エルファバの表面的な楽しい休暇が崩れたのは休暇最後の日のこと。
今年限定でクリスマス休暇にホグワーツから戻る生徒たちは、煙突飛行ネットワークに各家庭を繋げることになっている。グリモールド・プレイスの場所を魔法省に把握されたくないという校長の意向でハリー、エルファバ、エディは最後の1日だけウィーズリー家で過ごすこととなった。だいぶ感じのよくなったフラー(エルファバが少しフランス語を話せるようになったことが大きいだろう)と共にお皿洗いを終え、寝る支度をしようとリビングに向かった時だった。
「…だよな?」
「ああ、本当に間違いないよ。何度も言ってるけど。」
「本当に?」
暗いリビングの角でハリーの声が聞こえる。うんざりしたような声を出すハリーと対照的に相手は何度も何かを確認している。声は小さくてよく聞こえない上に相手が誰なのか暗くてよく見えなかった。少なくともハリーより身長の高い誰かではあるのは影でわかる。エルファバがランプの灯りを点けると、リビングが一気に明るくなる。
「ハリー…と、フレッド。何しているの、こんなところで。」
エルファバは欠伸をしながら、眩しさに目を細めるハリーとパジャマ姿のフレッドに話しかけた。フレッドとジョージの見分けは難しいが、長く一緒にいるとなんとなく雰囲気で分かるようになった。
「エディが夕食に出てないブラウニーを食べたか何度も確認してきたんだよ。なんかエディがもらったって言ってたやつで。君は知ってる?」
フレッドは、しまった!という顔を一瞬したが慌ててエルファバに背を向けた。怪訝そうにエルファバはその様子を見ながら、答える。
「ブラウニー?私は見ていな…。」
そして、エルファバはハッとした。夏休み時の、双子ジョージの言葉を思い出したのだ。
『俺はフレッドがエディに惚れ薬を盛らないことを祈るよ。』
ウィーズリー宅を氷漬けにしない理性をギリギリ保ちながら、大股歩きでフレッドに詰め寄った。
「あなた!エディに惚れ薬を盛ったわね!?信じらんない!」
フレッドはバツが悪そうにエルファバから顔を逸らし、両手を上げた。エルファバとフレッドは2、30センチほどの身長差があるにも関わらず、今にもエルファバがフレッドを喰らいそうな凄みがある。もっといえば、氷こそ出していないもののエルファバの白い髪は魔力で逆立ってメデューサのようになっていた。
「え?」
ハリーはポカンとエルファバとフレッドを交互に見た後に、素っ頓狂な声を上げた。対してフレッドは小声でボソボソと抗議する。
「…違うよ…ただ、ママのブラウニーをエディが食べれたか聞きたくて…。」
「今晩ブラウニーなんかデザートになかったけど!」
「いや、それは…。」
しどろもどろなフレッドを見てハリーは驚きと共に感心してしまった。いつもジョークを飛ばしてのらりくらりやっているフレッドがこんなことになっているのはハリーからすれば初めてだったからだ。
「エディに惚れ薬を盛ったのね?」
「い、いや、その、微量だから…。」
「量なんか関係ないわ!解毒剤は?」
フレッドは俯いたまま、しかし何か確固たる意思を持っている様子でしっかり口を噤んだ。
(解毒剤をエディに飲ませる気はないのね。)
「いいわ…、私が解毒剤飲ませるから。」
「えっ、君レシピ知らないだ「こんなこともあろうかと、あなたの店で惚れ薬を買って解毒剤の作り方は把握しています!」マジかよ…。」
フレッドは自信作をあっさり見破られたことがショックだったらしい。エルファバはキッと睨むと観念したようにため息をついた。
「…解毒剤なんて作らなくていい。エディに入れたのはほんの数滴で、効き目は数時間。この夜しかないから。」
「今晩だけ?なんで?まさかエディと…!」
「まさか、何よ。」
「待って、ハリー、君は多分とても大きな勘違いをしている。俺は紳士だ。そうじゃなくて、」
「フレッド?」
