「父さんとシリウスはスネイプをいじめてたんだ。」
談話室はエルファバとハリー2人だけだった。エルファバは早速始まった錬金術の“物質を金に変えることのメリットとデメリット、それに伴うマグルとの共同研究がこの学問において重要だった理由”に関するエッセイを書いていた。対してハリーはシリウスからの手紙を読んでいた後唐突にこう言った。ちょうど集中力が切れたタイミングだったからかこの言葉は見事にエルファバの脳の届き、驚いて顔を上げた。
「え?」
「誰にも言うなって言われたし、僕もそのつもりがなかったんだけど。」
ハリーはため息混じりに話し始めた。
「魔法省で
「…スネイプがいじめられている?」
ハリーは黙って頷く。
「そんなつもりなかったんだけど。5年生の時の話だと思う…みんなO.W.Lを受けてたんだ。父さんとシリウスがスネイプを空中に浮かばせて…みんなの笑い物にしてたんだよ。それを母さんが止めてた。母さんは父さんが大嫌いだって言ってたんだけど。けどスネイプは母さんのこと穢れた血って呼んだんだ。」
エルファバはハリーの唐突な告白になんと返せばいいのか分からなかったが、ひどいわねとだけ返した。
「夏休みにシリウスにその真相を聞いたんだ…ガキだったんだってさ。父さんはなんでもできるお坊ちゃんだったから、傲慢でなりふり構わず人に呪いをかけていてスネイプには特に酷かったと。けどスネイプもやり返していて…。」
段々ハリーの言葉が小さくなっていく。エルファバはチラッとハリーを見ると、俯いていた。
(ハリーは両親を誇りに思っていた。だからこそ落胆が大きかったのね。)
『今後はあの“怪物”について、いろいろ考えないと…。』
エルファバは今年の3月ごろに父親が自分をなんと言っていたかを思い出す。これまで家にそんなにいなかった父親にあまり期待はしていなかったが、4年生の時にグリンダが無実だと知った父親はエルファバに、エディに、歩み寄ってくれた。ある程度会話も増えたし楽しく生活できていた。
そんな裏でエルファバの食事に薬を仕込んでいた父親、エルファバを“怪物”と呼んだ父親。
(私なら親に対する落胆を共感してくれると思ったのかしら。)
エルファバは少し考えた後明るくこう言った。
「ハリーの護りはお母さんからだもんね。いざとなるのは父親じゃなくて母親!ってところかしら?」
「君も随分言うようになったね。」
エルファバはおどけたように細い腕を上げて(ない)力こぶを作るとハリーもふふっと笑ってくれた。
「ハリーはきっといいお父さんになるわ。だって、人の痛みを知っているもの。」
「そうなるといいけど。君は聞き上手だからいいお母さんになるだろうね。」
少し考えた後、エルファバはありがとうと微笑んだ。
(私って…将来どうなるのかしら。)
あまり考えたことがなかった。1年生から4年生ぐらいは自分の目の前のことで手一杯だった。”力“のことやそれがバレないか、家庭のこと…。5年生も相変わらずトラブル続きだったが、家庭からも意図せず完全に優しい大人たちのおかげで少しずつ自分の今後を考える機会が増えてきた。
(将来まだ何の職業に就くかは決まっていないけれど、きっと働くのは好き…だと思う。好きな職業に就いて働いて、ホグワーツ生は卒業後に結婚する人も多いし、私とセドリックもいずれは…。)
エルファバはパーバティ、ラベンダーが言っていたことを思い出す。
『エルファバって、ずっとセドリックと一緒にいるのでいいの?』
『少し遊んだ方が将来のためにならない?』
『…遊ぶ…?』
