ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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※一昨日、もう1話投稿してます。もしも数日ぶりに読みに来て話が(?)ってなっている場合は前話へGo!


17.告発と失踪

数ヶ月後。

 

「ー、そうして部署に提出する報告書は、適切な場所へは渡らず、私は10000ガリオンを横領した罪を着せられ、退職に追われました。それだけならまだいい…あの…アンブリッジに…呪われ、娘には一生取れない呪いが顔に現れたのです…彼女は笑い者にされ、友達もできません…私が、もっと注意していたら…!」

 

ボロボロのローブを着た中年男性は、法廷の中心で泣き崩れた。妻らしき女性が駆け寄り、男性は支えられながら部屋をあとにした。ウィゼンガモット法廷の中は、人でごった返し魔法使いや魔女たちの告白を聞いていた。誰も物音も立てない。セドリックはその2人を見届け改めて裁判の被告人席に立つ。

 

セドリックの頭上で宙に浮かぶ横断幕にはこう書かれていた。

 

“ミス・ドローレンス・アンブリッジに関する告発会見“

 

「皆さま、これでミス・アンブリッジの悪事を暴こうとしたミスター・パティントンがどの様な目にあったかお分かりいただけたでしょう。ミス・アンブリッジがやったという確証はありませんが、今の話の流れを見れば明らかです。」

 

セドリックはホグワーツの制服とローブを着たまま、淡々と話を続ける。数多くの群衆の中で、ハンカチで汗を拭くミスター・ウィーズリーがいた。

 

「先程奥様が代理証言した開心術師のジョンについても同じです。今来た方に軽く説明すると、ジョンは、氷の魔女…エルファバ・スミスにカウンセリングと称して開心術を何度も行い、過去を探り情緒不安定になる様に仕向けました。同年代の息子がいるジョンは、この事実に胸を痛めましたがホグワーツに息子がいることを盾に従わざるえませんでした。しかしついにジョンはこの命令に反いた…結果は本日の“ザ・クィブラー”の88ページに記載の通り…彼は今謎の毒を摂取したことにより意識不明です。お二人とも早く良くなる様に心から祈っております。」

 

セドリックは軽く頭を下げた後、杖を振ると、“ザ・クィブラーが数冊どこからともなく現れ、今しがた入ってきた魔法省役員の手元へ届いた。

 

「さて、ここまでで多くの方にミス・アンブリッジの悪行についてお話いただきました。ああ、日刊予言者新聞の記者さんこんばんは。やっといらっしゃったんですね。他の方々はもうお揃いですので、どうぞ中へ。」

 

中年の魔法使い2人はセドリックに招かれるまま、ブロンドをカールし真っ赤なマニキュアを塗った爪でメモを取るリータ・スキーターの隣へ座った。最前列に座るリータは随分得意げだった。リータがここにいる証言者を集めたので当たり前だが。

 

「最後は僕が話します。ここまで話を聞いて、まだ疑問に思う方もいるでしょう。皆さんミス・アンブリッジの悪評はご存知でしょうが、実際にそれを目にした人はいません。きっとこう思う人もいるかもしれません。『これはファッジ大臣をこき下ろすための陰謀だ。』『ここ数年で飛躍的な出世をしたミス・アンブリッジへの嫌がらせだ。』…決してそうではないこと、今回、僕がウィゼンガモット法廷を使って声を上げた理由を…今ここで話します。そして、ミス・アンブリッジがマグル差別主義者で人を平気で不幸に陥れる魔女であることを説明します。僕は今ミス・アンブリッジが校長をしているホグワーツでの悪行を…まずはみなさんの手元にある雑誌の表紙裏に挟まれた写真をご覧ください。』

 

皆がざわつきながら雑誌をめくると、写真サイズの厚紙を取り出した。セドリックがまた杖を振ると厚紙に手の写真が浮かび上がった。男性が手の甲をいろんな角度に動かす。

 

