地下には2人の男の叫び声が聞こえていた。
『セクタムセンプラっっっっっ!!!!』
1人の男は血だらけになって息絶え絶えに倒れ込んでいた。体全身に大きな切り傷からドクドクと血を流し、もう傷つけないように懇願する。
もう1人の男、襲撃するその魔法使いは懇願するその男が人には見えなかった。何度も何度も男を苦しめても足りなかった。デニスはチラッと暗がりで数匹うごめくネズミがいることに気づいた。そのネズミたちに杖を向けた。
『オパグノ 襲え』
魔法使いの指示を受けたネズミたちは一斉に傷だらけの男に群がい、男というご馳走を喰らおうと牙を向いた。
『や、やめろ!やめろおおお!やめてくれええ!悪かった!悪かったからああ!』
『私の娘だって、そう懇願しただろう。けど、お前はやめなかった。』
魔法使いはその男より2回りほど細く小柄だった。しかし男はその巨体を丸め、悶絶しまるで子供のようにエグエグ泣いて許しを乞う。しゃがんだ魔法使いはその男を見下ろした。
『あの子は5歳だ。そんな子に…お前は。あの子がお前に何をしたというんだ。お前ら家族の過去は知ってる。アマンダから聞いたから…どうやらその魔法使いはお前に躾をしてなかったらしいな。』
魔法使いの淡々とした声は男の叫び声にかき消された。ネズミが腕にある深い切り傷に噛みついたのだ。
『あ、悪魔あああああああ!!!!』
『お前を殺したって、きっとあの子の気は晴れない。あの子は…お前らとの出来事を忘れたけれど、絶対部屋から出てこない。きっと本能が拒否しているんだ。お前らが…私たちの平和な家庭を壊したんだ。』
と、言いつつ魔法使いは心のどこかで分かっていた。きっと何かしらの形で自分が築き上げてきた家族が崩れるということを。娘に…エルファバに”力“がついた時から、危ない橋を渡っていた。
ーーーーー
『呪い?』
『ええ。可哀想な
グリンダと付き合い始めたのは5年生くらいの時だった。グリンダは学校内だとお高く止まっていると揶揄され、クイーンというあだ名がついていた。確かにグリンダの皮肉めいた言い方や本のセリフのような言い回しは少し変わっていたが、決して傲慢な人間というわけではなかった。
よく借りた本が被っていることを本に貼り付けられた名前リストで知り、数年くらいお互い名前と顔だけ一致している状態だったが、スラグホーンのパーティでグリンダと話し始めた。
付き合い始めてしばらくした時、グリンダは自分の“力”について教えてくれた。
『けど、話を聞く限り呪いの割に随分と便利じゃないか?』
『そうなのよね。私の親戚も訝っているけれど。』
2人で中庭で勉強したり本を読むのが日課だった。グリンダは”友達はいない“と断言していた。つるんでいる人はいるが友達ではない、と何度も強調していて同じく友達が多くないデニスと一緒に過ごす時間は自然に増えていった。
『もう、助けないことにしたの。』
グリンダが顎で指した数メートル先ではグリフィンドールの傲慢な悪ガキであるジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックが嬉々として、誰かに呪文をかけていた。2人が杖を向ける先はスリザリンの生徒ー、セブルス・スネイプだった。2対1で攻撃されている。スネイプは優秀な魔法使いだがそれを上回るジェームズとシリウスにやられて、尻餅をついている。周りはそれを揶揄してピーピー口笛を吹いていた。
『…ああ。仲の良いリリーを侮辱したんだ。』
『結局どうなったの?あのあと。』
本をパタンと閉じて、ため息をついた。
『どこまで話したっけ。』
『あなたがリリー・エバンスとセブルス・スネイプを仲直りさせようとしたら、エバンスから“穢れた血”って言われたっていう話まで。』
『ああ、そうだったね。結局、周りに真偽を確認したらそうだと言われて…セブに流石に手を貸せないと伝えたら、背後から呪いをかけられて…こうだよ。腹立つけど、グリフィンドールのリーマス・ルーピンいなかったらまずかった。』
制服のブラウスを少し脱ぎ、肩を出すと肩から背中にかけて大きなガーゼで覆われていた。
『全治1ヶ月の深い傷跡さ。』
『まあ、さすがスリザリン。やることが狡猾ですこと。』
