックを操っていたわ…あら、これは内緒話だったかしら?」
今度、アンブリッジは顔がさーっと真っ青になった。赤くなったり青くなったり、見てるこちらとしては愉快だとハリーはせせら笑う。
「とある情報筋だと“服従の呪文”をかけた時と効力が似てるとか…そんなものを魔法省が一生徒に飲ませていたなんて知られたら、世間は何て言うかしら。けれど残念。セドリックはあなたたちより何倍も聡明で賢かったの。」
「根も歯もないことを…。」
「セドリックはその薬を飲まずに持ってる。証拠として提出できるぞ。」
ロンは嬉々として追い討ちをかけた。
「…みんな計算外だったのは、狡猾なあなたがセドリックとエルファバが別れた後に、稚拙な冷却呪文で所々城を凍らしてエルファバが情緒不安定であるように仕立てたこと。エルファバが叔父さんを殺そうとしただなんて嘘まで作って、ホグワーツを追い出されたこと…。」
ハーマイオニーが下唇を噛んだ。エディもフレッドもジョージも俯く。意気揚々としていたDA軍団の雰囲気が初めてどよんと暗くなった。
皆がエルファバの退学に責任を感じているのを野次馬の生徒たちは感じ取った。ハリーは気を取り直し、声を張り上げた。
「セドリックは本当にうまくやってくれたよ。去年の一件を僕のせいだと考えているように仕向けて、お前にDA実施について嘘の日程と内容を教えていたんだ。お前はこう言われていたはずだ。『今はみんな慎重で、決定的な証拠になるようなことはしていない。捕まえるのは証拠が少なすぎる。』実際は僕らと一緒に
「…ポッター…!!!やっぱり…!!!」
「ああ、もういいんだ。隠す理由はないから。僕を退学にする算段だったはずだけど証拠不十分だっただろう。僕が捕まる直前で、セドリックがみんなにDAを本格的に捕まえようとしてることを伝えたんだ。僕らはお前らに捕まる前に証拠を全部消し、DAメンバーのリストはセドリックが燃やしてくれた。」
「…ありえない。セドリックにそんなことするメリットが…?」
「とーってもいい質問だわガマガエル!」
ハリーの隣にずいっとエディが現れた。アンブリッジの周りを回った後、エディはミュージカルのように大げさな動作に歌うように語りかけた。
「これはね、エルフィーとセドリックの愛の魔法のおかげなのよ。魔法を…医療を超えた、最高の愛の力を今から話して、あ・げ・る。」
ーーーーー
子供の頃から、人は自分に優しかった。
それは自分が純血で、魔法が使えて、少し顔が良くて、スポーツができたからだと知ったのはホグワーツに入学してからだった。常に人に囲まれて、大人からは称賛され友達にも常に囲まれていた。
それは自分にとっては当たり前のことで、成績が悪い同級生は努力不足だと思った。この世の中は努力すればどうにかなる。何かが劣っているのは努力をしていないからだと考えていた。もっといえば、自分は差別されない人間。だからこそ人の痛みや辛さを知ることはないと思っていた。
自分は、薄っぺらい人間だったのだ。
そんな自分の転機は3年生の時だった。
『やあ…大丈夫かい?』
友達たちと次の授業へ向かう途中。白い髪の下級生が廊下の端でうずくまっていた。ぐったり体調が悪そうで、ゼエゼエ息も荒い。ボサボサの髪の中から青い瞳が見える。
『おい、セドリック下級生をナンパするなよ。』
『違うよ。この子が体調悪そうで…。』
『ふーん。さっすがセドリック。みんなに優しいのね!』
『きっとその子はホームシックなんじゃないの?』
『先行ってて。クィレル教授には遅れるって言ってくれ。』
友達たちはこの哀れな新入生を助けず、さっさと教室へと向かっていく。
セドリックは呆れてため息をついた。
『ああ、すまない。ホームシックなの?良ければ医務室に一緒に行こう。』
『…』
手を伸ばし、立ち上がるように促すと息が荒い女子生徒は痙攣したように首を横に振る。
(えっ、嫌がられた?)
