シリウスの神経を逆撫でしないように全集中したエルファバの努力虚しく、帰り道のシリウスは大変不機嫌であった。エルファバは付き添い姿くらましする際にシリウスの腕を握ることすら恐ろしかったものの、(何か思い直したのか)グリモード・プレイスに到着した頃には通常のシリウスに戻り、「お互いに面倒なことが一旦終わった記念」ということで子供達にお土産としてマグルのお菓子をたくさん買ってくれた上にエルファバにアイスクリームを奢ってくれる気前の良さを見せた。
「なんというか、少し拍子抜けしちゃったけど。」
今日は騎士団が何かしらでグリモード・プレイスで使わないといけないらしく居候のハリーとスミス姉妹はウィーズリー宅にお泊まりだった。
ジニーとエディが女子部屋で恋バナに花を咲かせている間にハリー、ハーマイオニー、ロン、エルファバは食後にシリウスが買い込んでくれたお菓子を囲んで、食べながら各々の報告会を行った。ハリーは新しい教授であるホラス・スラグホーン教授の勧誘を手伝った話、そして校長との個人授業がある話を聞かせた。
エルファバとレギュラスの面談を一通り聞いた後にロンは怪訝そうにマグルのグミを摘んだあと、口に頬張った。きっと動かないグミはロンにとっては奇妙だったのだろう。ハーマイオニーはお菓子など気にせず、熱を込めて自分の意見を語った。
「けど、これってきっとエルファバの魔法を解明できる時が来たのよ。シリウスの弟が言っていた通り、これまで対抗手段のなかった死の呪いや他の呪いを抑え込む呪文ができれば私たちにとって相当有利だわ。相手もアダムと…。」
ハーマイオニーは口を閉じた。エルファバとハリーを交互に見て、様子を確認した。ハーマイオニーの態度で今しがた「アダムとルーカス」と言おうとしたことに気づいた。ハリーも同じだったようで、虚な目をしながらチョコレートの金紙を剥がすのに集中しているふりをした。
「…とにかく向こうも炎を持っているのは少し痛いけど、ここで解明できれば大きな一歩になるわ。」
ハーマイオニーは慎重に言葉を選んで締めた。
「エルファバのお母さんの実家には一体何があるんだろう?ほら、グリンダの日記には大したことは書いてなかったんだろう?」
ハリーの問いかけにエルファバはコクリと頷く。
「大事なことは、そんなに。」
「シリウスの弟は家に何があるって思ってるのかな。」
「それは今日は教えてくれなかったの。」
「なんで?」
ロンの疑問に対する答えをエルファバは持っていたが、黙っていた。
「なんて言ってたのエルファバ?」
皆がエルファバの答えを待っていた。エルファバは意を決して、ゆっくり言った。
「ダンブルドアが信用できないからここでは言えないって。」
数秒の沈黙後、皆が脱力し呆れたように意見を述べた。
「今”例のあの人“の打倒に一番神経使って、騎士団のリーダーなのは他でもないダンブルドアなのにかい?」
「エルファバを取り入ろうとずいぶん必死なことを言うのね彼。信用に値しないわ。」
エルファバは肩をすくめ、エルファバの髪色と同じなメレンゲクッキーを数個口に入れた。この発言に一番反発すると思っていたハリーは意外にも冷静だった。
「ダンブルドアは秘密主義だから言わんとすることは分かるけど。僕も去年はそうだったし…。」
「けどダンブルドアが裏切るなんてありえないことよ。何言ってるのかしら。」
「本当ね…。」
エルファバは面会終わり側にレギュラスが言っていたことを思い出していた。シリウスが時間だと伝えたので椅子から立ち上がり、去ろうとした際にレギュラスはエルファバの腕を掴んだ。
『エルファバ、これだけは言わせて。本当にダンブルドアを信用しすぎないほうがいい。魔法使いたちは…特にグリフィンドールの連中はダンブルドアを盲信しすぎている。君に言ってない話もあるだろう。』
『おい、その子を離せ。』
シリウスはエルファバとレギュラスの間に割って入り。レギュラスの喉に杖を突きつけた。レギュラスはエルファバを離し、両手を上げる。
『本当に…シリウスもダンブルドアを信じすぎないで。』
シリウスはレギュラスを見下ろし、チッと舌打ちしてからエルファバを連れて外に出たのだった。
(あの場で…それを伝えるメリットってなにかしら?いや、おそらく私に疑念を持たせるのが目的なんだわ。無視無視。)
