ハリー・ポッターと氷の魔女   作:かっさん

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12.土曜日の悲劇

フレッドと最後に会ってから1ヶ月過ぎた頃の話だった。

 

「お前の姉さんに異変があったらすぐに僕に言うんだ。」

「………は?……」

 

必要の部屋で変わらずキャビネット棚をいじっているドラコは唐突に、何気ないような声で…そのような声を出すように力んで。エディに言った。ドラコといつもいちゃつくソファでぼんやりしていたエディは、その一言で覚醒した。

顔を上げたエディにドラコは変わらず、背を向けて顔を見せないようにしている。

 

「あんた…エルフィーになんかしたの?」

「僕は知らない。そう指示があっただけだ。」

 

エディはゾワっと身体中の毛が逆立つのを感じた。

 

「なに?異変って。誰の指示。」

「だから僕だって知らないって言っているだろう。」

 

エディはドラコの背中を睨みつける。ふつふつと湧き上がる殺意、憎悪、憤怒。

 

「エルフィーに何かあったら、あんたらのしてること全部バラしてやるんだから。」

 

ピタッとドラコは作業を止めて、振り返る。青白い顔がピンク色に染まっている。そしてローブを翻し大股歩きでエディの顔を掴んだ。

 

「お前…僕を脅すのか。穢れた血の分際で。」

 

エディは全く動揺せず、ドラコを睨みつけた。

 

「今なら別に遅くない。あんたに服従の呪文をかけられていた、脅されていた言えばみんな納得してくれる。」

「愛しの狼男や情緒不安定な姉はそれを聞いてどう思うだろうな…今はいい。けれどこれから起こることの引き金をお前が引いたとなれば、きっと前のようには接してくれないぞ。」

「これから起こること、が何なのかあたしには分からないもん。あんたが怖いけど勇気を出して告発したって言うわ。」

 

エディの顔を掴む力が強まり、ローブに手を入れて杖の先をエディの額にくっつける。

 

「…ならお前を殺さないとな。」

「殺せるなら、殺してごらんよ。」

「随分余裕じゃないか。2つ年下のお前に勝算でもあるのか?」

「さあ。」

 

長くドラコとエディは睨み合う。ドラコは顔を歪ませているが、エディは薄ら笑いだ。ローブに手を突っ込んでいる。長い沈黙の後、ドラコは少し呆れた調子でこう言った。

 

「僕はお前の姉さんのことは全く知らない。僕の知らないことで、僕のことを晒すなんて不平等じゃないか?」

「不平等なんて言葉をあんたが知ってるなんて。」

 

短いため息をつき、まあ、とにかくだ、と言ってドラコは杖を下ろす。

 

「お前が告発したら、少なくともただじゃ済まないぞ。愛しのホグワーツを追い出される可能性だって高くなる。お前は穢れた血だから今以上に立場が弱くなるぞ。」

 

エディはふと思い出した。

 

(ジニーは確か日記帳に操られたということでダンブルドアが許したはずだけど、あたしの場合ダンブルドアは…どうするかな。服従の呪文にかけられていたことは事実だから証明できるけどダンブルドアがガマガエルのことを認識しているとなると、告発を機にガマガエルのことを見つけてあたしを退学にする可能性もあるか…となると、)

 

エディは見下ろすドラコのブルーの瞳をジッと見つめる。傲慢なその顔が緩みまるでエディを憐んでいるようだった。

 

「別に僕はお前を傷つけたいわけじゃない。ただ…。」

「ただ?」

 

ドラコは背中を向け、再びキャビネット棚の修繕を始めた。エディはその背中をじっと睨みつけていた。

 

ーーーーー

 

エルファバは土曜日の朝にも関わらず、朝6時に起きた。低血圧なエルファバはもう少し寝ようと体をモゾモゾとさせたが、何かに起こされたようなその感覚に眠気が覚めた。

 

(…宿題終わらせてしまおうかしら。)

 

そう思いカーディガンを羽織って、共有の洗面所に向かった。4月の初旬ということで多少は暖かくなっているがまだ少し肌寒い。

あくびをしながら洗面所で冷たい水で顔を洗うとブルっと身体を震わせて、顔を上げたがー。

 

「…え?」

 

古びた鏡にエルファバの知るエルファバは映っていなかった。

 

「なに…これ…?」

 