3人の口論は張本人が入ってきたことで、ピタッと止まった。と同時にエルファバはエディに向かって冷たい空気砲を放った。
「うわっ!エルフィーなに?!」
顔を仰向けてエディが笑ってるうちに、エルファバはフレッドを睨みつけてエディに駆け寄った。
「エディ、どうしたの?」
「え、ジョージがフレッド探してたから呼びに来たの。なんか薬草の数が足りないってさ。」
エルファバの頭越しにエディはフレッドを見た。目が合うと、いたずらっぽくニヤッとエディは笑った。
「フレッドぉ。ジョージが俺に黙って何か作ったかも〜って言ってたよ!何してんの?」
「え、あ、まあ、内緒。」
(あら…?エディ…普通だわ。)
フレッドはエディの前でいつもの調子で軽口を叩いた。てっきりフレッドと目が合った時にエディ
「えー、ナイショだなんてずるいー!」
「そりゃ、このフレッド様が作った試作品さ。お前とジョージにもすぐ言うよ。俺も今からそっち行くから。」
フレッドはエルファバを横切り、いつもの調子で喋りながらエディと一緒に2階へと上がっていく。ハッとして2人を追いかけようとするエルファバの腕をハリーは掴んだ。
「エルファバ、多分フレッドとエディは大丈夫だよ。ジョージだっているし。」
「で、でも、」
「だってエディ普通だったよ。きっと惚れ薬の効果はなかったんだよ。」
「…フレッドの薬が失敗するだなんてあるかしら?」
ハリーは短く唸っただけで、特に返事はしなかった。
エディがフレッドに普通に話しかけてきた時、フレッドが嬉しそうに…大きな喜びを表に出さないように口元を隠していたことをハリーは見逃さなかった。惚れ薬を盛られたエディが普通にしている姿を見て、なぜフレッドが喜んでいたかは分からないが、少なくともフレッドが求めていた効果を発揮したに違いない。
しかし、それをエルファバには言わない方がいい気がした。
その後フレッドは終始ご機嫌だったが、エディには何も問題はなさそうだったので一旦その問題を置いておくことにしたエルファバは、ウィーズリー宅からマクゴナガル教授の暖炉に煙突飛行ネットワークでホグワーツへ戻ってきた。エディと適当に話し、スーツケースを部屋に置いて早々にその足で行ったことのない教室へと走って行った。去年ホグワーツの地図を丸暗記したエルファバからすると、この広大なホグワーツ内を迷うことはなくなった。長い廊下と階段を下り、一階へと来て皆が向かう大広間とは逆の廊下。誰もそこに行かないことは想定内だった。
(十一番教室…あった。)
エルファバは教室の前で乱れた息を整えるため、ゆっくり深呼吸をし髪の毛を手櫛でキレイにしてから優しく2回教室をノックした。
「どうぞ。」
低い男性の声が、教室の中から響く。エルファバがここに来るのははじめてだ。ゆっくり扉を開けると、苔と土の匂いがエルファバの鼻いっぱいに広がる。一歩教室に足を踏み入れるとそこは樹海だった。教室の床には分厚い苔が生え、どっしりとした樹木が何本も生えている。夕陽の光がその樹木から優しく漏れていた。
(ハリーたちから聞いてはいたけど…。)
エルファバはキョロキョロしながら教室に入っていく。エルファバはこの教室で教えられる教科を取ったことがない。
「こんにちは。エルファバ・スミス。」
先ほどの声の主はこの森の真ん中に立っていた。明るいプラチナブロンドの髪に驚くほど澄んで青い目。色白で筋肉質な上半身は、馬の下半身と繋がっている。その人は近づいてくるエルファバをジッと見下ろしていた。
「こんにちは、フィレンツェ教授。授業をとっていない私をご存知なのですね。」
「あなたは有名人であり、面白い運命をお持ちだ。ここにあなたが来ることは彗星の下に予測されていた。」
占い学を取っていないエルファバからすると彗星が何を指しているのか全く分からなかったが、エルファバはこの道中に何度も練習した言葉を続ける。