『セドリックだって、エルファバ以外の子ともしかしたらくっつくかもしれないのよ?』
『2人ともエルファバに変なこと吹き込むのはやめてちょうだい!』
ハーマイオニーがたしなめたが、エルファバは“遊ぶ”の意味がいまいち理解できなかった。
「けど、そんなに仲が良くなかったのにハリーのお父さんとお母さんはどうして結ばれたのかしら。」
「7年生になって傲慢な態度が治ったら母さんは父さんと付き合い始めたらしい。」
「そうなのね。誰にでも間違いはあるから、そんな素敵なお母さんが結婚したってことはお父さんも素敵な人になったのよきっと。」
「そうだね…。」
ハリーはスッキリしたようだった。納得したようにウンウンと呟くと、今はハリーにとって大事な“上級魔法薬”をぺらっと開いた。この本で今はハリーは魔法薬学が得意科目になった。共有しようと提案したが、ハーマイオニーは憤慨し意地でもその教科書に頼らなかったし、ロンも文字の識別に苦労してギブアップした。一方でエルファバは魔法薬学がない週末にハリーから教科書を借りて、勉強の合間に読み込んで返した。
エルファバは自分の父親に似て、恐ろしく記憶力がいいのは周知の事実だった。ハーマイオニーはエルファバを批判したが、「私の将来に役立つかもでしょう?」と言うとエルファバを睨むだけでそれ以上は何も言わなかった。実際魔法薬学についてはエルファバの場合ある程度成績が良いので、“半純血のプリンス蔵書”に書いてある事項は試したり試さなかったりで授業をエルファバ自身の実験として使用した。
エルファバもエッセイを書き終わり猫のように伸びをしながらふと考えた。
(そういえば、シリウスとリーマスは仲の良いピーターに裏切られたわね。そうすると…私は…もしかすると7年生になった時に…みんなと仲良くなくなって、セドリックは私と別れて、みたいな未来だってありえるということ?)
伸びをしているエルファバを横目で見ていたハリーはエルファバの顔が唐突に暗くなりボロボロと涙をこぼし始めたので、ギョッとしてめくっていた教科書を机に放り投げた。
「エルファバ?どうしたの?」
「…ううっ、みんなと別れるなんてやだぁ…。」
「待って、何でその結論に至ったの?ちょっと僕が泣かせたって思われるとセドリックとハーマイオニーに殺されるから、泣き止んでくれ!」
エルファバはぐずぐず言いながら涙を拭く。ハリーはオロオロしながら、エルファバの肩を抱いた。
「どうしてそんなふうに思ったんだいいきなり…。」
「だってぇ…。」
ハリーは顔に触れる粉雪の冷たさを感じながら脳を回転させた。最悪なことに下級生たちが談話室に戻ってきて怪訝そうにこちらを見ていた。
(そうか…酷い家庭環境だったエルファバのことだから今は幸せだけど、これが崩れたらどうしようって思考になったのか。でも今のどこの話で?けど、慰めるか。)
「エルファバ、僕らが仲違いするはずないだろう?普通の友達と違っていろんなことを乗り越えてきたんだから。」
「…うん、」
「君とセドリックだって去年あんなことがあってもちゃんと強い絆で乗り越えたじゃないか。あれ以上のことなんか早々起こらないさ。」
「うん、」
エルファバは袖で涙を拭いながら小さい子供のように頷く。
「…君の家みたいなことは起こらないよ。約束する。」
「私たちずっといっしょ?」
ハリーは少し答えを迷ってしまった。考えたくはないがヴォルデモートが復活した今、みんながずっと一緒だなんて約束はできない。日刊予言者新聞は連日行方不明者や死亡者の報道をしている。そんな中でみんながずっと一緒だなんて保証なんてできるのだろうか?
