ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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【注意】
この話にはオリキャラとハリポタ登場人物の匂わせが出てきます。苦手な人は飛ばしてください。


5.すれ違い

グリンダの家から帰って来た次の日の週末。

旅に疲れていたエルファバは「久しぶりだから」という理由で無理をしてホグズミードに来たことを大いに後悔した。

 

想像以上に寒い道のり(“氷の魔女”であるエルファバがそんなことを思うのは異常だ)を歩いていたがホグズミードはこのご時世でほぼお店が閉まっていた。おまけに道中ロンとハーマイオニーは険悪な雰囲気になり、ハリーとエルファバだけがその沈黙を破ろうと無理に会話している状態だった。

 

「僕と君は遠い親戚だったっていうには面白い偶然だね。」

「ええ、なんだかハリーとは不思議な縁を感じるわ。」

 

ロンは“才能がある生徒”しか呼ばれないスラグクラブにこの4人の中で唯一呼ばれていないことに対してイライラしており、ハーマイオニーはロンの機嫌を取ろうとしたが“三本の箒”に来たら今度はハーマイオニーがイライラしていた。2人とも少し声を大きくして話すハリーとエルファバの会話には乗ってこない。適当に相槌を打つだけだ。三本の箒の店内がガヤガヤしていることだけが唯一の救いだった。

 

「それにしても、えーっと、レギュラスは随分と協力的じゃないか?」

 

ハリーはレギュラスの部分だけ口パクでエルファバに言った。

 

「そうね…そう思ったんだけど。」

「彼のことを少し信頼して歩み寄ってもいい気がするけど、どうなんだろう?…ルーカスの時と違って、彼が何かしら罪を犯したわけじゃないはずなのに。」

「私もそれを提案したんだけど、騎士団員が言うには所々に差別発言が見受けられるから、信用できないんですって。」

「例えば?」

「トンクスのこと。トンクスって、彼からしたら姪にあたるでしょう?詳しくは聞いていないけど、まるで存在しないかのように扱ったって…。」

 

エルファバとハリーは一緒にチラッとロンとハーマイオニーを見た。ここまで興味のある話題を提供したにも関わらず、どちらもそっぽを向いている。この気まずい空気を改善できないことを悟った。

 

「天気も悪いし帰りましょう。」

 

察しのいいハーマイオニーがそう言って立ち上がると、察しの悪いロンも同意して立ち上がった。ハリーとエルファバもホッとして立ち上がり、自分たちが飲んだバタービールのグラスをまとめる。

 

(4人でホグワーツに帰るのも気まずいわね。本当はどこかでエディと落ち合いたかったけど、今の雰囲気でハリーを置いていくのは可哀想だしハリーを連れて行くのも良くない。ハーマイオニーを引き剥がして、ハリーにロンを任せようかしら。)

 

と考えたところでハリーと目が合った。おそらくハリーも同じことを考えていた。ロンとハーマイオニーの扱いに慣れた2人の結託はもはや親戚という納得感を感じさせるものがあった。

 

「ロン、一緒に帰ろう。」

「ハーマイオニー、これからエディに会わない?この後、ここに来るはずなんだけど。」

 

2人とも少し表情が晴れてリラックスしたようだった。エルファバはハーマイオニーと席に残り、4人分のグラスを片付けてもう1杯ずつバタービールを注文した。

 

「ロンって…本当に…どうしてあんなに…!情けない…男らしくない…!」

 

ロンがいなくなった瞬間にハーマイオニーが唸るように愚痴を言い始めたのでエルファバは早急に新しいバタービールをハーマイオニーの前に持ってきた。勢いよくグビっとハーマイオニーがジョッキで飲んだ後からロンの愚痴がさらに酷くなった。エルファバは相槌を打ちながら話を聞いていると、三本の箒の入り口から大きな耳当てと赤いマフラーでぐるぐる巻きなエディが入って来た。珍しく1人だ。

 

「あ、エディ〜。」

 

エルファバがエディに手を振るとエディもすぐ気づいてこちらに駆け寄って来た。エルファバがエディのために椅子を引くとエディは、ああ、と言った。

 

「あたし、別の用事があって一緒にいられないんだー。ごめんね!」

「え、そうなの?」

 

