「...で、私は命辛々逃げて、グリフィンドール寮に戻って来たってわけ。」
ハーマイオニーはエルファバの真っ白な髪を一部編みながら昨晩の大冒険を聞かせていた。
簡単に言えば、昨日の夜ハリーとロンを見つけたハーマイオニーは警告したものの無視された。おまけに寮から締め出されたので、証人になるべくネビルと共に2人を追いかけた。しかし、決闘はマルフォイの罠であり、待ち受けていたのはフィルチだったため、近くの部屋に逃走した。そこまでは良かったものの、部屋の主は巨大な三頭犬であり、今度は命の危険を感じて寮まで一直線に逃走したという。
「全くあの2人ったら!!人を巻き込んであんなことするなんて信じらんない!!」
いや、ついて来たのはお前の方だろ!
ハリーとロンのツッコミがエルファバの頭の中で響く。
「みんな無事で良かった。」
「本当、退学にならなくて良かった...エルファバ動いちゃダメ!はい、出来たわよ!」
ハーマイオニーは鏡を見せながら言う。
エルファバの伸ばしっぱなしの前髪は三つ編みされて反対側で止められ、カチューシャのようになっていた。ピンもゴムもハーマイオニーのものなので茶色だが別の髪で上手く隠している。
「うん、完璧!」
少し機嫌が良くなったハーマイオニーはしげしげと新しい髪型を眺める友人の腕を取り、歩き出した。
「すっごい似合ってるわよ!」
ハーマイオニーの機嫌が良くなったのはいいものの、エルファバは困惑していた。
「...ハーマイオニー...」
「なあに?」
「...みんな見てる。恥ずかしい。」
あのボサボサ頭のエルファバが髪をキチンと整え、オシャレしている。
元々身長に反比例するように長くて雪のように白い髪を持つエルファバはただでさえ目立った。それに加え顔も11歳とは思えないくらい整ってるエルファバは密かな人気がある。
その噂の顔がしっかり見えるのだから注目されて当然だ。
「エルファバがしっかりオシャレしてるからよ。ほら、あなたの髪の毛ボサボサだったじゃない。」
そしてそのことを計算に入れて、髪の毛のスタイリングを買って出、シャイな友人に春が来るように仕向けたのが、学年一の秀才ハーマイオニー・グレンジャーである。
この思惑をハリーとロンが聞けば今度こそ彼女をミス・お節介と命名するに違いない。
(エルファバにボーイフレンドができればエルファバはもっといい学園生活が送れるはず!あとは、男子生徒に話しかけられるたびに隠れるのをやめさせましょう。あ、ボーイフレンドができれば自然になくなるかしら。)
「みんな見てくる。やだ。」
そんな思惑をよそにエルファバはハーマイオニーの豊かな髪の毛に隠れるのだった。
「ねえ、ほどいちゃダメ?」
「だーめ。」
「ぜえええええったい?」
「絶対ダメよ。」
エルファバは諦めてベーコンを突く。思いの外目立ってることを気にしているのだ。
(ハリーっていつもこんな気分なのね。やだやだ。)
有名人の友人に同情するエルファバだったが実際、視界が良くなり周りがよく見えるようになって周囲の目が分かるようになっただけで、前から注目されたはいたのだが。
「最初の授業は呪文学ね。早く実践やりたいわ。そういえば昨日ね、私基本呪文の1つを成功させ...ん?」
ハーマイオニーの視線の先はハリーとロン、そしてマルフォイだった。
エルファバも視界のいい目でそれを見つめる。
「箒...」
キランとハーマイオニーの目が怪しく光る。校則違反を見つけた時のあの目だ。
「ハーマイオニー、もう話さないんじゃないの?」
エルファバはクロワッサンをかじりながら少し怖い顔の友人に指摘する。
「また規則違反しようとしてるなら別よ。ああ、良かった。フリットウィック教授がいらっしゃって...」
だが、ハーマイオニーの思うようにはいかなかったみたいだ。教授は嬉しそうに小さい体をはねさせ、マルフォイは悔しそうな顔を、ハリーは何かを言って笑いを堪えた顔をしていた。ロンも同様だ。
「エルファバ、行くわよ。」
「ふぁ?」
強い力で腕を引っ張られたエルファバはクロワッサンをひっつかみ、ずんずん進むハーマイオニーのスピードに必死についていく。
「おーい、エルファバ!今日の髪、今までのどの髪型より芸術的だぞー!」