『感心するんじゃなくて、そういう時は普通、彼氏の心配をするものなんだよ。』
グリンダが鼻で笑ったことに呆れる。
『あら。あなたが今ここにいるってことは命に別状はないんでしょう?だから不幸を笑ってあげるのが救いかと思って。』
『君って最高だよ。』
デニスはクスリとも笑わずにそう吐き捨てた。
グリンダは少し考えて、読んでいる古代ルーン文字の教科書を脇に置き、手の中で何かを丸める動きをした。
それを勢いよく押し出すと、空気の玉が2つポッターとブラックに命中し2人はコメディのように吹き飛んだ。それに対して周囲は大いに沸き、ジェームズが間抜けに起き上がりながら怒って誰がやったと叫んでいた。しかし目立てて心なしか喜んでいる。その隙にセブルスはそそくさと立ち上がって逃げた。遠くからセブルスの視線と合った気がしたが、デニスは避けて何事もなかったかのように続ける。
『ああ、最高で思い出した。今度またスラグホーンのパーティ一緒に来てくれないか?有名人とのコネが多い人にゴマすれるいい機会だよ。』
『はあ?行かないわよ。あんなくだらないパーティ。』
『いいじゃないか。ああ、そこでリリーも紹介するよ。話せればだけどー。』
ーーーーー
その数年後、卒業してすぐグリンダと結婚した。グリンダはグリンゴッツに就職し、仕事と自分の呪いの探索に明け暮れていた。妊娠が発覚してもなお、臨月になってもなお働いているグリンダが心配だったが、グリンダは繰り返しこう言った。
『動いている方が楽。』
しかし、この時すでにグリンダの様子は少しおかしかった。何かに急かされているような焦燥感があった。
『呪いのこと、何か分かったのか。』
『…ええ。』
雪が降るある日、グリンダは帰宅して自分のコートをソファに放り投げてこう言った。
『私の
あっけらかんと、まるで風邪が悪化したかのように言われると、どうしても深刻になれなかった。
『根拠は?』
『オルレアン家の家系図にない名前がグリンゴッツの…魔法使いが入れない資料室に古本があったの。身に覚えのない名前だった。そこに呪いの全てが書かれた。』
『おい、気をつけてくれよ。
『ええ…一応
『頼むよ。僕らの赤ん坊のためにも…君に死なれたら困る。』
『そりゃね。あなた卵の1つも割れないし。私がいなきゃご飯すら食べていけないわよね。』
グリンダはお腹を撫でて、そう鼻で笑った。けれど、きっとグリンダは自分の死を…呪いの代償を恐れていた。グリンダはエルファバを出産後も変わらず働き続けた。グリンダが構わず働き続けるので、仕事を辞めて自分の娘…エルフィーに慣れない手つきで子育てをした。さすがに苦言を呈したがグリンダは構わず働き続け…むしろ無断で数日帰ってこないなんてこともあり、不満と疑念が重なっていった。そんな数ヶ月後、切羽詰まって家に戻って来てグリンゴッツをクビになったと言った。
『なんだ?バレたのか?』
『ええ、そんなところ。けど大丈夫。あなたには危害が及ばないようにするから。』
『僕のことはどうでもいい。エルフィーはどうなる?』
『…平気でしょう。』
長い付き合いだから分かった。その時、グリンダが嘘をついたことを。ただ何に対して嘘をついたのか分からなかった…いや分からないふりをした。
そこからグリンダは家にますます帰って来なくなった…自分の中でグリンダへの信頼が最底辺まで落ち、しばらく経ってグリンダが“
グリンダの裏切り…そしてそんな女を信頼し子供を作った自分への自己嫌悪。
グリンダと仲良くなってエルフィーのゴットマザーになったリリーやダンブルドアかららしき何通も手紙が届いたが読まずに全て捨てて、家の中に閉じこもった。心は何も聞こえず、何も動かずただエルフィーの産声や泣き声を合図におしめやらミルクやらのために身体を動かしてただけだった。
グリンダの言っていた“あなたに危害が及ばないようにする”は
(僕はマグルだ…そんなことされたって何も…嬉しくなんてない。どうしてそんなことを…グリンゴッツで何をしたんだ…。)
エルフィーに“力”が引き継がれていないのがグリンダが生きている証拠だった。グリンダが氷から出てきた時、どんな顔で会えば良いのか。エルフィーにはなんと伝えればいい?
