亡霊は今日も迷宮を行く   作:ゴーストライター

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相棒と仲間と

「ふふ……どうだっ……はぁ……っ……!」

 

「見事……凌いだか。ソラシアの【グラン=シャリオ】を。やはり、所詮は借り物の力。英雄と称えられたオルランド・クラウソラスとはすなわちクラウソラスの力そのもののみを頼りとして戦ってきた、実力のないものでしかないのだとわかっていたが……それでもいささか悲しいものだ」

 

 障壁はまだそこにあり、オルランドは弓を降ろして佇んでいた。しかし、それは降伏ではない。降伏であれば、今オルランドから放たれているこの戦意はなんだという話。

 

「鎧では勝てず、器では借り物。私は難儀な英雄だ……だが、まだ終わらぬ。まだ、終われぬ」

 

 リヴェリアは、その言葉に顔をひきつらせながら飲み干したポーションの空瓶を投げる。

 

「まだ、先があるとでも?」

 

「うむ。生憎、私に負けは許されない。使えるものは全て使わねばならん。ただ……これを使っていたのは数百年前。再び使えるようになったのはつい7日ほど前……手加減はできん。だがまあ、貴殿、貴女らなら受けることも出来よう……しかと焼き付けよ」

 

【ロキ・ファミリア】筆頭戦力たる彼らが、障壁の裏で再び準備を整えたのだろう、気配は再び戦闘になろうとして、オルランドは口を開いた。

 

「かつての私は豪気でもなんでもなかった。ただその日を愛する人と暮らせれば良い……隠棲し、森から恵みを受けて暮らしていた」

 

 幼なじみで術式適正が異様に高く、実に強いが病弱だったソラシアと2人で、森の奥にある小さな村で暮らす日々を思い出す。その生活で良く呼ばれたのがオルフェという渾名だ。

 

 それはそれとする。まあ実にソラシアは優しい女だった……見ず知らずの死にかけの子供を復活させるついでに世界から死病のことごとくを消し飛ばして大精霊に昇華した程度には。

 

 比べて、私は卑劣な男だった。彼女の考えに最後まで賛同出来なかった。彼女が大精霊となれば、ラウの街の大神殿、以後神殿と呼ぶが……精霊を奉るといって体よく幽閉し奇跡を封じる地獄に送られる。

 

 結局私はソラシアと一緒にいる時間が大事であって、目の前の子供の命などと比べてはならないように思っていた。

 

 だが、彼女の計画の強行を私は止められなかった。それを私は悔いている……ここまで来て、まだこうなのだ。当時の卑劣さといったら無かろう。

 

 精霊を集める神殿の特異な【奇跡】により大精霊クラウ・ソラス……ソラシアが神殿に幽閉されたのを確認してから、私は神殿の見習い騎士となった。

 

「英雄になるにあたって、この力は忌まれる力であった。神殿は私が器となったとき私にありったけの武器の扱いを教え、私に人として戦わせる術を教えたのだ」

 

 もちろん、見習い騎士であった私に目をかけるものは少なかった……それこそ教官程度であったが、ある日ついに一人前として大成した。

 

【神前宣誓】……まあ精霊に対して感謝の祈りなどする儀式のことだ。それを行った時、私はクラウ・ソラスに選ばれた……器、あるいは英雄として。

 

 そして、それ以降、神殿は私の扱いを変えた。反対と言ってもいい。多くの者が私に英雄としての戦いを、所作を教えてくれた。私は非才であったから、その多くを受け止められなかったことは今でも悔いている。

 

 そうして、幾人の英雄から教えを受け、時に実践し、永い年月を神殿の英雄として過ごしたが、結局いつまでたっても、最初に得たあの神秘から抜け出すことはできなかった。

 

「その……神秘とはなんだというんだい?」

 

 フィンは独白へそう訪ねた。手の槍を改めて握り締めながら。

 

「私は最初から、光の高い適正を持っていた。私に許された唯一の才能といってもいいだろう。そして、最初武器を映し出し手に取る程度が限度であった光の幻影を生み出す神秘は、私が日常で使ううちに洗練され、ついには極点へと至ったのだ」

 

「……まさか」

 

「そう、意思持つ生命の影を映すことだ」

 

「piiiiiilll……!!」

 

 フィンら【ロキ・ファミリア】の前に姿を晒した、巨大な、光と雷で構成された鳥。

 

 その横にはまだオルランドが立っている。それが意味するところはひとつ。

 

「投影により、命を投影し顕現させる……これを【生命投影】と呼んでいる。こやつの名は『ソピア』……私を常に支え、勝利へと導く最高の相棒だ。死してなお、その身を落雷と光条で支え、私と共にある」

 

「バカな……」

 

「ありえてたまるか、そんな魔法……生命の創造だと?」

 

「ふん、じゃが実際にわしらはこの目で見たぞ? 年増は頭が固くていかんのう」

 

「誰が年増だ……!」

 

 軽口を叩くガレスが盾とともに前へ進み、リヴェリアはその逆に下がる。フィンはリヴェリアの側に立ち、アイズとベートはガレスより後、リヴェリアの前の中間にそれぞれの位置を取る。

