ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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何気に連載再開からもう1年経ってました…。早すぎる…。
セドリック編、超長くなったんで2話投稿です。
明日か明後日もう1話分投稿します。


16.大いなる決断

 

その30分後、エルファバとセドリックは校長室にいた。室内にある階段の一番低い段座り、エルファバはハナハッカを火ぶくれした部分に塗っていた。

繰り返された突然の発火に、運動神経が良くないエルファバが対処できるわけがなかった。ある程度は風で防いだものの腕や肩に火傷を負っていたのだ。

 

『エルファバ…本当にごめん。』

 

隣に座ったセドリックは、何度目になるか分からない謝罪をエルファバにする。

 

『もう…セドリック本当に気にしなくていいから。ほら、もう治ったわ。』

 

エルファバはニッコリ笑って、すでに赤みの引いた肩をセドリックに見せる。セドリックは無理やり口角を上げた。自分の彼女に変な気を遣わせている自分に嫌悪した。

 

(本当に僕は…。)

 

校長に話しに行こうと提案したのはエルファバだった。セドリックは迷いながらも、今の現状を改善できるのは偉大なダンブルドアしかいないことも分かっていた。しかしどうやってこの深夜にエルファバが校長に会いに行くのか疑問だったが、校長室に着くや否やただひたすらお菓子の名前を叫び続け、最終的には“爆発ボンボン”で扉が開いたのだった(ハリーに合言葉がお菓子であることを聞いたらしい。セキュリティにどうなのかとセドリックは思った。)。

 

『セドリック、気分はどう?』

『すごくいいよ。感情がある。薬を飲まされていた時はずっとぼんやりしていて、意識がハッキリしていなかった。』

『どんな薬を…。』

 

エルファバが聞く前に校長室の扉が開き、真紅のローブを着たダンブルドアがゆっくり中へと入ってきた。

2人で部屋に入った直後、ダンブルドアは中にいて弾けたように立ち上がった。そして事情を説明する前に校長室にいるように伝え、エルファバにハナハッカを渡してさっさと出て行ってしまったのだ。セドリックはダンブルドアが元々このことを知っていたのではないかと思ったが、そうであればもっと前に対策を取っただろうとこの考えを消した。

 

『あの火事騒ぎはエディが引き起こしたことになっているようじゃ。君がやったとはドローレンスも思っておらぬ。』

『…部屋を抜け出す時、近くにあった教科書を人型人形に変えてベッドに入れてきました。』

『さすが我が校の代表選手じゃ。』

 

ダンブルドアはニッコリ笑いかける。エルファバは不安そうに眉を下げた。

 

(エディに申し訳ないことをした…今度何かでお礼をしないと。)

 

エディに自分の小遣いから何をプレゼントできるか考えていた時、セドリックは自身に人を思いやる心があることにホッとした。

 

『大丈夫じゃ。スプラウト教授には事情を話し上手いことまとめてもらうようにお願いしたからのお。』

 

そう言うと、セドリックとエルファバをソファに座らせて杖を振る。2人の目の前に、ティーカップとホットミルクが現れた。

 

『さて…セドリックや。君の立場もあるじゃろう。無理に事情を話さなくても良い。わしに…わしたちに何ができるか教えておくれ。』

 

正面に座り、そう言うダンブルドアにセドリックは面食らった。

 

『てっきり、僕の事情や大臣が何をしているのかを知りたいと思ってました。』

『わしはファッジに敵対しようとは微塵も思っておらぬ。ましてやそのために君を使おうとも。』

『…けど、』

『ここは学校じゃよセドリック。君の学生生活を安全に行えるように、我々は全力で支援するつもりじゃ。』

 

セドリックは少し動揺し、エルファバを見た。エルファバも頷く。

 

セドリックはこれまでの話をポツポツとした。聖マンゴで目覚めた時のこと。父親がエルファバやハリーに向けた手紙を捨てていたこと。それに怒った際に炎が出現したこと。それを抑えようとファッジが動き出したこと。薬を服用したら炎は消えたが感情すら消えたことー。

 

ダンブルドアもエルファバも黙って聞き、セドリックが話す以外はダンブルドアの不死鳥が自分の毛をむしる音しか聞こえなかった。

 

『…大人の事情に君を巻き込んでしまい申し訳なかった。』

 

全ての話を聞いた後、ダンブルドアはジッとセドリックの目を見てこう言った。

 

『安全だと謳っていた三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)に妨害が入り、生徒に危険な状況に陥らせたのはわしらの責任じゃ。』