(いや、絶対みんな一緒だ。ルーカスのような人を作らないー。絶対に。)
「ああ、ずっと一緒だよ。」
ハリーは力強く、自分に言い聞かせるようにそう言った。
ーーーーー
「え、一緒に来てくれるのセドリックなの?」
そこから数週間後の金曜日。
授業が終わったエルファバは黒の分厚いローブを手に持ちながら警備員が多数いるホグワーツ正門前に来た人物に目を見開いていた。セドリックは変装をせず、同じく黒いローブを羽織ってニッコリ笑いかけた。
「そう。護衛担当…学校卒業したての僕1人でいいのか不安だったけど、ダンブルドアが僕だけでいいってさ。ちゃんと責任を持って君を守るよ。」
エルファバはホッとしてセドリックの胸に飛び込むと、セドリックは逞しくエルファバを受け止めてくれた。
「あんまり知らない人とかだったらどうしようかと思って…。」
「あとシリウスだったらとか?」
「…そう…。」
セドリックは乾いた声で笑った。
「シリウスは別の任務で忙しいらしいよ。ダンブルドアが言うにはこれから行く先で、中立にしっかり判断ができる人物がいいって…さあ、寒くなるだろうからローブを着て。」
エルファバは私服のセーターとジーンズの上からローブを羽織り、深呼吸した後にセドリックの腕に掴まった。その瞬間、いつものように水道管に無理やり押し込まれたような感覚を数秒感じた後に目を開けると、満天の星空がエルファバの目の中に飛び込んできた。
「うわあっ…。」
息を吸い込むと、爽やかな草の匂いが鼻腔の中いっぱいに広がった。広大な自然と藍色の星空の境界線が肉眼ではっきり見えるほどに月は明るかった。緩やかで冷たい風はエルファバの肌をくすぐり、髪の毛を優しく持ち上げる。
「ここは?」
杖に明かりを灯して歩き出したセドリックにエルファバは尋ねた。歩くたびに草が触れる音と芝生の匂いがする。
「オックスフォードから離れたワトリントンってところ。マグルが住むには不便な場所らしくて、魔法使いたちが多い場所なんだ。」
ローブから羊皮紙を取り出し、それを杖に近づけた。エルファバが背伸びして覗き込むと地図らしきものの上に十字架があり、線が重なる部分に氷の結晶が描いてあった。
「こんな草原の中に家があるの?」
「それが騎士団も死喰い人も…魔法省も見つけられなかった理由らしい。」
「こんばんは。」
エルファバとセドリックの背後から優しい男性の声が聞こえた。振り向くと、杖で明かりを照らす黒いローブの男性とその後ろでにこやかに手を振るレギュラスがいた。
「闇払いです。レギュラス・ブラックをここまで連れてくるように指示されました…あなたと合流したら私は去るように言われておりますが。」
「はい、ありがとうございます。」
闇払いはエルファバ、セドリック、そしてレギュラスを見て訝しながらも“姿くらまし”した。レギュラスは黒髪をポニーテールにして、同じく黒いローブを着ている。久しぶりに外に出れたからか思いの外生き生きしてる。
(学生と卒業したての17歳に元
「はじめましてセドリック。レギュラス・ブラックだ。よろしくね。」
レギュラスは朗らかにセドリックに握手を求めたが、セドリックは軽く会釈しただけで握り返さなかった。レギュラスの表情は薄暗くよく分からなかったが、手を引っ込めて何事もなかったかのように話を続けた。
「さて、家はこの下に埋まっている。君しか取り出せない。」
「埋まってる?」
「闇の帝王が活発化した時、グリンダの家族…オルレアン家は立て続けに亡くなった。暗殺だったのか、病気だったのかは分からないけど。グリンダは天涯孤独に…厳密には弟のクウィナスがいたけど、誰も頼れる人間がいなくなった段階で家を隠したほうがいいと判断して自分しか家に辿り着けないようにしたんだ。」
「…ここは、」
「私しか知らない。グリンダに教えてもらったんだ。魔法省にも言っていなかった…繰り返しになるけど、私はもう
