亡霊は今日も迷宮を行く   作:ゴーストライター

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道化の懐

 町並みをよく観察して記憶に入れながら、いつか門前でかの小人族と別れた記憶を辿る。そんなことを繰り返して数度、一見単なる壮年の男であるオルランドは【ロキ・ファミリア】ホーム、【黄昏の館】の前に立っていた。

 

 無論、立っているわけなので門番から決まり文句と誰何を受ける。

 

「ここは【ロキ・ファミリア】ホーム、【黄昏の館】! それを知って一体何用でここにいる!」

 

「我が名はオルランド・クラウソラス、そなたらの団長に用があって参った。話を通しては貰えぬだろうか」

 

「……団長のご友人、にしては名をお聞きしたことがありませんが」

 

「ふむ、ではこう伝えてくれるか……【蒼鎧が連絡を取りにきた】とな」

 

 納得行かない様子の門番2人は顔を見合わせると頷き、片方が中へ入っていった。

 

 数分立つと、中から多少の喧騒と共に目当ての人物が姿を見せる。

 

「やぁ……君は本当にオルランドかい? 鎧、外したのかい?」

 

 随分なご挨拶だが、あの日の己を知るものからすれば当然のご挨拶と言えるだろうな、と苦笑しながらオルランドは刻印に触れいつもの鎧姿へと戻る。

 

『これでわかったか? 私は私だ』

 

「あぁ、疑ってすまないね。用があるとのことだったけど……」

 

 鎧を再び刻印に戻し、元の姿に戻りながら問いに答える。

 

「いくらか話がある。中で話せるならその方が良いことばかりだ……時間はあるか?」

 

「問題ないよ。さぁ、そういうことならこっちに来てくれ……僕の執務室ででも話そう」

 

 そんなわけで通された執務室はなんとも彼の書斎というに相応しいシックな場所に仕上がっており、なんともシンプルなまとまりに好感を覚えざるをえないオルランドはやや観察の欲を抑えられず見回す。

 

「ははっ、君もそうなるものがあるんだね。英雄以外にさ」

 

「このような華美に飾らぬものは好みだ。それが空間であればより好ましい」

 

「そうかい? じゃあまあ、本題に移ろうか。君は何を報告に来てくれたのかな」

 

 そう言われて、話を切り出すオルランド。

 

「そうだな……まず、ファミリアに所属した。恩人……恩神か? そうなるものに出会った」

 

「おや……こちらでどうしても欲しかっただけに残念だよ」

 

 最初からそれはわかっていた、といわんばかりのフィンの構えにオルランドは問う。

 

「その割には驚かないのだな」

 

「君がロキと同調する未来が見えなかったからある種諦めていた節があったのは事実さ……神フレイヤのところには行かないでと思っていたのだけれど、どこに?」

 

 確かに、神ヘスティア曰く神ロキは悪戯好きの道化の神だという。それと波長が合うかと言われれば否だったろうな、とフィンの予測という名の正解にまた苦笑する。

 

「【ヘスティア・ファミリア】という。過日、同胞が酒場で世話になったそうだ」

 

「もしかして……あの白髪の少年かい? だとしたら僕は正式に謝罪をする機を探しているのだけれど」

 

「不要だ。あれがあったからこそ私はあの少年を見てやる気になった……禍福は糾える縄の如しという。一難ごと、新たな福がある。私と出会ったことがベルにとって幸福かは諸論あるだろうが、少なくとも私は彼にとっての幸福であろうとするだろう。まあ、ただ」

 

 要求を通すならここだとオルランドは決めていた。フィンもそれくらいは理解している。ので、先を促した。

 

「ただ?」

 

「私があの少年に教えてやれるのは基本だけだ。あの少年には身軽に身体を動かし、受けるのではなく流し躱すような者を師として宛がいたい。さて、ここで私は思い立ったのだよ」

 

 フィンはそのこちらに考えさせるパスに2秒で解を出し、それは勧めないぞ、という意思と共に告げる。

 

「まさか、アイズ?」

 

「だけではない。拳と足とを牙となし立ち回るかの狼人もまた師とするに足るだろう」

 

「ベートも、だって!? 言い方は悪くなるが、レベル1の新人が恐らく実戦伝授形式にならざる得ないその2人との師事に耐えられるのかい?」

 

 オルランドは軽くため息をついた。それは舐めすぎだろう、という意思。

 

「わかるか、フィン。あの少年に師を求める理由を。私では教えられることがなくなったからだ……私が、実戦で教えてやれることも、等しくなくなったからだ」

 

「……冗談だろう? 君は世辞抜きに僕らよりも強いはずだ……君に師事したのかい? 実戦伝授の形式で?」

 

「その通り。2日目で立っている時間が伸びた。5日目で一日中ついてきた。7日もすれば、私の斧を掻い潜らんとした。恐ろしきは才能の大器、あれは大器晩成どころの話ではない。大器が早熟する……信じられんが、そういう成長だ、あれは」

 

 フィンは絶句した。そして考え込んだ。指名された2人とも、コミュニケーション能力が高いとは思わない。また、ベートに至っては指示を受け入れるかも不明だ。故に、フィンはひとつ決断をした。