エルファバの髪はユニコーンのように白い艶やかな髪ではなく老婆のようなザラザラした薄暗いグレーの髪色となっていた。

 

ーーーーー

 

「この早朝に医務室へ来てくれたのは実に懸命でしたミス・スミス…私やマダム・ポンプリー以外誰にも見られていない、ということで間違いないですね。」

「はい。」

「ああ、ミス・グレンジャーにレイモンドも。全員揃いました。ありがとうドビー。」

 

その30分後、エルファバは半分パニックになりながら医務室に駆け込んだ。突然変異したエルファバの髪色を見たマダム・ポンプリーは血相を変えて、マクゴナガル教授を呼びつけた。一瞬でやって来たマクゴナガル教授はエルファバを見るなり猫の守護霊を3匹放った。おそらくダンブルドアや騎士団にエルファバの異常を伝えたのだろう。

ここで働いている屋敷しもべ妖精のドビーを呼び出しハリー、ロン、ハーマイオニー、レイモンド助教授(つまりセドリック)を連れて来るように指示した。その間エルファバは手鏡を使い、まじまじと自分の髪の毛を見ていた。

エルファバの髪はまばらで髪は白かったり、黒髪があったり、黒と白が混ざった髪があったり。例えるなら中年のグレーヘアとでもいうのだろうか。20歳も老け込んだような風貌だった。

 

早朝に叩き起こされたハリーやロンも眠い目を擦って医務室に来て、ベッドに腰掛ける灰色の髪をしたエルファバを見てギョッと覚醒していた。

 

「エルファバ…どうしたの?」

「私にも分からないの。」

 

ロンの問いかけに肩をすくめた。

その後やって来たハーマイオニー、レイモンド教授の変装したセドリックもほぼ同じ反応だった。

久しぶりに会うドビーはハリーやエルファバがあげた服に身を包み心配そうにエルファバの周りをウロウロしたが、耳をパタンと畳んでペコっとお辞儀をして去って行った。

 

「…さて、単刀直入に言いましょう。ミス・スミスの髪色が変わりました。これは由々しき事態です。」

 

早朝しかも緊急の呼び出しをされたにも関わらずピチッとローブを着ているマクゴナガル教授は厳かにこう言った。ストレートにかつ事の重大さが分かるように意識している。

 

「ダンブルドアから昨晩ミス・スミスのことについて、騎士団全体に通達がありました。数日前に何者かがグリンゴッツに侵入した形跡があったとのことです。魔法省は今朝の新聞で侵入を防いだと発表するつもりのようですが、ダンブルドアは死喰い人(デスイーター)が誰にも見つからずに求めているものを得た可能性があると。」

「求めているものって…。」

 

ハーマイオニーが震えるような声で聞くと、マクゴナガル教授は頷く。

 

「ミス・スミスの魔力です。氷や雪を作る“力”。そしてダンブルドアはもしもそうなったらミス・スミスに明らかな変化があるだろうと…それが髪色に現れたというわけです。」

 

エルファバはヒュッと喉が鳴る音が聞こえた。それは他のメンバーも同じだった。

 

「そ、それじゃあヴォルデモートがルーカスの“力”もエルファバの“力”も得たことに…。」

「まだ決まったわけではありません。オルレアン…ミス・スミスの母親の血筋でなければ引き継げないと決まっておりますから。」

 

マクゴナガル教授はエルファバに向き直った。

 

「使えますか?ミス・スミス。」

 

考えたこともなかった。自分の“力”が失われることなんて。

 

(いえ…そもそも奪うなんてあり得るの?だって私の血筋に宿る血の呪いでしょう?奪えるのならそもそも最初からそうするわけで…)

 

ぐるぐる巡る思いの中、エルファバは恐る恐るいつものように手を広げ、空気の中で玉を作るように動かしてみた。皆の視線が痛いほどエルファバの手元に集まっている。

 

シューーーっとエルファバが聞いたことのない空気の抜けた音が医務室に響き、エルファバの手の中に氷と雪が集まってくる。

 

「……使える、」

 

エルファバは周りのホッとした雰囲気と裏腹にがっかりした声を出してしまった。しかし誰も気づいていないようだ。

 

(当然よね。あの炎を持ったヴォルデモート陣営と対抗できるのは私のこれしかないのだから…私からしたら命を削る呪いだけれど。)