てっきり久しぶりに話せると思っていたエルファバの中で寂しさが渦巻く。

 

4年生になってからというもの、エディはあまりエルファバに話しかけてこなくなった。「14歳なんてそんなものよ。」とハーマイオニーは言っていたが、いつもエルフィー、エルフィーとついて回っていたエディが可愛かったので思春期はこんなに残酷なのかとエルファバはしょげていた。

 

(久しぶりにエディと話せると思ったのに…。)

 

じゃあね、とさっさと行ってしまったエディにエルファバは肩を落として席に座る。ハーマイオニーはロンに対する怒りが収まらないようで、引き続きロンへの悪態をついていた。エルファバは適当に相槌を打ちながらミートパイを口に押し込んだのだった。

 

一方、エディはキョロキョロと辺りを見回してミセス・ウィーズリーお手製マフラーを取りながら1人で座っている男子生徒に話しかけた。

 

「ハーイ、ジョーイ。」

 

ジョーイと呼ばれたハッフルパフ生は大きい眼鏡をかけたそばかすだらけの痩せた生徒だった。長い赤毛は髪の毛にまとわりつきあまり清潔感はなく、身長はエディよりも低く、小柄でオドオドとエディから目を逸らす。

 

「な、なんだよ…僕は他の人を待ってて…「その待ってる人があたしなの。」」

 

きょとんとしてジョーイはズレた眼鏡の位置を直す。そしてワナワナと唇を震わせてどもりながら怒った。

 

「ばっ、馬鹿にしたんだな!ぼっ僕みたいな負け犬だったらまんまと引っかかるって!あの手紙も嘘だったんだな!?」

 

彼の声は小さく、三本の箒の喧騒の中に消えていったがエディにはしっかり聞こえていた。

 

「嘘なんかじゃないよ。あたしは話を「信じないぞ!お前は学校の中でも勝ち組の人間だ!学校のムードメーカー、エディ・スミス…お前の周りには常に金魚のフンどもがついて回ってる!教授たちもお前には甘い!それに、それに、」あのねえ。」

 

エディはジョーイの話を遮った。

 

「あんた、あたしが勝ち組だって本当にそう思ってるの?去年…アンブリッジが校長だった時あたしはマグル生まれだからって散々いじめられたんだよ?知らないの?」

 

汗に濡れた長い前髪が眼鏡にくっつき、その隙間からエディの様子を伺うジョーイに「あんたさ、隠キャなのはこっちの知ったこっちゃないけど流石にそのキショい髪型はどうにかしなよ。だからみんなに細身トロールって言われるんだよ。」と言いたくなるのをグッと堪えて続ける。

 

「知らないはずないよね。だってあんたは周りのマグル生まれの根も葉もない悪口をさりげなく広めたり、靴を履く時に靴の口がネズミの口になる呪文とか陰険な意地悪繰り返してるでしょ?あ、今日のことは関係ないけどね。」

 

青くなったジョーイを見て慌てて訂正する。

 

「聞いたよ。あんたって3人兄弟の中で一番成績悪くて父親からネチネチいじめられてるって。」

「…うるさい…。」

「悔しくない?あんたあの中なら一番顔いいのに。」

 

(まあ、最下位争い的なやつでね。)

 

心の中でエディは言葉を完結させる。対してジョーイはエディの顔をまじまじと見る。

 

「何かあるのか?」

 

食いついてきたジョージにエディはほくそ笑んだ。

 

「…あんたを馬鹿にしてきた奴らに負けない“力”、欲しくない?」

 

ーーーーー

ハーマイオニーとロンが変な雰囲気になっているのに加えて、ホグズミードから戻るとハリーもハリーで“マルフォイ死喰い人説”をより熱く語り始めた。

 

「おかしいと思わないかい?マルフォイが“あの”ザガリアス・スミスと話し込んでたんだ!」

 

その説をハリーが唱え始めると、ハーマイオニーとロンは聞かないフリをすることは分かっているので話し相手は決まってエルファバだった。その日の夕食時もわざわざエルファバの隣に座ってこの説を語る。