『これは、ミス・アンブリッジの残忍な体罰の典型例です。“僕は嘘をついてはいけない”と手の甲に刻まれています…生徒のプライバシーのため具体的な経緯は避けますが、彼はミス・アンブリッジの主張に物申したところ特殊なペンを使って、この文字が手の甲に刻まれたようです。事実はどうであれ、これはいくらなんでもやりすぎではないでしょうか?』

『そしてこの魔法がかかったペンは、現在イギリスで入手がほぼ不可能となっており、魔法省管轄の検閲でない限りは手に入らない代物です。ちなみに同じような罰を受けた女子生徒もいます…この男子生徒は混血、女子生徒はマグル生まれです。今日まで純血生まれがそのような被害にあった話は聞いていません。』

 

セドリックは、この女子生徒がエディであり彼女がアンブリッジを授業中に“アフリカ産ピンク毒ガエル”と呼んだことで別の体罰を受けたことを思い出し、笑いそうになったが平静を装った。

 

『そして、これがミス・アンブリッジがマグル差別主義者であり、教育者として正しくない確固たる証拠です。僕は…僕は…。』

 

ここでセドリックは初めて言い淀み、群衆たちは次の言葉を待った。

 

『僕は…何が正しいのか分かりませんでした。勇気を持ち悪と戦えと皆は言いますが、その敵が明確な悪ではないケースがほとんどです。しかし、ミス・アンブリッジの悪行を目にし、耳にし、今日ここで告発を決めました。これはマグルの“音録”という音声を保存する技術にインスパイアされ、僕独自で杖の中に音を一時的に保存する魔法を開発しました。これが僕とアンブリッジのやり取りです。』

 

正式にはフレッド、ジョージ、リー、セドリックの4人で作った魔法だった。セドリックのアンブリッジに一泡吹かせたいという気持ちにいたずら好きの3人は大いに喜び、DAの練習合間にみんなで力を合わせて作成した魔法。

 

ついでに魔法作りに協力する代わりに、エルファバとセドリックを使った合成写真作りを一切禁止させることに成功した。

 

これを、エルファバと別れたという噂を流した直後に使用した。リータ・スキーターから集めた情報でアンブリッジはシェリー酒を飲むと見境が無くなると聞いて、DAのメンバーでお金を出し合い上質なシェリー酒を入手した。生徒だとお酒は手に入らないので、購入はルーカスが(嬉々として)協力してくれた。

 

その甲斐あって、もう言い逃れのできない発言を得られた。

 

セドリックが杖を振り、天井へ掲げるとレコードのような音声がウィゼンガモット法廷に響いた。アンブリッジの下品な高笑いと共に杖から溢れる邪悪で侮蔑に満ちた発言の数々。

 

『卑しいマグル生まれ達は高貴な魔法族へ擦り寄って生きていることがよーく分かったでしょう?けどどんなにあの可愛い顔で媚びても結局のところ、生来の下品さは隠せないものですよ。』

『顔は酸呪文で溶かして二度と外に出れないようにしてやるわねまずは。』

『穢れた血のあの小娘!!可愛げもない、不細工な問題児!!!マグルの貧相な遊びをこのホグワーツへ入れて!!ああ、顔を見ただけで磔の呪文をかけてやりたくなるわ!!』

『そして忘れちゃいけない、あの半人間!ああ、もうあの記事を出した時本当ーに爽快だったわ!あの記事のおかげで、いろんなところで人狼検査が行われているらしいわよ。はあっ、私の功績が社会に影響を及ぼすなんてなんて素晴らしいこと!』

『あれも父親は純血で母親は穢れた血…だからあんな癇癪持ちなのね。』

 

聞いている記者、魔法省職員たちは息を呑み、呻き、信じられないと口々にこぼした。中には気分を害し、退出する魔法使いも数名。

 

(そうさ。あの悪魔の残忍さを知るがいいさ。エルファバやエディ、ハリーを侮辱してた時に僕は部屋を燃やしてたけどこいつは、酔っ払って気づいていなかった。)

 