 

 軽くそれらを眺め、鳥と男はそれぞれに備えた。男の周囲に武器が浮かび、光鳥は地面を踏みしめて飛び上がり、雷光を纏って男の頭上に陣取る。

 

「怯まぬか、素晴らしい。しかしまあこれを使ったからにはなおさら負けられぬ故……全力で行くぞ」

 

 羽ばたきの音すらなく、雷光が空を駆け、フィンの槍と激突する。同時、地面を蹴る2人。アイズとベートだ。

 

「寄越せ、吹き飛ばす! てめぇが抜けろ!!」

 

「任せて! 【吹き荒れろ】!!」

 

「頼むぞ【フロスヴェルト】……!」

 

 2人の対処のため、飛ばした光の武器がベートの足から解き放たれた風刃により消え失せる。

 

 その間を縫い、アイズが飛び込み、至近距離戦闘へと持ち込む。

 

「もう同じ手は喰わない……!」

 

「ふふ……良いだろう! 望みの近接戦に付き合おう、とくと味わえィ!」

 

 風の剣閃と宙に舞う武器を端からひっつかんでは振るう剛撃が交わり、火花が舞う。

 

 数度刃を当て、光の大剣を大きく振るわんとして、

 

「俺を忘れんなよォッ!!」

 

 強烈な狼人の飛び蹴りが大剣に入り、オルランドは大剣を即座に手放して後退する。

 

「逃さない……切り抜ける! 【吹き荒れろ】!!」

 

 逃さない、その言葉通りに風を身に纏い、嵐のように飛び込んだアイズがその手を咎めたてた。

 

「いいものを見ていたな、使わせてもらおうか」

 

 ほんの一瞬だけだ。わずかに一瞬、オルランドとアイズの間にオルランドを中心とした半球状の障壁が出現した。それでオルランドの後退を咎める機会は失われる。

 

「……今の、リヴェリアの……?」

 

「あのババア、切り札真似されてやがる……厄介だな、あの壁俺たちじゃ厳しいぞ」

 

「でも、諦めない!」

 

「たりめぇだ、合わせていくぞアイズ……まだまだこっからだ」

 

「好きに来い! 胸を貸してやろうぞ……!」

 

 

 

 

 

 接近戦を存分にし始める3人から離れて、一羽と3人。

 

『piiiiiilll……』

 

「さて、どうするか……とりあえず、いつも通りのセオリーで行くとしようか」

 

「見た目が見た目、それにオルランドに無効化された【ウィン・フィンブルヴェトル】は有効ではないと思っていいだろう。まずは中位から試す」

 

「奴は飛べる、それに能もあろうて。行かせはせんが……万一に備えておけよ」

 

 全員が構えたのを見てから、ソピアは大きく翼を叩きつけ風圧を飛ばし、威圧する。そして、雷にも似た恐るべき速度で蹴りを叩き込まんとして。

 

「来るぞ!」

 

「儂を舐めるなよ鳥風情が!」

 

 ガレスの盾に阻まれた。即座にフィンの槍が飛ぶが、盾を蹴りつけて空中に戻るソピアの翼端にわずかに擦るのみ。

 

『piiiiiilll……pillluuuuuuu……!!』

 

 鳴き声と共に、ソピアが次に選択したのは遠距離攻撃。光球が鳴き声をあげる度産み出されては放たれる。が、鳴き声三度、ソピアは少々猶予を与えすぎた。

 

「詠唱終わりだ! 喰らえ……【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 炎柱に身を焼かれ、ソピアが絶叫する。

 

『piiiiiguuuuuU!!!!』

 

 怒りの意思を強く込め、ソピアは光で己を再構築。久々のダメージに心沸き踊りながら、翼をはためかせ、敵たる彼らの周りを超高速で周回しはじめた。

 

「なんだ……なにをしてくる?」

 

「裏じゃ! フィン!!」

 

「なっ!!?」

 

 高速で周回しているソピアは切りもんで彼らに突撃してきていた。突撃の終わりに再び周回に戻るソピア、間一髪の回避。そしてフィンは若干顔を渋くする。

 

「難しいな……これは。周るアイツに合わせるほかにない……だが、僕なら出来る! チャンスは一度きり……! やってみるしかないか」

 

「フィン! 心は決まったか!?」

 

「もちろん。ガレス、次の一撃を教えるか君が受けるかしてくれ。リヴェリアをヘイトにして僕が決める」

 

「任せよ……そうじゃの、【ヴェール・ブレス】でも構えておれリヴェリア!」

 

「魔法によるダメージが大きかった分私を警戒するはずだという理論と魔法発動による安全確保の二通り、どちらが通るかということだな? 任せておけ」

 

 リヴェリアの周りに魔法円が出現し、ソピアはそれを見てからわずかに周回速度を上げ、周回円の中に光の束を送り込み始めた。だが、完全にそれらを見切るガレスとフィンによりリヴェリアには届かない

 

 そして、それでも止まらないリヴェリアに痺れを切らしたソピアはついに切りもみ突進のため周回を停止して突撃し……

 