 

すまない、と力強く言う100歳を超える老人にセドリックは何も言う気にはなれなかった。

 

『誰のせいでもないです。』

 

ダンブルドアの視線があまりにも強いためセドリックは目を逸らした。

 

『先ほども言った通り、わしたちは君が学生生活を…ホグワーツでの最後の1年を純粋に楽しめるよう、できる限りの支援をするつもりじゃ。何をしてほしい?…君はどうしたい?』

『……分かりません。』

 

セドリックはダンブルドアも隣にいるエルファバも見れなかった。

 

『僕は、ハリーの味方をしたい。ハリーの言っていることは全て本当であると、そう伝えるのが正義だ。僕はそれを通したい。けれどそしたら僕の父さんの立場が危うくなってしまう。魔法省勤めの父さんの息子が、ファッジに楯突いたら最悪職を失ってしまうかもしれないから。僕のせいでそんなことになったらと思うと…耐えられない。』

 

セドリックはどっちつかずな自分に嫌気が刺した。ハリーの友達であるエルファバが今どんな顔をしているのか知りたくなかった。勇敢さを持つグリフィンドールのエルファバはセドリックの弱さに失望したかもしれない。

 

『それで良いのじゃよ。』

 

ダンブルドアはローテーブル越しに優しくセドリックの肩を叩く。

 

『残念ながら、ファッジを止めることは難しいじゃろう。君がハリーのために証言をすれば、エイモスの立場が危うくなるのは想像できる。今やっているように、君もハリーという名声にすがる愚かな生徒だと見られるように工作するに違いない。わしは君が大きく行動をする必要はないと考える。』

『…じゃあ、何をすれば。』

『できることは君が今この時、何が辛いか、何をやめたいかを考えるのじゃ。』

 

セドリックは再び黙り込み、考えた。

 

『薬を…やめ、たい、けどそしたらみんなに迷惑を…。』

『わしも薬は止めるべきだと思う。』

 

セドリックはため息をつき、首を振った。

 

『また僕が感情的になって、周りを燃やしたらどうするんですか?そのせいで父さんもエルファバも危険な目に遭わせました。』

 

エルファバが、そんなことはないと言う前にダンブルドアが遮った。

 

『ふむ。しかしじゃ。話を聞いている限り、君が炎を出すのは大きく感情が揺れ動き不安定になった時だと見受けられる。穏やかな君が不安定になるのは数えるほどではないじゃろうか?』

『そんな…。』

 

セドリックは自分が炎を出した時を思い出した。父親へ怒った時、炎を出してしまう自分へ苛立ちを覚えた時、悲しい時。

だからこそ薬を服用することで問題なく、誰にも迷惑をかけずに生活ができていたのだ。

 

考えてみれば、先ほどの発火はそんなネガティブな感情はなかった。

 

『さっきは、どうしてー。薬はしっかり服用していたのに。』

 

ここでダンブルドアは初めてクスクスと笑った。

 

『あくまで推測じゃが、何か君の中で大きな感情の揺れが、薬では処理できなかったのじゃろう。例えば、美しく着飾り君のために尽くした誰かに対する愛おしさが爆発したとか。』

 

素敵なことじゃ、とダンブルドアが言ったと同時にソファが冷たくなった。エルファバが顔を覆っている。そんなエルファバを見てセドリックも恥ずかしくなった。

 

(やめてくれよ、君が発端じゃないか…。)

 

『愛じゃよ。恥ずかしがることはない。君らの純粋な愛情が、ファッジの作り出した薬を超えた…また、ここで愛の魔法がいかに強大かというわしの説が説明できた。』

 

そんな2人にダンブルドアは更なる追い打ちをかけてきた。エルファバが変な声を出して動かないのでセドリックは咳払いをして、気を持ち直す。

 

『まあ、そんなエルファバの努力の甲斐あり、薬が切れたことで今まで消されていたものの制御が追いつかなくなった。それにより感情の振れが大きかったと見てよいじゃろう。』

『つまり、長期的に見て薬の服用は…。』

『あまり良くない。』

 

セドリックは唇を噛んで、考えた。

 

『けど、薬を止めたらきっと反逆だと思われます。』

『そこは君も上手く立ち回る必要がある。』

 

セドリックは不安があった。正直いつ炎が出現するのかが完全に未知数で、セドリックすら分からないからだ。

 