ハリーが言うには、そんなマルフォイとザガリアス・スミスがあの日にホグズミードにも行かずホグワーツの廊下隅で話し込んでたんだらしい。ザガリアス・スミスがハリーと目が合うと、気まずそうに目を逸らしどこかに去って行ったそうだ。

 

「…何を話しているか分からないからなんとも…。」

 

熱々のチリビーンズにトーストを浸しながらエルファバがふとハーマイオニーを見るとしかめっ面で首を振っている。話を広げるな、ということだろう。エルファバは無難な回答をするがハリーは熱弁する。

 

「あいつとマルフォイが2人で話してるなんておかしいよ。マルフォイは純血かスリザリン以外は格下だと思ってる人間だ。そんな奴が落ちこぼれのザガリアス・スミスになんの用がある?」

「そうね…。」

 

正直、エルファバからしても、ザガリアス・スミスなど普段目もくれない生徒と話しているというだけでマルフォイが怪しい動きをしていると考えるのは早計だと思った。ザガリアス・スミスは鼻につく嫌なやつで、去年もヴォルデモート復活で疑われていたハリーにやたらと突っかかっていた。

マルフォイとはジャンルの違う嫌なやつ、とでも言うべきだろうか。

 

「例えばだけど…マルフォイがヴォルデモートに指示されて”炎の軍隊“をホグワーツ内で作っているとしたら?そしたら辻褄が合わないか?」

「んー…けれど、あの人は運動神経良くはないはずだけど。」

「数打てば当たる理論だ。」

「あれって相当酷い火傷を負わないと影響がないわよ。」

「今は人集めしてるんだよ。」

「そうだとして、そんなに大人数に声をかけて計画がバレる可能性だってあるでしょう?ましてや目立つマルフォイよ。」

「そんなことを考えるほどあいつは頭良くないよ!」

 

エルファバは少し考え、自分の意見は言わず共感とハリーの言葉を言い直してくり返すというエディが暴走して一生喋り倒す時によく使うテクニックでその場を収めることにした。

 

「なるほど、ハリーはマルフォイが軍隊を作ろうとしていると思っているのね。」

「彼がいつもと違う行動をしているから。」

「確かに目を光らせたほうがいいかもしれないわ。」

 

結果、ハリーはエルファバが自分の意見に賛同していると思ったらしくほら見ろ、と言わんばかりにロンとハーマイオニーを見るので2人は呆れていた。

 

その後はなかなか4人一緒にいることはなくなった。ハリーとロンはクィディッチで来るスリザリン戦で殺気立っていてあまり話しかける気分にならなかった。エルファバとハーマイオニーは一緒にいたが、彼女は彼女で随分不機嫌だった。原因はロンのことなのだろうが、それ以外でも2人でいる時に何故かハーマイオニーが突然もっと不機嫌になってしまうことがありエルファバは訳が分からなかった。

 

その日もハリーと一緒に夕食後にセドリックに会いに行こうと誘ったのだがハーマイオニーはツンツンした声で、「課題があるからいいわ。」と断ってさっさと図書館に行ってしまった。

 

(ハーマイオニー、どうしちゃったのかしら。)

 

エルファバは部屋着に着替えて、灰色のガウンを着ながら誰もいない談話室に降りてきた時だった。

 

「おい、エルファバ!!」

 

ロンが怒ったようにエルファバに話しかけてきた。泥まみれのクィディッチのユニフォームを着て、おまけに身長がエルファバより30センチ以上も高く、かなり怒っているロンは怖かった。

 

「え、な、何ロン…?」

 

エルファバがロンを怖いと思ったのは(失礼だが)今までほとんど無かった。

 

「ハーマイオニーはクラムとキスしたのか?」

「…へ?」

 

唐突な質問にエルファバは当惑した。いるはずのハリーに助けを求めようとロンの後ろを覗こうとしたがロンがエルファバの視界に割り込んできた。

 

「ハーマイオニーはクラムとキスしたのかよ?」

「え、ええ…でもそれ2年も前のはな…し…。」

 

ロンはエルファバが言い終わる前に、エルファバにぶつかったことを謝りもせず、悪態を吐きながらさっさと階段を上がっていった。

 

「…私、何かした…?」

 

怯えながらエルファバはハリーの腕を掴むとハリーは優しくエルファバを肩を撫でながら、しかしキッパリこう言った。

 