音声を保存する呪文を作るのはそこまで難しくなかったが、なるべく個人が特定されないようにうまく音を切ったり繋げたりするのが大変だった。特にセドリックはアンブリッジを煽るために自分の意思に反した純血主義発言をしたので、細心の注意を払った。

 

(けど、この魔法省には純血主義者が沢山いる。ファッジも含めて。これだけじゃホグワーツを追い出せても、魔法省にのこのこ戻ってくるはずだ。まだだ、まだこれから。)

 

一通り生徒を侮辱した後、アンブリッジの猫撫で声が裁判所に響く。

 

『ねえ、セドリック。あの小娘より、年上の女の方がいいでしょう?』

『おっしゃる意味が分かりませんが…。』

『またまた、あなたほど聡明な男性が分からないはずがないわ。怖いのね。大人の世界に飛び込んでいくのが。』

 

一瞬の沈黙。そしてアンブリッジは焦ったそうな声で続ける。

 

『もうっ、いいこと?私ね、これでも結構モテるのよ?私と一緒に穢れた血やダンブルドアを社会的な抹殺、いいえ。文字通りの抹殺をしていくのですから、いろいろ教えてあげるわ…権力の味と、大人の味。』

 

17歳の男子生徒に迫る、中年女性。

 

ウィゼンガモット法廷には、悲鳴とヒッと息を飲む声が漏れた。魔法使いは鳥肌が立ちブルッと体を震わせた者もいた。セドリックは勝利を確信する。

 

「僕は、この発言を身体に寄りかかられ太ももを撫でられながら言われました。」

 

セドリックは淡々と、その感情と思い出した時の嫌悪感による火が努めた。

 

しかし、この音声をDAのメンバーで聞いたときは阿鼻叫喚で、セドリック以上に不快感を示してくれたのである程度満足だった。

アンブリッジの女を出してくる様に男性陣は絶叫、そして耐えたセドリックに尊敬と労いをかけ、女性陣はあまりのおぞましさに凍りつき言葉を失っていた。

 

『エルファバ!セドリックを抱きしめるんだ!セドリックは勇敢な騎士だ!』

『セドリック、お前は本当に良くやったよ!見直した!俺はお前を一生尊敬する!』

『気持ちわりー…ズル休みスナック以上の破壊力だ。』

 

この新情報にリータ・スキーターが鼻息荒く、羽ペンを走らせている。他の記者たちもセドリックの写真をバシャバシャ撮り、今の音声を一語一句漏らさないようにインクを飛ばしながら書き込んでいた。

 

「僕からの証言は以上になります。多くの証言を集め、今日発表するに至りましたがそれは大変な作業でした。ミス・アンブリッジの報復を恐れて黙り込むんです。しかしどうにか説得をしザ・クィブラーへの掲載と、この場での証言を許してくれました。」

 

(まさか、ウィゼンガモット法廷を使うだなんて僕も知らなかったけど。)

 

アンブリッジに報復したい現魔法省職員が沢山の人が入れる場所を用意すると言ってくれたが、それがたまたまイギリス魔法省最大の法廷であるウィゼンガモット法廷だった。あまりの規模の大きさに肝が冷えたが、話題を作るのであれば大きい方がいい。そう考えて、覚悟を決めた。

 

実際のところ、ウィゼンガモット法廷を貸し出した魔女が魔法省内に大量にこのことに関するビラが撒いたようで、想像以上に人が集まった。ここまで人がアンブリッジの悪行を見聞きしたのだ。誰も言い逃れできず、ファッジも圧力をかけられないだろう。

 

(よし、あとは明日を待つのみだー。)

 

ウィゼンガモット法廷出入り口が騒がしくなった。紺色のローブを身に纏った集団が焦ったように人だかりをかき分け、記者団を押し退けてセドリックの目の前に来た。

 

先頭に立つのはアメリア・ボーンズ。ハッフルパフ生のスーザンの叔母だ。アメリアは周囲を見回した後、淡々とセドリックに話しかける。

 