エルファバが口を開く前にレギュラスは聞きたいことを全て答えた。
「どうして…どうして、私のお父さんですら知らなかったことをあなたは知っているの?」
レギュラスは後ろを振り返った。薄暗い中でも、「何を言っているんだ?」という顔をしているのは明らかだった。
「君のお父さんは知っていたはずだけどな。少なくともグリンダは君のお父さんには伝えていたはずだ。」
エルファバは顔をしかめて、考えたがそもそも父親はエルファバに魔法から離れてほしかったのだ。知っていても言わないのは自然なことかもしれない、とエルファバは自己完結した。
「さて、ここの地面一体を凍らせると地下に繋がる階段が出てくるはずだ。」
少し考えて、恐る恐る右足を出した。バキバキバキっ!と空気が割れる音と同時に、暗い草原の気温は一気に下がった。そこから数秒、ゴゴゴっと地下から何か大きな物が這い出てくる音が聞こえた。
「下がって。」
セドリックがそう言ってエルファバの前に来たと同時に、草原を包む氷がキシキシと音を立ててまるで削られるかのようにひとりでにエルファバたちの前に集まってきた。氷の破片たちは草原の上で弧を描き魔法陣のような模様を立てたと思えば、ピキピキっと最終的には人が2人くらい通れるマンホールのような氷の塊になった。
「ここが入り口だよ。」
セドリックは杖を持っていない片手で魔法陣が描かれた氷の扉を開けた。分厚い氷の下には石の階段がある。レギュラスはセドリックが促す前に先に下を降りた。セドリック、エルファバが後に続く。エルファバはその穴に手をかざし、薄い氷を張った。
「この地下に誰か敵が入ってきたら、分かるようにするわ。」
「ああ、助かるよ。」
埃かぶった階段を降りるエルファバにセドリックは言った。
「インセンディオ 燃えよ!」
セドリックが呪文を唱えると、部屋の中が一気に明るくなった。中は思った以上に広々としていた。
藍色を基調とした壁とカーペット。部屋の真ん中には焦茶色の木製ダイニングテーブルが置かれ、その周りを銀の椅子が3、4脚ほど囲っていた。部屋の端にある長年使われていないであろう暖炉は周りが銀色でできた細い蔦のような装飾で囲われていて、それが不規則に太くなり天井に広がっている。天井の蔦はエルファバの体くらいの太さのものが絡まり合い、時折その銀の蔦はゴソゴソと緩やかに動いている。蔦が動くたびにそこから吊るされた部屋を照らす大きなランタンがゆらゆらと揺れた。
「てっきり雪の結晶だらけの家だと思ったけど違うんだね。どちらかというとレイブンクロー寮を彷彿させる。」
セドリックは辺りを見回してそう呟いた。エルファバは銀の蔦がある壁の中にいくつか写真が埋め込まれていることに気がついた。蔦たちがその写真だけ避けて動いているようだ。
「グリンダ…。」
ホグワーツの制服を着たグリンダはおそらく5、6年生くらいだった。エルファバにそっくりだったが、エルファバよりも体格がしっかりしており、もしかすると実際の年齢はもう少し幼いかもしれないとエルファバは感じた。後ろには父親らしき男性がニッコリ笑っている。父親はこれでもかと言わんばかりに恰幅が良く大きな手をグリンダの肩に乗っけている。そしてグリンダの隣には新品のホグワーツ制服を着てニッコリカメラに手を振っている男の子がいた。
(クィレルね…。)
髪色は茶色か黒のようで髪が真っ白なグリンダは目立っていた。エルファバが会ったのは髪がない(後頭部にヴォルデモートを飼っている)クィレルだったので、少年クィレルを見るのは少し不思議だった。
部屋を辿ると壁の中にいろんな写真が会った。レイブンクロー監督生になったグリンダ、箒に乗ってブラッチャーを棍棒で跳ね返すグリンダ、(驚くことに)エルファバの父親デニスと2人で寄り添ってニッコリ笑うグリンダー。
「ああ、そこの部屋は入らないほうがいいよ。」
エルファバが写真に集中している間、セドリックが見ている少し開いている扉に対してレギュラスは言った。扉には金色の綴り字で“クィリナス”と描かれている。