「君は悪くないけど、かなりまずい。」

 

結局ハリーも気が乗らないということでエルファバだけセドリックの元へと向かったのだった。

ハリーの予想通り、その翌日からロンはハーマイオニーに酷い態度を取るようになった。ハーマイオニーが来ると機嫌が悪そうに不貞腐れ、存在を無視する。ハーマイオニーは訳も分からず傷つき、エルファバは胸が痛かった。

 

「ロン。いい加減にして。ハーマイオニーが一体何をしたっていうのよ。」

 

エルファバはロンの態度が酷いので、夕食時ついにフォークをバンっと置いて、立ち上がりロンを睨み付けた。向かいに座るロンは不貞腐れてエルファバすら無視し、ミートスパゲッティを一口頬張った。その態度にさらにイライラすると、机がカタカタと動きエルファバの白い髪が逆立ち始める。ロンの隣に座るハリーはまずいと思ったようだ。

 

何せ今のエルファバは本気になればホグワーツ城を丸々凍らせて機能を停止する力があるのだ。

 

「おい、ロン。」

「…」

「何か言ったらどうなの?」

「もういいわよ!!」

 

ロンとエルファバが一触即発状態になると、ついにハーマイオニーは憤慨して荷物を半分ほど置いて大広間から大股歩きで去って行った。エルファバはキッとロンを睨みつけてから、ハーマイオニーの荷物を持って慌ててハーマイオニーを追いかけていく。

 

(もう、なんでこんなことに…まさか、ロンは自分だけ恋愛経験がないから怒ってるとか?けれどそしたらどうしてハーマイオニーにだけ酷く当たるの?他の人にも酷いけど…。)

 

小柄でそこまで体力がないエルファバはゼーゼー言いながら女子寮の部屋に戻って来たが、そこは決して安息できる場所ではないことを扉を開けた瞬間悟った。

 

「…でね、ロンったら本当に可愛くて!もう私笑っちゃったのよー!」

 

ノー天気なラベンダーの甲高い声が部屋内に響く。エルファバは反射的にハーマイオニーのベッドを見る。ハーマイオニーは般若のような顔で“新しい魔法時代の幕開け〜イギリス魔法界の歴史と変身術の変容、そしてこれから〜”を読んでいた。

 

「あ、エルファバおかえり〜。」

「はっハーイ。」

 

震えながらラベンダーに挨拶しつつ、ハーマイオニーの荷物をそっとベッドの上に降ろした。

 

「ハーマイオニー…。」

「なに。私今忙しいの。」

 

(あ、話しかけてはいけないわ。)

 

自分のベッドの周りに早々にカーテンをかけて着替えを始めた。この雰囲気を可能な限り遮断したかった。しかしラベンダーの甲高い声は容赦なく響く。

 

「ロンって本当6年生になって急にハンサムになったと思うのよ!クィディッチ戦が楽しみだわ〜。」

 

半純血のプリンス蔵書に書かれた“耳塞ぎ呪文”を今こそ使う時だと思った。あれは自分の話を聞かれないようにするための呪文。最近スネイプの授業で学んだ“無言呪文”を使ってハーマイオニーにラベンダーたちの声が聞こえないようにした。

 

(少しでもハーマイオニーの気が落ち着けばいいんだけど…何よりロンの機嫌が治りますように…。)

 

しかしこれがまたハーマイオニーを怒らせてしまった。翌朝、“プリンス”の呪文を使ったことにハーマイオニーはカンカンに怒って、朝エルファバを置いてさっさと大広間に行ってしまった。

 

「ねえ、ハーマイオニーはどうして不機嫌なの?」

 

置いて行かれてショボンとしているエルファバにラベンダーとパーバティはそう聞いた。

 

「えーっと、私もよく分からなくて。」

「ロンのこと?」

「さあ…。」

 

あまり人の関係を他人に言わないほうがいい気がしたエルファバは曖昧に答えた。しかしラベンダーは少しキラッと目を光らせて前のめりに聞いてきた。

 

「もう一回聞くけど、ロンってシングルよね?ハーマイオニーと付き合っているとかではないでしょう?」

「ええ、2人は友達よ。」

「私がロンを狙ってもいいわよね?」

「いいんじゃないかしら?」

 