「あの、教科を取っていない私が無礼を承知なのは分かっているのですが、お願いがあって「君は友人を仲直りさせるべくここに来た。」…はい。」
フィレンツェ教授は一切瞬きせず、ジッとエルファバを見下ろしていた。2メートル以上体格のあるフィレンツェ教授に低身長のエルファバは尻込みしてしまった。
「占いというのはそのような些細な問題のために使うものではない。この世界を俯瞰する叡智の1つとして使われる。」
分かってはいたものの、エルファバはフィレンツェ教授の理性的かつ有無を言わせないその言葉と声色に落胆した。
(ダメよ。ここで諦めたら。)
「確かに、教授からすれば些細な問題かもしれませんが私にとっては大事なことで。」
「恋愛の問題、仕事の問題、魔法使いたちは人生のほんの一瞬の出来事、相談したことすら忘れることを次から次へと相談してくる…若い子供達であれば尚更。友人たちの問題はあなたがここに来る理由に過ぎなかった。」
フィレンツェ教授は手を伸ばし、徐々にその手を下ろすと部屋の明かりが夕暮れから夜へと変わり、天井に満天の星空が映される。
「そもそもこの世界において、君の存在は幾千の命と共に消える運命だった。」
「?…あの、」
「あなたの運命は火星の中にあり、君は非道な暴力の中で、消える宿命だった。」
フィレンツェ教授は空を指差しながらそう解説する。天文学は勉強していたエルファバだったので惑星や衛星の名前は把握していたものの、占い学においてそれが何を意味するのかは当然知らなかった。
だが“非道な暴力”というのが幼少期の叔父からのものであることは理解ができた。
「あなたは、運命と相反する存在…あなたという星は本来あるべきだった星たちを動かしている。」
そう言いながらフィレンツェ教授は手に持った薬草のいくつかに火をつける。教室の中で刺激臭が充満した。
「あなたは人間の3歳ごろに武器にかけるべき呪いをかけられた。」
「えっ?」
「それにより5歳ごろに生涯を終えるはずだったが、男がそれを救った。」
エルファバはヒュッと鳥肌が立った。ハリーやロンはトレローニー教授の占いをでたらめだと揶揄していた。しかしエルファバが誰にも話していない…呪いが剣や盾にかけられるべき呪いであったことをどうしてこのフィレンツェ教授は知っているのか。
(彼は…本当に、)
しばらくの沈黙の後、独り言のようにブツブツと教授が喋りはじめた。
「生きるべき命が…消えつつあるが、…と…の命が救われた。男は苦悩し…そして…なるほど、…恐ろしい運命から逃れることが…。…も…これは、10年の永い眠り…。」
と、ここで急にフィレンツェ教授はエルファバに向き直った。驚くほど澄んだ青い瞳はまるで天井にある星の1つのようだった。
「星はあなたにこう告げている。毒という呪いを食み、死に迫る時に愛が全てを救う…。」
「……?」
「ケンタウロスの叡智はここまでハッキリ人間に合わせたメッセージを渡すことはない。これがあなたが欲しいメッセージだろう。」
「毒って…。」
「例え話ではない。本当に毒を飲んで呪いに蝕まれる人間が見える…そして、こうも告げている。」
フィレンツェ教授はゆっくり、エルファバに告げた。
「友人の死へ誘う(いざなう)のはあなただ。」
ーーーーー
残り半年を切ったエルファバの命。レギュラスに会った後にどのように使うかを年末年始で考えていた。
(私が今やるべきことは、周りの状況をもっと良くすること…もっとみんなが幸せになれるような環境を作ること。呪いに関しても同時並行で調べるとして、今必要なのは…ハーマイオニーとロンを仲直りさせることよ。)
ハリーとも話し合ったが、ロンとラベンダーが(色んな意味で)絡みついている限り修復は不可能だという結論に至った。無理やり別れさせることも考えたが、別れたところで1人になったロンが不機嫌になってまた当たり散らすことも目に見えていた。ハリーは2人の仲の取り持つことに疲弊していて、あまり関わりたくなさそうだった。