「ミスター・セドリック・ディゴリー。あなたはインターン生の身でありながら、この魔法省の公共の機関であるウィゼンガモット法廷を私物化し、魔法省の一役員を晒し上げるただそれだけに使用しました。犯罪ではありませんが、1人の人権を傷つけ、魔法省の秩序を著しく乱すものです。この事の重大さを理解できておりますか?」

「ええ。もちろんです。」

 

セドリックはあえて、ふてぶてしく答えた。

分かっていた。自分の行動で一体自分の世間の評判がどうなることか。

 

「あなたの魔法省へのインターン…ないしは今後の就職は無きものになるのも?」

「ええ。」

「ここまでの報道陣を呼びつけ、あなたの名前は該当魔法省職員と同じ晒し者にされ、一生あなたには今回の出来事が付き纏います。理解していますか?」

「覚悟の上です。」

「ホグワーツをこのタイミングで退学になるかもしれませんよ。」

「……今の腐敗しきったホグワーツから退学できるなら本望です。」

 

この言葉を聞いたらフレッドとジョージがなんと言うか考えると笑えてきた。

 

アメリアは少しため息をついた。バカな坊やとでも思っているような表情だ。しかし一瞬アメリアがニヤッと笑ったのをセドリックは見逃さなかった。

 

「記者団!職員全員!ウィゼンガモット法廷から退出しなさい!さもなくば減給及び魔法省への出入りを禁止しますよ!」

 

アメリアはすぐに真顔に戻ると踵を返して、群衆に叫んだ。皆、ウィゼンガモット法廷から大人たちがそそくさと出ていく。リータ・スキーターは周りを押しのけ一目散に飛び出して行った。

 

「さあ、あなたも事情を聞かなければなりません。一生徒のあなたがなぜウィゼンガモット法廷を開けられたのか。まあ、目星がついておりますがね。ロザリーでしょう。あの人とミス・アンブリッジとなって不仲は有名ですから…連行なさい。」

 

騒がしい中、アメリアの指示で魔法使い3人がセドリックを取り囲む。セドリックは両手を上げ、無抵抗に指示に従った。

 

「まっ、待ってくれ!待ってくれ!セドリック!」

 

人混みを逆走し、メガネをずらしながら入ってきたのは父親だった。1年生時はあんなに身長の高かった父親は、セドリックより小さくて威厳はなく、1人の人間に見えた。

 

「セドリック…。」

「…父さ…。」

 

セドリックは声をかけようとしたが、父親に背を向けた。

 

(父さん、あなたの息子はこんな人間なんだ。もう僕を守ろうという、家族を守ろうっていう重圧からは解放されてくれ。)

 

「エイモス。あなたはこのことを知っていたのですか?」

「まさか…。」

「でしょうね。あなたは常に魔法省に協力的だった。」

 

この際だ、とセドリックは少し声を大きくした。

 

「父親は関係ない。父親は魔法省の指示に従っていた。そんな、そんな親に僕は…僕は、嫌気が差して…もう息子と思わないように、この直前に手紙を書いた…。」

 

セドリックは言葉に詰まった。しかし、そう悟られない様に早口で続ける。

 

「僕が勝手にアンブリッジに恨みを持っている人間を集め、その1人がウィゼンガモット法廷をこじ開けて、別の人がメディアを呼んだ。この件に父親は何にも「セドリック。」」

 

少し大きな声でセドリックを止めた父親は顔を歪め、涙を溜めつつ笑っていた。

 

「セドリック…お前は私の誇りだよ。」

「…父さん…?」

「セドリック、私が何年お前の父親をやっていると思ってるんだ?手紙を受け取り驚いたが…自分の決断で私たちに迷惑をかけない様にしたんだろう?」

「ちっ、ちがっ」

「いいんだ。いいんだ。セドリック…私は臆病者だった。巨大な権力を前に何をどうしたらいいのか、分からなかった。お前が…正しい物事のために、ちゃんと行動に移してくれて嬉しい。自慢の息子だセドリック。」