『ずっと、炎を出さない環境にいるのは難しい。少し身体を動かす環境に入るのも好ましい。君は育ち盛りじゃからなのお。』

『クィディッチはできないです。』

『そうじゃな。もう少し軽い運動…ああ、エディがやっているバスケットボールクラブはどうじゃ?』

『えっと、マグルのスポーツはよく知らないですし…。』

 

セドリックはエルファバに助けを求めた。エルファバは無表情だった。ダンブルドアはスクッと立ち上がり、後ろの本棚をゴソゴソといじり、杖を振っていくつか本を取り出した。

 

『明日アンブリッジとの面談がまたあります。その時にもしかするとあなたとハリー、そしてエルファバのことを何か聞かれるかもしれません。その時はどうすれば…。』

『君が安全な学生生活を行うためにこれを要求するのは酷じゃが。明日のドローレンスにはこう伝えるのじゃ。わしとハリーは許せないがエルファバを追い詰めるのには少し抵抗があると。』

 

あったあった、とダンブルドアは1冊の本をセドリックに手渡した。怪訝な顔をしてセドリックは受け取る。

 

『誰か1人でも追い詰めることに抵抗があれば、ドローレンスは何もしてこんじゃろう…今は。さて、昔、闇払いを目指す生徒へ手解きをしておってな。古いが効果のある呪いと呪文が書いてある。そこに”顔面硬直呪文“というものはあってだな。嘘をついていることを悟られないようにする呪文が書いてある。君ならすぐに会得できるじゃろう。』

 

“闇払い入門”と書いた今にも破れそうな古い本をセドリックは恐る恐るめくる。出版日は1950年と書いてある。

 

『セドリックや。』

 

ダンブルドアはセドリックの隣に座り、ジッと見つめた。

 

『よいか。繰り返しになるがわしらは君にスパイになり魔法省の動向を探ってほしいなどとは思っておらん。君の決断じゃ。ただし…自分を殺さないでほしい。本当の君に、わしは真のセドリックを知りたいのじゃ。』

『本当の、自分。』

 

そんなに簡単ではない、とこの老人にセドリックは反抗したかった。

相手が例えば死喰い人で、人に害を及ぼす行為をしているのであれば、毅然と戦っていく。家族だってそんな自分を誇らしく思ってくれるはずだ。

今セドリックが目の前で相手しているのは本来味方であるべきの魔法省で、父親がそこで勤めている。自身は魔法省大臣を輩出するような名家の生まれて、それに恥じる行為をしてはならない。そうやって教育されてきた。

 

(僕は、どうしたらいいんだ?)

 

セドリックはエルファバをしっかり見れなかった。

 

それから、セドリックが感情のないふりを続けるのは楽だった。最初の1ヶ月目でセドリックが無神経、失礼な発言を続けたおかげで誰もセドリックに寄り付かなくなったからだ。

前までは、誰かしらがセドリックに話しかけてきたものだが今は全て1人で物をこなしていた。

 

たまに変人のアンソニーがセドリックに絡んで来たが、感情のあるセドリックはアンソニーに怪しまれないようにかつ興味を無くす塩梅で上手いこと対処した。

 

(友情ってあっけないな。)

 

この6年間でセドリックが努力して培ったものがたった1ヶ月で無くなったのだ。それともセドリックが配慮しすぎていたのか。寂しさで心がキュッと痛くなり、その度セドリックを小馬鹿にするように火花が散った。

 

(ああ、勘弁してくれよ。全部お前のせいなんだから。)

 

『セドリック、せっかくだし、ちょーイカしたサークル入らない?』

 

セドリックの大発火から数日後、エディが1人で廊下で本を読むセドリックに話しかけてきた。自分のせいで罰則を受けることになったエディからはドラゴンの糞の臭いがした。周りを見回し、素のままでエディに話しかけた。

 

『僕、運動できないんだ。知ってるだろ?』

『運動じゃなくてさ、闇の魔術に対抗する術を身につけるの。』

 

エディに誘われ、ハリー主催の闇の魔術に対抗する防衛術を学ぶサークルに参加した。セドリック自身はもうハリー側に加担しているようで気が進まなかったが、アンブリッジはセドリックがスパイしてくれるのだと大いに喜び、セドリックへの信頼度は増した様だった。

 

セドリックがいつでも裏切れる状態であることは、誘ったエディ以外は理解していたはずだ。しかし、皆温かくセドリックを受け入れてくれた。

 

『おうおう、優等生セドリック・ディゴリーがこのサークルに入ったということは、我々の首も危ういなフレッド。』

『本当だジョージ、いつやこの優等生殿が我々不良を密告することか…くわばらくわばら…。』

 

