ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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19.神秘部の戦い

ボロボロになったハリーは、操り人形のように強制的に神秘部の見たことのない廊下を歩かされていた。ハリーの意思を無視し右足、左足と前に進んでいる。

背後ではが死喰い人(デスイーター)数名、ハリーの後ろを歩いている。その先頭を歩くのはバーティ・クラウチ・ジュニア、そして黒髪の女性。その真ん中にはプラチナブロンドの男性もいる。

 

「それでそれで?いつ頃その氷の魔法を使えるってんだい?」

「少なくとも身体に肉体が馴染むまでに数時間はかかる…闇の帝王が言うには夜明けまでには完全に使いこなせているだろうとのことだ。」

 

クラウチが“闇の帝王”と言った時には少し恍惚とした、片思いの人について話すような響きがあった。

ハリーはエルファバを“喰らった”クラウチを何度も襲おうとしたが、杖を奪われ何度も呪われそして殴られた。口の中では血の味がして視界もおぼろけだ。右目が腫れて熱を持っているのを感じる。

 

「あーあ、待ちきれないねえ。あいつらを…穢れた血どもを氷漬けにする様を…!」

 

下品に笑う黒髪の魔女が、シリウスのいとこであるベラトリックス・レストレンジであることをハリーは思い出した。

 

「バーティ、若い女の魂と肉体を取り込んだんだろう…?ってことは、」

「無駄口を叩くなワクネア。重要な任務の途中だぞ…。」

 

嗜めたのはルシウス・マルフォイだった。ハリーは怒りと悲しみがぐるぐると体内を駆け巡る感覚にめまいを感じながら、ヨロヨロ歩く。ハリーの歩いている場所は、様々な時計がチクタクと音が聞こえると絶え間なく鳴っている。部屋の奥にある釣鐘型の時計はキラキラミラーボールのように輝き、部屋の中を煌めかせている。

 

「パクってお友達が食われちゃったねーポッティちゃん?それでエーンエーンって泣いて、こーんな姿になっちゃった。あーあ、かわいちょうですこと!」

 

ベラトリックスは歩きながら、ハリーの前をクルクル回って、赤ちゃん言葉でハリーを挑発する。

 

「黙れ…!」

「おうおう、こわいこわい!」

 

今無理矢理身体を動かしているハリーにベラトリックスへやり返す力はない。ハリーはその悔しさから下唇を血が出るほど噛んだ。

釣鐘の中では眩い卵型の光がキラキラした渦の中で漂っていた。そこを通り過ぎ、扉を潜る。ハリーはどこに連れて行かれているのか見当もつかなかったが、そんなことはどうでもいい。

 

エルファバの最期が何度も何度も頭の中で反芻する。今エルファバの肉体はバーティ・クラウチの腹の中。バーティーが変身した蛇に丸呑みにされ、蛇の口からはみ出て虚しく抵抗しようと痙攣していた手足。

 

なぜエルファバはあいつを凍らせなかったのか。エルファバだったら最期の抵抗でクラウチを凍らせそうなものだ。

 

(違う…エルファバは死んじゃいない…!あれは特殊な魔法だった…きっと何かの策で…。僕が、僕のせいでエルファバが…!)

 

「97列目の棚だ。」

 

ハリーが自分の目の前で起こった事象を頭で否定し続ける間、クラウチは淡々と死喰い人(デスイーター)たちに指示を出す。それに何名かは不服そうにため息をつき、そのうちの1人は舌打ちをする。

 

「止まれ。」

 

クラウチが言わずともハリーの身体は勝手に止まった。無理やり動きを止めさせたので、その衝撃が膝に来てズギッと関節に響いた。

 

「そこにある予言を取れ。」

 

“予言”と呼ばれたものが一体なんなのかハリーには検討がつかなかった。そしてしばらくして目の前に規則正しく陳列した埃被ったガラス玉の1つの真下にハリーの名前が書かれていることに気づいた。