完全に想定外だった。普通このような状況で自分が手を差し伸べられて嫌がられたことはない。手を取り、お礼を言われるものだと思っていた。しかしこの下級生は首を振りありがた迷惑だと言わんばかりに目を逸らした。
『…じゅぎょう…いきます…。』
下級生の声はか細く、ほとんど聞こえなかったが自分の申し出が拒否されたことは理解できた。正直、人の親切を無下にしたこの下級生にイラッとした。自分は授業に多少遅れてもその生徒を助けようとしたのに。その下級生の手を見ると“変身術入門”の教科書が握られている。
(変身術、すぐ近くじゃないか。)
セドリックはグイッとその下級生の腕を引っ張り、脇の下と両脚に腕を通して持ち上げた。
『!!!!』
自分のトランクより軽い女子生徒を横抱きにして変身術の教室へ向かう。
息を荒くしていた女子生徒は慌てて、セドリックにしがみつき自分の白い髪で顔を隠しながら小声でやめて、おろして、と行動と矛盾したことを呟いていた。セドリックはそれを無視した。
『…ええ、それでは早速変身術の基礎から…おや。』
すでに授業が始まっていた教室にセドリックと女子生徒は入ると、教室中が特に女子生徒がどよめいた。下級生が上級生に横抱きにされて入ってきたのだ。
『マクゴナガル教授。この女子生徒がうずくまっていて。医務室に行くことを提案したんですが本人が授業に行くと。』
『まあ。ありがとうミスター・ディゴリー。ミス・スミスはおそらく度重なる疲労で辿り着けなかったのでしょう。ホグワーツは広いですから。彼女をミス・パチルの席に座らせてあげなさい。』
『はい。』
セドリックはマクゴナガル教授が指差したところにヒョイっと女子生徒を座らせた。
『またね。”ミス・スミス“。』
『…ありがとうございます。』
今までで一番ハッキリした声で、”ミス・スミス“はお礼を言い、コクッとお辞儀をした。驚くセドリックをよそにクスリともせず、フイッと目を逸らしてセドリックがジッと”変身術“と書かれた黒板を見つめた。
後々に本人にこれを聞くと、”意味も分からず体格の大きい上級生に担がれたこと”“初回の授業で目立ったこと” そもそも自分にあまりにも体力がなさすぎること“などなど氷を出す理由が出揃っており、隠そうと必死だったらしい。
しかしそんなことを知らないセドリックは、ニコリともしないけれどハッキリお礼を言うミス・スミスという女子生徒が記憶に残ったのだった。
まもなくこの女子生徒はエルファバ・スミスという名前の美少女で、自分の同級生たちがエルファバを狙い始めていることを知った。セドリックといえば、エルファバを担いだということで(今思えば腹立たしい卑猥なものも含め)いろいろ質問攻めにあった。しかしセドリックからすれば、顔などあの珍しいブロンドともいえない真っ白い髪で覆われていたので全く分からなかった。
『ずっと前から思ってたんだけど、あなた前髪留めたほうがいいわ。』
『ん?前髪?』
次にセドリックがエルファバを見たのは課題を友達と行っていた図書室だった。栗色のボリューミーな髪をもつ同級生らしき女子生徒がポケットからピンを取り出し、エルファバの雪のように白いボサボサの髪をまとめると、初めてセドリックはエルファバの顔を拝めた。
(ああ、確かに顔は整っているな。)
白くきめ細かい肌。ハッキリとした目に小さい鼻。ピンク色の唇。男性受けしそうな美人だった。
しかし、虚ろでおそらくあまり笑わないタイプなのだろう。表情筋を使った形跡がない。
(表情がないし愛想もない。僕はもっと愛想がある子が好みだな。)
『おい、セドリック行くぞ。』
『ああ。』
そのあとセドリックの中でエルファバの印象はそこまでなかったが、嫌でもエルファバの話は聞こえてきた。仲のいいメンツ数名がエルファバをいたく気に入りやたらエルファバの情報を入れてきたのだ。やれ今日は髪を結んでて顔がよく見えただの、”生き残った男の子“ ハリー・ポッターと仲良くしてること、記憶力が異常にいいこと。13歳からすれば11歳など子供だ。にも関わらず熱を上げる学友たちに呆れ笑いして適当に受け流していた。
その中でセドリックすら驚いたのは、ハリー・ポッターとエルファバそして後の2人の生徒でホグワーツ城内に入ってきたトロールを倒したらしいということだった。
そのあとからその当事者の4名はよく一緒にいるのを見かけた。あのエルファバの前髪を止めていた栗色の髪の女子生徒とウィーズリー家の一番下の子(確か名前はロンだった)がよく話し、たまにハリー・ポッターが話している。エルファバ・スミスはその4人といて1ミリも楽しそうじゃなく、ただ4人について行っているように見えた。
しかし4人を見るたび、何かをエルファバが言ってそれに反応している3人を見ていると意外とうまくいっているのだと少し驚いた。エルファバが交友関係をうまくできるタイプには思えなかったからだ。
(そしたら僕も仲良くなれるんじゃないか?)