 

「けれど、なんというか、球体が不格好だわ。」

 

エルファバを避けていることをすっかり忘れたハーマイオニーの指摘の通り、エルファバが作った雪の玉は歪んでおり所々に凸凹がある。

 

「弱まっている可能性ある?」

「そうかも…少ししっくりこない。まるで故障しているみたいだわ。」

 

エルファバはハーマイオニーが話しかけてくれたことを内心喜んだ。

一通り試してみたものの、やはり以前よりも明らかに威力が落ちている。氷や雪で形を作ろうとしても小さく不格好になり、風を起こしても弱々しい人の息のような風がヒュッとエルファバの周りを回るだけだ。

 

「考えられることとしては死喰い人(デスイーター)が忍び込んだものの目当てのものを手に入れられなかった。そのため、魔術に干渉しできる限りミス・スミスの“力”を弱体化させたか…あるいは成功し徐々に奪われていくものなのか。それは、私とフィリウスが調べます。あなたの身体に異変があることが周りに知られるのは非常にまずいので、ダンブルドアが今晩戻って来るまでは隔離するようにとダンブルドアの指示です。今日は医務室にいてください。」

「どうして隔離を?」

 

ロンはホグズミードに行けないエルファバを心底憐んでいるのだろうと感じた。

 

「ミス・スミスの髪色は目立ちます。このような色になったと学校外に漏れるのは非常に危険だとダンブルドアの命です…何かしらの対策を考えなければなりません。あなた方5人には伝えるように指示されましたが…ところでミス・エディは?」

「ドビーと頑張って起こそうとしましたが、起きませんでした。連日のクィディッチ練習で疲れているようで。」

 

マクゴナガル教授にハーマイオニーはそう言った。エルファバは怪訝な顔をした。

 

(変ね…エディは早起きは得意なのに。まあ怪我しているわけではないし、あとで伝えればいいか。)

 

ハリーやロンは怪しまれないように部屋に戻るように指示され渋々戻って行った。エルファバは宿題なども溜まっていたので、少し話ができるのではないかという目論見も含めてハーマイオニーにお願いして医務室に持ち込んでもらった。ハーマイオニーはエルファバが思ったより嫌がらずに届けてくれた。

 

「ありがとう。ハーマイオニー。重かったでしょう。」

 

何冊かの教科書と羊皮紙を医務室に持ち込んでくれたハーマイオニーにエルファバはなるべく明るく声をかけた。

 

「エルファバ…。」

 

ハーマイオニーは恐る恐る、エルファバに近づいた。まるでエルファバが“力”で皆を傷つけないように距離を取った時のことを彷彿とさせる。

セドリックはエルファバとハーマイオニーの様子を見ると、マクゴナガル教授を外に連れ出してくれた。

 

「その……ごめんなさい。私……。」

 

エルファバは首を振った。

 

「いいえ。私こそごめんなさい。私…配慮が足りなかった。そのあとお父さんのこともあったからタイミングを逃してしまって。」

「謝らないでちょうだい。」

 

ハーマイオニーの声は震え、まつ毛が少し濡れている。

 

「私の言葉で傷ついて、怒っているんでしょう?私のこと嫌だけれども恩があるから気遣って仲直りしようとしているんでしょう?」

「…?確かに恩はあるけれど、それだけで仲良くしようっていうわけではないわ。あなたは私の一番の親友なのに。」

「本当に?まだそう思ってくれている?」

「当たり前じゃない。どうしてそんなに疑うの。」

 

エルファバはベッドから立ち上がり、ハーマイオニーの両手を優しく握る。

 

「大したことじゃないわ、本当に。私たちはタイミングを逃しただけなの。」

 

ハーマイオニーはまだ信じられないようで首を振る。

 

「私、その、感情的になって。あなたの事情なんて何も配慮できてなかった…。私の言葉で泣いて、私の顔を見るのも嫌でしょう?」

「ハーマイオニー、何か、勘違いしていない?」

 

俯いていたハーマイオニーが少し顔を上げたのでエルファバはその顔を覗き込む。

 

「確かに…ハーマイオニーがクリスマスの前に言った言葉は傷ついたわ。けれど私泣いていないし、ハーマイオニーのこと、顔を見るのも嫌だなんて思ったことは人生で一度もないわよ。どうしてそう思ったの?」

