「お菓子持ってきた。」
すすり泣きが響く女子トイレに、カボチャの匂いが立ち込める。トイレ内に食べ物。なんともちぐはぐだ。
「ヒク...1人にして...」
エルファバはハーマイオニーが入ってるであろう個室の前であぐらをかく。
「私、1人ぼっちなの。」
それを言って自分で悲しくなる。
この2カ月でずっと仲の良かった友人を自分の発言でなくしてしまったんだわ。もちろん言ったこと自体は後悔していないが、もっと言い方があったはず。
『あのさ、ハーマイオニーもいろいろあるの。そういう言い方ないんじゃない?もっとこう...』
エルファバの脳内シュミレーションは開始からすでに1時間を経過している。
が、後の祭りだ。
「1人ぼっちパーティーっていうのも...」
「...私、ヒクっ、失恋したわけじゃ、ヒクっ、ないのよエルファバ...」
「?」
キョトンとしたエルファバの顔が扉の隙間から見える。
エルファバはやっぱりズレてる。
そう確信した傷心中のハーマイオニーだ。
「食べよ?」
「嫌よ。」
あぐらをかいたまま、エルファバは考えた。このままじゃ友人は一生小さな個室に閉じこもったままだ。何か方法はないかと頭をひねらせている時だった。
ドシン、ドシン、という音と共に異常な悪臭がトイレ内に立ち込めたのは。
「?」
それは近づいて来てる。
「ハーマイオニー...?」
ハーマイオニーも異変に気付いたらしい。ゆっくりと個室から出てきたハーマイオニーが見つけたのは、目の前に置かれたカボチャパイと恐怖で固まっている小さな友人だ。
「エルファバ?」
その時すでにエルファバは口が利けなくなっていた。何か灰色の巨大なものがこの部屋に侵入しようとしていた。
「あ...あ...」
"それ"は2人の存在に気づいた。濁った目でギロリと見つめる。
ハーマイオニーは悲鳴を上げ、その場に座り込んでしまった。エルファバは逃げようとしても体が動かない。
(これは...トロールだ...)
辛うじてそれが何なのか分かった。だがそれは逃げるのにはなんの役にも立たない。
トロールは周辺の洗面台をなぎ倒し、こっちに近づいてくる。
「こっちにひきつけろ!!」
慌てたように入ってきた男子生徒はハリーとロンだった。2人はトロールに洗面台のカケラを投げつける。トロールはそっちに攻撃対象を変えた。
「はっ、ハーマイオニー!!行かなきゃ、ハーマイオニー!!」
エルファバは座り込んだハーマイオニーを引っ張ろうと腕に触れた。
パキパキパキ...
エルファバが触れたローブの一部が凍ってしまった。ハーマイオニーはそれに気づいてない。
(ハーマイオニーに触れない...!!)
「早く、早く!!走るんだ!!」
ハリーがこっちに叫ぶ。
「ハーマイオニーが立ち上がらないの!!」
トロールは逃げ場のないロンに向かって棍棒
「ハリー!!!」
こっちまで走ってきたハリーは方向転換し、トロールの後ろに飛びついた。異物に気づいたトロールは今にもハリーを振り落としそうだ。
エルファバは何も考えず、トロールの足を狙って"力"を放った。キラキラとエルファバの手のひらから出てきた光は、トロールの歪んだ足に直撃する。
ぶおおおっと叫んだと同時にトロールの片脚は太ももまで凍った。
動きが鈍くなったスキをつき、ロンが杖を向ける。
「ウィンガーディアム・レビオーサ 浮遊せよ!」
その瞬間、棍棒
「これ...死んだの...?」
「いや、ノックアウトされただけだ。」
ふと見ると、トロールの鼻に何か突き刺さっている。
「うわっ。」
エルファバはそれが何か分かって絶句した。ハリーの杖だ。
「うえー、トロールの鼻くそだ。」
ハリーはそれを自分のズボンで吹く。
「ハーマイオニー大丈夫?」
そう言ってエルファバはギョッとした。自分のしたことに。
("力"を使ってしまった...!!)
周囲を改めて見渡すと、所々床や個室の扉が凍ってたり、ハリネズミの背中のように尖った氷の塊が出来たりしていた。そして極め付けは太ももの部分まで凍ったトロールの脚だ。エルファバは言い訳が思いつかなかった。
バタバタと誰かが走り込んで来る。
「これは、一体どういう状況ですか!?」
叫んだのはマクゴナガル教授だ。クィレル教授がヒーヒー言っているのも、ハーマイオニーが説明しているのもエルファバの耳には入らなかった。
(みんな気づいたわ…私の"力"に。なんかの呪いだって言っても杖を使っていなかったし、呪文を唱えなかったからこれは杖から放たれたわけじゃないとすぐに気づく。退学しなきゃ。ああ、2カ月だけだった。お父さんはどう思うだろう!きっと私を悪い魔女だって軽蔑する。それに友達たちは?こんな魔力をコントロールできない友達なんかいらないに違いないわ!)
「...ミス、ミス・スミス!」
ハッとエルファバは顔を上げた。気がつけばハリー、ロン、ハーマイオニーそしてクィレル教授はおらず、教授数名とエルファバのみとなっていた。
「この氷の数々はあなたがやったのですね?」
マクゴナガル教授は周囲の氷を見渡しながら聞く。
「あなたの"力"は感情によって大きく左右される。そうですね?」
「...はい...」
やっと絞り出した声は小さすぎて自分でもギリギリ聞き取れたぐらいだった。
「あの子は入学当時から力を制御できてたわ...」
「きっと、知らなかったに違いない。あまりにも突然で彼もきっと...」
スプラウト教授とフリットウィック教授はヒソヒソと話し出す。当然エルファバは何の話をしているか理解できない。
「私...退学します...」
エルファバの一言で教授たちの頭一斉にハテナマークが浮かぶ。そしてマクゴナガル教授は小さくため息をつき、早口に告げた。
「これは私たちの手に負える問題ではありません。何しろ普通の杖から放たれた魔法とは訳が違いますから。」
そして、少し間が空いてから声のトーンを落とす。
「...ですが、どの魔法使いも感情が爆発すると杖なしでも魔力を発動することがあります。あなただけではないです。」
「父に言われたんです。私が"力"を使うと悪い魔女になってしまうと。」
教授たちが言葉を詰まらせたのはエルファバにも分かった。
「それは言葉の綾ですよ。」
フリットウィック教授はキーキー声で言う。
「でも...」
「ミス・スミス、今からあなたを校長室に連れて行きます。よろしいですね?」
質問だけど質問じゃない。私には選択肢がないようだ。
「少なくとも、私はあなたの退学は認めません。それは校長も同じでしょう。」
偉大な魔法使いでありホグワーツの校長であるアルバス・ダンブルドア。
(彼の目に私の"力"はどう映るのだろう。果たして本当に私を退学にするつもりはないのかしら。)