そう思い、今度はエルファバに積極的に話しかけるようになった。最初はかなり嫌がられ話しかけるたびに警戒する猫のように距離を取られた。しかし図書館で会うたびお互いの本の趣味が合うことが分かった。相変わらずエルファバの表情は全く読めず、向こうは楽しんでいるか不明だったので。ゲームを攻略する感覚でエルファバと話したが。
『あの本の結末、良かったよね。みんなハッピーエンディングで。』
『ええ。すごく良かった。』
周りの友達には本を読む人がいなかったため、エルファバがどう思っているのかはさておきなんとなくエルファバと話すのは気が休まった。
エルファバは友達と一緒に暴走したクィレル教授をホグワーツから追い出し、お互い一学年上になった。相変わらず見かけたら、エルファバに構い続ける日々が続いていた。
『あら、エルファバ!“上級生の男の子”とすっごく楽しそうじゃない!』
エルファバと2人で最近読んだ冒険小説について話しているとエルファバの友達がニッコリ笑いかけてきた。
(楽しそう?本当かな。)
『ええ。本の趣味が合う人がほとんどいなくてすっごく楽しいわ。また話せると嬉しい。』
エルファバは無表情にそう言った。セドリックは大層驚き、エルファバを凝視してしまった。付き合った後に知ったことだが、このハーマイオニーというエルファバの親友はエルファバは随分楽しそうにしているが、おそらく一般の感覚だとそれが伝わらないのでわざと割って入ったらしい。
そんな事情は全く知らかったが、案の定セドリックはこのやり取りに見事引っかかった。
(ああ、自分は思ったよりエルファバに良い友人として見られているのかもしれない。)
そう思うと冴えない、エルファバが急に可愛く思えた。友人のために一生懸命プレゼントを考えたり、たまにクスッとする面白い発言をするエルファバ。マグルのキャラクターの良さを無表情ながら饒舌に語ってきたり、2人で本の貸し合いをしたり。気がつけば自分の中でエルファバに次いつ会えるか、明るいブロンドヘアの女子生徒を見るとエルファバではないかと思うこともあった。
エルファバは時折、落ち込んでいたり疲れていたりしている感じだった。当時はスリザリンの怪物がホグワーツ内でマグル生まれを襲っていて校内は不穏な空気が漂っていたのでそのせいだと思っていた。
『聞いた?エルファバ・スミス、石化したらしいぜ。』
『え、そうなの!?あの見た目からして、魔法族だと思ってたけど!』
『きっと混血なんだよ。僕の親も多分純血以外は攻撃するって言っててホグワーツに帰らすの嫌がったんだ。』
クリスマス休暇が終わった後、ハッフルパフ寮に戻ってきた生徒たちは口々にそう話していた。セドリックは自分の荷物を置き噂話をしている上級生たちに声かけた。
『エルファバは石化してないよ。顔に…怪我をして治療してるだけだ。クリスマス前に僕も会ったし。』
実際のところ、あの女子生徒の暴走で顔が蜂に刺されたように膨れ上がり今は顔を包帯でぐるぐる巻きにされていたが、エルファバの名誉のために言わないでおいた。
『あら、そうなの?』
『セドリック、お前いつからエルファバ・スミスと仲良くなったんだよ?』
エルファバ・ファンのアダムが恨みがましく割って入ってきた。
『いや、たまたまだよ。そんな物凄く仲良いわけじゃない。』
『あの子そんなに面白くなさそうよね話してて。』
『すっごく面白いよ。ただ顔に表情が出ないだけでさ。』
『そうなの?セドリック、顔でそう思い込んでるだけじゃないの?』
『そんなことないよ。確かにエルファバは可愛いけど、それ以上に中身が本当に素敵なんだ。話してみれば分かるよ。』
食い気味に否定したセドリックにその周りの生徒たちは凝視する。誰かが口を開く前に慌てた様子の監督生が入ってきた。
