~光紡ぐ八ツ鏡~   作:ひろつかさ(旧・白寅Ⅰ号)

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しばしそらにいのりて!

 日の丸をつけたオスプレイ輸送機が、轟音を轟かせながら東京湾を通過し、相模湾へと差し掛かる。調査隊、葉菜、早苗、そして夜見が乗り込んでいる。

「三佐!」

「おうよ!あと十分で着く!腰越海岸に強行着陸するから、しっかり捕まってろよ!」

「え!また無茶するの」

 青ざめる美炎の顔を見て、智恵が必死に宥めた。

「あれを!」

 清香とミルヤが同時に声を上げると、窓の向こうには江ノ島の上空を漂う、黒と琥珀の巨大な塊が見えた。それは、すでに島の傘になるように、海にも暗い影を落としている。

「なんて規模だ。これをどう鎮めるってんだ」

 呼吹が苦々しく言うと、ミルヤは夜見に向き直った。

「皐月夜見、あなたには秘策があるのですね」

 夜見は深く頷き、一同は互いに顔を突き合わせた。

「銀糸の力は、人と珠鋼とノロを結べるのと同時に、解くこともできます。あの塊を統べる沙耶香さんからノロとの関係を解き、ノロを江ノ島地下に再封印します。ただし、あらゆる障害を排して沙耶香さんの元に無傷で辿り着きたいのです。あとは沙耶香さんを抑えるなり、説得するなりします!」

