キャラクリオタクのTS聖女キャラクリ計画 作:りりー
神が隠れて以来、世界は四つに分かたれた。
地獄と呼ばれて久しいこの世界は、神に向けられていた信仰をが神を支えていた天使、四方天によって分割されている。結果、それぞれ信仰を得た天使がその信仰を使って好き勝手をするという構図ができあがっていた。
ここ、西方地域と呼ばれる土地では謎の奇病『カリフ病』が蔓延していた。ある日突如として人間の腹部に異様な斑点が発生し、その斑点が発生した人物は数日のうちになくなってしまうというもの。
この病気のせいで、西方地域の経済は大きく麻痺、それを見た西方地域をまとめる天使を信仰する教会『西方修道会』が現在西方地域の統治を一手に担っている状態だ。
『西方修道会』では『カリフ病』の進行を押し止める薬の開発に成功した。この薬を使えば、カリフ病にかかっても普通の人間と変わらず生活することができるという。
しかしこの病気の特効薬は、ある条件を元に作られていた。
その条件とは、若い少女を天使『ガブリス』に捧げることだった……
=
「皆様、お集まりいただき誠にありがとうございます」
西方修道会の教会、その祭壇に一人の男が立っていた。神父の服を身にまとった肥え太った豚のような大男。見るからに贅の限りを尽くした生活を送っていることが解る男の名を、西方修道会会長、ダグラス・トレインと言った。
つまり、現在この西方地域で最高の権力を有し、人々を導く立場に立っている男というわけである。
そして教会には、彼に勝るとも劣らない醜い容姿の男たち、明らかに富裕層の男であることが解る者たちが集まっている。
ダグラスはこれらを信徒、と呼んでいた。
「今宵は月に一度の贄納めの儀、西方各地より集められた少女たちを、皆様信徒が救済に導く大事な日でございます」
現在、西方教会では少女をガブリスに捧げるための準備段階である『贄納めの儀』が行われていた。これは今この場に集められた信徒たちが、捧げられる少女たちを自身の所有する『聖櫃』へと持ち帰り、その信仰を高める行為を指す。こうして聖櫃で信仰の高まった少女達は贄として高い効果を発揮し、『カリフ病』の特効薬となって信徒達へ配られる。
「皆様の信仰を神へ捧げる大事な日、誠意ある信仰を願います」
そしてその信仰は通貨によって示される。
建前を全て取っ払うと、カリフ病の特効薬に加工される直前の少女をオークションで売り払い、生贄にされるまでのあいだ好きに扱うことができる。そうして生贄の期日になると回収され、代わりに彼女たちから採取できるカリフ病の特効薬を受け取ることができるという仕組みだ。
得られる対価は若く美しい少女たちの肉体と、信徒たちを苦しめるカリフ病の進行を抑える薬。厄介なところは少女たちの肉体という対価こそ存在しているものの、本質的にこの場へ集まった富裕層の信徒すら金を払ってカリフ病の特効薬を手に入れなければならないということだろう。
現在、西方修道会はカリフ病とその特効薬で、西方地域全体を効率的に支配することを成功させていた。
「さて、儀を始める前に、本日は先にこちらの紹介をさせていただきたく思います。本日の儀における目玉。“加護”を所有した少女であります」
ダグラスがそういうと、おお……と周囲から声が上がる。
加護というのはこの世界において、魔術と並んで特別な力である。魔術は神から敵視される悪魔の力がもととなっているが、加護は神の力がもととなっているため、どこでも大手を振ってつかえることが魅力だ、建前上の話だが。
「こちらの少女は儀にも出品されますが、価格は30億とさせていただきたく」
どよめきが増す。どうやらダグラスは彼女を売り払うつもりはないようだ、と周囲は理解したのだ。もちろんそれに不満はあるが、ダグラスがこの場における最高権力者であることは理解している。
誰も意義を唱えるものはいなかった。