 

ハーマイオニーがポカンと、口を開けエルファバをまじまじと見た。そして眉間に皺を寄せた。

 

「…………エディ。」

「え?」

「エディが、私にそう言ったの。エディが言うならそうなんだって私思ったんだけど…。」

「エディ………?」

 

エルファバは少し考えてから、なるべく明るくこう言った。

 

「……確かに、ハーマイオニーのこと相談はしたわ。けれど私そんなこと言ってないはず………あの子、早とちりしちゃったのかしら。エディ、そういうところあるから。」

 

ハーマイオニーは少し複雑そうな顔をしたが、やがて納得したように頷いた。そのタイミングでエルファバはもう一回、念を押した。

 

「また話してくれる?」

「…もちろんよ。」

 

その後、結局エルファバは医務室で終日調べ回されたので宿題をする暇もハーマイオニーと友情を育む暇もなかった。マクゴナガル教授とフィットウィック教授はエルファバの知らない魔法陣やら呪文を唱えては、ふむふむと2人で話し合い専門用語を使ってエルファバの“力”についての議論を交わし羊皮紙にメモを取っていく。

例えて言うならエルファバの“力”は考古学者でいうところの謎に満ちた遺跡のようなもの。

 

学者気質の2人はもはやこれを楽しんでいるのではないかと思うほどに熱中していたが、エルファバの懸念としてはエルファバを調べるにあたって呪いの代償に辿り着かれることだった。

 

ただ2人の話を聞いていると、血の呪いについて辿り着くことはなさそうだ。

 

(たちも魔法使いに呪いをかけたという事実が明るみにならないように巧妙に隠しているとか?それともー、)

 

ふと今はもうこの教授2人の記憶から抹消されているクィレルの言葉を思い出す。

 

『この魔法使い達に…剣や盾にかける炎や氷を模した呪いを人間にかけたー更なる呪いを加えて。』

 

(つまり、“氷の力“と“忘却の呪い”は別物なのかしら。人の死か呪いの全容を口に出すことをスイッチに呪いが発動する…それであれば調べても問題ないかもしれない。それに別物の呪いなら、もしかすると“氷の力“だけ極限まで取り除くことも難しくない。だとしたら、今誰かが“力”を保有しているということ…ああ考えたくないし頭が混乱してきたわ。)

 

2人の教授はオルレアン家と小鬼(ゴブリン)の因縁など知る由もないはずだが、調べて数時間で呪いが小鬼(ゴブリン)が造った古代魔法であることや本来であれば剣や盾にかけられる“グブレイシアンの炎の枝“…つまりは永遠に燃え続ける炎に近い性質を持っていることなどを割り当てていた。

 

途中で2人の教授が一旦立ち去った間にエディが遊びに来たがエルファバの無事を確認するとお見舞いの蜂蜜酒を置いて、さっさと医務室からいなくなってしまった。

 

エルファバは少し寂しいと思ったが、マクゴナガル教授とフィットウィック教授が見たこともない量と分厚さの本と羊皮紙を持って帰ってきたのでそんなことを言ってもいられなくなった。

 

「感情の揺れによる反応…反対呪文は”デフィーソロ“。」

「呪文はオルレアン家かベルンシュタイン家…そして“力”を受け継いだものしか使えない?」

「ですがルーカス・レインウォーターは使えていたわフィリウス。セドリック・ディゴリーは使えていなかったはずですが。」

「使いこなせていなかったとか?」

「可能性としてはありえるわ。」

「はて、血縁者だけ使える呪文であれば説明がつくが、もしもそうでなければ“エンヘドゥアンナの呪詛呪い継承定則”の2つ目が破綻します。」

「私はデフィーソロが一時的な解呪呪文と解釈すれば、理にかなっていると感じるわフィリウス。イムホテプが唱えた扉と鍵の原理として、呪いを持っているものが扉、呪文を鍵とすると。」

「確かに。ただ一般の魔法使いであればその考えで魔法を構築しますが、小鬼(ゴブリン)たちはそもそも解呪呪文など作らないことが多い。呪いを受けたらそれは、その者の責任と捉える文化。解呪呪文は後付けされたものだと考える方が妥当かと。」

