キャラクリオタクのTS聖女キャラクリ計画 作:りりー
マリア・アトライナは記憶喪失の少女だ、ある時西方地域のとある貧民街で倒れていたところを拾われた。当時の年齢は十歳ほど、見た目の良かった少女はそのまま娼館に連れて行かれ、売り払われた。
ただ、そこで客を取るより前に、彼女の加護「神聖浄化」が判明し、娼婦としてではなく医者として娼館に囲われることとなった。
「神聖浄化」は、あらゆる病気や不調を浄化することのできる加護である。言うまでもなく、西方地域で蔓延している「カリフ病」もまた、治療することができる。
間違いなく、西方においては爆弾となりうる少女だった。
そんな少女を匿う決断をしたのは、娼館の女経営者、いわゆる遣り手婆と言われる老女だった。理由は様々だったが、老女の根底にあるものが娼館を経営するのが路頭に迷う少女たちを守りたいという意志だったことが大きいだろう。
そうして少女は、年上の娼婦や同年代の禿とともに成長した。彼女のおかげで病気を恐れる必要のなくなった娼館は商売に精を出し、間違いなくこの時代のマリアは幸福だったと言えるだろう。
老女が倒れるまでは。
理由は寿命だった。既に七十を越えていた老女は、この世界では長寿の域を越えた長命である。マリアの加護があったにせよ、相当な活力に満ちていたことも大きいだろう。
厳しいが、慈愛に満ちた人だった。
だが、彼女が倒れれば娼館は一気に苦しい立場になる。
老女の存在だけが少女たちを守る防波堤だったのだ。老女は後継者育成にも尽力していたがうまく行かなかった。娼館の少女たちを欲しがる富裕層の信徒達が後を絶たなかったからだ。
贄納めにこの娼館の少女を差し出せという突き上げは年々激しくなっていた。老女はそれをなんとか食い止めていたが、それ以上のことは難しかったのだ。
そして、老女の死とともにその後を受け継いだ女性は、老女を裏切った。
かくして娼館からマリアを始めとした少女たちが贄納めの儀に送り出されることとなる。
――マリアはそのことを、決して恨んだりはしない。この地獄のような世界で生きていくためには、老女のような頑ななまでの覚悟か、強者に阿る姿勢のどちらかが必要だ。
老女には前者があって、後継者には後者があったというだけの話。
ああけれども……叶うなら、外面くらいは繕ってほしかった。だって自分たちは老女に救われた立場なのだ、だからその恩を返すことに躊躇いなんかなかったのに。
涙の一つでも欲しかったな、とマリアは思いながら棺の中に入れられて、その時を待っていた。
そんな時、声をかけられた。
「――ああ、ようやく手に入ったぞ、マリア……俺のマリア」
棺の向こうから聞こえてくる声は、顔が判別できない。けれども、どこかで聞いたことのあるような声だった。覚えがあるが、思い出せない。
「覚えているかマリア、俺はダグラスだ、ダグラス・トレインだ……覚えているだろうマリア、ああ答えなくていい、わかっているからな」
――ダグラス。
スグにピンと来た。西方地域の最高権力者、西方修道会の会長、ダグラス・トレイン。知らないはずはない、しかしどうして自分に声をかけるのだろう。
「お前をあの娼館で見た時から、お前は俺のモノになると決まっていたんだ。その目、その顔立ち、間違いない。お前は聖女となる器を持っている。そのためにどれほどの苦労をしたか」
……わからない、本当に覚えがない。声に聞き覚えがあるということはどこかで声を聞いたことがあるのだろうが、
「あのババアがあそこまで頑なだとは思わなかったよ。
――――――――待て。
この男は何を言っている? 店の女を潰した? 知らない。
「ステア、ライナ、クロン、ミトラ、お前の店から消えた女の名前だマリア。知っているだろう? そいつらは俺が潰したんだ。方法は――クク」
――――知っている。
遣り手婆が「身請けされた」と言っていた姐さんたちだ。自分に良くしてくれた、大切な人たちだ。
それが、潰した?
「
棺の向こうから、いやらしく笑う男の声が聞こえてくる。
理解できない、理解したくない。それじゃあその人達は、自分のせいで死んだのか? 自分が拾われたせいで、犠牲になったのか?