(ロンはシングルで寂しいんだから、そうした方が機嫌が治りそう。)

 

この数ヶ月で何度聞かれたか分からない質問にエルファバは少しウンザリしつつ、そしてこの状況が改善できる策少し期待しつつ寝室を出て階段を降りた。談話室には同じく朝なのに疲れ切ったハリーがいたので、2人で情報共有をする。

 

「僕もお手上げだよ。クィディッチに影響が出そうだ…ここでしかマルフォイをペシャンコにできないのに。」

(ハリーったら。クィディッチのことばっかり。)

「…ねえ、ラベンダーがロンに興味あるみたいなの。もしもロンとラベンダーが付き合ったら上手「いやいや、もっと関係悪くなるよ。それは。」」

「?どうして?」

「いや、どうしてってさ…。」

 

ハリーがモゴモゴと言っていると大広間に入った瞬間、クィディッチのことでケイティ・ベルに引っ張られてあっという間にエルファバは1人になった。大広間をキョロキョロするが仲のいい人はいなかった。

 

(エディ…もいないか。)

 

最近話しかけられないどころかエディをそもそも見ない気がした…考えてみればエディも4年生。前みたいにホグワーツ大探検もできないはず…何せフレッドとジョージだっていないのだから。大人の階段を登りつつあるエディに対して嬉しいような寂しいような、そんな気持ちが胸の中で渦巻きつつ、エルファバは適当にトーストを掴んで外に出た。

トーストを食べながら向かったのは図書館だった。今日のエルファバは1限がない。ハーマイオニーも同様だがあまり協力は求められないだろう。エルファバはマダム・ビンスに睨みつけられながらエルファバの上半身ほどもある本を棚から引っ張り出した。エルファバは深呼吸をし、ゆっくりとページをめくりはじめる。

 

本のタイトルは“1977年卒ホグワーツ生の記録”。

 

レイブンクロー、ビーターであるグリンダ。クィディッチのユニフォームを着て、箒に乗っている。モノクロ写真でも白い髪がよく目立った。写真の競技場でグリンダは駆け巡り、写真フレームの目の前までくるとエルファバと目が合った。エルファバを一瞥した後、向かってきた暴れ玉であるブラッチャーを誰かに打っていた。

 

「…あ。」

 

よく見るとこのクィディッチ戦はレイブンクロー対グリフィンドールなのだと分かった。ブラッチャーをスレスレで避けてからグリンダに突進してきたのはハリー…ではなく、ハリーの父親であるジェームズだったからだ。悪い笑みを浮かべながら向かってくるので、グリンダは慌てて遠くへ逃げていく。

その写真にクスリと笑った後、ページをめくっていった。ページ途中にはシリウス、ルーピン、ピーターも見つけた。ハリーにこのメンバーがスネイプをいじめていたのだと聞いていたので複雑な気持ちになった。一喜一憂しながらもページめくるが結局それ以上の情報は得られなかった。

 

(お父さんのこと、もっと調べることができればいろいろ分かるかもしれないのに…。)

 

エルファバはがっくし肩を落として2限目に向かった。

 

更なる事件が起こったのはこの数日後、まさにクィディッチのことだった。ハリーはキャプテンとしての初試合で(ザガリアス・スミスの嫌味な実況もありながら)無事勝利を収めた。その要因としてハリーのキャプテンとしての手腕や選手の質などもあるが、ロンが絶好調だったということも挙げられた。不穏な雰囲気だったグリフィンドールは瞬く間に最高潮に盛り上がり、観客席はお祭り騒ぎだった。しかし、エルファバとハーマイオニーは知っている…ハリーが幸運の薬であるフェリックス・フェリシスをロンに盛ったことを。ハリーがスニッチを捕まえた後、ハーマイオニーはエルファバを置いて早足で観客席を去った。きっと2人に不正を注意しに行ったのだろう。

 

エルファバからすれば、ロンの機嫌が治ってハーマイオニーと仲直りをすれば万事解決でハーマイオニーほどの正義感もない。いろいろ行動が裏目に出ているエルファバは適当なタイミングで寮に戻ることにした。