最初の会合で有名ないたずら双子はそうセドリックをからかった。ハーマイオニーは眉をひそめ、たしなめたがこのサークルに懐疑的なザガリアス・スミスを面と向かってからかっていないことを考えると、この2人はセドリックが裏切ることはないと思っていたのではないかと思った。むしろ揶揄することで、セドリックに釘を刺していたとも考えられるが。

 

ハリーは、下級生だがとても優秀な先生だとセドリックは思った。本人は自覚がないかもしれないが、人への鼓舞の仕方、教え方や例えが頭に入ってきやすく舌を巻いた。

三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)にハリーが参加したのは“例のあの人”の策略らしいが、それでも上手く成し遂げたのはハリーの才能あってこそで、自分の周りが同じ状況に陥ったらきっとハリーのように上手くはできない、むしろ泣いてダンブルドアに辞退を懇願するだろう。

 

(あのハリーの教えを今ここで止めてしまうのは、学校の損失だ。アンブリッジには上手いこと伝えておこう。)

 

『やっぱ、セドリックはすごいね。僕が言った呪文全部スムーズだ。』

 

皆が“盾の呪文”の練習で夢中になっている時にハリーは話しかけた。念のため、セドリックが薬を服用していないことはDAのメンバーにも隠していたが、エルファバが心配しているハリーには話したいと言われ、承諾したのだ。セドリックはあたりを見回してニヤッと笑う。

 

『先生の教えがあってこそさ。』

『やめてくれよ。君のことだから、どうせ最初から出来てたんだろ。』

 

ハリーはムッとしていた。どうやらハリーは意外とプライドが高いらしい。

 

『まさか。盾の呪文なんて早々使わないからね。』

『ここは君にとって楽しい場所かい?』

『ああ…すごく落ち着く。今のホグワーツで唯一と言って良い場所さ。』

『僕もさ。』

 

ハリーはニッコリ笑った。セドリックの言葉は、嘘ではなかった。

クィディッチができない今では、体が動かせるのはとても気分が良いし、何より自分がこれまで関わってきた仲間とは違うメンツと話すのは新鮮だった。クィディッチという共通点のあるグリフィンドールのアンジェリーナやアリシア、フレッドとジョージ、そして新シーカーのエディ。エディに関してはエルファバ関係の共通項しかなかったので、別の話題ができたのはなかなか面白かった。

エディ以外のメンバーはセドリックが薬を服用していたことも、それにより感情を失ったことも知らないので今だに演技を続けなければならなかったのは残念だが、前以上にセドリックに絡んでくるようになった。

 

『いやー、ディゴリーくんや。実際今の毒舌セドリックの方が俺たちとしてはとっても面白いんだよねえ。』

『…何を言って、』

『前の君って、次の単語を繋ぐ頭がなかったというか、端的に言えばつまらなかった!』

『そりゃどうも。』

 

休憩で床に座っていたセドリックに赤毛双子は絡んできた。からかわれているのを、後ろでアンソニーがニヤニヤしながら見てる。セドリックはうざったそうに首を振って立ち上がり、真面目に練習してる下級生たちの元へと歩いて行った。

 

(つまらなかった、か。)

 

下級生の呪文の体勢を指導しながらセドリックは考えた。

 

(ここにいるメンバーは、僕と同じ立場になったら迷わずハリーの味方をするんだろうな。いや、チョウに連れてこられたマリエッタやザガリアスは違うかもしれないけど。あの子、アンブリッジにいつか密告しそうだな…先に手を打っておいてー。)

 

セドリックはハッとした。

 

(僕は…中立といっておきながら、DAの存続を望んでいる。)

 

『ありがとうセドリック。初めてこの呪文成功した。あなたってとってもいい人ね。エディの方が優しいって思ってたこと訂正するもン。』

 

今しがたセドリックに体勢を整えてもらって、呪文に成功したルーナはセドリックを見上げてニッコリ笑った。

 

(ルーナ、ルーニー…。)

 

セドリックは、思い出した。いや、思い出さないようにしてたのだ。セドリックの周りの友人たちがルーナのことをからかい、小馬鹿にしていたことを。

 

(いや、僕も一緒になって笑ってたし…同罪か。)

 

『別に。』

『あら、今あなたすっごい嬉しそうな顔してたのに。どうしてそんな顔するの?』

 