感覚があまりない指でガラス玉を掴むとそれは、見た目に反して温かかった。

 

「それを拾ってこっちに渡すんだポッター…壊そうなんて考えるんじゃない。」

「これは…一体、こんなもののために…。」

「どうやらお前の恩師、偉大なアルバス・ダンブルドアはこれについて話をしていないようだな…まあ好都合だ。」

 

ハリーのまだ僅かに残る本能が、これを渡してはいけないと言っていた。これを騎士団総出で守っていたはずだ。手を伸ばすクラウチと対峙して、必死に時間を稼ごうと考えた。

 

「…一つ聞かせろ。」

「お前が交渉できる立場ではないはずだ。さっさと渡せ。」

「どうして…どうしてエルファバを喰ったんだ。」

「渡せと言ったぞポッター。」

 

マルフォイがハリーの首に杖を突きつける。ハリーの声は上擦ったが、必死に考えた。

 

「エルファバの力を…欲しいのは分かる。けど、エルファバは混血だ…。」

 

今まで周りの死喰い人(デスイーター)に嫌悪感を示されても気にしなかったクラウチがピクッと反応したことに気づいた。ハリーは必死に言葉を考える。

 

「ヴォルデモートだったら、そんな力をお前なんかに譲ったりしないはずだ。じゃあなんでわざわざお前に指示させた…?マグルの血を自分の中に取り込みたくなかったんだ。」

 

ヴォルデモート、と言った段階でベラトリックスは吠え、周囲と体を震わせた。しかしハリーはそれ以上にこの発言でクラウチを動揺させている手応えを感じていた。

 

(ごめんね、エルファバ。許してー。)

 

「純血だったお前はもう混血だ。僕のようにマグルの血がお前の体の中に流れてる。純血を重んじるあいつがなんでそんなことをお前に指示したんだろうな…もしかして、捨て駒とか?」

 

もちろんデタラメだった。そもそもヴォルデモートは混血だ。なぜクラウチがエルファバを喰ったのかは不明だが、そのようなことをヴォルデモートが気にするとは思えなかった。しかし、クラウチには効果はあったようだ。

クラウチは激昂してハリーに呪いをかけそうになったのを、死喰い人数名が取り押さえた。

 

「落ち着け、バーティ!挑発に乗るな!」

「黙れ!黙れ!お前にあのお方の何が分かる!誰があのお方を復活させたと!?この小僧が!!」

 

クラウチを抑えている死喰い人(デスイーター)数人は暴れるバーティに苦戦しながらも、心なしかせせら笑っていた。唯一マルフォイだけがため息をつき、呪文をかけるとクラウチは力が抜けゼエゼエ言いながら床へと座り込んだ。

 

「ガキが…。さあポッター、満足しただろう。さっさと予言をー。」

 

クラウチとハリーの間に割ってルシウスがハリーに手を伸ばしたが、ピタッと2人とも動きを止めた。後ろでドサっと何かが倒れる音がした。

 

「騎士団か!」

 

ベラトリックスがそう叫んだ理由はすぐに分かった。今しがたクラウチを取り押さえていた死喰い人(デスイーター)の1人が“失神”していたのがルシウス越しに見えた。ハリーは息を呑み、死喰い人(デスイーター)は全員戦闘体制となった。

 

「ポッター!早くそれをよこせ!」

「やめろバーティ!」

 

回復したクラウチがハリーに飛びかかろうとしたのをルシウスが体で抑え込む。

 

「壊されたら全てが水の泡だ!」

 

誰かが助けに来てくれたかもしれない、そう思うだけでハリーの心は少し冷静になれた。どうやら死喰い人(デスイーター)たちはこれが壊されるのが嫌らしい。今ハリーの運命はこの謎の物体、ハリーの手の中にあるー。

 

