~光紡ぐ八ツ鏡~   作:ひろつかさ(旧・白寅Ⅰ号)

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しょう・ますと・ごー・おん!

 糸の籠は開き、銀糸は目に見えなくなり、三人は目を見合わせた。

「将軍のやつは愚かだが、二人はバカやろうだ」

 低い調子で悪態をついた暁の言葉を、夜見と早苗は否定しなかった。

「これは二人の約束だったのですね。ラルマニさんはそれを守り続けている。それを理屈として理解しているかは、別としてですが」

「でもこれで、ラルマニに対しての言葉が見つかったよ。村国娘さんは決してラルマニを裏切っていなかった」

 俯く夜見にそう語りかけたが、夜見は納得いかないと首を横に振った。

「それならラルマニさんは村国娘さんの懺悔を何度も聞いたはずです。それでも刀使の力を一族に返してくれなかった。なぜでしょうか」

 三人の前に小柄に乗るスクナビコが、腕を組んで悩んでいた。

〔それなら直接、本人に聞くしかないね。ただ、どんな抵抗されるかはわからないけれどね〕

 記憶にまざまざと刻まれたラルマニの苦悶の表情がチラつき、彼女が簡単に口を開かないのは明らかだった。村国娘がラルマニからの呪いを受け入れ続け、それを子孫にも強いる結果を継承させ続けたように。

「そういえば、流さんと神さんは?」

 会議室には四人以外誰もいなかった。やがて、窓の向こう側から雄叫びが聞こえてきた。

「何か起きているのか?」

「行こう!」

 三人は会議室の外へ出て、博物館の中庭に出ると、そこには大量の小型荒魂の死骸が、紅馬と正躬の手で山になるよう積み上げられていた。紅馬は立ち尽くす三人に気がつき、ノロまみれになりながら笑顔を向けた。

「よう!早かったじゃねぇか!」

「あの、三佐どの、これは」

「見ての通り!小さい荒魂を二人がかりで始末したんだよ。たぶん壊属性だろうな」

「生身で!危険です!」

 早苗の注意は、眼前の光景に対してまったく説得力がなかった。

「俺たちはちと特殊でな!師匠から小型荒魂の対処法を習っていたんで、こうしてたたかえたわけだ!ただ、中型以上は手に負えねぇから、その時はお前らを引っ張り出す予定だったのさ」

 山の背後から鎌槍を手にした正躬が姿を表した。

「それで、有益な情報は得られたのか?」

「はい!大事なことがわかりました」

「けっこうだ」

 紅馬は高笑いしながら、猪目が刻まれた二本の斧を両肩に担いだ。

「それでこそ師匠が見込んだ子だ!それで、次はどうするんだ」

「ラルマニの墓へ!」

「その前によ!」

 夜見の前に進み出た暁は、端末を振ってみせた。

「この荒魂の処理と一日の休息だ!私が報告するから、夜見の家に戻っていてくれ」

「そっか」

「それと」

 紅馬へ向き直った暁は不敵な笑みを浮かべた。

「私も舞草に入る!色々教えてくれるだろ?」

「お前は、なぜ舞草へ?」

「私の大事なダチ二人の手助けをする!私の信じる最高のダチのな!」

「いいぜ!刀使は多いほどいい!どうせ、タギツヒメの奴には俺らの動向もバレているらしいしな」

「紫様が」

 嬉しそうにした夜見を見て、みんな目を丸くした。

「夜見さんは、そっか、信じているものね。紫様の意識がまだ生きているって」

 早苗の言葉に素直に頷いた。

 

 帰ってきた夜見と早苗はすでに陽が傾き、夜に差し掛かっていることに気がついた。皐月家の畑は赤焼けに染まり、山の合間に太陽が隠れようとしている。

「夕日の色はいつの時代も変わらないね」

 早苗の心配そうに震える言葉を聞き、首を横に振った。

「なら、ラルマニさんとご先祖さまとの間にあった絆も、簡単に消えないはず」

「そうだね!」

「それにしても、今が夕方ってことは、博物館にいたのは午後三時までで、記憶を見始めたのは午前十時。五時間もあの中にいたんだ!」

「え!なら流さんと神さんはいつまで戦っていたの!それと、博物館近くのグルメをチェックしたのに巡ってない」

「あ、こら!いつの間に、今日はうちの夕飯で我慢して」

「ふふふ、ごめんって!」

 

夕飯時には暁も加えて食卓を囲んだ。

 複雑な心持ちの夜見の祖父と父をよそに、母親は二人も友人を連れてきたことに大喜びして、泊まっていく支度まで済ましてしまう。迷惑にならぬようにと、暁が食材を持ち寄ることで皐月家に気を使った。この夜の食事は肉じゃがであった。