 

取り押さえていた魔法使いが、熱い!と言ってセドリックから離れた。慌てて辺りを見回したセドリックだったが、父親は近づき優しく抱きしめ、そしてアメリアに向き直った。

 

「私の息子だ…息子に責任が追及されるのであれば私も責任を持つ。」

「………セドリック・ディゴリーは17歳の大人。両親に責任を問うことはない。まあ、学生なのであなたにいくつか事情は聞くでしょう。」

「そうか…それは残念だ。」

 

セドリックは父親の肩を叩き、笑いかけてからゆっくりアメリアの方へと歩き出した。

 

自身も袖で涙を拭き、火花を散らしながら。

 

その数時間後、各社が一斉に記事を出した。アンブリッジの悪魔の様な笑みを浮かべた写真と共に出てくる大臣ファッジの右腕による大量の悪事、残忍な素顔。

 

どのメディアも言っていることは同じだったが、リータ・スキーターの記事は、”生き残った男の子”ハリー・ポッターに今年の夏、吸魂鬼(ディメンター)をけしかけたのも、このドローレンス・アンブリッジらしいという新情報を加えた。掲載したザ・クィブラーの号外は一番最初のアンブリッジ告発を掲載したものとともに飛ぶ様に売れたらしい。

 

リータ・スキーターの記事の始まりはこうだった。

 

”ハンサムなホグワーツの首席が、魔法省の強大な悪に立ち向かった。名前はセドリック・ディゴリー。“

 

ーーーーー

 

「やれやれ、やっとアンブリッジはホグワーツを去った様だ。」

 

外から帰ってきたリーマスはそう言いながら、厨房で本を読み込んでいるシリウスに新聞を手渡した。シリウスは本を閉じ、怪訝そうに眉を上げた後、新聞を受け取った。

 

「あそこまで社会的地位を落として、居残れる理由が?あの記事が出た段階で教授陣全員で追い出したと聞いていたが…ああ。なるほど。自分が校長だと言い張って居残ってたのか。」

「教授陣はアンブリッジをもういないものとして扱っていたようだけど。結局ファッジが撤退命令をこの数週間出さなかったからね…ホグワーツ城そのものには残っていたそうだ。アンブリッジ受け持ちの授業は代わる代わる教授たちが教えていたが…あいつがいることで、ホグワーツと魔法省におびただしい数の吠えメールが来たようで。ついにファッジはアンブリッジのホグワーツから戻るのと、魔法省からの解雇を決定した。」

 

リーマスは嬉々として、買ってきたビールを瓶からグビっと飲みシリウスにも別の瓶を渡した。

 

「さーって、ファッジがどんな行動に出ると思う?唯一信頼してたアンブリッジが居なくなって。」

「さあね。暴走がこれ以上酷くなるのが一番の懸念だけど、ひとまず生徒たちの安全は確保されたとダンブルドアは大いに喜んでたよ。もちろん、彼はまだホグワーツには戻れないけどね。そして、人狼のことも…。」

 

シリウスは微笑み、自身のビールを開けて一飲みした。

 

「良かったな。お前の信頼が回復した。」

「良くはないさ。結局…アンブリッジが言っていた話が全て嘘ということでまとまって、私がエディにしたことすら嘘となった…あれは本当なのに。」

 

だんだん声が小さくなるリーマスにシリウスはおいおいとため息をついた。

 

「あのな、それはそれでいいんだよ。本来当事者同士で話がまとまって世間には晒されるべき話じゃねーんだから。」

「けど、真実が嘘になるのは…。」

 

トントントンと階段を誰かが降りて来る音がした。

 

「シリウス?あ、リーマスおかえり。」

 

エルファバが白い杖と本を数冊持って、厨房へと入ってきた。マグルのパジャマ姿のエルファバは目の下にクマがあり、髪もいつも以上にボサボサだ。

 

「シリウス、また分からないことがあるの。」

「またか。なんだよ。」

 