「見えてるよ、ソピア……!」

 

 正面から鋭く、ねじ込まれた槍の穂先を叩き込まれた。

 

 光がほどけ、消えそうになっていたソピアだが、一声鳴くと身体を再構築して主の元へと飛ぶ。

 

「撃退、というやつか。さて、合流したあやつらと決着をつけるぞ」

 

「ははっ……見たことない姿になってるけどなんだろうね、あれ?」

 

「いつものかくし球だろうな……まあ、やるしかないだろう?」

 

 3人は呆れながら、そして強者への渇望を秘めながら合流するため地を蹴った。

 

 

 

 

 

 ソピアは敗れて戻ってきた。ソピアは光の元でなら無限に己を再構築するという性質を持つ不死の鳳なのだが、さすがに見事にしてやられたので負けたと認めたらしい。

 

 本来ソピアに負けはない……無限の戦いの果て、勝つか、分けるかの怪物なのだが、さすがに模擬戦ということでの自重なのか。

 

「まあいい……これを見せる以上は私の勝ちだ」

 

 傲岸不遜な言葉が口をついて出る。目の前の者たちが警戒を強めるのが手に取るようにわかるが……

 

「良いか、英雄ども……真に強きとはなにか? それは理不尽を砕く理不尽に他ならん」

 

「理不尽を砕く理不尽、ね……どういうことかな」

 

「理不尽をこう言い換えよう。知っていようがいまいが、対策できぬ。繰り出されればそれにて終幕の絶技と」

 

 そう、これから彼らに見せつけるのは絶対の力。亡者から生者へと戻ったのならば、力もまた戻り来る。今まで戦っていたのはいわば慣らしだ、試運転だ。ここからは躊躇いなく、数段飛ばしの全力を見せつけるのみ。

 

「ソピア、頼むぞ」

 

 ただそれだけ言葉を発すれば良い。前の世界の微かな記憶、数十万の兵をわずか一刻の間に撃滅した極限の暴力はたったこれだけで行使できる。

 

 ソピアが光に戻り、己に戻り、己から表れる……大きな翼として。

 

「なるほど……融合、とでも言ったところか?」

 

「いっそおぞましいほどの魔力だな……警戒、では済まんな」

 

 途端、狼人の顔が真剣なそれへと代わり、エルフに確認を取るように声をかける。

 

「悪い、リヴェリア……矜持なんざ投げ捨てなきゃ勝てもしねぇ。アレを使う、役立たずにしちまうぞ」

 

「構わん……私よりもアレのほうが有効だ」

 

 そうして、私に起きている目の前の変化を目の当たりにしながら狼人は言葉を紡ぎ、詠唱をしていった。

 

 言葉の述べ終わりと同時、改めて翼を軽くはためかせる。最高だ……軽く、強く地を叩く風に昔を思い起こす。

 

「【天翔の雷翼】……さあ、始めよう」

 

「行くぜ? 【ハティ】……!」

 

 雷の柱が狼人に向かって立ち、その全てを悠然と受け止めて炎を増大させる狼人。性質を理解し、頷く。

 

「なるほど、魔力を吸収し増幅する焔か。なれば、まず」

 

 姿を掻き消すがごとく、超高速で移動する。身を光とする……これもまた性質の変化によってはできなくもないことだ。

 

「……ッ!?」

 

 まず風の剣姫に急襲、蹴りを叩き込んだ上で雷により追撃。意識までは刈り取れない、甘かったと理解。最後に回す。

 

「グォァッ!!」

 

 続き、【重傑】の名を冠するドワーフの腹へ手を当てて、雷撃の波動を叩き込み、大きく吹き飛ばしながらその意識を狩り取る。

 

「なっ……うおぉぉっ!!?」

 

 さらに、その流れを限界まで追う狂気の目を持つ小人族の男の真後ろへ、流れを作り出し短距離転移……これを【サンダークラップ】と呼ぶ。

 

 それを以て背後へと回り込み、咄嗟に振り上げられた槍を手で掴む。一瞬遅れて、移動した経路に雷が通り予期せぬ一撃を受けることとなった彼もまた倒れ伏す。

 

 最後に、順番を回した剣姫と、そも推察するになにもできなかろうエルフの女に照準を向け、解き放つ。

 

「蓄力最大……ゆけ! 【サンダーフェニックス】!!」

 

 二匹に分裂したソピアが空を駆ける。己は狼人を仕留めるために動いているのでどうなったかはわからない。

 

「てめぇなにしやがった……!」

 

「これがわかっていようがどうしようもないもの、というモノでな。今からその焔も貫いてくれようぞ……その焔、己にも損傷が来るモノであろう? 完全に吸収されたわけではない……さらに、魔力による回復はその焔が吸い取るためにできない。ゆえに、私はお前を削り切ることができる……!」

 

「……やれるもんならな。仲間もなにもかも持ってかれたが……いくらなんでも戦いすぎたな、オルランド。俺たちの月が、見えるだろ? まだ、こっから勝てる……いくらでもなぁ!!」

 

 雷鳳と孤狼がそれぞれに吼える。決着は、近い。

 

 

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