次の瞬間、遠くから呪文を叫ぶ声が2つ聞こえたと同時に赤い閃光と黄色い火花がこちらへ走り込んできた。

 

「ガキの声だ!」

「ステューピファイ!麻痺せよ!」

 

今度はハリーの後頭部スレスレに赤い閃光が走った。ルシウスは閃光を“盾の呪文”で防ぎ、攻撃を仕掛けてきた人物を見定めようと目を細めた。

 

「…ロン…?」

 

聞き間違いだと思った。しかし赤毛のロンが険しい顔で暗がりから杖を構えた状態で現れた。それに続いてハーマイオニー、ジニーが躍り出てきたところでハリーの見ているものが幻ではなく、本物であることを徐々に理解した。

 

「まさか、我々と渡り合おうってのかいぼくたち!?」

 

ベラトリックスが狂ったように笑って、3人に藍色の閃光を放ち3人は再び闇の中に消え、ベラトリックスは笑ったまま3人を追いかけていく。他の死喰い人(デスイーター)数名もベラトリックスに倣った。残った死喰い人(デスイーター)たちはハリーを取り囲むようにして杖を構えた。

 

「まだいるな…。学生どもがなんでこの場に…。」

「慌てるな。たかだか学生だ。」

「バカ言うんじゃない!ホグワーツからこんな人数抜け出したら直ぐに厄介な連中の知ることになるぞ!」

 

ルシウスがそう唸った直後、鎮座していたガラス玉が一斉にハリー以外の死喰い人へと襲いかかった。勢いよく割れていくガラス玉たちは何かを囁きながら消失していく。体制が崩れたその一瞬をつき、赤い閃光がガラス玉の間を縫って2つ走りそのうちの1つがワクネアへと命中した。

 

「待てポッター!!!」

 

ハリーはワクネアを跨いで、落ちた杖を拾い走り出す。訳もわからず薄暗い廊下を走り込み、角を曲がると何かにぶつかり倒れ込んだ。

 

「ハリー!」

「ネビル!?」

「大丈夫?酷い顔だよ。」

 

ハリーとぶつかったネビルは自力で立ち上がり、ハリーはルーナに手を借りて立ち上がった。

 

「レダクト 粉々に!」

「オグパノ 襲え インペディメンタ 妨害せよ!」

 

ハリーの前に立ったエディが唱えた呪文でガラス玉を支えていた棚が粉々になり、全ての玉がガラガラ音を立てて落ちていく。セドリックがその玉たちに呪文をかけ、ガラス玉たちが一斉に死喰い人たちがいた方向へと向かって走っていった。

 

「みんな…どうやってここまで…!!」

「アンブリッジは自分の暖炉を魔法省直通に作り替えてた。僕もインターンの時はそこから行ってたんだよ。」

「正直君とエルファバが、神秘部にいる保証なんてなかったけど一か八かでね。けど君とエルファバが魔法省にいるらしいって情報を職員が話してたんだ。」

 

セドリックとネビルの説明にハリーの頭の中は安堵と他の人たちを巻き込んだ罪悪感、そしてエルファバのように友達を失う恐怖がぐるぐる回った。

 

「やばっ、あいつら来る。」

 

最年少のエディはそう言いつつ全く怖がっている様子はない。

 

「ああ。ここから出よう…エルファバは?君と一緒にいたはずだろう?」

 

セドリックの問いかけにハリーは血の気が引いた。一気に室温が下がる。ネビル、ルーナ、エディもハリーの答えをじっと待った。

 

「ハリー?」

「……はっ、はぐれたんだ…今どこにいるか…。」

 

ハリーは震えた声で嘘をついた。エルファバの身に起こったことを、今この場で伝える勇気はハリーになかった。特に恋人のセドリックと妹のエディの反応など考えたくもない。

 

「…連中に捕まったのかな。エルファバを殺したりはしないはずだ…エルファバは特殊だから…。」

「そ、そうだよ。エルファバだったらあいつらから逃げられるよ。」

 