セドリックはルーナから顔を逸らした。セドリックはこれまで友達と一緒になって笑ったことをどこかのタイミングでルーナに謝ろうと決めた。

 

(そうか…僕は、僕の心はもうこっちにある。)

 

迂闊だったのは、このタイミングでルーナに表情がバレているくらいセドリックは表情が豊かになっていることに気づかなかったことだ。

 

エディのタトゥーに関する記事が出た時、セドリックは怒りに震えた。ルーピン教授のことをセドリックは心の底から尊敬していたし、エルファバやエディからも話をよく聞いていた。

スリザリン連中は大広間でエディを糾弾し、嘲笑い、エディは泣きながら走り去っていくのをセドリックは目撃した。その直後にアンブリッジとの面談があったので、思わずその記事を読み込んでしまった。記事はルーピン教授という人格者とその人を守ろうとしたエディの努力を愚弄する記事だった。

 

セドリックはダンブルドアから表情を隠す呪文を練習するように言われていたにも関わらず、それを怠っていた。

 

おまけにアンブリッジがエルファバとルーピン教授が関係を持っていることを匂わすものだから、セドリックは怒りを隠すことを完全に忘れていた。

 

『とても大人びているけれど、所詮あなたも17歳…大人、それも魔法省に入省しているようなエリートを誤魔化すのは難しいですわ。さて、紅茶はいかが?』

『魔法省に勤めているエイモスが可哀想ですわ。ただでさえあなたが心配で仕事に手がついておらず、魔法省のお荷物のような状態ですのに…さあ、いい子だから、紅茶をお飲みなさい。』

 

セドリックは、もうこれを避ける手はないことを悟りアンブリッジに捨て台詞を吐いた。

 

『僕のホグワーツでの生活を返せ。』

 

(確かに僕の炎は人を傷つける。感情をコントロールできない。けれどそれで魔法省をスパイする理由なんかにならない。こいつらは僕の学生生活のことなど微塵も考えていない…僕は、)

 

そうして、セドリックは薬入りの紅茶を飲み干した。

 

『さて、調子はどうですか?』

『…。』

 

アンブリッジは満足げにニッコリ笑い、よろしいと言ってセドリックを解放した。セドリックはその足で、小走りで廊下を駆けた。途中で他の生徒たちにぶつかったがお構いなしに7階の“必要の部屋“のある場所へ来ると”吐き出す場所をくれ“と考えながらうろうろした。

 

『セドリック、一体どうし…。』

 

部屋の中にはハーマイオニー、エルファバ、そして目を腫らしたエディがいた。おそらくエディを慰めていたのだろう。セドリックは構わず口の中に手を突っ込み、薄く白い膜に包み込まれた茶色い液体を引っ張り上げた。

 

『…それなに?』

 

ハーマイオニーはセドリックの口の中から、現れた物体に若干引きながら聞く。セドリックは目の前に現れた洗面台にそれを捨て、自分の口の中を泡でいっぱいに満たして必死に何度も口を水で濯いだ。そして大きく呼吸をしてから話し始めた。

 

『例の薬入り紅茶だよ。アンブリッジが僕が服用してないことに勘付いたんだ。』

『え、飲まされたの!?』

 

エルファバは慌ててセドリックに駆け寄り、手をセドリックに伸ばす。小さいエルファバが必死に背伸びしてくるので、セドリックは笑って少し屈むと、エルファバは自分の両手でセドリックの顔を包み、自分の方へセドリックを向かせた。

 

『…笑ってる…どうやって、やり過ごしたの?』

『咄嗟に思いついたんだ。泡頭呪文ってあるだろう?僕が第二の試練で使った水中で呼吸ができるようにする泡を作る呪文。あれを口の中に作って紅茶がうまく入るようにして、体内に入らないようにした。若干隙間から紅茶が体に入り込んでまずいと思ったけど、少量なら支障ないみたいだ。』

『すごいわ。N.E.W.Tレベルの魔法をその場で自分流にアレンジしたの?』

『しかも無言呪文で?そんなことできるのね!』

『セドリックしかできないよ。』

 

エルファバから始まり、ハーマイオニー、顔がぐちゃぐちゃのエディ。年下の魔女たちに賞賛され、健全な男子生徒のセドリックは自尊心が満たされていくのを感じた。なんでもないかのように、エルファバの両手を自分の手で包んで体勢を戻す。

 

『まあね。けど、僕も迂闊だった。ダンブルドアから習った呪文をしっかりできるようにするよ。』

 