「呪いでもかけられているんですか?」
「まあ、そんなところかな…気になるなら君だけ扉の隙間から見てごらん。ただエルファバには刺激が強すぎるから見ないことをオススメする。」
セドリックはチラッとエルファバが気づいていないことを確認した後にルーモス、と唱えて光を扉の隙間に入れて覗き込んだ。確認して数秒後、セドリックは早急に扉を閉めてため息をついた。
「…親は気づかなかったのか?話には聞いていたけど…。」
セドリックの声色は嫌悪感を隠しきれていない。顔色すら悪くなっていた。レギュラスはセドリックに同情するように優しく声をかける。
「親は弟に関心がなかったらしい。」
セドリックは被りを振る。その間のやり取りにエルファバは全く気づかず、部屋をうろうろしていた。ふとテーブルいっぱいを覆うにある大きな羊皮紙に気づいた。
「これ…。」
見覚えがあった。銀色に塗られた羊皮紙の中で、雪の結晶がチラチラと舞っている。その上に黒い文字と金色の文字で人の名前があった。
(家系図だわ。シリウスの家にあったタペストリーみたいな。)
例えば最初は“エヴァーソン・オルレアン”が金色の文字と“サラ・ベラ・ベルナール”が黒色。それは赤色の毛糸で繋がっておりその毛糸が枝分かれして“エドワード・オルレアン”という人と結ばれていた。きっと2人の息子だろう。その他にもアデラインという女性が2人の間にいた。そして“エドワード・オルレアン”は“セレナ・ポッター”と繋がっていてー。
(ポッター?私ハリーと親戚ってこと?)
しかし、ここで不思議に思った。エドワードとセレナには3人の息子がいることになっている。しかしそのうちの1人には名前がない。名前のないその人は「マリアン・シーラン」と赤い糸で繋がっている。その下には2人子供がいるが、そのうちの1人も名前がなかった。
その後も空白部分または金色の文字で描かれた人物がいる。しばらく追うと空白の部分と繋がった”ベンジャミン・オルレアン”の下に金色に描かれた“グリンダ・オルレアン”が“デニス・スミス”という名前と繋がりその下に“エルファバ・スミス”という名前が描かれている。エルファバの名前も金色。
(そういえばレギュラスもそんなこと言っていたわね。金色に描かれた名前は“力”を持っている人ということで間違いなさそう…けど、どうして名前が抜けているのかしら…100年ほど前だから記載漏れ?けれどそんなはずないのよ。だってー。)
エルファバはチラッとセドリックとレギュラスを見た。
「どうしたの?」
「…なんでもない、」
エルファバは思わずセドリックから顔を逸らしてしまった。学生のエルファバと赤い毛糸で結ばれていたのは“セドリック・ディゴリー”だったからだ。
「楽しんでもらえたかな?」
レギュラスはエルファバにテーブルを挟んで近づいた。
「君しか入れないから、好きなタイミングで来るといいよ。いろいろ調べられるだろう。」
エルファバはレギュラスを見る。
「現世にある死の呪文に対抗できる唯一の手段をあなたと調べるんじゃなくて?」
「私は、ここに来たことがあってもう調べ尽くしてるんだ。君を…君たちを呼んだのはただちゃんと話をしたかっただけで、グリンダの実家に来ること自体はそこまで重要じゃなかったんだ。」
え、とエルファバがいう前に既にセドリックはレギュラスに杖を構えていた。レギュラスは穏やかな顔で両手をあげている。
「何度だって言うけど、私は
数秒の沈黙を破ったのはセドリックだった。
「なぜ騎士団に言わないことをエルファバに言うんだ?」
「エルファバと君に、だよ。理由はいろいろあるけど、まず騎士団内の私への信頼が薄いからこれから話すことを信頼してくれない。何より…ダンブルドアを信用できない。」
レギュラスは両手を下げて、エルファバとセドリックを交互に見る。