しばらくの沈黙の後、セドリックがそう呟いた。状況確認というよりも自分に言い聞かせているようにハリーは感じた。ネビルも少し声がうわずりながら同意する。対してルーナは随分と落ち着いており、気の抜けた声で提案した。

 

「それじゃあエルファバを探さないとね。」

「ダメだ…君ら巻き込むわけには、」

「エルフィーがいる場所なら、氷を辿れば分かると思う。だから、あっステューピファイ!麻痺せよ!」

 

エディは追いかけてきた男の呪文を避け、交戦を始めた。慌ててネビルとルーナが加勢する。男の後ろから来たマルフォイがハリーに杖を向けるとセドリックが前に立ち塞がった。

 

「ミスター・ディゴリー、君は聡明な一族の名誉に泥を塗りたいようだな…まあ、ディゴリー家は前々から“血を裏切るもの”ではあったが…。」

「死喰い人に加担するような大人が“聡明な一族”の当主をするのもいかがなものかと思いますが。」

 

セドリックは肩をすくめ、近くの今しがた空になった大きな棚を“呼び寄せ呪文”で引き寄せ、マルフォイを下敷きにしようとしたがルシウスが杖を一振りするとその棚は“消失”した。

 

「同じ手に引っかかると…。」

 

その隙をついたハリーは“全身金縛りの術”を放ったが、再度マルフォイがその術を捻じ曲げた。

 

セドリックとハリーは後退りし、マルフォイの呪文を避けながら走る。ルシウスの呪文は棚やガラス玉に当たって、音を立てながら空中を跳ねた。ガラス棚越しにハリーやセドリックと同じ速度で走ってハリーたちを捕らえようとしている男の影が見えた。

 

「エクスペリアームズ!武器よ去れ!」

 

ハリーは隙間から呪文を放つとガラスを壊しながら見事呪文が命中した。そしてハリーはその男がハリーの杖を奪っていたことを思い出す。

 

「アクシオ 杖よ来い!」

 

そう叫ぶとハリーの手の中に、ハリーの杖が飛び込んできた。

 

「さすがだよ先生。今の身のこなしは教科書に載せるべきだ。」

「やめてくれよ…。」

 

ハリーはワクネアの杖をその辺に投げる。セドリックは少し微笑んだがすぐに真顔になった。マルフォイは今ので巻けたようだ。

 

「みんなと合流しないと。」

「うん…ロン、ジニー、ルーナ!」

 

ロンとジニーとルーナは“予言の間”の扉前に立っていた。ジニーは明らかに身体のバランスがおかしく息絶え絶えになりながらルーナにもたれており、ロンはケタケタ笑ってた。セドリックとハリーは3人に駆け寄った。

 

「ルーナ、ネビルとエディは?今さっきまで一緒だっただろ?」

「うん。さっきを死喰い人《デスイーター》を“金縛り”した後、別の死喰い人が2人来たんだ。エディとネビルがその2人と戦ってるうちにハーマイオニーが入った。けどジニーとロンがいて、2人ともちょっと変だからこっちに来たんだもン。」

 

ロンは訳わからないことをケタケタ言いながら、廊下をコロコロ転がっていた。

 

「私とロンのことはいいから!加勢して!」

「ここはまずい、一旦外へでよう。」

 

ジニーの抗議を無視して、ハリーは扉をこじ開けてジニーとロンを連れ出した。床も壁も天井も真っ黒でその部屋の真ん中にベットが置いてある。先ほどエルファバが喰われた部屋でハリーはウッと眩暈がした。

 

ジニーを部屋の端に座らせ、暴れるロンもセドリックと2人がかりで引っ張ってきた。

 

「ここ、血がすごい…何かあったの?」

 