口ではそう言いつつシリウスは少し嬉しそうだ。今しがたシリウスが見ていた本が“ミス・バッカーナの魔法薬研究〜魔法薬学師になるために必要な基礎〜”という本で、エルファバが来た瞬間にシリウスが消したのを見逃さなかった。

 

「O.W.Lのことじゃないんだけど、なんというか、杖があんまり馴染まないっていうか…。」

「まさか、魔法使ったのか?」

 

驚き、そして嬉しそうなシリウスにエルファバは首を振る。

 

「ううん、違うんだけど…なんか感覚的に杖が私のものじゃない気がして。」

「確か、お前がここに来る前にディゴリーが武装解除してたんだっけ?」

「うん。アンブリッジに指示されたセドリックが武装解除して、私の杖を持っていて。アンブリッジにはその場で作った偽物を渡したの。校長先生はそれに気づいて本物の杖をどさくさに紛れてセドリックから受け取ったらしいんだけど…これが偽物だったらどうしようって。」

「…大丈夫。偽物だったら数日経てば消失するさ。」

 

リーマスが優しく声をかけるとエルファバはパッと明るくなった。杖が間違いなく本物であることとリーマスがひさびさに声をかけてくれたことにエルファバは嬉しくなった。しかし、また少し落ち込む。

 

「O.W.Lの時に問題なく使えればいいんだけど。」

「だから、バレねーからこの家の中で実践呪文使えって何回言えば…。」

「それでハリーが法廷に連れて行かれちゃったじゃない!」

 

エルファバは法律違反を勧めるシリウスにムッと睨んだ。

 

「へーへー、分かりましたよ。優等生のミス・スミスさん。」

「もうっ!」

「シリウス…張り合うんじゃないよ…。」

 

シリウスは、はあっと大袈裟にため息をついた後に肩をすくめる。シリウスはまるでエルファバの生意気な弟のようだとリーマスは思った。

 

「そういえばさっき聞いてきた“マグルが考える魔法使いの伝承と変身術の関係性について“はうまくまとめられそうなのか?」

「あ、うん。シリウスが教えてくれた根拠で結構分かった。あとは具体的な魔法について書かないといけないけど…けど、アニメーガスの話をもう少し論理立てて理解すれば大丈夫だと思う。」

「よし。魔法史は大丈夫そうだな。」

 

エルファバはコクっと頷く。

 

「リーマス…。」

「なんだい?」

 

エルファバは少し恥ずかしそうに言った。

 

「闇の魔術に対する防衛術で分からないこと…あとで、聞いていい?」

「ああ、もちろん。元ホグワーツ教授が直々に教えよう。」

 

リーマスが少し芝居かかって言うとエルファバは嬉しそうに、目を輝かせてコクコク頷きまた勉強してくると部屋を出ていった。その様子をシリウスが明らかに不機嫌そうに見つめていたので、リーマスはニヤッと笑う。

 

「なんだい、私が教えるのは不服かい?」

「…別に。」

「君、エルファバに教えるの相当楽しんでるんだな。」

「暇つぶしになるだけだ…あいつは物覚えがいいくせに頭悪いから。」

「何言ってるんだい。あの子はとっても賢いよ。自分がエルファバに先生したいからそう言ってるだけだろう?」

 

リーマスはひとしきりからかった後に、真顔になる。

 

「それにしても、エルファバが心配だ。あの子寝る間も惜しんで勉強してるだろう?」

「ああ。あのババアが消えたからと言って魔法省があのチビちゃんに課した強制入院が消えた訳じゃない…今あの子の唯一のモチベーションはO.W.Lを受けることだ。けど、少しやりすぎた。多分1日20時間くらいは勉強してて、3時間くらいしか寝てない。学校にいないということも焦りに拍車をかけてるんだ。」

 

リーマスは首を振って、可哀想にと呟く。

 

「ただ、前に言った通り俺はいいと思うんだ…この家に缶詰めで何もできない。することもないと鬱々とするだけだからな。何か目標があった方が絶対いい。」

「そうだな…勉強を取り上げるのも酷かもしれない。けど休憩して欲しいな。」

 