「それで、いつエルファバのお母さんの実家に行くの?」
「来月よ。本当はもっと早く行きたかったのだけど、騎士団が時期と一緒に来てくれるメンバーを要検討するって。」
「賢明だと思うわ。」
エルファバは焦ったそうに身をよじらせる。
「私は可能な限り、早く私の“力”の秘密を知りたいの。だって、ヴォルデモートを打倒する鍵になるかもしれないでしょう?」
エルファバは身体を向き直し、ハリーにじっと見た。
「予言。ハリーが3年生の時に聞いた“闇の帝王は自らの力で再び立ち上がるであろう、以前よりさらに恐ろしく、新たなる力を手に入れ、全ての者の希望を燃やし尽くすであろう。”…それにこの前ハリーが神秘部で聞いたもの。」
皆が見守る中、ハリーはジッとエルファバを見つめ返していた。
「七月の末、闇の帝王に三度抗った両親から生まれる子どもは、闇の帝王にはない力を手に入れる。闇の帝王自らがその子を比肩し示す…。」
「…一方は新たな力を得たものにより、この世の生を奪われる。」
ハリーはエルファバの言葉を引き取り、エルファバは大きく頷く。
「騎士団もダンブルドアも、力というのは氷と炎の話だと踏んでいる。」
「“力”を動かせて、アダムが死喰い人側にいて、ルーカスが…クラウチが“炎”を持っている今、ヴォルデモートが炎を操れるようになるのは時間の問題なの…私が、ハリーに“力”を安全に移せるようにしなきゃ。その手がかりがきっとグリンダの家にあるはずよ。」
エルファバは口には出さなかったが、ハリーという生涯の友人を助ける覚悟は重く大きいものだった。
(この“力”の可能性というのはまだ未知数。ハーマイオニーの言うようにきっと呪いの一種…そうだとしたら確実に安全な方向でハリーに移せるようにしないといけないわ。)
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日刊予言者新聞はクィディッチ選手を中心とした失踪、焼死、殺害のニュースを連日報道しているし、騎士団も最大の警戒をしているが、エルファバとしては穏やかな夏休みを過ごせていると感じた。
実の父親と母親から離れ、親たちが言っていた呪いの言葉が脳内でフラッシュバックすることもあるが、今はハリー、シリウス、リーマス、エディの5人で生活している(ハリーは最初の1ヶ月くらいはあの親戚ダーズリー一家に預けられており、シリウスが“娘”のエルファバを連れてハリーを迎えに行くという茶番もきっちり行った)。
ハリーはともかく中年男性2人の家に年頃の少女2人を生活させるのは賛否が分かれるところとなったが(主にミセス・ウィーズリーが)他に行くあてもなく、トンクスがグリモールド・プレイスを行き来するということで話が収まったのだった。
管理するという意味も兼ねて、グリモールド・プレイスで生活するというのはシリウスにとっては少し不満げだったが、時々ハリーとマグルの観光名所や魔法界で有名な場所に出かけて行けるので許容したようだった。
ハリーもハリーで4年生、5年生の夏にお預けだった”父親代わりの人との夏休み“を大いに楽しみ、次はどこに行こうかとソワソワしていて可愛いとエルファバは思っていた。
たまにエルファバとエディも外出に誘われ、行ったり行かなかったり。エディは友達が多いので、外出することも多かった。
エルファバはエルファバで時々セドリックの家に招かれ、昼食または夕食を共にした。3年生時の気まずい初対面や4年生時のギスギスした食事会が嘘のように毎回とても楽しいものだった。このご時世なので片手で数えるほどしかなく、おまけに2時間ほどしか会えず残念だが、ミセス・ディゴリーもミスター・ディゴリーをエルファバを随分可愛がってくれてエルファバは嬉しいような恥ずかしいようなむず痒さを覚えながら絶品の料理を味わった。ミセス・ウィーズリーの料理もとても美味しいが、ディゴリー家のフィッシュアンドチップスはエルファバがこれまで食べたものの中で最高で初めて食べた時は、昇天するかと思った。
セドリックの家は名家なので屋敷しもべ妖精も複数名いるが、料理だけはミセス・ディゴリーが作っているという。感心したエルファバはふと気づいた。
(私…セドリックと結婚したら、セドリックにとんでもないものを食べさせることにならないかしら…。)