『みんな、教授からの指示だ。今すぐ大広間に集まるように。』
まだ夕食の時間ではないのに、どうしたんだろう、と怪訝そうに生徒たちは口々に話しながら大広間に向かった。友達はあれこれセドリックはエルファバをどう思っているのか聞いてきたが、そのような空気ではないと察した。向かう間に多くの生徒があの怪物に襲われたらしいこと、誰かが怪物を倒したらしいこと、噂話が一気に流れ込んだ。そんな中での校長の言葉ー。
『今朝、いわゆる"スリザリンの怪物"と呼ばれる生物が発見された。』
『幸いなことに、これまではどの生徒も直接バジリスクの眼を見なかったために最悪の事態は逃れた。』
『それにより氷越しに目が合ってしまった4年のハッフルパフ生メアリー・マクガヴィン、ー生のー。ー生のーじゃ。』
メアリーは同級生だが、マグルではなかった。ハッフルパフに動揺が走る。
『そして…残念じゃが…ロックハート教授が怪物を発見した時、襲われていたのが2年のグリフィンドール生、エルファバ・スミス。』
セドリックの世界が終わった気がした。全てが暗く、何も感じない。自分の意識を保つのに精一杯だった。エルファバは、分厚い氷の中に閉じ込められ、生死不明だそうだ。この世の絶望を、セドリックば一気に味わった。
大広間で校長が解散を命じたが、立ち上がれず自分の中に湧き上がった大きな感情を13歳のセドリックは抱えきれなかった。そして混乱と絶望の中で気がついた。
(ああ、そうか、僕はエルファバが好きになっていたんだー。)
エルファバは奇跡的に生きていて、戻ってきた。そのニュースを聞いた時セドリックの安堵は人生の中で体感したことのない感覚だった。モノクロの世界が一気にカラーになったようだった。エルファバと親友の3人は、スリザリンの怪物を倒したことでホグワーツ特別功労賞を授与された。
2年連続でとんでもない冒険の数々をこなしたエルファバをセドリックは遠くから眺めることしかできなかった。
また一学年上がり、セドリックは友達に気づかれるくらいエルファバのことが好きになっていた。エルファバのファンたちには同胞だと思われ、それ以外にはどうせ顔だとか言われたが何でもよかった。
紆余曲折を経て、ついにエルファバの秘密を知ることとなった。
エルファバの慌てっぷりからこれまでの彼女が心を閉ざした理由を知り、ますます愛おしくなった。
いつもハリー・ポッターとトラブルごとに巻き込まれるエルファバに呆れと嫉妬を覚えたり、トラブルメーカーな妹に振り回されセドリックとエルファバはカップルになった。両親が快く思っていないが、エルファバの“力”や家庭環境にも理解が深まり、表情が豊かになったエルファバを好きになったのだったー。
ーーーーー
セドリックが目を覚ますと、見覚えのない白い天井が目の前に広がっていた。起き上がろうとすると全身がズキズキと痛み、まるで固定されているかのように動かない。声を出そうにも口からは自分のものとは思えない変なうめき声しか聞こえなかった。
『ミスター・ディゴリー、起きていらっしゃるの?』
中年の魔女が、セドリックを覗き込み目が合うと驚きの表情を浮かべ、慌てて部屋から飛び出して行った。そしてそこから数分後、バタバタと数名が部屋に入ってきて今度は背の高い白髪混じりの黒髪がセドリックを覗き込んだ。
『ミスター・ディゴリー。私の声が聞こえているかね?』
はい、と言おうとしたが口からはまたよく分からない奇声しか出なかった。男性はセドリックに魔法をかけると、近くにある羊皮紙と羽ペンがセドリックの目の前に現れ、ひとりでにインクを飛ばしながらものを書き始める。
“はい、聞こえてます。僕の声はとても変です。身体が全く動きません。ここはどこですか?”