 月が登ると、腹ごなしにと三人は木刀を手に軽い稽古を始めた。

 夜見は、暁の隙のない打ち込み、早苗の頑強な防御とカウンターにたじたじとなった。改めて、二人の個性と、それに裏打ちされた剣の強さを感じずにはいられなかった。では、自分の剣とはなんだろうかと、つい二人に聞いてみた。

「そうだな。夜見の剣は終わりがない」

「終わりがない?」

 暁と答えを同じくしてか、早苗は言葉を続けた。

「夜見さんの剣は鎌府ではよく教えられている小野派一刀流の剣。でも、そのごく普通の剣を間断なく全て繋げて用いている。つまり、攻撃に終わりがなくて隙がない。だから私たちはどうしても本気で突き当たりに行くの」

「え、でも何度も崩していたのに」

「はぁ、夜見!お前何年剣をやってんだよ。それがお前の弱点でもあり、長所なんだよ。ほら、構えて」 

 暁が八双の構え、夜見が隠し剣の構えで対した。

「来い」

 その言葉に乗って、一直線に切り落とし、それに合わせて打ち込みをかけた暁の剣に弾かれた瞬間、すぐに方位を改めて打ち込みを続ける。それが、繰り返し何度も続き、隙もなく暁は受けの体勢を強制され続ける。我慢しきれず、強めに夜見の体勢を崩したが、今度は終わることのない返し剣の繰り返し、それも型の意義を理解した多彩な返しが走る。一瞬、息を乱した時には木刀の切先は暁の喉前に止まっていた。

「ほれ、一本取れた」

 息の切れる暁に対して、夜見は一切呼吸を乱さなかった。

「そっか、ずっと刀使になることや、写シのことばかり考えていて、自分の技量に目を向けてこなかったんだ」

「夜見」

 改まった口調の早苗の言葉は朗らかであった。

「頼りにしているよ。そして、あなたを頼る私たちにも頼って」

「うん、ありがとう早苗」

 

 秋田駒ケ岳を見上げる田沢湖から、山から温泉郷へまっすぐ続く道を車が走る。やがて、表の道を外れ、四人は車の入れない山道を歩き始めた。

「こっちで間違いないんだな」

 紅馬が先頭に行きながら道なき道を切り開く、獣道も絶え、はたしてこの先に目的の場所があるのか疑問に感じた。しかし、夜見、早苗、暁の三人に迷いなく方向を指し示した。

「そうか、村国娘が歩んだ同じ道を辿っているのか」

 やがて、茂みの中に石の積み上げられた構造物が見えてきた。

「あれか」

「はい、彼女が親友のために一個ずつ積み上げていった墓石の山。やっぱり、誰にも居場所を伝えなかったんだ」

 夜見は墓の前に立ち、スクナビコの名を呼ぶと小柄が一人でに飛び上がり、墓の周りを五周すると糸が宙を舞った。真剣なスクナビコはこの世ならざる金色の輝きを帯びている。

〔ここから先は夜見くん一人の戦いだ。覚悟はいいかい?〕

 夜見は進み出た。この日までを進んできた自分を信じる以外に、今を戦う術はない。

「会いに行きます!」

「いってこい!それで、しっかり刀使の力取り戻してこい!」

「あの記憶で見た想いは繋がるよ、私たちがここに繋がったように」

 糸は塊となり、そこから人一人が入れる口が開かれた。夜見の手には、神から預かった朱漆のペンダントと、ラルマニの蕨手刀があった。一歩を踏み出すと、糸の門は閉じられ、そこには白銀に輝く繭がそびえているのみだった。

「夜見!ぜってー帰ってこいよ!」

 二人に構わず紅馬はリュックを下ろし、そこから二振りの斧を取り出した。

「岩倉、稲河!タギツヒメはラルマニが味方につく事態を警戒している。それは、これからの戦況にどんな影響を及ぼすかわからない大玉!」

「それを阻止するために、タギツヒメなら」

「おう、来るな」

 二人が御刀を抜くと、墓を囲むように無数の赤い光が輝いた。三人が繭を守るように配置すると、赤い輝きたちはまっすぐ突っ込んできた。

「来やがれ荒魂!トマホーゥク!ブゥメランッ!」

 紅馬の投げやった斧は木々の合間を抜け、荒魂を無数も切り刻み、紅馬の手に戻ってきた。

「珠鋼は写シを貸してくれないだけで、力がないわけじゃないんだぜ」

「やっぱり常人じゃねぇな」

 タンクトップ一枚になると、筋骨隆々の鍛え上げられた戦士の肉体があった。

「見惚れている場合じゃ無いよ!行こう暁さん!」

「おうよ!」

二人も写シを張って荒魂たちに飛び込んでいった。

 

 

 

 

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