 

(けれどセドリックに会いに行こうかしら…談話室はきっと騒がしいもの。いやダメだわ。この前会いに行ったばかりだもの…何回も行くと怪しまれる…。)

 

寮の入口を守る太った婦人(レディ)にエルファバは合言葉を伝えて扉が開いた時、観客席の盛り上がりはすでに談話室まで持ち込まれていることが分かった。エルファバは甲高い叫び声に少し顔をしかめ、耳を塞ぎながら人混みをかき分けていく。

 

「え?」

 

さっさと寝室に繋がる階段を上ろうとした時にチラッと見えた光景にエルファバはあんぐり口を開けた。

 

ロンとラベンダーがまるで接着剤のように密接に、手を、身体を、そして唇、舌を絡め合っていた。

 

(えー…クィディッチの試合前はカップルではなかったはずだし。けれど、それでこんなに密着するものなの?)

 

流石にここまで大っぴらに人間が絡み合っているのを直接目にしたのは初めてだった。エルファバが知っている“それ”はウィーズリー夫妻が愛らしく頬や額にキスしている姿やセドリックと2人でいる時に抱きついたり軽くキスしたりしているものだ。今目の前で行われているものは、そういう可愛らしいものではなくあまりにも肉欲的で、生々しく、獣のようで愛らしさとは程遠い。

 

(まるで顔を食べようとしているみたい。)

 

人間にはそのような欲求が備わっていることは丁寧にルーカスが教えてくれた。自分がセドリックとそれをやっているのを想像してみたがあまりにも滑稽でそんなことをセドリック、ましてや自分がしたいとは思わなかった。

 

(そんな欲求がロンとラベンダーにはあっただなんて…あ。)

 

エルファバは自分が突っ立っている反対側でハーマイオニーがそれを同じくまじまじと見ていることに気がついてしまった。今まで見たことのないくらい顔を歪ませたハーマイオニーは涙を拭い、人を押し除けて外へと向かってしまった。エルファバも慌てて追いかけていく。

 

「ハーマイオニー!」

 

エルファバの声は聞こえているはずだ。しかしハーマイオニーはどんどんエルファバと距離を取って寮を飛び出し、誰もいない廊下を走っていき最初にあった教室に入り込んで行った。

 

「ハーマイオニー…?」

 

教室をノックするが、返事がない。

 

「入るわよ…?」

 

教室の扉を開けると、机に腰掛けてハーマイオニーが杖を使って何かを創り出していた。杖を振るたび、何かが飛び立ちハーマイオニーの頭上をクルクル回っている。目を凝らすとそれは黄色い小鳥だった。

 

「えーっと…すごいわねハーマイオニー、これってN.E.W.Tレベルの魔法でしょう?」

「ありがとう…。」

 

弱々しい声のハーマイオニーの隣にエルファバが座る。

 

「どう思った?」

「?」

「ロンと…ラベンダーがキスしているのを見て。」

「えっと…。」

「ロンがこれで機嫌が治ればいいって、そう思ったでしょう?」

「そう…ね。」

 

ふふッと笑ったハーマイオニーの声はいつもの優しいものではなく、自嘲する笑いだった。

 

「それじゃあ、私がこの小鳥を使って何をしようとしているかなんて検討もつかないでしょう?」

「何かしようとしているの?」

「…」

 

何かハーマイオニーの地雷を踏んでいることは理解できたが、どうすればいいのか検討もつかなかった。このまま立ち去るわけにはいかない。

 

「…ない。」

「え?」

「あなたに!!!私の気持ちなんか!!!分かるはずない!!!」

 

ハーマイオニーは立ち上がり、一言一言を区切りながら怒鳴った。小鳥がピーっ!と威嚇するように鳴き、エルファバは机から飛び退いて後退りした。

 

「あなたに!!!セドリックもいて!!!男の子で!!!なんの苦労もしてないあなたに!!!私のことなんか!!!男の子はみんなあなたには優しいじゃない!!!美人なあなたは普通の女の子の苦労なんかしてないでしょう!!!」

 

教室に反響する声はまるで冷水を頭からかけられたようだった。エルファバはハーマイオニーが言った一言一言を頭の中で落とし込もうとする。

 

(私が何も苦労もしていないですって?男の人で?)