『おお、意思もはっきりしている。ここは聖マンゴだよミスター・ディゴリー。君は未だかつて無い大火傷を負いここに運ばれてきた。筋肉も内臓のほとんども焼けていたのにこれは奇跡だ。』
“僕は入院してるんですね。治りますか?クィディッチはできますか?ホグワーツには戻れますか?”
『安心しなさい。順調に回復しているよ。まだ確定ではないが9月にはホグワーツにも戻れるだろう。』
そこからすぐに父親と母親が病室にやってきてどちらも大粒の涙を流しセドリックの意識が回復したこと、日常生活に戻れることを大いに喜んだ。
”ハリーは無事だったの?僕と一緒にいたはずだ。あのベルンシュタインともう2人、いたはずだ。多分もう1人は…“例のあの人”だ。うん。間違いない。“
父親と母親は顔を見合わせ、セドリックの言葉が信じられないと言わんばかりだった。
『あのねセドリック、実は『安心しなさい。ハリー・ポッターは無事だ。』』
母親の言うことを遮り父親はキッパリと言った。セドリックはホッとする。
”ハリーは何もなかった?僕みたいな怪我は?“
『ああ、ハリー・ポッターは何事もなく帰ってきた。』
“よかった…あの状況で生き延びるなんて…やっぱりハリーはすごいや。代表選手になったのも頷ける。僕手紙書かなきゃ。ハリーとエルファバ、あとみんなに。”
『…ああ。もちろんさ。父さんがふくろうを使って送ろう。』
セドリックは自分の意思を伝える羊皮紙を使い、そのまま手紙を書いた。
友人たちに取り急ぎ自分の意識が戻ったことを伝える手紙を書くと、エルファバとハリーへの手紙に取り掛かる。
(エルファバとハリーはどうせ夏休み中に合流してるんだろうな。2年の頃はウィーズリー家に滞在して3年の時も一緒にいたな。4年の時はそうではなかったけど…エルファバに送っておけばハリーにも届くだろう。)
少し嫉妬でイラッとしつつ、ハリーへのメッセージを綴る。
ーーーーー
親愛なるハリー
いい夏休みを過ごしているかな?どうせ君はエルファバと早々に合流して一緒にいるんだろう?本当ずるいよ。僕だってエルファバと一緒にいたいのに、君らは冒険ばかりでエルファバの時間を奪うんだ。うらやましくてしょうがない。けど僕は頼れる大人の男性に見られたいから我慢して
ーーーーー
グシャっ。
ハリーへの手紙がひとりでに潰され、ポトッと床に落ちた。
(なるほど。この魔法、自分の本音が全部流れ出てしまうのか。慎重に書かないとな。)
自分の醜い嫉妬が言語化され、セドリックは一人で恥ずかしがった。そこから数時間、試行錯誤してハリーの手紙を書き上げた。
ーーーーー
親愛なるハリー
いい夏休みを過ごしているかな?エルファバと一緒にいるんだろうからエルファバと一緒に手紙を送付させてもらうね。
あの地獄みたいな迷路で君はそして僕も無事生還できたよ。お互い辛い経験だったね。僕があの場で役に立たず本当に申し訳なかった。
意識を取り戻したばかりだろうから、詳細は何も聞けていないんだ。
けど何か僕ができることがあれば、遠慮なく言ってほしい。代表選手のよしみでね。
君と語り合えるのを楽しみにしている。
セドリック
ーーーーー
エルファバへの手紙も書き始めたが、ハリー以上に自分の欲望が手紙に溢れ出て気持ち悪かったので、”エルファバ 僕は意識を取り戻してるよ。治療も順調さ。早く君に会いたい。“にとどめておいた。