ルーナが床を見てハリーにそう問いかけた時、予言の間から悲鳴と物がガラガラ崩れる音が聞こえた。その直後、顔が血だらけのネビルが気絶したハーマイオニーを抱えてながら部屋に走り込んで来た。ハリーたちが杖を構えた直後、死喰い人(デスイーター)が紫色の炎を鞭のように振り回しながらネビルとハーマイオニーを追いかけてきた。

 

「コンフリンド 爆発せよ!」

 

ルーナがそう唱えるが、死喰い人(デスイーター)は炎でその呪文を焼き消した。

 

「ペトリフィカス・トタルス 石になれ!」

 

その隙をついてハリーが放った呪文が見事に命中し、男はドサっとその場に倒れ込んだ。

 

「ハーマイオニー!無事かい!?」

 

ハリーがそう叫ぶがハーマイオニーは返事をしない。

 

「だいじょうぶ、み“ゃぐはあ”る。」

 

ネビルは片手に折れた杖を持ったまま、そう唸った。どうやら鼻が折れたらしい。セドリックは今しがた金縛りもした死喰い人(デスイーター)を縄で巻き部屋の端に放り投げた。ルーナが駆け寄りネビルに杖を向けた。

 

「治療する。何回かやったことあるから大丈夫だもン。」

「い、いや。」

 

ネビルが遠慮しているうちに、また別の部隊が入ってきた。ハリーはその光景に息を飲んだ。

 

部屋に走り込んできた13歳のエディは無謀にも、闇払いのネビルの両親すら勝てなかった魔女ベラトリックス・レストレンジと一騎打ちをしていた。差は歴然で息絶え絶えに傷だらけのエディに対し、ベラトリックスは余裕そうに高笑いしながらエディを痛ぶり突撃してきた。

 

「あーっははは!いつまでそうやって踊っていられるかね穢れた血のお嬢ちゃーん?あんたも姉ちゃんと同じ場所へ送ってやるさ、クルーシオ 苦しめ!」

 

エディの杖が飛び、磔の呪文をまともに喰らったエディはその場に倒れ込んだ。ハリーとセドリック、ルーナが加勢しようとしたが、その後ろからまたマルフォイとクラウチが立ち塞がり、お互いに彼らの呪いを避けるのに精一杯だった。

 

「エディ!!!!」

 

エディは宙に浮き、上下に身体を動かした挙句固い壁に何度も何度も叩きつけられ、その度にベラトリックスの高笑いがドームの中に響く。ルーナがマルフォイの呪いを上手く避けエディの方へ行こうとしたところ、クラウチがルーナに呪文をかけた。ルーナは悲鳴を上げながら予言の間へと吹っ飛んでいった。それと行き違いで別の死喰い人(デスイーター)も数名部屋に入ってきた。

 

「ルーナ!」

 

ネビルが折れた杖で呪文を叫んで加勢しようとするが、杖からはわずかな火花が散るだけだった。クラウチはハリーを執拗に狙い、ハリーは後少しで体勢が崩れそうだった。マルフォイが放った呪文がセドリックの腕にあたり、バキバキと音を立ててセドリックの腕は石化した。数人の死喰い人(デスイーター)は手負いのネビルたちの方へ近づいていく。

 

「おーっと、そうだ。ただ穢れた血を殺すのはつまらないねえ。さっきあった脳みその水槽に突っ込んでやろうか。そしたら苦しんで罪を償いながら死ねるねえ?」

 

そんな中でもベラトリックスの残忍な声がよく聞こえた。血だらけになったエディは何も言わない。虫の息で痙攣している。しかしその目はジッと血だらけの髪の毛の隙間からベラトリックスを睨みつけていた。

 

「あたし…何の罪があるって言うの?」

「…あんたのその目、気に入らないね。生きている価値もないこの下等生物が。やっぱりあんたのことはさっさと殺そう。アバター。」

 

ベラトリックスが杖を振ろうと杖を上げたー。

 

バキバキバキバキっ!!!

