また私でない記憶が再生される。だがそれは、いつもの私からの目線じゃなかった。
「姫和さん?なぜ、泣いているのですか」
可奈美は珠鋼の精霊となり、そしてそれを背負うように旅立ってしまった。
どうすることもできなかった。
珠鋼はずっと、自身になれる人間を探していた。そして、可奈美という一人を見つけてしまった。それが彼女の『お役目』なら、止めてはならない。
だが、私は諦められなかった。
なんとしても、可奈美と現世で大人になる。
そんな些細な願いは、立ち塞がる壁を薙ぎ倒しても何も変わらなかった。
「姫和ちゃん、さようなら」
涙を流しながら、隠世の向こう側へ行ってしまった可奈美の消えた場所で、立ち尽くした。
あの日、沙耶香、美炎、結芽と共に、オノツチを倒した、富士山の山頂でだった。
駆けつけてくれた薫、ねね、沙耶香、エレン、舞衣は思い思いに俯き、涙を流した。
「あいつは、泣いていた。可奈美は、泣いていたんだ!」
薫が岩を叩くが、何も変わらない。
だが姫和は顔を上げ、そうかと呟いた。
その先には八千矛が剣に変化した、八千剣が火口の中心に突き立てられていた。
姫和の元にみんなが集まってくると、そこに立つ姫和の顔には先程の悲しみ歪んだ表情はなかった。
「みんな、私の中にはまだイチキシマヒメがいる。もう意思はないが、まだその力がある。それと、この八千剣の珠鋼を吸収して、可奈美と同じ状態に変化する」
「おいっ!そんなことすれば!」
「違う、私は迎えに行ってくる。必ず戻ってくる手があるはずだ。二人で隠世から戻ってくる時も、最初は手がないと思っていた。だが、帰りたいと願う、その意思がみんなのもとに帰る力になった」
「姫和ちゃん」
舞衣が顔を曇らせると、頼む任せてほしいとやさしく告げた。
首を振ると、まっすぐ姫和へと向き合った。
「姫和ちゃん、必ず!二人で帰ってきて!」
「ああ、必ず」
突き立っていた剣を抜くと、赤い炎のように燃え立ち、姫和の手から体内へと流れ込んだ。
すると雷が走り、白い両角と目が白銀に輝いた。
「行ってくる!」
小烏丸で空間を裂くと、ぱっくりと隠世が顔を出した。
飛び上がった姫和が傷口に飛び込むと、それはゆっくりと閉じられ、やがて見えなくなった。
「ひよよん、カナミン」
エレン。
「姫和、可奈美」
沙耶香。
「ずっと、ずっと待っているから!」
舞衣。
「ねぇねぇー!」
ねね。
「信じているぜ、姫和よ」
そして薫は、はるか空を遠く、遠く見つめていた。