 

「わかった。じゃあこうしよう……君が2人に声をかけてみてくれ。2人のいずれか、あるいはどちらもが承諾したなら、承諾した者を少年……なんというんだい? 「ベル・クラネル」ベル・クラネルの師としてもいい、ということにしよう。恩人の頼みを無下にはできないからね」

 

「感謝する……2人は何処にいる?」

 

「今の時間なら2人とも訓練していると思うよ」

 

「そうか。いずれ礼はする……案内を頼めるだろうか?」

 

「もちろんさ」

 

 流れで会話を続けながら外面的にも2人はいかにも仲良さげに話をし、訓練場へとたどり着く。

 

 フィンがアイズとベートのいる場所をオルランドにそっと指差して教え、オルランドは首肯して歩みだした。

 

 2人は一組となって実戦訓練を行っていた。

 

 素早い剣閃と蹴撃の逢瀬に思わず普通の者ならば見惚れるだろう。それほどまでにそれぞれの戦いの中で磨かれてきた煌めきがあった。

 

 一段落ついたと同時、オルランドは拍手をしながら近づき、声をかけた。

 

「実に見事だった……強きものたちよ」

 

「あぁ? 誰だテメェ……」

 

「……? 誰?」

 

 当然の誰何であったので、フィンにも見せた鎧姿へのフォームチェンジ。

 

「なっ……テメェ、脱げたのか」

 

「なんで、中身があるのに腕が取れるの……?」

 

 驚くベート、そうじゃないだろとツッコミが入りそうだが鋭いアイズ。

 

『久しいな……貴殿らに頼み事がある』

 

「……なに? 話は、聞くよ?」

 

「……まぁ話だけならな」

 

 次の言葉で、2人はそれなりの衝撃を受ける。

 

『酒場で主らがよくよく見ていたらしい少年と同じファミリアに入った。あの少年は著しいほどの成長をしている。はっきり言えば私ではすでに経験に不足ありと認めよう……お前たちに指導を頼みたい。頼むのは、回避と体術だ。実戦形式で構わない。最初の1日は分からぬが……なに、7日もやればわかる』

 

 思わずベートは舌打ちしたくなった。強者たる目の前の鎧が、あの少年を育て始めたというのか。

 

「お前が……あの雑魚と同じファミリア、だと?」

 

『そう猛るな、狼人。いずれは汝らを遥かに越える才能の大器となったぞ、あの少年は。私は神に救われて籍を置くが、今はすっかりかの少年に見いられたようだ……まあそんなことは構わぬ。汝らの団長にはすでに許可は取った。あとは当人の意思をこそ尊ぼうというわけだ』

 

 その続く言葉で、決意したのはアイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「私は……やる。あの子は強くなりたいって思ったから……悔しいから、あの場所から走っていったんだよね? じゃあ……強くして、あげないと。戦い方を、教えてあげないと。ベート、お願い。私の我が儘だけど……」

 

「チッ……アイズの珍しい我が儘だ。仕方ねぇよな……仕方ねぇな。わかった、俺も行ってやる……だが、見込みがなければすぐ打ち切る。それでどうだ」

 

『構わん。とかくお主らが一度あやつにお主らの存在を刻み込む、それが大事だ。ベルは、再現性と応用性、それにそれらの複合によるより効果的な技の導出……すなわち守破離のすべてに長けているからな』

 

「……冗談だと、信じるぜ。とても信じられねぇが……見りゃわかる、か」

 

 こうして、ベートとアイズという2人の師匠(仮)を獲得したオルランドは満足げに帰ろうとして……後ろから呼び止められた。

 

「あの……せっかくですし、手合わせしませんか?」

 

 アイズ、強者への純粋な興味からの一言である。

 

 もちろん、オルランドの本質は闘争にある故に、オルランドの答えはひとつ。

 

『よかろう。構えよ……魔法は使わず、体術のみだ。好きに来い』

 

 

 

 

 

 三十分ほどがたっただろうか。2人の手合わせは3人の手合わせになっていた。ベートとアイズがオルランドに攻め込み、連携してさらなる打撃を入れようとするも、オルランドがそれらを光で具現化させた殺傷能力皆無の安心設計、素敵な投影戦斧で薙ぎはらう。

 

『ぬぅぅぅぅお!!』

 

「チッ……強いな。さすがに」

 

「本当に……どうしてそんなに強いの……強くなれたの? 気になる……気になる!」

 

『おい』

 

 突然2人以外に声をかけたように見えるオルランドは、声をあげた。

 

『やりたいのなら構わんぞ、そこな見物者ども。2人と共にかかってくるがいい』

 

「……言ったね? オルランド」

 

『あぁ……フィン、ガレス、それにリヴェリアとやら。このオルランドが今代の英雄にひとつ授業でもしてくれようぞ……実戦でな』

 

「面白いわ……儂らをみな相手にすると言うのか」

 