そうして友人たちに数枚、エルファバとハリーに数枚手紙を送った。そして数日のうちに友人たちからはすぐに返事とお見舞いに行くと返事があり、実際にお見舞いも来た。しかしエルファバとハリーからは数日、1週間経っても返事は来なかった。
セドリックは嫌な予感がしていた。自分の自己肯定感の低い彼女はこういう場面で何も関係ないのに、もしかすると自分も同じようなことをセドリックにしてしまうかも、という思い込みで距離を置いたり最悪別れを切り出すことが充分あり得るからだ。
ーーーーー
エルファバ
僕の手紙届いているかい?届いているなら返事が欲しい。
君に会いたいんだ。ハリーとも話がしたい。返事待ってるよ。
セドリック
ーーーーー
セドリックの筋肉、皮膚は順調に治りセドリックの腕が動くようになったので今度は自力で数通エルファバに手紙を送ったが一向に返事はない。
(おかしい。これ以上書くと気持ち悪いか?けど心配だ。ハリー単体で送るべきか?)
『父さん…これ、ハリーとエルファバに…。』
『セドリック…前にも送っていただろう?返事がないのは2人とも忙しいんじゃないか?』
セドリックの喉はまだ完治していなかった。必要最低限の会話にするようにヒーラーから指示されていた。父親はセドリックの萎びた手にある羊皮紙を哀れそうに見る。
『けど…。』
エルファバもハリーも忙しいからといって命の危険に晒された友人や彼氏を無下にする人間ではない。ハリーは
(ハリーとエルファバのことだからもしかするとまたなにかのトラブルに巻き込まれているのかもしれない。)
セドリックは自分にそう言い聞かせる。そして気を取り直して、今日届いた数日分の日刊予言者新聞を見た。やっと手が動かせるようになったので
(”例のあの人“が復活したなら、一面記事に連日に載ってもおかしくないだろうけど。僕が目覚めるにが遅すぎたのかな。)
パラパラと新聞をめくると、ふと所々におかしな部分があることに気づいた。記事内容そのものではない。
”こうしてマレーシアの魔法使いたちはこの食人蔓を有益な薬草へ転用することに成功したのだった。彼らの功績は称えられるべきだろう。さもなくばこの食人蔓は人々へ大きな被害を与え、もっと言えば傷跡が痛むとホラを吹く少年を生み出したのかもしれないから。“
”この夢の中でシャボン玉を宝石に変えたと主張する男性と記事は我らが稲妻傷の友との会談をぜひ設定したいと思う。彼の新たな妄想のインスピレーションとなれば嬉しいのだが。“
所々にハリーを思わせる人物を揶揄する言葉が散りばめられていた。セドリックは慌てて自分の横に置いてあった別日の新聞を掴み、読み始める。”例のあの人“の記事はないが、やはりハリーが”妄想癖のある揶揄すべき対象“として書かれていた。
(大人が…大の大人が、公共のメディアを使って子供をこんな風に言うのか?大規模ないじめじゃないか。)
そして、セドリックはなぜハリーとエルファバから返事が届かないのかの答えを導き出した。心当たりがあった。
『父さん、これ、ハリーとエルファバに。』
明くる日、父親は少しため息をついたが、分かったよ、と言ってその手紙を持って病室から去る。セドリックは立ち上がり、おぼつかない足取りで父親を追いかけた。セドリックの回復は驚異的で、すでに焼かれた足の筋肉も皮膚も回復していたのだった。まだ長距離の移動は難しいが、セドリックは答えを確信にするのに、そこまで労力を使わずに済んだ。
…父親は少し離れたところで、セドリックが書いた手紙を杖を使って燃やし、使われていない暖炉に放り込んでいた。セドリックは息を飲み、父親に近づく。