エルファバは4年生の段階で、卵すらロクに割れないほど料理が下手であり頑張って勉強したもののホグワーツでの課題やら様々なトラブルやらで今や料理本はトランクの奥底で緩衝材代わりとして使われているのだった。
これまた美味しいチョコレートプティングを堪能しながら危機感を覚えたエルファバは、ミセス・ディゴリーに深刻にそれを伝えたところミセス・ディゴリーは大笑いしこれから料理を教えてくれることを約束した。
もっぱら最近は厨房に籠もり、1人黙々とキッチンでミセス・ディゴリーのプレゼントであるレシピ本とマグルのレシピ本と交互に睨めっこしながらミセス・ディゴリーからの最初の宿題であるスクランブルエッグを黙々と作っていた。
料理は大事だが1人で何かに打ち込むことは、ルーカスを失った悲しみから少し離れられた。
「すごい皺が寄ってるよエルファバ。」
リーマスはテーブルで真剣にレシピ本を凝視する指でエルファバの眉間を反対側から押しながら笑った。
「あ、リーマス。おかえりなさい。」
エルファバは穏やかに笑うリーマスに内心ホッとしながら笑いかけた。白髪が増え、ますます老け込みみずほらしくなったリーマスに皆心配しているのだ。
リーマスは怪訝そうにエルファバが読んだレシピ本をヒョイっと持ち上げて見る。
「スクランブルエッグ?」
「ええ。ミセス・ディゴリーからの宿題なの。」
「君が料理を学んでくれるのは助かるよ。何せこの家ではちゃんと料理ができるのはハリーと私しかいないからね。」
「ハリーは料理をするのは嫌がるからね。」
ハリー曰く「散々ダーズリーの家で料理したからできるならやりたくない。できるならミセス・ウィーズリーのご飯を食べていたい。」そうだ。今グリモード・プレイスはたまに帰ってくるリーマスとミセス・ウィーズリーが余分に作ってくれる料理で成り立っている。ミセス・ウィーズリーもリーマスも難しい時はやっとハリーが重い腰を上げてあり合わせで料理を作ってくれるのだ(ちなみにこれはそこそこ美味しい)。
レシピ本を机に置いたリーマスをエルファバは卵をかき混ぜる手を止めて覗き込んだ。
「リーマス、最近はどう?」
「どうって?」
「ええっと…。」
エルファバは慎重に言葉を選んだ。
「ほら、任務で忙しそうで休めてるのかなって。」
最近のリーマスは少し心配だった。騎士団は今誰しもが忙しいがリーマスは異常だ。
去年のアンブリッジが出した記事はリーマスの騎士団の活動に随分支障が出た。あの記事はリーマスが校長のサイドにいるということを示す確固たる証拠となり、リーマスが本来担うべきだった“人狼たちの説得”ができなくなってしまった。人狼たちはホグワーツに行けたリーマスを妬み、まともに話を聞いてくれないという。しかし魔法使いたちもリーマスの名前を人狼として知っている。
リーマスは自分の騎士団内での存在価値を見出せず焦ってどんどん任務を入れているのだった。
「ありがとう。今日はもう終わったからこの後ゆっくり休む予定だよ。」
「そう…。」
エルファバの質問の意図をリーマスは分かっているはずだが、優しく微笑んでそう言い切るだけだった。
「けど、せっかくならエルファバのスクランブルエッグの味見もするよ。」
「…ちゃんと美味しいものを作るわ。」
出来たら言うから休んでて、とエルファバは穏やかに微笑んで机に突っ伏すリーマスに背を向けて再びしかめっ面でレシピ本と睨めっこをするのだった。
そんなこんなであっという間に8月下旬となり、ダイアゴン横丁に新しい教材を買いに行った日は随分といろんなドラマがあった。
新しい教科書と制服を買いに行った際にはマルフォイとその母親に遭遇した。その後フレッドとジョージの“ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ”にいたところ、再び大通りを歩くマルフォイを見かけたハリーはロン、ハーマイオニーを連れてマルフォイを尾行した。エルファバも行く予定だったが今や大人サイズのハリー、ロン、身長がそこそこあるハーマイオニーで透明マントは満杯だったので遠慮して心配性なミセス・ウィーズリーと護衛のハグリッドをうまくなだめる役割を担った。
店の端でエディとフレッドが前のように仲良く話しているのを見ながら、フワフワしたピンクと紫のピグミーパフ2匹を肩に乗っけて撫でていた。