「ただ後付けだとフィリウスが言う通り、エンヘドゥアンナが破綻する…」

「ふむ。大昔の魔術であればアレイスターやエリファス、ダイアンのアイルランドでの例があるのでできなくもないが…かけられたのがたかだが数百年前となると少し…」

「東洋魔術も取り入れているとしたらどうかしら。我々魔法使いは難しいけれども、小鬼(ゴブリン)なら」

「確かに。シューフーやチョーカーが発見した神仙方術を組み合わせたとすると」

 

エルファバの方が力と呪いには詳しいはずなのにちんぷんかんだ。

 

これが世界最高峰の教育機関であるホグワーツの教授を務める2人の実力、エルファバは舌を巻く。

ものすごい熱量で2人は羊皮紙を書き上げ、2人はエルファバの“力”が誰かに奪われた可能性は低い、今後これ以上エルファバの“力”が弱まることもないだろうと結論付けた。

 

ダンブルドアは真夜中に帰って来るのでそれまで待つようにとエルファバの本来の髪色を似せたウィッグを置いて出て行った時にはもう外は真っ暗だった。

 

エルファバは欠伸をして、ようやく宿題に取り掛かろうとした時だった。

 

「いくらなんでも、あの2人長すぎやしないかい。」

 

半分呆れたような低い男性の声が医務室に響き、エルファバは声の方向を向くとあんぐりと口を開けた。

 

目の前にいるのは、エルファバの肩ほどある巨大な灰色の狼犬だった。その狼犬は大きな体を伸ばして欠伸をした。瞳も毛色に近いグレー。

 

エルファバはピンときた。

 

「…………レギュラス?」

「正解。シリウスに似てるかな。」

 

その狼犬は口をパクパクさせた。喋っている。

 

「…………私とあなたが最後に会ったのはいつ?」

 

狼犬はクスッと笑ってこう言った。

 

「12月29日の夜。グリモールド・プレイスで君の部屋で君の“力”について話し合った。クィレルのことも記憶している。」

 

エルファバはベッドから立ち上がり、まじまじと大きな狼犬を見る。

 

「………動物もどき(アニメーガス)になったの?」

「簡単に言えばそうだね。厳密には動物もどき(アニメーガス)より危険で不安定な魔法で一時的に動物に変身してる。これは動物もどき(アニメーガス)になるより簡単だけれども危険すぎる。そもそも動物もどき(アニメーガス)になる資質がないと使えなくて本末転倒だから、まともな魔法使い達は使わない。私はシリウスが動物もどき(アニメーガス)だから一か八かでやってみた…数年前シリウスが動物もどき(アニメーガス)としてホグワーツに侵入したから、ダンブルドアが動物もどき(アニメーガス)対策にいろいろ呪文をかけていて随分手こずったけど。城内ではずっとこの姿でいないといけないんだ。人間に戻ると、同じ呪文を使うのにかなりの時間を要するしセキュリティが発動して闇払い10人が僕を捕らえに来る。」

「動物になっているのに、どうして話せるの?シリウスは話せないのに。」

「魔法を使えるように細工したんだ。簡単な呪文3つしか使えないけれど。」

「動物でありながら杖を使わないで魔法を使えるということ?それって、すっごく危険じゃない。一歩間違えればあなたがどうなるか。」

「心配してくれるのかい?嬉しいな。けれど私より君の方が重要さ。」

 

エルファバは反射的にレギュラスを撫でて毛並みを堪能し、チラッとマダム・ポンプリーがいる個室を見た。レギュラスが魔法で聞こえないようにしているようだ。

 

「……私の“力”が弱くなったことは、」

「教授たちの話から察したよ。どのみち今日のホグズミードで接触するつもりでホグワーツ内に入り込んでいて良かった。」

「じゃあ話は早いわね…死喰い人(デスイーター)陣営の誰かが私の“力”を奪って使えるようになった可能性はある?」

「それはないだろう。奪えたなら君の身体から“力”が完全に消えるはず…中途半端に残っているのもおかしな話だ。けれど君の解呪はしようとしたのだろうな。」

「解呪って…。」

 

エルファバは解呪条件を思い出して気分が悪くなった。

 

小鬼(ゴブリン)の死体5体分の血肉を金庫内に捧げ、自分と血縁関係がある生きている子供に“力”を移すこと。』

 