「――――ハハハ! 中から殺意が伝わってくるようだ。いいぞ、俺を恨め、俺を憎め。世界を憎め! お前が憎めば憎むほど、それを屈服させた時の絶頂も捗る」
――冷静でいられなくなりそうだ。
声を上げて叫びたいが、敵わない。睡魔が突如として襲いかかってくるからだ。棺には贄を眠らせる力があると説明を受けていた。贄を苦しませないためだとも説明されたが、今となってはそれが欺瞞だと解る。
ああ、こんなことなら――
――自分を棺に入れた連中を、一発ずつぶん殴っておくんだった……
=
――気がついたら、それはいた。
中に入れられたモノを眠らせる魔術が施された棺で、本来マリアが目を覚ますことはない。なのにどうしてかマリアは目を覚ました。マリアはどうやら運ばれている最中のようで、近くからダグラスが周囲を罵倒する声が聞こえてくる。
やがて、喧騒が近づいてくる。どこかで自分が見世物にされようとしているのだと、マリアは悟った。
そして、それに気がついたのだ。
棺の中に、もうひとりいる。
自分しかいないはずだった棺に、誰かもうひとり、女の子が収まっている。自分より二つくらい年下に見える少女は、淡く光を帯びていた。
そのことを認識した時、マリアは理解した。
神がそこにいるのだということを。
この世界は腐っている。どれだけ幸せに命を終えても、その後に大事なものを喪ってしまうかもしれない。どれだけ幸せな人生を歩けても、ある時突然それが終わってしまうかもしれない。
人は生きているだけで腐っていく。そんな世界に価値はあるのか? 考えたこともなかったが、今ならそんな考えが今なら浮かぶ。
悟りを得たのだ。世界は救われない、腐っている、終わっている。そんな世界で、神がいるとしたら、彼女なのだと。
なぜなら光っているし、あまりにも可愛らしい、そしてなにより、
そう、マリアは今尻に敷かれていた。
棺は大きかったのである。だから出現した少女は、マリアの少し上に出現した。ちょうどマリアの顔のあたりにお尻が当たる位置である。
やわらかかった。娼館では良くおっぱいの大きい姐さんたちに挟まれたりしていたのだが、それの比ではないくらいやわらかかった。
マリアもそこそこ容姿は優れている方だ、加護を持っていなければ娼館でもトップを取る娼婦になっていたと言うくらいだ。
ふわりとウェーブがかったプラチナブロンド、意志の強いキレ長目と同年代と比べても豊満なボディは男性ウケがいいと評判だ。
まぁ、客を取る機会は一生訪れなかったわけだけど。
けれども、そんな自分の容姿など関係ないくらい、それは神々しいまでのボディだった。神が作ったのではないかというほどのその体に、一瞬でマリアは引き込まれてしまった。
何より、彼女の存在は救いだ。
自分の人生は、誰かの人生を犠牲にして育まれたものだった。どれだけ幸せにしようと誰かが努力してくれたとしても、それが一度でも途切れてしまえば終わりなのだと知った。
そんな世界に、ただいるだけで救いを与えてくれる存在。
ああ、そこにいてくれてありがとう。そう伝えたいと思ってしまう少女が、そこにいた。
そして、棺は開かれた。
突如として光が外へと漏れる。棺が開かれたのだ。全く耳に入っていなかったので、外で何があったかは見ていなかったが、おおよそ想像は付く。
マリアを見せびらかせるつもりなんだろう。でも、それは敵わない。現れるのはマリアではなく神だ。神がそこにいる。きっと神は、奇跡を起こしてしまうだろう。
それはまったくもってそのとおりだった。
苦しむ信徒、狼狽するダグラス。
信徒達は、だいたいが娼館にもやってくる横暴な客だった。姐さん達が彼らに傷つけられて泣いていたのを知っている。それ故に、胸がすく思いだった。
夢のような光景だった。
そして、夢の終わりでもあった。
――マリアは知らなかったとは言え、大切な人を傷つけ死なせてしまっている。そんな罪深い存在には、ダグラスに食い殺されるのがお似合いだ。
そう、思っていた。
でも、
――少女が、それでも手を伸ばして来た。
救いを求めたわけではない。何より少女は、本当に何気なく自分の手を掴んだ。救いたくて手を伸ばしたわけではないんだろう。
それがどうしようもなく、マリアには眩しくて――何よりも、手を取るよりも早く彼女はマリアを掴んで。
その場を逃げ出したんだ。
気がつけば、二人は町の外を抜け出して、夜の闇に紛れていた。
そこは教会が望める高台で、気がつくと光を帯びていた少女から光が消えて、その姿もどこにでもいるとは言わないが、優れた美貌を保つ普通の少女へと変化した。
いや、『それが正常になった』のだとマリアは理解する。加護の一種なのだろう。
それでも、少女が神であることに違いはない。
風に髪をなびかせながら、少女は教会を眺めている。
マリアは、ぽつりと問いかけていた。
不敬にも、不幸にも。
「あ、貴方……名前は?」
――少女の名前は、以降歴史に記されるだろう。その第一歩を自分が為してしまったのである。
「――ボク?」
どこか性別を感じさせない神秘性を有する少女は、自分をボクと呼んだ。マリアは、彼女こそが神であるという確信を強める。それは性別を感じさせないのではなく、超越しているということだ。存在を、人という枠を超越している。
「ボクは……そうですね、あえて名乗るなら――」
少し考えて、少女は口にする。
それが、始まりであるということを自覚してか、していないのか。
「クリエイト……うん、クリエイトがいいです」
クリエイト――少女はそう言って納得したようにうなずいた。
それから、促すようにマリアを見る。名を聞かれているのだと、最初は信じられなかった。
――それでも、答えるしかないことを理解して、答える。
それが、始まり。
「……マリア・アトライナ、女宮アトライナのマリア……だから」
クリエイトと、マリアは出会う。
少女の信仰とともに、世界の救済はここから始まった。
神はいます、今お尻に埋もれました。