もうまもなく、リリーとその夫ジェームズも命を落として1人息子のハリーだけ生き残ったと聞いた。リリーは数少ない友人だった。優しく明るいそして勇気があって皆を鼓舞する存在。
『あなたは私のこと本当に友達だと思ってくれているから好きなの。大人になればなるほど、男の人の下心って見えるでしょう?あなたはそんなことないから。』
豊かな赤髪をなびかせて、輝くほど美しいリリーはそう笑った。美しいという認識はあるのに不思議とリリーを女性として見ることはなかった…まるで姉のような存在だ。
『美の女神に僕が近づくなんて、恐れ多すぎてそんな感情すら湧かないよ。みんな身の程を知るべきさ。』
『まあ、デニスったら知らぬ間にお世辞が上手になっちゃって…昔は、必要最低限のことを私とアマンダと…セブにしか話さなかったのに。』
妻の悪行の次は友人を亡くした。かなり後になってリリーは“名前を言ってはいけないあの人”に命を狙われて、ハリーの身代わりになったと知った。なんとも彼女らしい最期だと不謹慎ながら感心してしまった。
さらに荒れた自分に幼馴染のアマンダは見かねて、毎日お節介に部屋の掃除とエルフィーの世話を勝手出た。ほぼ住み込みでアマンダは大学の忙しい間を縫って来るアマンダを見ると申し訳ない気持ちと自分も頑張らねばという活力が湧いてきた。
エルフィーが2歳になった頃、かなりお転婆で主張の激しいイヤイヤ期真っ盛りの中、壁に大きな落書きをした。エルフィーを叱りつけると自分の最高傑作を侮辱され心外だったのかギャンギャン泣き喚き、カーペットの上で身体を全身使いながら自分の怒りを表現した。自分は魔法でその落書きを消そうとしたが、アマンダが現れたのでサッと杖を隠した。
…アマンダの過去を考えると魔法を見せる気にはなれなかった。
『こーら!!エルフィー!!いい加減にしなさい!!ほら、角に座って反省しなさい!!』
アマンダは暴れるエルフィーの腕を掴み、部屋の角に座らせようとした。
『ぎゃああああ!!!ママいやああああああ!!!』
自分も、何よりもアマンダは固まった。自分もアマンダもエルフィーにアマンダを母親だと伝えた記憶はなかった。エルフィーはその隙に母親の手から逃れて自分の部屋へ逃走した。
『…エルフィーがママって思ってるのに否定するのは酷ね。』
『いいのか。この子は…魔女になる。グリンダの“力”がいつ宿るか分からない。』
アマンダにはグリンダの“力”を受け継ぐ条件が死であることは言わなかった。気を使わせたくなかった。少し考えた後、グリンダはこう答えた。
『大丈夫よ。だって将来的にコントロールできるようになるんでしょう?エルフィーが物事を分かるようになったら、私の過去を伝える。理解してもらうわ…私もエルフィーの母親になりたい。』
こうして幼馴染のアマンダは、エルフィーの母親になり自分の家族となった。グリンダの更なる秘密を知ることになったのは、エディが生まれた直後のことだった。
『マーーーーーマーーー!!』
朝から元気に駆け寄って来た艶やかな黒髪のエルファバの髪はまるで老婆のように…かつての妻のように真っ白になっていた。エルファバは気づいておらず、無邪気に母親であるアマンダに抱きついた。
『エ、エルフィー…?あなた、』
アマンダは明らかに狼狽えて、エルファバを抱き上げた。髪だけではない、眉も、まつ毛も、体毛全てが1日にして真っ白になった。ネクタイを締めて仕事に向かおうとしていた自分もその姿を見て固まった。
『わー、エルフィー、まっしろけっけ!おばあーちゃんだー!ヒッヒッヒっ。』