「私の推測が正しければ…間違っていないはずだけど、ダンブルドアは大義のために人の命を犠牲にすることに躊躇のない冷酷な人間だ。もちろん、闇の帝王を打倒するという目的はあるけれど…そのためには手段を選ばない。セドリック、君だってダンブルドアを疑っているはずだ。」
セドリックの杖を持っている手がピクッと動いた。エルファバはそれが図星であることを悟ったと同時に、このままレギュラスのペースにのまれるとまずいとエルファバは感じた。
「それをどうして私に?」
「グリンダとの約束なんだよ。君を守るっていうことが。もっと言えば…君とハリー・ポッターを守ること、だけどね。」
「ハリーを?」
「うん。グリンダはリリー・ポッターと仲が良かったからね。」
エルファバは頑張って頭をフル回転させた。
(校長先生の信頼を落として、私やセドリックの信頼を勝ち得ることでどんなメリットが…闇の陣営に私を引き摺り込むため?けれどそしたらもっと上手くアプローチしないかしら…私やセドリックの弱みに漬け込むとか。けれどここまで来れたということは、グリンダとの交流があったのは間違いないわよね。一体どうしたら…。)
「それを、あなたが守る義理がどこにあるんだ?なんのメリットがある?」
エルファバが考えていると代わりにセドリックが布石を打った。心なしか威嚇するように口調が強い。
「グリンダは私の家族を守ってくれたんだ。」
「家族って…。」
「クリーチャー。私の大事な家族。」
と、言ったところでレギュラスはエルファバの顔をジッと覗き込んできた。灰色のシリウスと同じ瞳は何かを探ろうとしている。エルファバはハッと気づいた。
(クリーチャーの存在を私が知っていたらおかしいわ…レギュラスは騎士団の基地がグリモールド・プレイスであることを疑ってる…!だとしたらまずいわ。)
エルファバはなるべく表情を崩さないようにして、レギュラスを見返した。
「…続けて?」
レギュラスはそんなエルファバをクスッと笑った。目尻に笑い皺ができるところがシリウスによく似ていた。
「私もクリーチャーもグリンダがいなければ亡くなっていただろう。」
「どうやってグリンダはあなた2人を救おうとしたの?」
「それが分からないんだよ。」
レギュラスは少し悲しそうに、というよりも悔しそうに言って銀色の椅子に座った。
「私はその時、まだ闇の帝王に心酔している時だった。ある日、闇の帝王にクリーチャーを貸して欲しいと言われた。闇の帝王に力を貸せるというのは名誉なことだとクリーチャーに伝えて喜んで貸そうとした…その直前、スパイだったグリンダが私に声をかけた…実験したいことがあるから協力してくれと。けれどその前後のことにはグリンダに記憶を消されたんだ。次に目覚めた時に私は氷の“力”を持っていて、クリーチャーは闇の帝王に貸し出された…結果クリーチャーは闇の帝王に利用され、酷い目に遭って帰ってきた…生きて帰って来れたのが奇跡、という具合にね。」
レギュラスはそこで言葉を切った。なんとなく、レギュラスの性格が見えてきた。
(シリウスとレギュラスは性格があまり似ていないと思ったけど…なんとなく似ている部分がある。人を揶揄うところとか心を開く人と閉じる人を選んでいる部分。言い方を変えれば選民思想…。そして、心を開いた人には話し過ぎてしまう部分。)
エルファバはジッとレギュラスを観察した。レギュラスは命の恩人であるエルファバに自分のことを喋り過ぎたと思っている…エルファバがこの話を騎士団員に告げ口する可能性を考えずに。少し考え込んだレギュラスは、今度は慎重に話し始めた。
「私をもっと信用してもらうために2人にヒントを教えよう。できればあまり騎士団には話してほしくないけど…やむ得ない。近々ダンブルドアは闇の帝王を打倒する術をハリー・ポッターに教える。そして多分、君やハリー・ポッターの友達にも伝えていいことになるはずだ。そして、それは私も何なのかは分かっている。それはー。」
ガシャン!