「闇の帝王は自ら肉体を造って復活したお方だ。君の“力”を移す仮の肉体…あるいはそれに近い物体を造ること自体は難しくないはずだ。」

「……じゃあ、小鬼(ゴブリン)たちも、」

「ああ。ほとんどニュースになっていないが、この前、小鬼(ゴブリン)の子供10体が最近集団で誘拐されたというニュースがあった。もしかすると…。」

 

エルファバはゾッと寒気がした。

 

「けれど…おそらく失敗した。だから“力”がまだ君に残っている。」

「もしかして、私の体内に残る呪いも…、」

 

レギュラスは確信はないけれど、と前置きをした。

 

「同様に完全には消えていないけれど、発動する時期は延びたはずだ。」

 

エルファバは力が抜けてヘナヘナと身体をベッドに任せた。そしてハッと思い出す。

 

(エディには毒を盛らないように伝えないと…あの子完成した御伽の薬をどこで管理しているのかしら。)

 

「ただ、そうなると呪いの発動時期の推測がつかなくなるのは厄介ね。」

「あとクラウチと対峙した時に戦えるか、だ。」

「それは………多分、大丈夫。」

 

エルファバはレギュラスから目を逸らして、呟くように言った。

 

「逆転できる方法が1つあるの。」

「……君が考えていること、あまりおすすめしない。もしかすると君も…。」

 

レギュラスが考えを述べ始めたので被せるように言った。

 

「話は変わるけど、分霊箱(ホークラックス)のことについて話してもいいかしら。ハリーが校長先生か分霊箱(ホークラックス)についてスラグホーン教授に聞くように指示されているの。」

「話を…ああ、分かったよ。分霊箱(ホークラックス)のことは調べられた?」

「図書館にほとんど情報がないの。」

「なるほど、ダンブルドア…情報を遮断したな。」

 

レギュラスは苛立たしそうにグルルっと唸った。

 

「……悪いことではないでしょう?恐ろしく邪悪な呪いで仮にヴォルデモートがそれを実施したなら、前例が生まれてしまったからそれ以降生徒の目に触れないようにするのは当然だと思うけれど。」

 

レギュラスは少し眉間に皺を寄せた。犬の姿なのに考えるその姿はシリウスに似たレギュラスの顔がくっきりと見える。

 

分霊箱(ホークラックス)の話が出たのだから、隠し事はなしでしょう。」

 

しばらくの沈黙の後、エルファバはたまらず言った。

 

「隠し事じゃないよ。どう伝えたらいいか考えているだけだ。」

「ありのまま伝えて欲しいのに。」

 

エルファバは約束を破るレギュラスに拗ねながら、考えている間にベッドに座りエディがくれた蜂蜜酒をゴブレットに注ぐ。

 

「分かったよ、噛み砕かないで教えてあげる。分霊箱(ホークラックス)というのは殺人によって魂を裂き、それを特定の物に保存する魔術だ。闇の帝王はそれを複数作成している。僕は1つだけだと思っていたけれど…ハリー・ポッターに倒されてから再度復活して今のなお精力的に活動しているところをみるに、少なくとも3つ以上は作成している。スラグホーンと分霊箱(ホークラックス)に何の因果関係があるかは分からないけれど、あの才能大好きおじいちゃんのことだ…学生時代の闇の帝王を気に入っていて分霊箱(ホークラックス)についての情報を与えたとか。ダンブルドアはスラグホーンの記憶から分霊箱(ホークラックス)が何かを特定するか…あるいはいくつ作成するかを知るためとかかな。」

 

蜂蜜酒を飲もうとしたエルファバは衝撃の事実の陳列に思わずゴブレットを落としそうになった。あんぐり口を開けるレギュラスはクスッと笑う。

 

「伝え方を考えた方がいいって言っただろう?」

「意地悪……今言われたことをしっかり頭で処理するから待って…。」

 

エルファバは蜂蜜酒をゆっくり飲み、ゴブレットを机の上に置いた。レギュラスは妙に楽しそうでまるで子供の成長を確認する親のようだ。

キョロキョロと周りを見渡した後であっ、と声を上げて再度レギュラスに向き合った。

 

「……………まさか、私たちが2年生の時に破壊したリドルの記憶が閉じ込められた日記帳って分霊箱(ホークラックス)だったりする?」

 