 

引き出されていく幼少期の頃の記憶…エルファバの叔父が革のベルトでエルファバの背中を何度も何度も叩く姿。食べ物とゴミの中間のようなドロドロした液体を無理矢理口に流す叔父…。それによって今エルファバに起こっている事象の数々…。

 

(ハーマイオニーは理解してくれていると思ったのに…。)

 

ジワっとやるせない、失望した気持ちがエルファバの心の中で広がっていく。

 

「…もういい。」

 

(ハーマイオニーなんか知らないわー。)

 

一気に疲れたエルファバは、首を振って空き教室から出て行くことにした。教室を出て行ったところでユニフォーム姿のハリーが少し小走りでこちらに近づいてきた。

 

「エルファバ!ハーマイオニー、知らない?」

「…あそこの教室にいるわ。」

「そう…君は行かないの?」

 

今起こったことを説明する気にはなれなかったのでエルファバは何も言わず首を振って、トボトボと廊下を歩き出した。

廊下は静かで特に誰にもすれ違わなかった。胸の中にぽっかり穴が空いたようなこの虚無感をどのように消化すればいいのか。人がお互いを理解するのは難しいとはいうものの、ハーマイオニーはエルファバに寄り添って理解してくれていると思っていたし逆も然りだ。一体何がどうなってこんなことになってしまったのか。

 

ふとこの話を誰かに聞いてもらえやしないかと思った。一番最初に思い浮かんだのはセドリックだったが、この時間に訪ねるわけにはいかなかった。流石に怪しまれる。ハリー…は今ハーマイオニーと一緒にいる。ロンは論外。そうなると残るはー。

 

「エルフィー?」

 

気がつけば制服を着たエディがエルファバの顔を覗き込んでいた。前に比べて大人びた顔つきになり、少し目の下にクマがある。

 

「エディ…。」

「どうしたの?さっきから何度も声かけてるのに。」

 

エルファバは何も言わず、エディの身体に腕を回した。そして肩に頭を乗っけて大きく深呼吸をした。エディも腕を回してエルファバの頭を優しく撫でる。

 

「何かあったの?嫌なことされたの?」

 

エルファバはエディの肩に顔をグリグリと擦った。少し気持ちが落ち着いた気がする。エディに促され、エルファバは廊下にあるちょうど2人くらいが座れる壁の窪みに腰掛ける。エルファバはポツリポツリとここ最近の出来事、そして今しがたハーマイオニーに言われたことを話した。

 

「…なにそれ、ひどいね。」

 

エディは笑いもせず、ただ一言そう言った。エルファバはそうね、と言ってエディにもたれかかった。

 

「…私、どうしたらいいか分からなくて。でもハーマイオニーが悪いわけではないと思うの。そもそも事の発端はロンがハーマイオニーに酷い態度を取り始めたからで。」

「ロンとハーマイオニーね。」

「ロンはもうこれでラベンダーと付き合い始めたから、機嫌が良くなるはずだけど…はあ、あの2人の絡み方もなんていうか…そんなことしたいのかしらみんな。」

 

エディが無意識に2、3つほど空いていたブラウスのボタンを抑え、ソワソワと唇を触ったことに自分の膝と爪を見ながら話していたエルファバは気づいていなかった。

 

「あたしの友達たちも前まではイケメンといかに遭遇率上げるかみたいな話だったけど、今はもっとエッチな話題ばっかり…みんなそういうのに興味があるお年頃なんじゃないの?男の子も女の子も。」

 

エディがチラッと視線を数メートル離れたところにやると、無表情のマルフォイが杖を持って廊下の曲がり角に立っていた。そのマルフォイのネクタイとブラウスも少し乱れており、杖の先は妖しく光っている。エディは少し顔をしかめたが、次に話し始めた時はいつも通りの明るい声だった。

 

「心配しないでエルフィー。あたしがいつもエルフィーを守るから!エルフィーを傷つける奴は呪ってやるからさ!」

「もう、エディったら。」

 

エディに寄りかかるエルファバは弱々しく笑った。一方物陰に隠れたマルフォイは、唇を噛みながら立ち去って行ったー。

 

 

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