「思い上がりと言いたいところだが……どうもそうでもなさそうなのがなんとも言えないな、まあいい。プランはいつも通りだ……【ロキ・ファミリア】特級戦力が5人、あとは勝つだけ。相手は人型のモンスター以上の存在、フルパワーでやらなければやられること以外はな」

 

 並び立つ英雄たちに眩しそうに眼を細める……無論、その様子を知るものはいない……オルランドは、声を張り上げた。

 

『【デュエルフィールド】!!』

 

「「「っ!!?」」」

 

「これは……結界か! なんと見事な……!」

 

「私から見ても魔法的に完成された代物だ……いずれ詳しく聞かせて貰うからな、オルランド・クラウソラス」

 

『この中であれば好きなだけ魔法を使える……本来は周辺に被害を出さず悪霊を抹殺する光の神官の技なれどまあこのような使い方もある。というよりはこの名的にはこちらが正しいのやもしれんが、そこは諸説だ』

 

 オルランドは結界を張り、全力を出す準備を整えた。相手にとって不足はない……都市最強の個人を打ち破ったのであれば、次は都市最強のパーティを打ち破る。

 

 そう決意して、オルランドは最初からギアを全開にすると決めた。

 

 詠唱はもはや不要、借り受けるのではなくすでに己の力となったそれ。あえて魔法名……宣誓の名だけでも告げるのは忘れないためだ。

 

『【光霊器クラウ・ソラス】』

 

 身体から鎧が外れ、今回は顔のある……すなわち本来のオルランドの姿へと戻る。周りには無数の光で作り出された武器。それを確認して、手に戦斧を作り出す。

 

「待たせたな……そちらにも準備期間を与えよう。好きにしろ」

 

「……舐めるなよ、私たちを。だが、利用はさせて貰う……【木霊せよ。心願を届けよ。森の衣よ。集え、大地の息吹──我が名はアールヴ】、【ヴェール・ブレス】! さらに……【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬。我が名はアールヴ】!」

 

「【吹き荒れろ】……!」

 

「まあ、こんなところでいいと思うよオルランド。さ、始めようか!」

 

 フィンが笑いかけ、オルランドは一言。

 

「先手は譲る。好きに来い」

 

 先手の譲渡、飛び出す四人の前衛。

 

「ぬぅぅぅぅぅん!!」

 

「良き力、良き技よ。老練の一撃、見事なり」

 

 ガレスの豪腕から振るわれる戦斧。己の戦斧とは似て非なるそれを光の剣を複数飛ばして受け止めた。

 

「はぁぁぁぁぁあっ!!」

 

「喰らえッ!!」

 

「連携は素晴らしい……実力もまた素晴らしい。若き力、恐るべし」

 

 次は蹴撃と剣閃が同時に襲いかかり、光の戦斧が2本、正面から攻撃とぶつかった。

 

「次は僕だ……!」

 

「如何にもそうだ。見た目によらず老獪、槍というチョイス。まさしく己を理解した技よな、英雄たらんとする者よ」

 

 フィンの槍と、浮かべられた槍とがまるで打ち合いのようにぶつかる。オルランドの空中にあるものの操作は凄まじいものがあった。

 

「どれ、こちらの番か?」

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

「おっとこれは……魔法、とやらか!」

 

 魔法の吹雪、三条の風に飲まれ男の氷像ができあがり……男の姿が氷の中から消え失せる。

 

「この身は光の投影、故に動けなくする程度であればこのように光のある場所に己を転移させることで対処ができる……瞬間的に移動するのは不可能故、これはこの魔法だったから助かったようなもの。見事見事……では」

 

 オルランドの目が剣呑に光ったように見えた。

 

「こちらの番だな?」

 

 浮かべたそれぞれの武器を破砕した前衛四人に対し、特大の大剣を一瞬だけ出現させて横薙ぎすることで吹き飛ばす。

 

「くっ……ってなんだいそれ!?」

 

 両腕を指揮者のごとく振るい、剣を、槍を、盾を、斧を、次から次へと放つ。弾幕、と呼んで差し支えない暴力的な数の武器たち。

 

「武器は人に鍛えられる。光の雨は武器となりて人を鍛える……とくと味わえ、道化の眷属」

 

「【吹き荒れろ】!!」

 

「風にて弾く……如何なる強風か! 全く、それには限りという言葉はないな」

 

 武器たちはアイズの刻風に吹き飛ばされ、再びリヴェリアが魔法を唱えきる。

 

「【ヴィア・シルヘイム】! これならばどうだろうか?」

 

「障壁か。魔法とはかくも自在にして万能であったか……奇跡と似て非なるモノである、とは正鵠を射る言葉であったやもしれんな……耐久試験と行こうか、リヴェリア」

 

「っ……来い!!」

 

「【これは万物を貫く極光、天示すは北の空、我が光の捧ぐ先。届け、遠い遠い無窮の果てへ】」

 

 弓を構え、光を集束させる。今は遠きクラウソラスへ、ソラシアへ届くように。

 

「さぁ、存分に受けてくれ……【グラン=シャリオ】!!」

 

 光が、束となり、線となって。

 

【九魔姫】自慢の最強の盾とぶつかった。

 

 

 

 

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