とはいえ、エルファバの知恵だとロンとハーマイオニーを仲直りさせる方法など全く思いつかなかった。セドリックも「当人たちの問題だからエルファバが入る必要はない」と優しく宥められ、人間関係の天才リーマスも同様だった。
(でも…それじゃあダメなの。私が…みんなの記憶から消える前に最後に4人で仲良くしたいの。)
エルファバの人生を支えた3人。勇敢でエルファバを先導するハリーにひょうきんなムードメーカーのロン。賢く友達思いなハーマイオニー。3人がいたから、エルファバは小鬼にかけられた“呪い”と自分自身がかけた“呪い”に向き合うことができたのだ。
だからこそ、エルファバは手段を選ばないことにした。
(占いから第三者の目線でアドバイスをもらえれば、少し糸口が見えるかなって思ったのだけれど。)
“毒という呪いを食み、死に迫る時に愛が全てを救う”
フィレンツェ教授と会ってからエルファバは上の空だった。柱にぶつかったり、誰かに話しかけられてもしばらく返答がなかったり、物を落としたりした。
(毒という呪いを食み…誰かが誤って毒を飲んで死にかけることが大事ということ?そして毒を作り、飲ませるのは私…私?仮にシンプルに私が毒薬をロンかハーマイオニーに飲ませて、命の危険に晒したとしましょう。愛が全てを救う…は何?そんな話…。)
「あ。」
ベッドに入り、ラベンダーとパーバティのひそひそ声を聞きながら暗闇を見ていた時に突如、ホグワーツを追われてグリモールド・プレイスで身を削って勉強していた時にシリウスから教えてもらった薬について思い出した。
『“御伽の薬”については覚えておくといいぞ。OWLはまだ解明されていない事象によって発展した魔法についての問題が大好きなんだ。“御伽の薬”については数年に1回くらい出題される。』
『魔法史でチラッと話していたのは聞いたことがあるけど。』
『ああ。マグルと魔法の関係性において欠かせない薬だ。ここはみんな理解していると思って割と見落としがちだが、魔法史、魔法薬学、呪文学どのエッセイでも論じることができる万能な薬さ。』
“御伽の薬”。
それは、王女様が毒を飲み、王子様の真実の愛のキスで目覚めるという夢物語を叶える薬だ。
まだ魔法使いとマグルが共存していた中世以前では、そのような魔法薬もとい毒薬が流行っていたという。相手の愛を試すためにあえてそのような毒薬を飲み眠りにつく、そして相手のキスによって目覚める。愛という無機物による解毒というのはロマンチックで全世界の魔女魔法使いたちが熱狂し、一気に魔法薬学が学問として発展したといわれている。
反面、“御伽の薬”を身体から検出することは難しく、暗殺道具としても使われていた。また真実の愛ではない人物がキスをしても起きず、文字通り永遠の眠りについてしまったことがあり、恋にのぼせ上がった愚かで若い魔法使いたち以外は手を出さなかったという。
そして現代でも同様“愚かで若い魔法使い達”が一時の感情でそのような愛の確かめ合いをしないようにその毒薬のレシピを知ることはない。
(けれど…学問の最先端であるホグワーツ図書室に絶対レシピはあるわ。おそらくあの禁書棚所蔵。2年生の時ポリジュース薬のレシピがあった場所にはあるはずよ。)
“御伽の薬”について思い出した翌日から今度は授業の合間に図書室で1人勉強するふりをしながら、目の前にある“ここから禁書棚“と書かれている看板をジッと睨みつける日々が続いた。
(あそこは教授許可があれば入れる…以前はポンコツなロックハートだったけど、今はそんな小手先のテクニックで騙される人なんていないわよね。禁書棚に入るときは何の本を借りるかも書かないといけないし、スラグホーン教授に適当な理由をつけてサインをもらう?いいえ、仮に毒薬を生徒が作ったとなったら真っ先に疑われるでしょう…それじゃあセドリック?)