リーマスはそうだ、と呟いた。

 

「さっき、ハチミツ紅茶を買ったんだ。入れて持っていこうかな。気に入ってくれるといいけど。」

「おや、さっきも思ったが意地張るのはやめたってか?冬中にあんなにトンクスやダンブルドアが説得しても子供たちに話さなかったのに。」

「……もう、そうする理由も無くなったから。」

「やっぱりお前ロリコンなんじゃないか?」

「黙らないと呪うかこのティーセットを君の頭上に落とすぞシリウス。」

 

シリウスは凄むリーマスに怖い怖いとケタケタ笑って、杖を振りティーカップとポットを引き寄せた。呪文を唱えるとポットの中にお湯が溜まった。リーマスは近くにあった布でそれを掴むと、茶葉と共に持って行った。

 

(良かったなリーマス。これもハリーたちのおかげだ。セドリック・ディゴリーをからかうのはもうやめるか…ダンブルドアは、騎士団の勧誘をかけるかもな、ディゴリーに…親が反対するかもしれないがまあそれは本人に何とか言うだろう。魔法の応用力、瞬発力…どれも申し分ない。)

 

グビっとビールを一口入れ、さっき消した本を出現させ読み込もうとしたがある考えがよぎる。

 

(ダンブルドアはディゴリーにはアンブリッジの言うことを聞くように指示していたと聞いている。エルファバが魔法省に捕えられそうになった時だって、ディゴリーはダンブルドアにいち早く伝えたはずだ。そうでないといくらダンブルドアといえども、ディゴリーがエルファバの杖のダミーを作っただなんて、考えないはず。そもそも魔法省が本格的に乗り出していることをエルファバ本人にも伝えていた…。)

 

シリウスは本を閉じる。

 

(杖を折られることをダンブルドアは…知っててエルファバに言わなかったのか?あの子がどれくらいの魔力を発揮するかを知りたいがために。大きな精神的ショックを与えることで、あの子の”力“がどれほどか知りたかったし、それを魔法省に見せることで威嚇になる…俺がひねくれすぎか?この考えを騎士団で言ったら批判を食らうだろうな…この組織はダンブルドアに盲信的すぎる。これから先…子供たち、ハリーもこの騎士団に加入するだろう。ハリーは守られるべき対象だが…)

 

「シリウス。」

 

リーマスはティーセットを持ったまま、厨房に戻ってきた。

 

「あっ、な、なんだリーマス。」

「エルファバがいない。」

「…は?」

 

リーマスはティーセットを置き、少し焦ったように話し出した。

 

「この屋敷のどこにもいないんだ。彼女が寝泊まりしてる女子部屋にも、書斎にも、屋根裏にも、その他の部屋にも、どこにもいない。」

「…そんなはずは、「ああ、私だってそう思ったさ。この家にいる限りは安全だし、ここから出てはいけないことなんてエルファバが一番分かってる。いくつか魔法を使って探したけどいないんだ。この家に隠し部屋は?」」

「伝えてるもの以外はない。」

「じゃあこの家のどこにもいない…!」

 

シリウスが何か言いかけた時、シリウスでもリーマスでもない第三者の声が厨房に響いた。

 

「シリウス!」

 

聞き慣れたしかしいるはずのない声にリーマスとシリウスは飛び上がり、声のした方を向いた。

 

「シリウス!リーマスも!」

 

暖炉の中で、ハリーの生首が喋っていた。シリウスとリーマスは慌てて暖炉に駆け寄り、ハリーに話しかけた。

 

「ハリー?どうしてここに?」

「シリウス!エルファバは?エルファバはいる!?」

「エルファバ?エルファバは今…いや、どうしてだ?」

「説明は後で!エルファバが大変なんだ!」

 

ハリーは血相を変えてシリウスに叫んだ。

 

「エルファバが、今この瞬間、魔法省で…神秘部で拷問を受けてるんだ!」

 

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