「了解した。調査隊は全力であなたを糸見沙耶香の元へ送ります」

「任せて夜見!コヒメも葉菜も無事だった。なら、糸見さんにも元気で帰ってきて欲しいから」

 美炎のやさしさに、清香も同じ思いを口にした。

「うん!まだ糸見さんとは話し足りないもん」

 智恵は頷き、全員の顔をみやった。

「そうね、私たちならできるわ」

 由依は真剣な顔で夜見に向き合った。

「沙耶香ちゃんをお願い」

 葉菜はその言葉に頷いた。

「僕からもお願いしたい。沙耶香くんは大事な友達だから」

「はい。必ず連れて帰ってきます」

 呼吹はだるそうに、天井を見上げた。

「んぁー、荒魂ちゃんいないのはやる気しない」

 それを聞くと、紅馬は呼吹に端末を投げやった。

「あれだけのノロだ。木端の荒魂が、巨大化したくて集まってきてるぜ」

 目を輝かせた呼吹は、一変して元気に腕を振り上げた。

「よっしゃ!あたしの荒魂ちゃんがたーんと!うれしいぜ!」

「呼吹ちゃんはこうでなくっちゃね」

 早苗は終始端末を動かしながら、荒魂の集合状況からルートの策定を急いでいる。

「早苗」

「うん」

「戻ってきたら、おいしい紅茶のお店行かない?」

 顔を突き合わせると、お互いに笑い合った。

「デートのお誘い?」

「そう!たまには二人で」

「いいよ!もちろんお茶菓子の美味しいお店でもあるところをね」

「もちろん!早苗の口に適うお店を選ぶよ」

「わかった!楽しみにしてるね!」

 輝は感慨深そうに二人の会話を聞いていた。

「夜見。あんたさ、紫様から離れた日、一人ぼっちに見えたんだよ。のこのこタギツヒメとの争乱に現れてさ、おまけに能力不足で、今更なにしに来たんだって」

「ひどい!そんなふうに思ってたんですか」

 夜見に向けられた眼差しは、いつものおちゃらけた感じではない。大人の顔だった。

「今はあんたに背中を預けたい。任せたよ」

「はいっ!皐月夜見!全力を尽くします!」

 紅馬が急降下を始めると言うと、全員御刀を抜いて、写シを発動し、座席に張り巡らされた手綱を握った。

 強引に機首を上げて機速を落とし、着陸脚を出すと、計器からありとあらゆる警告音が轟いた。

「後部ハッチ解放!お前らぜってぇ負けるんじゃねぇぞ」

 プロペラが砂浜を叩き、そして脚を降りながら大地を引き裂くように斜めに着陸した。

「行くぞ!」

 ミルヤの号令と同時に、彼女達は江ノ島を目指して飛び出した。

 紅馬の言う通り、海を恐れて砂浜に立ち往生する荒魂が溢れている。

「みなさん!住民の本部への避難は完了しています!応援も来ます!思う存分、暴れてください!」

 早苗のその言葉に、呼吹はニヤリと笑って一体の荒魂を切り裂き倒した。

「さぁ、来い来い来い!荒魂ちゃんたち!愛してるぜ!」

 呼吹に向かって荒魂が集まるのを見て、ミルヤは清香と早苗に共に荒魂を海岸に引きつけるよう指示した。

「美炎ちゃん、行ける?」

「うん!この先は任せて」

 智恵は踵を返し、三人の元に走った。

「ミルヤ!」

「許可する!」

「ありがとう!」

 弁天橋で互いにぶつかり合う荒魂を通り過ぎざまに切りながら、その隙間をひたすら抜けていく。早苗の準備した迂回ルートを登っていく。

 だが、飛行型も上空を埋め、進む先を角鹿型が他の荒魂を薙ぎ倒しながら待ち構えている。

「こうも島を埋め尽くされると前へ進めない」

「ダメだ。この先も強い荒魂が待ち構えている!消耗戦になる」

 建物の影に隠れている五人の前に四人の刀使が、その角鹿を見事な連携で斬り伏せた。

「五人で足りないか?なら。力を貸すぜ夜見!」

「暁!」

「まだ、優稀ちゃんを助けてくださったお礼をしていませんから」

「麻琴さん!優稀さんも!」

「夜見ねーさまのために、魂依布を持ってきたらこれですよ」

 優稀は背負っていた重々しいケースを五人の前に出した。

「でも、なぜここに」

 暁は小さな荒魂を切り払う弘名を指さした。

「必要がなくなればなーと、結芽さんにも協力していただいたのですが、説得に失敗して」

「最悪は、沙耶香を切ろうとな、でも」

 九人が空を見上げると、空を赤く染めるノロの輝きが未だ肥大化し続けていた。

「これは、ただ切るだけでは無理ですね。手がありません」

 弘名の諦めた声色とは対照的に、ミルヤはハキハキと声を張った。

「でも、九人いれば、二手で片方を陽動に使える」

「さすがは調査隊の隊長さんだ!さぁ!その前に、美炎と夜見はお色直しと洒落込むぞ!」

 白と金で彩られた巫女服は白銀の輝きを瞬かせ、夜見には黄金の額当てが装着された。

「暁、これって」

「おう!『祭祀礼装・禊』正式には『魂依布』だ!最初の量産品二着を受け取ってくれ!」

「額当ては、『魂依』の技術を応用した、珠鋼とノロの混合液を通わす防具。絶対にあなたをまもってくれます」

「ありがとう暁、麻琴さん!」

 暁は三つの包みに入ったチョコ菓子を夜見に手渡した。

「あとで食べるのに持っていてくれ、つまみ食いしたら許さないぞ!」

「はい、はい」

 夜見、暁、由依、葉菜と美炎、麻琴、ミルヤ、優稀、弘名の、二班に別れ島の左右から上へと向かい始める。

「いくよカナヤマヒメ!神居!」 

 大きな炎が舞い上がり、それを浴びた荒魂がことごとく消し飛んだ。

 飛び火で火傷した荒魂が飛び込み、それに釣られて続々と荒魂が集まってくる。

「安桜!お前が最先鋒だ!」

「はいっ!この魂依布、なんて力なの!」

 切り払いながら、麻琴は笑顔を見せた。

「それは、あなたのポテンシャルの高さから来るもの、そしてカナヤマヒメの力を制御しえる愛宕の血脈がなせること、魂依布はそれらの力を底支えしているだけ」

「でも、これなら、負けない!」

「はいー、効率よく処理しましょう」

「弘名さん、そればっかぁ〜!」

 優稀も悪態をつきながら、弘名の作った突破口に滑り込んで荒魂を切り払う。

 美炎班は、ミルヤの卓越した指揮でバラバラの連携をまとめ、陽動の仕事を十二分以上に果たしていた。

 

 別働の夜見たちは、暁を先頭に次々と荒魂を切っていく。

 一対一なら無敗の喧嘩剣法の突き上げるような一撃が荒魂を人たちで薙ぎ払い、その後ろから切り漏れた荒魂を由依と葉菜が叩き祓う。夜見は三人の気迫に勇気づけられ、先へと進む。

 だが、目の前に九つの尻尾を揺らめかせる狐型の荒魂が立ち塞がった。

「げぇーっ!よりにもよって天狐かよ」

「しょうがないよ番長!」

「やるしかないんだ!僕らはここで止まれない!」

 三人が飛び込むが、天狐の死角のない毒の放射と尻尾による物理攻撃が、三人の攻撃を許さない。

「私も」

「だぁーめ!」

 夜見を押し留める小さな手が、誰であるかを思い出させた。

「夜見おねーさんは大事な役目があるでしょ」

 その飛び込んだ黒い閃光は天狐の攻撃をことごとくいなし、あっという間に尻尾の一本を切り落とした。

「ここは結芽にまかせて行って!」

「行くんだ夜見ぃ!いけぇーっ!」

 夜見は怯んだ天狐の脇を迅移で抜け、島の最上部へ駆けて行った。

 四人は天狐に再び切先を構えた。

「葉菜おねーさん、ごめん。結芽じゃ沙耶香ちゃんを止められなかった」

「大丈夫ですよ。きっと思いは届いたはずです。あとは、ちょっとお灸を据えるだけです」

「そうだよ結芽ちゃん!沙耶香ちゃんは素直で優しいところがかわいいんだから」

 三人の沙耶香への優しさに、大平での夜見との再開の日を思い重ねた。

「よっし、ほんじゃ、気張っていくぞ!」

 三人は暁の発破に応え、飛びかかっていった。

 

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