大広間を出て行くときに叫んだリーの言葉は、褒めているのか貶しているのか。エルファバには分からなかった。
そうこう考えてるうちにハリーとロンの笑い声が近づいてくる。
「...って、本当だもの。マルフォイがネビルのあれ盗んでなかったら、僕はチームに入れなかったし。」
そう笑うハリーにハーマイオニーは鼻の穴を膨らました。
「じゃあ、あなたは校則を破ってご褒美をもらったと思ってるわけね。」
ハリーとロンは"うわっ"と顔で言っていた。
「あ、おはよ。」
ハーマイオニーはエルファバをキッと睨んだ。まるでエルファバが校則違反したと言わんばかりだ。
「ハーマイオニー、君は僕たちとは口聞かないんじゃなかったの?」
「そうだよ、今更変えないでよ。僕たちにとってはありがたいんだからさ。」
ロンとハリーに一睨みした後、ハーマイオニーは再びエルファバを引っ張ってずんずん歩き出す。
「エルファバ、あとで箒見せるよ!」
「ニンバス2000だぜ!すっげーぞ!上手くこいつ巻けよ!」
「エルファバ聞いちゃダメ!!」
「えっ、あっ、はい...」
この日からエルファバは"板挟み"の言葉の意味を知ることになる。
ハーマイオニーは悪影響と言ってハリーとロンとの接触を許さない。エルファバからすればハリーとロンも大事な友達なので、仲良くしたいがハーマイオニーはべったりエルファバについてきた。ハリーはクィディッチの練習が週3回もあり、ロン以上に会えない。ロンはハーマイオニーをハリー以上に嫌っているので、ハーマイオニーがいたら絶対来ない。
結果、ハリーとロンとはほとんど話せない状態が続いた。
それからまあまあ平穏(見知らぬ男子生徒数名に話しかけられるという恐怖体験はあったが)に、あっという間に1カ月半が過ぎた。授業にも慣れ、だいぶ友達も増えてきた。一方で父親からの返事は一向に来ない。
(まあ、お父さん忙しいし。)
エルファバはそれに対して怒ったりはしない。だがいくら調べても手がかりは見つからなかった。強いて言えば、自分の父親が首席だったことを発見した程度だ。
ハロウィン当日の朝にはパンプキンパイが焼けるいい匂いで目覚め、みんな最高に気分のいい時、さらにいい事が起こった。
呪文学でついに実践が行われることになったのだ。
フリットウィック教授は簡単に今までの復習を聞いてから、みんな一斉に開始した。
「ウィンガーディアム・レビオーサ 浮遊せよ。」
ボソッとつぶやいた呪文はエルファバの羽根はフワフワと浮かばせた。だが全員ができていない中で目立ちたくないので、浮いた羽根を机の上に押し付ける。
これは今に始まったことではない。1番最初にできてもあえてそれを教授には言わない。どっちみちハーマイオニーが1番にやって、グリフィンドールには得点は入る。
(みんなが私の髪型に慣れた今、これ以上目立ちたくない。)
エルファバは必死だ。ハーマイオニーの"作戦"は若干ずれた方向に行きだしている。
「おお!ミス・グレンジャーがやりました!」
フリットウィック教授は小さい体をぴょんぴょんさせながら喜んでいる。ハーマイオニーは得意げに杖を羽根に向けていた。ペアを組んだハリーは、実はできたのはエルファバが先であることを知っていたが、可哀想だと思ったので言わなかった。
授業終了後、ハーマイオニーは嬉しそうにエルファバに話しかけてきた。
「私、フリットウィック教授に褒められたわ!!」
「うん、見てた。」
ハーマイオニーがなぜ自分が呪文に成功したのかを語ってると、前からロンの不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「...いつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなヤツさ。」
ハーマイオニーのことを言ってるのは明らかだった。本人はショックで目を見開き、危うく本を落としそうになった。
「ハーマイ...」
エルファバが呼びかける前にハーマイオニーは走り去ってしまった。
「今の聞こえてたみたいよ。」
ハリーは遠慮しながらロンに言う。
「それがどうした?誰も友達がいないってことはとっくに気がついているだろう。」
パキパキパキ...