そこまで考えたところで、エルファバはようやく我にかえり、ため息をついた。
(占い…に固執しない方がいいのは分かっている。むしろこんなの馬鹿げてるわ…そもそも、私が解釈を誤っているかも。あの禁書棚にある本でレシピを見つけたところで、材料が揃うわけもない。スネイプの薬草庫に忍び込むだなんて恐ろしいことできやしないわ。それにもし仮に毒薬を飲ませてロンかハーマイオニーが2度と目を覚まさなかったら?毒薬を調べれば誰が調合したのか分かるし、私だってバレたらセドリックだって共犯になる…セドリックがホグワーツを追い出されたら、次の就職先はないかもしれないし私に失望するでしょう…私はどうせ半年後に記憶が消えるからいいけど。)
周囲は図書室でたまに粉雪を降らせるエルファバに同情し、遠巻きに見守っていた。あまり関係性が良くなかったとはいえ父親を亡くしたという話はすでにホグワーツ中に広がっていたので、エルファバが上の空なのは父親が亡くなったせいだと思っている。
まさか、友人に毒を盛るべきか悩んで上の空になっているなど誰も思っていなかった。
ーーーーー
エディはドラコと数週間会わなかったために軟弱なドラコの呪いは休暇の最終日ごろに完全に解けてしまったようだった。ホグワーツから戻ってきて大広間に入った時にふと気がついたことがある。
(あれ…どうして、)
ドラコはエディに冬休みに入るまでに15人ほどの劣等生達に“炎の魔法使いになれる”という誘い文句を使うように指示をした。なのでてっきりこの冬休み明けにはそのメンバーは“洗礼”を受けセドリックのようになり戻って来ないと踏んでいたのだが、
(みんないる。)
あの冴えないハッフルパフのジョーイもクィディッチで汚い不正行為をするレイブンクロー生、ルーナいじめの主犯格、去年エディをリーマス関連でいじめた連中や、エルフィーにセドリックのことで嫌がらせをしたビッチの1人。
エディはいつも通りみんなとお喋りし、楽しく過ごすフリをしながらエディが選別した“ホグワーツからいなくなるべき人間”たちを観察していたが、心なしかみんなとても生き生きしている。
(全員“適合した”ってこと?でもハリーが言ってた運動神経がいい人には当てはまる人たちばかりじゃないし、そもそもこの2週間ですぐ回復するなんておかしいわ。セドリックが丸々1ヶ月かかったんだもん。まさか、あたしまた何かしちゃいけないことしたの?)
中庭でエディは周りの友達と談笑しながら、そんなことを考えていたがー。
「おい!」
急にグイッと誰かに腕を引っ張られ、エディは現実に引き戻された。
「ドラコ・マルフォイ…!」
ハッフルパフの同級生であるシンシアが悲鳴に近い声でそう呼んだが、ドラコは気にせずエディをグイグイと引き摺るように引っ張っていく。
「あ、ごめん!みんな!大丈夫!大丈夫だから!気にしないでまたあとでね〜!」
エディは空いているもう片方の手で怯える友人達に手を振りながら、ドラコに従った。
(おかしい…怪しまれるから人前で接触を避けろと言っていたのはドラコだったのに。どうしてそんなに…。)
「ねえ、そんなに引っ張らなくてもついていくよ。」
そう言ってはみたもののドラコは手の力を緩めない。中庭から廊下を辿り2階、3階と登る間多くの生徒がこの異様な光景を眺めていた。
次にドラコが手を緩めた時は、3階の女子トイレへ到着した時、エディを壁に叩きつけて青白い顔を真っ赤にしてエディの胸ぐらを掴んだ。
「お前!!!服従の呪文はいつ解けた!?」
(げっ、もうバレた。)
「お前に昨晩指示を出したのにお前は動かなかった!いつからだ!?」
「…えーっと、あたしに服従の呪文かけてたの?」