『…父さん。』
『あっ…セドリック…たっ、立てるようになったのか…よかった…。』
『僕の手紙、燃やしてた。』
セドリックはまだ言葉を完璧に発するほど、口内と喉は回復していなかった。もっと言いたいことがあるのに言葉を制限されている。
『僕の、手紙…。』
セドリックが一歩近づくと、父親は後退りした。しかし周りを見渡し、今度は一歩前に進みセドリックの肩を抱く。父親はセドリックより身長が一回り小さいが、威厳があった。
『セドリック…いいか聞くんだ。この状況でハリー・ポッターとその仲間と交流するのは非常にまずいんだ。今ハリー・ポッターとダンブルドアを排除する動きが魔法省で始まってる。セドリックが目覚めた今、魔法省は私たち家族がどちらの味方につくか伺っているんだ。』
『なんで?』
『”例のあの人“関係だ。ポッターとダンブルドアは”あの人“が復活したと主張し大臣はそれを否定している。病的な否定の仕方だ。』
『僕、証言する。』
セドリックは”例のあの人“を直接目にしたわけではない。ただ自分の記憶を魔法省に”提出“すれば話のやり取りでハリーの証言が本当だと証明できるはずだ。そう考えたが、それをうまく言葉にできない。
『ハリー、助ける。』
『ダメだ。それはいけない。』
父親に鋭く否定された。
『いいか、事実か否かなんて問題じゃないんだ。今ポッターに味方するということはイギリス魔法省に盾突くことと同義語なんだ。セドリック、黙っていなさい。』
『…なんで?』
(それじゃあ、真実を語るハリーが公共で侮辱されているのをこのまま見ていろというのか?“例のあの人”が復活したら、何人の人が死ぬと思っているんだ。これがとんでもない愚策だと17歳の僕ですら分かるのに。)
『父さ』
『お願いだセドリック、父さんのためにも、家族のためにもハリー・ポッターとあの少女とやり取りをやめてくれ。今ポッターの味方だといわれているミスター・ウィーズリーの立場だってかなり危ういんだ。同じことがファッジに睨まれたら私たち家族はどうなるか…もっと言えばあの子と別れるんだ。』
『そんな』
『あの子はポッターの仲間だ。それにお前をこんな風にした力と同じものを持っている。お前の将来のためにも危険な存在だ。』
(父さん、父さんの言っていることはめちゃくちゃだ。自分たちのためにハリーを犠牲にしろと言っているんだよ?それにエルファバは…この件に関係ないじゃないか。)
セドリックの中に怒りが、ふつふつと湧き上がる。
(どんな思いであの2人の返事を僕は待っていたと?おかしい機関の味方をしろ?エルファバと別れろだって?)
『セドリック…。』
次の瞬間、父親は絶叫し飛び退いた。
煌々と炎がセドリックの周りを包んでいた。
赤と黄色に包まれ、熱風があたりを包み周りの羊皮紙、暖炉の灰が周囲を舞う。熱がセドリックの皮膚を今にも焼きそうなのにも関わらず、どうすることもできない。
セドリックは、自身の彼女を思い出した。“力”をうまく操れずパニックになりながら冷たい風が周りの羊皮紙を浮かばせ、あたりを凍らせるー。
『セドリック!!!やめるんだ!!!!』
父親はそう叫ぶがセドリックはどう止めればいいか検討がつかなかった。しかし、1つ確かなことがあった。
あの時、あの墓地で、セドリックは炎の魔法使いに呪われたのだ。
自身の髪の毛を掴み、火の玉を胸に押し込んだ炎の魔法使い、アダム・ベルンシュタインの薄ら笑いを思い出した。
セドリックの受難、後半戦へ続く。