エルファバの教科書が凍り始める。だがそんなこと気にしてる場合ではなかった。
エルファバはハリーとロンのもとに走って怒り任せに言った。
「2人ともひどいわ。私はハーマイオニーの友達よ。」
2人は驚いたように顔を見合わせる。静かな声でエルファバは言ったが、相当怒ってることは明白だ。2人はあのエルファバを怒らせたことに対して、少しショックを受けていた。
そもそも、ハリーはほぼ巻き添えである。
ーーーーー
そのあと、ハーマイオニーを見かけることはなかった。ハリーとロンも1回も目を合わせてくれなかった。その間エルファバは気持ちの動揺を必死に抑えたが、無駄だった。教科書、図書室の本、バックの一部、あらゆるものを凍らせてしまった。
「あなたは、今日の授業に出席する必要はありません。」
入ってきて早々に椅子の一部を凍らせてしまったエルファバにマクゴナガル教授が告げた。
「体調が悪そうです。マダム・ポンプリーに見てもらいなさい。」
みんな一斉にエルファバを見る。どうやら誰も椅子が凍ってることには気がついてない。
「えっ、でも...」
「無理をして授業を受ける必要はありません。悪化させるかもしれませんからね。」
教授は杖を一振りするとエルファバが凍らせてしまった椅子が消えた。
マクゴナガル教授は怒ってるわけではないようだ。厳格な顔の瞳には憂いがチラついていた。本当にエルファバの"力"を心配しているのだろう。
「次の授業のクィレル教授には私から伝えておきましょう。」
「はい。」
エルファバは罪悪感一杯で教室を出た。
他の生徒誰1人もエルファバのような子はいないことは知っていた。
みんな入学前は階段から落ちたら跳ねて無傷だったとか、先生のカツラを真っ青に変えてしまったとか、そんな感じだった。エルファバのように魔力が雪か氷に限定されて、しかもそれを未だにコントロールできず、感情でここまで左右されるのはエルファバだけだ。
"別の力"。マクゴナガル教授に初めて会った時の言葉を思い出す。
保健室には行かず、そのまま部屋に直行した。ハーマイオニーがいると信じて。
だが、願いは叶わず、誰もいない。
エルファバは凍りついた教科書とバックをベットの上に放り投げた。
(ああ、私ハリーとロンに嫌われたわ。あんなに良くしてくれたのに。)
鼻がツンと痛くなる。この感覚を最後に味わったのはいつだろうか。最後に母親にぶたれたときかもしれない。エルファバは泣きたくなかった。でも、止める術もない。
前髪はしっかりハーマイオニーが結んでくれたのに視界がぼやけ、頬に暖かい雫が伝う。
今度は頬に冷たいものが当たった。何かは言うまでもない。この部屋だけに早い冬が訪れていた。
「...止まれ、止まれ、止まれ...!!」
この部屋は自分だけじゃないのだ。パーバティやラベンダー、それにハーマイオニーだって使ってる。部屋の温度を下げていく自分の"力"を恨んだ。どうやっても止まらない。止め方が分からない。
"力を使えばお前は悪い魔女になってしまう。"
悪い魔女になりたくない!!でも...制御できない...!!
ハリーやロンの顔を思い浮かべると降る雪の量は増え、どんどん酷くなる。小さな部屋に雪が積もり始めた。
「あっ...!!」
談話室から生徒の笑い声が聞こえてきた。もう授業が終わったらしい。
エルファバは気がつけば2時間近く泣いていた。
まずい。
エルファバは今朝ハーマイオニーが結いてくれた髪を解き、前髪で腫れた目を隠す。そして、部屋から飛び出した。
(ハーマイオニーを探そう。)
前髪に隠れたエルファバの顔は決意に満ちていた。