嘘をつくのが下手なエディが精一杯搾り出した言い分がこれだった。エディはドラコに掴まれた腕をさする。おそらく青あざになっている。ドラコは一瞬目が泳いだが、すぐに向き直る。
「そ、そうだ。お前は僕が服従させていた。この半年、気づかなかっただろう?」
(……分かってたけど。でも確かに半分夢見心地だったかもな。)
ドラコはエディのブラウスから手を離し、腕を組んだ。いつもの傲慢なドラコだ。よく見るとドラコは制服ではない、真っ黒なローブだった。今しがた帰ってきたのだろう。
「……どうして、」
「お前が何をしていたか、お前は僕の仕事を手伝わせていた。この世界で存在するべきじゃない人間の選別をお前にやらせた。それを愛する半人間とゴースト女に言ったらなんて言うかな?」
「…エルフィーとリーマスをそんな風に言わないで。」
「穢れた血が僕に口答えするな。」
「………また、あたしに服従の呪文をかけるの?」
「いや、」
てっきり再度服従の呪文をかけられると思っていたエディは拍子抜けした。ドラコはプラチナブロンドの髪の隙間からエディの目をジッと見つめた。ドラコの目は先ほどの蔑むようなものではなく、熱っぽくそして怯えた目だった。
「……さ、作戦を変える。もう1回お前に服従の呪文をかけて解けた時、ダンブルドアにでも告げ口されるとまずいからな…。」
「何を、」
「グレンジャーを懐柔しろ。」
「…グレ、?」
エディはグレンジャーが誰のことなのか分かり、ゾクっと鳥肌が立った。
「グレンジャーがここを憎むように仕向けるんだ。あいつは穢れた血でブスで勉強しか脳がない奴、コンプレックスの塊だ。しかもウィーズリーやポッター、ゴース…スミスとも仲違いしているだろう。今がチャンスだ。」
「チャンスって………ハーマイオニーは、運動神経が良くないよ。懐柔してどうするの。」
「……お前がその理由を知る必要はない。とにかく、あの穢れた血にホグワーツを恨むように仕向けろ。期限は3月まで。」
「できなかったら?」
ドラコはローブから杖を取り出し、杖をエディの胸に向けた。
「常にグラップとゴイルがお前を見張っている。僕もだ。このことを誰かに話そうものならお前が僕の計画を手伝ったことを全員にバラしてやる。そうすれば、人狼も姉さんも失望するぞ…父親も、母親も、失った可哀想なお前の行き場は無くなる。もちろんグレンジャーの懐柔に失敗しても同様だ。」
凄みを効かせてそう言うマルフォイがエディには滑稽に思えた。
(マルフォイの手伝いをしてたことを告げ口されても、そもそも誰も信じないし聞かれても“服従の呪文”をかけられていたって言ったらリーマスもエルフィーも分かってくれるよ。あの2人は…本当に優しいから。バカだなあドラコ。それにハーマイオニーみたいな人がたとえ、どんなに苦しいことがあってもホグワーツを恨むような方向にはいかないことなんて誰が見ても明白なのに…ドラコはきっと本当にコンプレックス持ちの人の性格を分かっていないなあ。)
笑いを堪えながら、頷くエディをドラコは怯えて震えていると思ったらしい。ドラコは杖を下ろし、エディに背を向けた。そして聞き取れるか聞き取れないかギリギリの音量と速度でこう言った。
「…その、父親のこと、残念だったな。」
「………えっ?」
ドラコはローブを翻し、早足で女子トイレから出て行った。
「…あんたの父親の友達が殺したんじゃん…。何言ってんのあいつ。」
エディは大きくため息をつき、掴まれてシワシワになったブラウスとネクタイを整えて歩き出した。
(ハーマイオニーのことは面倒になったな。あたしが失敗したらドラコがハーマイオニーに何かしようとするかもしれないし、そもそも何の目的でホグワーツに恨みを持たせるわけ?っていうか、そもそもコンプレックス持ちの人ってどっちかっていうとロンじゃない?いやロンがターゲットになっても困るけど…どうしたもんかな。一旦図書室で昼寝するか。エルフィーもいるかもしれないし。)