レギュラスは吠えるように笑った。ひとしきり笑った後に話し始めた時、レギュラスの声には感服と尊敬、そして興奮が混じっていた。

 

「すごいな、正解だよ。今の話でそこまで考えが及ぶだなんて、君は本当に賢いんだね…さすがだ。話が随分早いよ。あとね、もう1つの分霊箱(ホークラックス)は私が、」

 

レギュラスが話している途中のことだった。

 

 

 

 

エルファバは突然、目を瞑りポスっと頭を枕に身を投げ身動きもせず、寝始めた。

 

 

 

 

 

「…………エルファバ?」

 

レギュラスはエルファバの側に駆け寄る。微動だにせず、微かな寝息が聞こえるのみだ。

 

(一体…。)

 

子供のようにスヤスヤと眠るエルファバは口の端から泡を吹いている。

 

「まさか、」

 

と同時に、医務室の外が随分騒がしくなり始めた。

 

レギュラスは自らに“目くらましの呪文”で透明になり、エルファバが倒れた隣のベッドの下に隠れた。

 

外から聞こえるのは悲鳴、絶叫、術を唱える声、ガラガラと何かを運ぶ音。やがて何十人の足音が医務室へと入ってきた。

 

「何事ですか!」

 

レギュラスが呪文を解き、音を聞きつけたマダム・ポンプリーは部屋から飛び出してきた。

 

「ポピー!できるだけ大量の水と布を!」

 

先ほど医務室を去ったマクゴナガル教授の声がする。切羽詰まった声だ。

 

「生徒たちの食事に毒が盛られていたの!セブルスとホラスが今急いで解毒剤を調合しています!」

「そ、そんな…!!!」

 

レギュラスは息を潜め、頭をベッドから出した。

 

泡を吹いた学生数名が担架に乗せて運ばれている。ある生徒は担架の上でもがき苦しみ、のたうち回っている。ある生徒は手をだらんとさせ、白目を剥いている。その担架を取り囲む生徒たちは懸命に声掛けを続けていた。

 

「監督生たちは全ての生徒に食事に一切手を付けないように指示し、寮へ戻るように引率を!他に体調に異常が出たらすぐに近くの教授に伝達するように!」

 

マクゴナガル教授は魔法で拡声し、医務室を行ったり来たりしている。

 

「ヘザー!起きて!」

「ルイスううううう!!!」

 

生徒たちの呻き声、泣き声、大人たちが医務室を走る音が耳を刺す。

 

「ハーマイオニー!ハーマイオニー!だめだ!目を覚まして!」

「ハーマイオニー…!」

 

聞き覚えのある男性の声がすぐそばで聞こえた。エルファバの隣のベッドにドサっと誰かが乗せられる。レギュラスが見上げると、メガネをかけた少年…ハリー・ポッターと赤毛の少年、ロン・ウィーズリーがベッドの上に乗った人物に何度も何度も声かけ揺すっていた。

 

「ウィーズリー!生徒たちへの指示を!ウィーズリー!」

 

マクゴナガル教授がそう叫んでもロン・ウィーズリーはベッドから動かなかった。

 

(まさか、エルファバも…!さっき…あの蜂蜜酒にこの生徒たちと同様に毒を盛られたのか?あの蜂蜜酒は確か…。)

 

そんな中、ツカツカと少女がエルファバのベッドの横へと歩いてきた。この喧騒と動揺の中、黄色のシャツにジーンズを着た少女は随分冷静で、無表情だ。

 

(あれは…エディ・スミス…エルファバの妹…。)

 

少女は目くらまし術で隠れたレギュラスに気づく様子もなく、エルファバの手から滑り落ちた蜂蜜酒の瓶とゴブレットを自分の持つバッグに入れ、杖を振ると新しいゴブレットと蜂蜜酒を無造作にエルファバの近くに現れた。

 

淡々と、何も感情もなく。

 

(何をしているんだ…?)

 

そして周囲をチラッと確認したのち、エディは眉間に皺を寄せて顔を歪ませこう叫んだ。

 

「エルフィー!ダメ!お願い死なないでえっ!」

 

まるで悲劇のヒロインのように、エディはベッドの横に座り込み、声を上げた。

 

「あたしのお姉ちゃんは、エルフィーだけなのにっ…!」

 

その顔から涙は一滴も流れていなかった。

 

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