ちなみに30億は、この場にいる信徒全員の資産を足しても足りない数値だ。暴利以前の問題である。
「では、まずはご覧いただきましょう、彼女こそ我が教会が見出した加護の聖女――」
ダグラスが示すと、一つの棺が運ばれてくる。この棺は贄となる少女を収めるための棺であり、棺には睡眠の魔術が仕込まれている。少女たちは眠りについた状態で信徒たちの前に晒され、その美貌を観察されるのだ。
そして、運び込まれた棺は、ダグラスの手によってゆっくりと開かれる。
そして現れたのは――
神と見紛う少女だった。
蝋燭の明かりだけが照らす室内で、彼女はほのかに光を帯びていた。故にその肢体は遍く室内へと届く。
とはいえそれは異様な光景だ。加護と片付けてしまえばそれまでだが、現れた少女に愕然としているダグラスがこれを否定する。
年齢は十五前後だろうか、流れるような黒髪は、丁寧に切りそろえられ、前髪は若干長めだが目が隠れないように流されている。目が閉じているため瞳は覗けないが、柔らかい目つきをしているだろうことは想像できる。
顔つき自体が小顔なのもあるが、年齢の割に幼い印象を受ける少女は、手足が細く若干短め、華奢という言葉がよく似合う肩幅、腰つき、そして年齢で見ると相応だが、顔つき故に若干豊満に思える胸部。
一つ一つが完成されたバランスの中にあり、それは少女に神という印象を植え付けるには十分なものだ。
そしてそれを目にした信徒たちは、
「が、ああああああああ!」
「ぎゃああああ!」
「いたい、いたい、いたい、剥がれる、剥がれる――――!!!」
阿鼻叫喚。
そんな中で、唯一痛みを覚えないダグラスが、周囲に怒鳴り散らして状況をなんとか把握しようとしていた。
「おい、どういうことだ! こいつはマリアではない! 早くマリアを探せ、こんな奴がここにいるはずがないのだ! おい!」
しかし、そう叫んだ相手もまた、腹を抱えて苦しんでいる。それはダグラスの小間使いであり、今この場で苦しんでいる富裕層と違い、奴隷未満の扱いをされる存在である。
それが苦しんでいるということは、苦しむ理由は富裕層だから、ではないのだ。
ダグラスは少し考えて、ハッとなにかに気がつくとその小間使いに駆け寄り、服をめくりあげる。ローブ姿の少女は、あちこちを痣や打撲痕だらけにしていたが、何よりも特徴的なのは体の斑点だ。
『カリフ病』を患っている証拠である。そしてそれは、信徒と呼ばれていた富裕層たちも同様。
だとすれば、
「こいつ、まさか――!」
事のあらましを察したらしいダグラスが、棺の中に目を向ける。光を帯びたおかしな少女、彼女が全ての原因だ。
だからこそ、ダグラスは少女の存在を確認したのだが……
「……っ、いないだと!?」
既に少女の姿はそこになかった。
逃げ出したのだ、ダグラスが目を離した一瞬で。この場で平静を保っているのはダグラスだけ、祭壇の下では腹を抱えて苦しむ信徒達が、ダグラスに救いを求めている。
とてもではないが、少女を止められるはずがない。
「クソどもがぁ!!」
一人、ダグラスの叫びだけが教会に響くのだった。
=
びっくりした。転生したと思ったらいきなり棺に入れられていた件。しかもどこかに運ばれている最中で、周囲には物々しい服装の連中に囲まれていたら、逃げるものも逃げられない。
ただ、幸いなことに人目に触れた途端、周りの人間が苦しみだして、唯一そうではないおっさんが目をそらした隙に逃げることができた。
いきなり何だそれ、っていう事態に見舞われたものの、現在は身を隠してボクが逃げてきた教会らしき場所を眺めている。
贅沢な作りの教会だ。あちこちに宝石や金をあしらって、その存在を周囲に誇示している。質素なイメージの教会とは正反対の、金持ちが道楽で建てた場所、以外の何物でもなかった。
さて困ったことになった。現在時刻は夜の真っ只中、ステータス画面を呼び出すと確認できる時計によると、二十三時、基本的にこの世界の時刻は地球とそう変わらないんだろう。