そう思った時、ぴたっと立ち止まる。ドラコと話していた時には全く感じなかった不安と恐怖がエディの身体にジワリと広がる。
(あたしは…エルフィーと一緒にいる価値なんかないのに…)
あの家族の血が流れていてエルフィーを追い詰めた自分、叔父を凍らせ、アンブリッジを監禁し、
(…ううん、今はハーマイオニーの状況を探るためにエルフィーに会わないと。)
エディはそう自分に言い聞かせた。
うるさいという理由で図書室司書であるマダム・ピンスから毛嫌いされているエディだったが、エルフィーが一緒だと睨まれるだけで済む。今日は入口でひと睨みされただけで入れたのエルフィーが図書室にいるに違いない。
案の定、ウロウロすると自習スペースの真ん中でエルフィーが6人席に1人で静かに本と羊皮紙に睨めっこしていた。
「エルフィー。」
エルフィーに声をかけると、顔を上げてニコッと微笑んだ。
(元気そう、良かった。)
目の下にクマがあるが、それ以外は平気そうだった。エディはエルフィーの隣に座り、エルフィーは広げていた本を片付けエディのためのスペースを作る。
「……エディ。」
「ん?」
エルファバは向き直り、神妙な面持ちで声を落として身体を少し近づけた。
「………図書室の禁書棚って行く方法あったりする……教授の許可無しで。」
「?あるけど。」
「本当?」
「禁書棚行くのはいいけど結構面倒だよ。あたしとフレッドとジョージで攻略に2ヶ月かかったし。」
「入るのに2ヶ月もかかるの?」
「ううん、攻略ってだけで実際はスムーズにいけば4、5時間くらいかな。でもその割にメリットないよ。だって結局辿り着いたところで、ピンスが禁書棚に入れる生徒を把握してるから自由に探索っていうのは難しいから…普通に許可証もらって行った方が早いんじゃないかなあ。なんで行きたいの?」
小声で話していたエルファバが耳をエディに近づけて、さらに小さい声で話す。
「内緒だけど聞いてくれる?」
「うん。」
「…ロンとハーマイオニーどちらかに“御伽の薬”を盛ろうか悩んでて。」
「何それ?」
「……毒薬。」
「え!?」
エディの大声で自習していた皆は一斉にこちらを向いた。ごめん、と全員に両手のひらを合わせて謝り再びエルフィーの方を向く。
「でも、どうしてよ。」
エルフィーは事情をあらかた説明してくれた。2人を仲直りさせたくてハンサムなフィレンツェ教授を頼ったことやそこでの回答、毒を盛るのはエルフィーだと言われたこと。
そして、それを全て叶える薬が現状、御伽の薬であること。
「馬鹿げているし、友達に毒を盛るなんて最低だって分かってる…そもそもロンとハーマイオニーが運命の人だなんて保証もないでしょう?けれどそれくらいしなきゃ、あの2人素直にならない気がするし。」
「うーん、」
エディはエルフィーの机周りをウロウロするスリザリンの女子生徒をチラッと見た。ブラウンのおさげ頭で小柄な1年生くらいの女の子…。
ドラコが変装させたゴイルだ。
(あの距離なら伸び耳使わない限りは聞こえないはずだけど…別にやましい話じゃないし。ただハーマイオニーかロンに薬を盛ろうって話でしょ。それならー、)
そこまで考えたところで、エディはハッと思いついた。
(もしかしてハーマイオニーを昏睡させればドラコの目的は避けられる?ハーマイオニーの安全は保たれるし、ロンとハーマイオニーは仲直りできるし、オールオッケーじゃん。完璧じゃんか!)
「乗った!」
「え?」
「エルフィー、あたし協力するよ。毒盛り計画!」