フレッドはエディにおもちゃの杖を身体に押し付け、エディは笑いながら身をよじらせた。その様子はカップルだと言われても不自然ではない。何ならミセス・ウィーズリーもその様子を見て満足そうに微笑んでいたので、まさかエディがフレッドを振ったなどと夢にも思っていないだろう。
「俺はフレッドがエディに惚れ薬を盛らないことを祈るよ。」
ジョージはピグミーパフの檻を掃除するふりをして、エルファバにため息混じりに話しかけた。檻の隣にはピンク色の液体が入ったゴールドの瓶が並んであり、ハート型のチャームには“ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ最高級 惚れ薬”と書かれていた。やけに本気のトーンで話しかけるのでエルファバはゾッとした。
「フレッドはそんなことしないでしょう?」
「どうかな。あんまりフレッドとこの話はしないんだ。」
自信無さげなジョージにエルファバは少しムッとした。安全性が保障されているとはいえ、さすがに妹に惚れ薬を盛られるというのはあまりいい気分ではない。
「お願いだからその時は止めてね。」
「どうかな。俺からしたらてっきりエディもフレッドが好きなものかと思ってたから。」
「どういう…?」
ジョージはイエスともノーとも言わず人混みの中に入っていった。フレッドとエディの恋愛模様は気になるし、お似合いだとは思うがさすがに惚れ薬なんて使うべきではない。
(解毒剤を作るために一本買うべきかしら…。)
キャッキャと興奮気味の女性陣たちの中でしかめっ面で惚れ薬を睨みつけている女性はエルファバのみだった。
「お嬢さん、誰かに惚れ薬を使う予定でも?」
気がつけば今しがたジョージがいた場所にセドリックがいた。騒ぐ女性陣たちはセドリックを見て感嘆のため息をつく。ホグワーツを卒業し、セドリックの言葉を借りれば“優等生のいい子ちゃん”を脱ぎ捨てた18歳のセドリックはますます魅力的に、大人の男性の魅力を醸し出していた。エルファバはそんなセドリックをチラッと睨んだ。
「ジョージがフレッドがエディに盛るかもしれないって言ってたの。」
「ああ…。」
セドリックは納得したように呟く。
「さすがにフレッドはやらないと思うけど。そんなことしても虚しいだけってことはフレッドが一番分かってるだろう。」
「本当に…けど、念のためこれ買って解毒剤作った方がいいかと思って。」
エルファバはふと嫌な考えが頭によぎった。
「まさか、セドリックあなた「その惚れ薬作成には携わってない。神に誓うよ。」」
半笑いで答えるセドリックに少しイラッとしながら、エルファバはエルファバに頬擦りするピグミーパフ2匹を名残惜しそうに檻に戻した。可愛くて買いたいのは山々だがロビンが嫉妬に狂うだろう。ただでさえ今グリモード・プレイスでハリーにヤキモチを焼いてハリーの衣服をビリビリに引き裂いてしまうのだから。
「…そんなことしてまで、その人の感情を操りたいかしら。」
セドリックが答える前にハリーたちが戻って来たことに気づいた。ミセス・ウィーズリーの詰問にあいそうだったのでエルファバが割って入った。
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ホグワーツ特急に乗り込んですでに数時間が経っていた。
エディはエルファバのコンパートメントに荷物を置いて、他のコンパートメント巡り友達に挨拶とハグをしフレッド、ジョージの商品を配って回っていた。3つ目のコンパートメントに入り、友達のタイラーが聞いたマグルと魔法使いにまつわるジョークは傑作でお腹が捩れるほど笑い、落ち着いたことにタイラーが思い出したようにこう言った。
「エディ、そういえばアストリアが探していたよ。」
「あ、そうなんだ!」
「…エディ、アストリアとは話してる?最近見かけないけど。」
タイラーは声を落とした。
「アストリアはいい奴だと思ったけど、結局スリザリンはスリザリンだったよな。あんなにエディと仲良かったのにあんなことするなんて。」
皆、ウンウンと同意する。
「エディももう話しかけても無視でいいと思うよ。僕もそう言ったし。」
「そうねー。ありがとう!またあとでねー!」