 

ベラトリックスは自身の腕を見て目を見開いた。自分の杖と右腕が一体となり凍っている。

 

「…バーティ!なんのつもりだ!」

 

ベラトリックスは声を荒げるが、誰も回答しない。ハリー、セドリック、死喰い人(デスイーター)ですら、闘いの手を止めある一点を見つめていた。ドームの中の気温は一気に下がり、皆の吐息が白くなる。

 

 

 

「私の妹に!!!友達に手を出さないで!!!」

 

 

 

部屋に入ってきた少女は、白い髪をなびかせ叫ぶと、死喰い人(デスイーター)たちの足元からどんどん氷が這い上がってきた。脚が、胸がどんどん氷に侵食されていく。皆杖で炎やら呪文で自分の凍結を止めようとするが氷は止まらない。皆、冷たさに喘ぎついには首から上以外は全て氷に包まれた。

 

「エディ!」

 

エルファバはそんなに死喰い人(デスイーター)目もくれず、氷の滑り台を作って最短でエディに駆け寄った。

 

「エ、ル、フィ…。」

「エディ!大丈夫!?すぐに治すからね!」

 

先ほどまでの気迫はどこへやら、エルファバは金切り声を上げてエディを担ぎ上げた。白い部屋着のエルファバは裸足で、まるで今しがた家から飛び出してきたかのようだった。小柄なエルファバが10センチほど身長の違うエルファバを担ぐのは無理があった。よろっとバランスを崩したところでセドリックが駆け寄り、エディを担ぐ。

 

「エルファバ、君が無事でよかった。」

「私…?私は平気よ。それよりー。」

 

エディの身体がエルファバから離れた瞬間、ハリーはエルファバに抱きついた。

 

「!?ちょっと、ハリー?どうし…。」

 

ハリーは力の限り、死んだはずのエルファバを抱きしめる。あまりの身長差と強さにエルファバは宙に浮き、窒息しそうになり、バシバシとハリーの背中を叩いた。

 

「よかった…よかった…本当に…本当…。」

 

ハリーが力を緩め、エルファバの顔を見下ろすと困ったように笑っていた。

 

「ハリー…久しぶりね。」

「久しぶり?何言ってるんだ。君はー。」

「バカな!!!!闇の帝王が作った魔術は完璧だった!!!なぜ!!!」

 

クラウチはそう叫んだ時、バカにしたような豪快な笑い声が聞こえた。

 

 

 

 

自分にしか聞こえない、甲高い“男性”の笑い声。

 

 

 

 

 

『あーっははは!サプライズ♪ってところかな?』

「お、まえ、は…。」

『そっかー、俺の魂と身体を喰らっても姿が見えないわけだ。教えてあげる。俺の名前はルーカス・レインウォーター。イギリスとフランスのハーフで国籍はフランス。ボーバトン魔法アカデミー出身でー。「なぜお前の魂が…!!」…簡単だよ。俺がエルちゃんに変身してたんだ。』

 

皆が不気味そうに1人で喋るクラウチを見つめていた。誰も見えない、クラウチは脳内に響く声に話しかけている。ルーカスはまるでイタズラが成功した子供が種明かしするようにケタケタ笑って続けた。

 

『この魔術はすごいねー。例のあの人”が考えたの?魂が消えるとあの“力”は消失するからね…魂と肉体を丸ごと取り込んで徐々に馴染ませると。確かにこうすれば、“力”は消えない。アダムでも俺でもなくエルちゃんを狙うだろうってダンブルドアは考えてたし俺もそう思ってた…。』