エルファバはアマンダの腕の中で自分の髪の毛を摘んで、わざとしゃがれた声で笑った。無邪気な笑い声が響く。アマンダは凍りついていた。
あの髪は、グリンダの”力“を受け継いだ証拠。そんなことはありえない。魔法省の人間が言うにはグリンダは氷の中で生きている。慌てて仕事を休みにして魔法省に問い合わせたが、やはりグリンダは氷の中であの時のまま生きている。興味津々に何があったのか聞き込んで来る人間の口になった手紙を紙を拳で握りしめて暖炉に投げ捨てた。
髪の毛が真っ白になった自分の娘。あの髪色は“力”を持つ人間の証。グリンダは…魔法省によると氷の中で生きたまま眠っている。
(魔法の呪いは規則的だ。ちゃんと条件に則っていく…氷の中で眠るグリンダは死んだ人間と判定されたのか?いや、呪いがそんな意思を持つはずがない。何かが呪いに手を加えなければー、誰かが、意図的にエルファバに移さなければ。)
その瞬間、全てが繋がった。
グリンゴッツをクビになった日。グリンダは、意図してエルフィーに“力”を移したのだ。呪いの代償…“死”を知って。
『…平気でしょう。』
あの時の違和感は、そういうことだった。呪いをいじったことが小鬼たちにバレたから逃げた。娘に呪いを移した罪悪感が少なくともあったのだ。そしてもう1つ思い出す。
『魔法使いが入れない資料室に古本があったの。身に覚えのない親戚たちの名前が羅列されていたし呪いの全てが書かれた。』
身に覚えのない名前。昔家系図にいくつか穴があると言っていた。魔法使いの家系図だ…作成者名前を忘れただなんてないだろう。きっと血を辿る呪文もあるはずだ。
(まさか…呪いの代償は“死と忘却”なのでは…。)
そもそもグリンダのような特殊な”力“が隠されているわけでもないのになぜ知られていない?”力“の存在が所有者ごと葬り去られている、としたら。憶測でしかない。しかし嫌な確信があった。
(あいつが自分の死を恐れるような人間とは思えない。きっと、忘却を恐れてー。)
その日の晩、エルフィーも赤ん坊のエディも寝た隙にアマンダに細かい呪いの詳細は避けて端的に伝えた。
『エルフィーはあいつの呪いを受け継いだ。あいつは制御できていたが、エルフィーはまだ幼い。理解できず“力”を使ってみせるかもしれない。どうする?今なら…。』
『別れたりしないわ。エルフィーもエディも私の子だもの。家族みんなで頑張っていける。乗り越えていきましょう。』
カゾクミンナデ、ノリコエヨウ。
ーーーーー
あんな言葉をまともに受け入れて信じた自分が愚かだった。
あの日自分はアメリカに出張中だった。遊んだエディの髪がどんどん白くなり、まるで凍っていくように身体が固くなっているとアマンダは金切り声で電話してきた。アメリカから飛んで帰った時には全てが終わっていた。エディは無事だったし、エルフィーは反省していた。怒りに震えていたアマンダだったが、なだめると徐々に落ち着き兄の家へと遊びに出かけた。安心だと思い、次の出張先であるケニアへ行った数日後ー。
娘は、アマンダの兄の家で娘の原形を留めていなかった。様子がおかしいアマンダとエディを置いて1人で兄の家へと向かった。
1人でエルフィーの人形で遊んでいたエディの言ったあの言葉を思い出して。
『エルフィーはわるいことしたから、おじさんちにいるの。』
家に着くと、エルフィーの従兄弟たちが…アマンダから聞いていたよりずっとみずほらしくて身体に酷い傷がある男の子3人は庭に座り込んでいた。
『君たち!エルフィーを知らないか?』