ダンブルドアが教えてくれた魔法はすぐに取得でき、アンブリッジを完全に欺くことに成功した。残念だがなるべくエルファバとエディにも接触を避け、ハリーやロンなどを介してエルファバとはやり取りした。

 

クリスマス休暇はセドリックも家に戻ったが、父親は随分とやつれてしまっていた。

顔の皺と白髪が明らかに増え、痩せこけた父親が戻ってきたセドリックを玄関で迎えた。

 

『セドリック、お前は薬を服用していなかったと聞いたぞ。』

 

家の鍵をかけて、早々の父親の第一声がこれだった。

 

『ああ、けど今は服用してる。なんの問題が?』

 

セドリックは無表情にそれらしい回答をするように努めた。父親はセドリックの両肩を掴み、震える声で言った。

 

『薬を飲まないと私たち家族がどうなるか分かっているのか…?ファッジに離反した家族になってしまうんだぞ…?学校でハリー・ポッターとダンブルドアに対する扱いを見ただろう…?私たちの立場はどうなる?特にセドリック、お前は最終学年で就職だってある。お前の成績なら問題なく魔法省に入れるはずだ。たかだか炎で、お前の人生を壊すわけにはいかないんだよ…!』

 

セドリックはまずいと思った。今から吐き出す言葉は完全に感情がこもっている。おそらくこの発言をしたら、セドリックが薬を服用していないことがバレてしまうだろう。

 

(もう遅いよ。僕はクィディッチもできない、人の感情も読めない、炎で人を燃やしてしまう怪物だ。)

 

セドリックは黙って父親を引き剥がし、杖で呪文をかけてさっさと自分の荷物を引き上げて、ベッドに身を投げる。自分のベッドに寝転びボンヤリ天井を見つめていた。たまに布の焦げる匂いがして、苛々するので自分の革バッグから写真を数枚取り出した。

 

1枚目はフレッドとジョージが隠し撮りしていたエルファバと自分の写真だった。ちょうど1年前、ダンスパーティーの時の2人だ。隠し撮りされてたのは腹立たしいがよく撮れている写真だったので、ある条件をつけてもらったのだ。

 

少し幼い自分と今より表情が乏しいエルファバが真顔でダンスしている。エルファバの動きがカクカクぎこちないし、毎ステップごとにセドリックの足を踏んでいる。明らかにフレッドとジョージによる編集が加えられていてエルファバが可哀想だと思った。

 

2枚目は、三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)時に参加メンバーで撮った写真だった。ハリー、フラー、クラム、そして自分。

 

(この代表選手になるのは魔法能力、知力、勇気が必要。僕は選ばれたー。)

 

下で父親と母親の話し声が聞こえてきた。少し考え、セドリックはフレッドとジョージが無理矢理バッグに突っ込んできた、“伸び耳”の片方を部屋の外に出し、糸を自分の部屋に引っ張って来て、ベッドに座り込んでジッと耳をすませた。

 

『…わ。もちろん。気負いすぎだわエイモス。あの子は…。』

『サマンサ。私はいい父親か?』

 

父親の唐突な質問に少し沈黙が流れた。直前の話は分からないが、流れを切った質問なのは明確だった。父親は続ける。

 

『セドリックを思う度、家族を思う度に、私は悪い方向へ進んでる気がする…。家族を守るためにはファッジの言うことを聞かないといけない。世間の目から、この家を守らないといけない。セドリックの今の現状を…けど、私のセドはホグワーツでの学生生活を謳歌できてない。私が…魔法省がセドの幸せを奪ってる気がする…。』

『何を言うの。そんなことないわ。それを言うなら私だって…!』

 

母親の啜り泣く声がリビングに響く。

 

『私だって…!何が正解かなんて…!薬を飲んでセドが治るならって…!けど、ホグワーツでの様子を…教授に聞いたら…もう可哀想で…!これでいいのか…!』

 

セドリックは、燃えた伸び耳を引っ掴んでそのまま杖で“消失”させた。

 

(僕が…僕の存在が、家族を不幸にさせてるんだ。)

 

セドリックは頭を抱え、ベッドに身体を預けた。セドリックの顔に写真が貼りついた。3枚目は家族写真だった。1年生の時にセドリックと父親と母親3人で撮った。

 

それは家の前で撮った写真だった。幼いセドリックは誇らしげに少し大きいネクタイを小さい手で直し、背の高い父親と母親を見上げている。2人は互いに肩を抱き、セドリックの肩に手を置いていた。

 

(父さんと母さんを解放しよう…僕から。)

 

 

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