再び巡り来る眠りの中は、溢れんばかりの星の海に漂うように、現実感のない夢うつつの世界。だが、立ち止まった揺り船は夜見に可能性の未来を見せる。
また、私の記憶なの?
「またね〜夜見ちゃ〜ん!」
「また明日ね!」
夕赤に染められた駅前、高校近くに住む二人の同級生の友達と別れて、定期を改札にかざすとポーンという音と共に彼女をホームへ通した。
「そうだ!おとうちゃん駅までひろいに来てくれないかな」
慣れた手つきで端末を操作すると、父へとメールを送信した。ふと電車が来る方向へと目を向けた。梅雨明けが秋田気象台から出され、日も長くなり、製菓部の活動も少し広めにレパートリーを広げられるようになった。
「夜見か」
反対側から懐かしい声がかかり、振り向くとそこには美濃関の制服にスカジャンを着流し、背中には御刀の鞘が見えた。髪はすっかり伸びているが、鋭い目元に浮かぶ笑顔が変わっていないと気づかせた。
「暁。どうしたの、もしかして任務」
「ああ、そんなとこ。そっか、同じ高一なんだっけか」
「そうだよ、美濃関は中高一貫だから気にしないだろうけど」
夜見が陽気に見せるブレザー姿を見て、嬉しそうに笑顔をみせた。
「ブレザー似合うな、五箇伝の刀使は巫女服風のセーラーがほとんどだから、身近な奴が着ていると珍しく思えるよ」
「巫女服いいじゃん、どの高校も濃紺のブレザーで何の特徴もないし、暁ちゃんみたいにちょっとしたお目溢しもないんだから」
「わりぃわりぃ。でもよ、角館まで足伸ばす機会が岐阜行ってからあんまりないからさ、ずっと会いたいとは思っていたんだよ」
「そっか、私は暁なら大丈夫って思ってたよ。いつかひょっこりと顔出すってね」
明るく晴れやかな夜見を見て、暁は少し残念そうに息を吐いた。
「この時間まで学校で何してたんだよ。部活か」
「そうだよ」
カバンの中から、包みに入れたカップケーキを取り出した。
「そういえば、ケーキ屋が夢だったな」
「今なら製菓屋さんって言うかな、秋田市の専門学校に行けるよう勉強中だよ」
「ふぅん」
渡されたカップケーキをまじまじと見て、目を輝かせながら食べていいかと尋ねた。
「もちろん」
バナナがやや不器用に顔を出すケーキを一口ほおばると、暁の顔が綻んだ。そのまま、一口一口を大事そうに食べ、ケーキの敷紙をビニールの包みに戻した。
「ごちそうさま」
ずっと暁の顔をのぞいていた夜見は、どうだったかと聞いた。
「ちと生地の甘さを控えめにしたんだな。それでバナナの甘さが引き立っていた。でもちょっとパサっとしていた?」
「おお!よく気づきました!甘さ調整はうまくいったんだけど、焼き上がりの時間調整がまだ試行錯誤で、以前はちょっとクッキー生地みたいな食感になったから、ちょっとはマシになってるよ」
「うん、おいしいよ。私は好きだぜ」
「どういたしまして、ケーキ好きのあなたにそう言ってもらえるなら光栄だわ」
そうしているうちに駅に列車が入ってきた。
「わたしはこの駅で降りるんだ。すまねぇ、二人仲間を待たせちまっているかも」
「そっか、会えてよかった。なら!」
夜見はカップケーキをもう三つ、暁に手渡した。
「そのお仲間さんにもあげる。あと足りないだろうから、暁にもう一個」
「夜見」
穏やかな笑顔に含むところを感じたが、夜見は気にしないよう満遍の笑みを見せた。
「またね。暁!」
電車が発車すると、暁と夜見は互いに手を振り続けた。
やがて電車が離れ、暁の姿が見えなくなると、ポロポロと涙が落ちてきた。座席に座りながら、声を押し殺して泣き続けた。
あれから一夜明け、慣れた調子で支度を整えていると、食卓に座る。父と祖父、それに帰省していた下の兄が険しい表情でテレビを見ていた。
「どうしたの」
「鎌倉で大荒魂が暴れたそうだ!」
「えっ!」
のちに『鎌倉特別危険廃棄物漏出問題』と呼ばれる事件は、半年に渡って問題を起こし続けた。
私はただの高校生。
刀使になれない私ができることは、何もなかった。