年齢は違う3人、皆同じ目をしていた。目の光がない、この世の終わりのような目。しばらくして一番身長の高い子が震える手で少し先にある床に取り付けられた扉を指差した。
『エルフィーは、お仕置き部屋にいる。まだ…生きてる…と思う。ごめんなさい…。』
(まだ生きてる?それじゃあまるで…。)
子供が指差した扉は地下に続くようだった。南京錠と鎖が近くに放り投げられていた。勢いよく開けて、薄暗い階段を転げ落ちるように降りそこから見える光に向かっていった。
娘、娘らしき物体が地下室の真ん中でピクっと動いていた。
血溜まりの中で大きく歪んだ頭は白い髪の毛に覆われているからそうだと分かった。そこから細い棒と太い棒が重なって繋がっていると思ったのは服を着ていないエルフィーの身体だった。わずかに発する蛙のような鳴き声はエルフィーの声だった。
その直後のことはよく覚えていない。持っていた杖でその近くにいた人間を”失神“させて知っている限りの呪文でエルフィーを応急処置したと思う。
なんの奇跡か、知っている限りの呪文でエルフィーは人間としての原形を取り戻した。それを確認した後、急いで聖マンゴ病院に守護霊を送ったところすぐに薬をフクロウに乗せて来た。薬をエルフィーに飲ませたところ棒のようだったエルフィーの身体はすぐ膨らみ肉と筋肉がついて、元の健康体に戻った。
それからあの獣を何度傷つけても、アマンダが何度謝罪しても、エルフィーが健康体に戻って覚えていないとしても、気が晴れることはなかった。何度信じる人を間違えればいいのか。神という存在がいるとしたら、何回自分は大切な人を失えば満足してくれるのか。
(家族ってなんだ?私が何をしたというんだ?…一体なんの罰だ?)
グリンダの弟の名前で薬を処方し、エルフィーの食事に混ぜるようにアマンダに指示した。魔法使いの連中に自分の居場所がバレるのだけはごめんだった。きっと“力”を抑えれば、呪いの効力は遅らせることができるはずだー、そう思い大人と同じ量を飲ませた。そう思うしかなかった。そして、自分は家族という存在から目を背けて、魔法と無縁のマグルの仕事に没頭した。
エルフィーがどんどん部屋に篭りきりになり、誰とも話さなくなってエディがひたすらエルフィーを追いかけていることも見て見ぬフリをした。
結局、通常の魔法とは違う
しかしエルフィーが11歳になった年、会社の応接室にマグルの正装服をピチッと着て姿勢良く座ったマクゴナガル教授がやってきた時に、散々魔力を抑えることを考えていたにも関わらず、ホッとした。
(ああ、これでエルフィーのことはホグワーツがなんとかしてくれる。私は…エルフィーの“呪い”について何も考えなくていい。)
エルフィーはホグワーツに入ると確信していた。ここからエルフィーは7年間ホグワーツという閉鎖的な環境で生きていく。休みの時くらいしか関わる機会がない。卒業する頃には成人だ。自分の役目はここまでだ、そう感じて肩の荷が降りた気がした。結局自分のことしか考えていなかったのだ。
(あとは呪いのことだ。なるべく使わせないようにしないといけない。けれど…真実を伝えるのはあまりにも酷だ。使わせないようにしたら、呪いも弱小化するかもしれないし。)
エルフィーのホグワーツ行きが決まり、久しぶりのキングクロス駅に向かう車の中。エルフィーに“力”について言い聞かせないといけなかった。
呪いの象徴である白い老婆のような髪の中に埋もれた顔と青い瞳を覗き込んだ。随分久しぶりに見るエルフィーは、グリンダの生き写しだった。
自分を裏切り、苦しめた元凶。