エディがコンパートメントを出ると緑のエンブレムの付いたローブをきた女子生徒がオドオドしてエディを待っていた。
「エディ…。」
エディはダークブロンドで自身より身長の低いその女子生徒を一瞥した後、何も言わずに横切った。
「エディ、わ、私謝りたくて…!!」
エディはピタッと足を止めた。コンパートメントから生徒達の楽しそうな笑い声が廊下まで響き渡る。泣きそうな声で女子生徒は続けた。
「去年はあなたに酷いことして本当にごめんなさい!その、私、親にあなたからもらった、マグルの雑誌見つかっちゃって…!すっごく怒られたし、寮の友達にもそうしなきゃいじめるって言われてそれで…!」
「だから、あたしのことみんなの前で“穢れた血”って呼んで卵投げつけたってこと?いや、それはいいんだけど。返り討ちにしたし。あんたあのガマガエルの親衛隊に入ってエルフィーのこと追いかけてたじゃん。」
「…それは、」
「もういい。あんたに会って今タイラーが教えてくれたジョークの余韻が台無し。」
エディはため息をついて、早足でエルファバが待つコンパートメントに向かった。その女子生徒が鼻水を啜る音も聞こえないフリをした。
(今のジョークの余韻が残ってるうちにエルフィーやジニーに伝えなきゃ。はーあ、何だっけ、あのこの前ハリーが教えてくれたエンディングの後味が悪い映画…。)
そう考えながらエディが歩いていると今度はエディより身長の高い男子生徒が立ちはだかった。
「おい。ちょっと来い。」
ドラコ・マルフォイは顎でエディを指す。エディはまたか、と首を振った。
「悪いけど、ドラコに付き合ってる暇はないの。あんたらスリザリン生なんであたしのこと待ってるわけ〜?も〜。てか、あたしあんたが去年リーマスのこと、“怪物に襲われた”って言いふらしたこと許してないんだからね?」
失礼しちゃうわ、とエディがドラコを横切ろうとした時だった。エディが気づいた時にはドラコはもうすでに呪文を唱えていた。
「インペリオ 服従せよ」
その瞬間、エディは立ち止まった。世界がとても美しく居心地に良いものに感じた。こんな幸福はいまだかつてない…幸せな気持ち。
エディは目をトロンと緩ませて、ドラコを見つめていた。
「こっちへ来い。」
ドラコがそう命令するとエディは素直にドラコについてきた。誰もいない列車も繋ぎ目まで来るとドラコはエディに命令した。
「床を舐めろ。」
エディは躊躇なくしゃがみ込み、ぺろぺろ舌を出して列車の床を舐め始めた。
(呪文が成功だ…!)
ドラコはエディが自身の思い通りになることにこれまで感じたことのない優越感を感じた。跪いて、なんも躊躇せずに床を舐めるエディにこれからどのように従わせようかと考えていた。それは所詮16歳の妄想する域を超えないものであった。
(お前は俺の言うことを聞くんだ。あの方からの指示を達成するための糧になってもらう…。)
呪文成功に喜ぶドラコは全く気づいていなかった。
エディに対する“服従の呪文”がすでに徐々に解けていることに。
(うえー、きったなー。何してんだあたし。)
這いつくばって床を舐めるエディはそう考えていた。
エディは呪文にはかかったものの、2年生の時に経験したムーディのそれとはレベルが段違いだった。ドラコはおそらく、服従の呪文はエディにかけたのが初めてだったのだろう。エディはふとどうして自分がこのような状態になっているのかと冷静に思い返せるほどにはすぐに理性を取り戻した。
(このまま黙ってたほうがドラコが何しようとしているのか分かるから、まあいいや。)
「お前には知り合いが多い。知り合いを少しずつ集めて僕に伝えるんだ…それから、それから…。」
(うーん、死喰い人の生贄にでもなるのかなあ?そしたらマグル生まれとかで人に嫌がらせしてる人たちをたくさん罰を与えられるよね。例えば…去年リーマスのことでいろいろ嫌味言ってきた子とか、あと純血主義のアステリア、ザガリアス・スミスとか?)
“床を舐めるのをやめろ。俺を見上げるんだ。”
ドラコの命令が頭の中で響く。エディはムクっと起き上がり、虚な目でドラコ見た。
「お前は僕の言うことを聞くんだ。穢れた血として純血の僕に媚びて奴隷のように従え。」
エディはぼんやりとした意識の中、新たな目標を立てた。
(よし、ドラコの言うことを聞くフリをして、悪い奴らを成敗してキレイな世界を作っていこう。)