そして何に困っているかといえば、ボクの体のことである。
光っているのだ、ほんのりと。
人がいないので助かったが、もし目についていたらそれはもう目立っていたことだろう。まぁ、目立つだけで済めばいいが。その後の光景は壮絶としかいいようのないものだったからな。
とはいえ、ここまではある程度
こうなることも。
というのも、キャラクリの段階でボクは一つの問題に直面していた。
スキルを取るのにポイントが足りないのだ。確かにボクは400ptを容姿の変更に突っ込んだが、それはそれだけ容姿にポイントをぶっこんでもビルドとして成り立つと考えたからだ。
そもそもキャラクリは確かに大事だが、容姿以外の性能もとても大事だ。
顔がいいだけの女とか、異世界でどんな目に遭うか想像するまでもない、最終的に快楽に負けて幸せになれそうだよね。
だからもちろん、ビルドとしての強さも重要だった。苦渋の決断だが、いくらかはポイントを容姿ではなくスキルにぶっこむことにしたのである。
ビルド案としては幾つか選択肢があった。上位スキル二つを取得してそのシナジーを利用する。もしくは上位スキル一つと下位スキル複数でシナジーを構成する。どちらも間違いなくチートでTUEEができるが、どちらの場合でもスキルポイントが300から400必要になる。これでは容姿に回せるポイントが100しかない。
これならいっそ、容姿を通常のキャラクリでなんとかして、ポイントを全部スキルに回したほうがマシだ。
そこで行き詰まったのだが、ふと女神様との会話を思い出した。スキルとは加護であり、スキルポイントとは信仰であると女神様は言っていた。であれば、スキルポイント自体にも力があるのでは? そう考えたのである。
結果は正解だった。スキルを見てみれば、信仰を使って肉体を作り変える『魅了肢体』というスキルが存在していた。女神様がこのスキルを取ってはいけないと言っていたが、そこは下位スキルのシナジーで補えば問題ない。
結論はこうだ、スキルポイントのうち400ポイントで上位スキル『魅了肢体』二つ分の肉体を作り、それを下位スキルで補う。実質上位スキル二つと下位スキル二つのシナジー構成だ。
そして今、ボクは取得した下位スキルのうち、一つを使用する。
「……下位スキル、“身体正常化”」
直後、ボクの体から放たれていた光が収まった。おそらく、ボクを見ても周囲の人々が苦しんだりすることはなくなるだろう。今のボクの肉体は、身体能力のクソ高い普通の少女という状態で正常化されている。
身体正常化。
効果をそのまま読み上げると、『使用者の肉体を正常な状態に変化させる。この場合、正常な状態とは使用者の認識に依って変化する』。
さっきも言ったが、ボクの認識する正常な状態は『身体能力のクソ高い普通の少女』である。現在、ボクの体には上位スキル二つ分の信仰がぶっこまれていて、その肉体は神にも等しいスペックを有している。それを正常化によって地に足ついた状態で固定するのだ。
結果、ボクからあふれる神々しいまでの信仰は収まった。想定通りである。
「さて、いきなり変な状況に巻き込まれてしまったけど、まずはこの世界について把握しないと。……それに」
ここまでは想定通り、既定路線である。
が、しかしここからはイレギュラー、というよりボクもここから先のことは場当たり的になんとかしようと思っていたところだ。
その上で、まず真っ先に考えるべきは――
「この子、どうしよう」
ボクは、自分が連れ出した一人の少女に目を向けた。
あの棺に、
加護――スキルを有し、豚男のものになるはずだった少女である――
存在しているだけで呪いとか浄化します。
スキルはスキル同士を組み合わせるとTCGみたいなシナジーを発揮しますが、
組み合わせることができるのは転生者だけです。
普通のスキル持ちは一人一つしかスキルを持てないんですね。