エルフィーは悪くない。なんの罪もない。頭ではそう分かっているのに、自分を苦しめたグリンダへの憎しみがふつふつ湧き上がるのを感じだ。とても小さい手を…今思えば自分がそうさせた手を握って言い聞かせた。
『"力"を使えばお前は悪い魔女になってしまう。どんな理由であろうとね。特に人に見られたりしたら人々はお前を気味悪がり、離れていく。』
ーーーーー
……そういえば、書いていて気づいたが、エルフィーが死にかけた時に薬をくれたのは君だったのか。あんなすぐに聖マンゴの人間が薬をくれるわけがないからな。ありがとう。なぜ私たち家族の状況を把握していたのかはあえて聞かないでおくよ。
どうせお前のことだから、今の状況を嘲笑っているんだろうな。エルフィーが入学した少し後にダンブルドアの話をちゃんと聞いていれば未来は少し変わったかもしれない。あいつが騎士団に入っていたとは言われたが、もう裏切られることがまっぴらごめんだった私は聞く耳すら持たなかったから。
あのあとグリンダの大量殺人について娘の手で、無実が証明された時に私も父親としてちゃんと娘達に向き合おうと努力した。けれど、もう遅かったんだ。週刊誌に私たち家族の記事が出て世間から攻撃され、”名前を言ってはいけないあの人“が復活して。
あとは君の知る通りさ。エルフィーの身体にかかった呪いについてはこの手紙には記さない…人に言うとペナルティとして他者に告げた人間もあるようだから。
エディのことも、どうしたら良かったんだろうと思う。アマンダの血筋が暴力的な家庭だった、エディは生まれながらに怪物だったと恥を偲んでダンブルドアに伝えたらエディは怪物じゃないと言われたけれど。もっとちゃんとエディとも向き合っていたら変わったのだろうか。今となっては分からない。
魔法なんて厄介なものに関わって、人生を狂わされたしもう来世は2度と魔法なんか学ばないって魂に刻むよ。でも、私はそもそもマグルの家庭で唯一魔法が発現して気味悪がられて育児放棄された時から、私の人生は終わっていたのかもしれないな。
けれど、ホグワーツ前に君とリリーと、アマンダ4人で過ごした日々は自信を持って人生の最高の瞬間だったと言えるよ。君のことも良い友達だと今でも思っている。
リリーのために人生を捧げるのもいいけど、君のための人生も歩んでくれることを祈っている。どうかあのジジイに使い倒されないように。
親愛を込めて
デニス
ーーーーーー
男は亡き友人からの手紙を読み終わった。部屋の中ではひとりでに動くぜんまいが規則正しくコツコツと自分の仕事を行う音が響くだけだった。
「何か、目新しいことはあったかの?」
”ジジイ“と手紙で指摘された老人は、自身の椅子に座り男を見上げていた。手紙を渡したのは他でもない彼。それでも白々しく聞いてくる姿に男は苛立ちを覚えながら手紙を畳んでローブにしまった。
「特に何も。」
「そうか。」
分かりきった返事をした返事をした老人はため息をついてゆっくり立ち上がった。杖を振り、ローブを引き寄せて宙に浮くローブに手を通す。
「エルファバにかかった呪い。わしの推理が正しければ「あの娘は死ぬ?」………おそらく。」
「呪いの元凶はグリンゴッツにあるのは間違いがない…となると、吾輩にはどうしようもできない。」
老人は振り向いて、男の目をじっと見た。しばらくの沈黙の後に少し早口にこう告げた。
「少し外出することにしよう。
「……それでは一体何をしに行くのですかな?
皮肉めいた男の発言に老人は曖昧に微笑んだ。
「悪くないじゃろう。お土産の1つでも持っていけば、少しは気が晴れるかもしれん。」
そう言って老人は、腰を曲げて暖炉の中へと入った。