『去年のエルちゃんがホグワーツの広大な校庭を、一瞬で凍らせたっていう情報が入ったなら誰だってそうする。お前らの神秘部にいるスパイが神秘部の連中を焚き付けて、エルちゃんを連れ去るように仕向けたね。ただでさえ予言の間をウロウロする騎士団を煙たがり、ダンブルドアに一泡吹かせたいと思ってた神秘部の作戦は大成功…そしてエルちゃんの警備が手薄なうちに職員を襲撃したと。ただ、ミスター・ウィーズリーを襲った蛇とは違うみたいだったね。そしてついでにその様子をハリーくんに見せて予言もゲットしようと目論んだ、ってとこかな。そして…何かしらの手段でハリーくんとエルちゃんが一緒にいることを確認した。』

 

ところが残念、とルーカスは歌うような解説が続く。

 

『神秘部にエルちゃんが連れて行かれたのをいち早くこっちが気づいたんだ…蛇を蹴散らし、騎士団はエルちゃんを保護した…これで一件落着…ってはずだったけど、俺はずっとこの時を待ってたんだ。お前らが確実にエルちゃんを狙わない手段を見つける必要があった。だからお前らのところにいるアダムが俺、あとセドリックの視覚を共有したはず…ああ。お前と同じ方法でアダムが脱獄したのは騎士団みーんなが知ってるさバーティ・クラウチ。あいつがもうアズカバンで正気を失ったこともね…あいつは結局バカがもっとバカになったってわけだね。そしてハリーくんとエルちゃんが魔法省に来たことは、アダムを介した俺とセドリックの記憶から分かったはずだ。ま、実際はエルちゃんに変装した俺だったってこと。』

 

ルーカスの笑い声がバーティの神経を逆撫でし、バーティは氷で動かない中で怒りに震える。

 

『俺は騎士団からハリーくん達にエルちゃんの無事を伝える役割だったんだ…ダンブルドアにそれを命じられた時、これが俺の運命なんだと思ったよ。まっさーか、蛇に丸呑みされるなんて想定外だったけど。あー身体中に棘が刺さって痛くてしんどかったよ!これを体験したのがエルちゃんじゃなくてよかったホント。けどお前はこれで罰を受けるのかな?ドンマイ♪』

 

氷によって死喰い人たちの意識はどんどん薄れていった。クラウチも消えかける意識の中で、エディを抱いてこちらを見つめるエルファバを捉えた。

 

『俺は、時間が経つにつれてお前と身体と魂が一体化する…この炎の呪いがお前の血肉になる…はあ、美しい俺がブサイクな君と統合されるのは世界の損失だけど、長い目で見た時に世界には貢献してるはずだからね…もちろん、お前は俺が責任を持ってきっちり殺してやるから安心して。』

 

軽口を叩いていたルーカスは最後ゾッとするような低い声でクラウチに囁く。

 

「……確かに喰らったのがお前なのは想定外だ…一度喰らったものを吐き出すことはできない上に、複数名を取り込む魔法ではない…。」

 

クラウチは1人で話し始めた。動ける学生たちはそっと杖を構える。

 

「が、お前も“炎の魔法使い”…つまり少なくとも俺にもできるということだ…!」

 

バーティがそう呟いた瞬間、愛の間はジュッ!と蒸気に包まれて周りが見えなくなった。熱が肌に触れ、あまりの熱さにその場にいた学生たち全員が叫んだ。

 

「なんだ!?」

 

その数秒後、今度は冷気が室内に舞う。エルファバが冷気で燃えるような蒸気を吹き飛ばしたのだった。

 

「そんな…!」

 

視界が晴れると、今しがたエルファバが凍らせた死喰い人(デスイーター)たちは皆立ち上がっていた。その中心にいるバーティの周囲を炎が渦巻いている。

 

「ど、どうなってるんだ!?魔法の炎じゃエルファバの氷は溶けないはずなのに!!」

 

ハリーは叫んで、負傷者達の前に立つ。エルファバとエディを抱えたセドリックも続いた。

 

「分からないわ…!まさか、アダムから“力”を移されたんじゃ…!」

 

セドリックは石化して使えない利き手をぶらぶらさせながら、反対の手で杖を握る。

 