何かが割れる音と男性が驚く声が入り口で聞こえた。入り口の氷が破れたのだ。
セドリックは弾けたように音のする方向へと走っていった。
「君はここにいて!」
そう言って部屋から消えた数秒後、閃光が弾ける音とセドリックではない別の男性が叫ぶ声が部屋の外から聞こえてきた。
「セドリック!」
エルファバは何も考えず、入り口の外へと走って行った。エルファバが階段を登ると、入り口付近に黒いローブの男が1人気絶していた。数メートル離れたところでセドリックが骸骨のマスクを被った男性と戦っていた。エルファバは身を隠しながら戦況を伺う。
「あっ!」
セドリックの背後から身長の高い黒いローブの男が近づいていた。セドリックは気づいていない。エルファバは入り口から飛び出し、手で何かを丸める仕草をしてそれをその男性に向かって放った。エルファバが放った“玉”は男を直撃し、肩から下の上半身が凍ったと同時に数メートルほど遠くに吹っ飛んでいった。
「そこにいろ!」
エルファバの背後からまた別の男性が叫び、エルファバの両脇を青と赤の閃光が走ったと思えば、その閃光が1つに繋がった瞬間黒いロープのようなものが光から飛び出て、セドリックと戦っていた相手に絡みついた。男は叫びながら倒れ込んだ。今度はセドリックから数メートル離れた先でブワッと火柱が見えたがそれは一瞬にして消えた。
「今…。」
「エルファバ!大丈夫かい?」
セドリックは小走りでエルファバに近づいてきた。
「ええ、平気よ。あなたは?」
エルファバはセドリックのローブについた葉っぱを払った。
「ああ、大丈夫…応援ありがとうございます。」
「なんてことはない…どうやってあいつらここを嗅ぎつけた?」
ムーディは義足を鳴らしながらエルファバの後ろから近づいて来た。きっと今の一瞬でセドリックが応援を呼んだのだろう。
「ルーモス マキシマ 大きな光を!」
ムーディがそう唱えると暗い草原が空中に放たれた青白い光で煌々と照らされた。エルファバは念のため辺りを見回すがもう敵はいなさそうだ。レギュラスはグリンダの家の前にぼんやり立っていた。
「お前!」
ムーディは怒鳴りながら勢い良くレギュラスに杖を向けたので、エルファバはビクッとその辺を凍らせた。
「そいつから離れろ!仲間と連絡を取るつもりか!?」
ムーディはレギュラスのそばで伸びている死喰い人を杖で指した。レギュラスは呆れたように大きなため息をついて距離を取る。
「こいつの杖は?」
「そこに折れてますよ。」
用心深いムーディは早足で死喰い人に近づき、しゃがみ込んで確認している間にセドリックはエルファバにコソッと耳打ちした。
「…スだった。」
「え?」
「あれは、ルーカスだったと思う。おかしなことを言っているのは分かってる。さっき火を放って消えた魔法使いだよ。薄暗かったけど、あの背丈、走り方…100%断言はできないけどルーカスにそっくりだった。」
エルファバが息を呑んだと同時に、喋り始めたのはレギュラスだった。
「あの炎で去ったのはクラウチかな。ベルンシュタインの家を調査してここまで辿り着いた可能性はある。クラウチは炎の魔法使いであるレインウォーターを喰らったからきっとレインウォーターの容姿に近づいてるはずだけど。」
「喋るなブラック。今お前を調べてる。」
「はいはい。」
レギュラスは両手を上げ、ムーディに手荒なボディチェックを受けているところだった。エルファバとセドリックは顔を見合わせる。そしてエルファバは俯いた。
(ルーカスが…それじゃあもしこれからクラウチと対峙したら、クラウチはルーカスの見た目をしているということ?)
不安になりギュッとローブを握りしめるエルファバの肩をセドリックは優しく抱いた。
カサっ。
握りしめた時、ローブのポケットに何かが入っていることに気がついた。エルファバはポケットに手を突っ込むと小さく古い羊皮紙が出てきた。身に覚えのないものだ。ふと両手を上げているレギュラスを見ると、目が合いレギュラスはウインクをした。
「何?」
アイコンタクトをしたセドリックはその羊皮紙を広げて目を凝らすエルファバに声かけた。
“さっきの話の続き。
「分…」
エルファバがそれを読み終わったと同時に羊皮紙がドロっと溶けて、手の中で消えた。
ちなみに書き忘れたが、ヴォルデモートとハリーの繋がりはエルファバの格好をしたルーカスの死により切れてるよ