「エルファバが凍らせたおかげで、奴らの体力をだいぶ削いでる。あと…こっちは“2人”いるから。」

 

セドリックの肩からわずかに発火し、エルファバに笑いかける。

 

「僕らが優勢だ…だから、大丈夫。」

 

エルファバもそんなセドリックを見て、少し安心し自らの“力”を出そうと思いっきり息を吸い込んだ時だったー。

 

バタン!と別の場所から扉が開き、シリウス、リーマス、ムーディ、トンクス、キングスリーが駆け込んで来た。次の瞬間何十個もの閃光が部屋に飛び交ったので、エルファバは氷のドームで学生達を包み込んだ。

氷越しの視界はぼやけており、光がチラチラ反射しているものの何がどうなっているかは分からない。しかし「なんで君がいるんだ!戻るように言ったはずだぞエルファバ!」とリーマスが叫んだ声だけハッキリと聞こえた。エルファバが気まずそうに縮こまった。

 

「エルファバ、この氷をもっと透明にできたりする?」

「えーっと、やってみるけど…。」

 

ハリーの要望にエルファバはじっと目の前の氷を睨みつけると、氷の中で白い濁った部分が下に落ちて戦況がハッキリ見えた。

エルファバの凍結により死喰い人(デスイーター)たちは体力を削がれ、騎士団の圧勝だった。ほぼ全員倒れており、今だに立って戦闘しているのはバーティとベラトリックス、紫の炎を使う魔法使い、ルシウスのみだった。ルシウスも今しがたトンクスの呪文が命中し倒れた。トンクスはベラトリックスと闘うシリウスに加勢した。リーマスとムーディは紫の炎を捻じ曲げ、魔法使いはバランスを崩す。

 

「ったたた…。」

 

エディがヨロヨロと立ちあがろうとしたのをエルファバは慌てて静止する。

 

「エディ、あなたは寝てて!」

「大丈夫だよエルフィー…。さっきのエルフィーホントかっこよかった。」

 

エルファバは一回りも大きいエディを抱きしめた。

 

「その、エルフィーは…魔法省に捕まってたんだよね?」

「え、ええ。神秘部に連れてかれて、けど職員が1人蛇に襲われたの。私も襲われかけたんだけどシリウスとリーマスが連れ戻しに来てくれて…で、家に戻った直後で今度は「逃げろ!!!」」

 

セドリックが叫んだと同時に、エルファバが作った氷のドーム天井が何かによって破壊された。そしてその破片と重たい何かが降りかかってくる。

 

「デフィーソロ!」

「アレスト・モメンタム 動きよ止まれ!」

 

エルファバの呪文でドームごと破片は消失し、ドームを壊したものは頭上スレスレで止まり、消失した。

 

「セドリック!」

 

セドリックは呪文を放ったと同時にバタッとその場に倒れ込んだ。ハリーとエルファバが駆け寄る。

 

「多分氷の破片が当たって気絶したんだ…。」

 

エルファバは脈を測ったが、正常だった。胸を撫で下ろしたエルファバとハリーの背後に気配を感じた。

 

「よく頑張った。」

 

ガバっと立ち上がったエルファバとハリーを見下ろしていたのは、ダンブルドアだった。記憶のまま深紅のローブを見に纏い、折れ曲がった鼻に半月型のメガネを乗っけているダンブルドアは、疲れているようで、呆れているようで、そしてどこか誇らしげだった。

 

ハリーがチラリとダンブルドアの背後を見ると、騎士団たちが杖を持ちながら走っていた。死喰い人たちは今しがた倒した者たち以外はいなくなっていた。

 

「君たちは…本当に…勇敢さを持った素晴らしい子じゃ。」

 

エルファバとハリーは顔を見合わせ、へたりと倒れ込んだ。もう何も心配はいらないのだと、ダンブルドアが守護霊かのように感じたのだった。

 

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