キャラクリオタクのTS聖女キャラクリ計画   作:りりー

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4 聖女侵入

「この世界は、主に四つの宗派が領土を分割した状態で所有していて、それぞれの地域で無法を働いているんですね」

「うん、クリエ様」

「なんです?」

「クリエ様は……女神様だから……」

「もう体から光は発してないんですけど……」

 

 今のボクはスペックの高いキャラクリ聖女なだけなので、マリアがボクを女神と呼ぶのは彼女が先程の少しの行動でボクに心酔してしまったということだ。

 大丈夫かな、マリアちゃんチョロくない?

 

「えっと、うん。ここは西方地域って呼ばれていて……西方修道会が支配してる」

「あそこで偉そうにしてたダグラスって男が、この地域の最高権力者なんですね」

「そう。私が加護付きだから、彼は私を狙っているみたい」

 

 加護付き、つまるところスキル持ちだ。

 スキルとはこの世界に実在する加護のことだと、女神様も言っていた気がする。

 そんな中でマリアが所有する加護は上位加護――上位スキルだ。ダグラスが欲しがるのもうなずける。

 

「そういえば……その、クリエ様、クリエ様はどこから来たの?」

「ボク? ボクはちょっとこの世界を救いに来たんだ。正直に言うと、マリアがボクを女神様っていうのは半分くらいあたってる」

 

 正直に話す。

 理由は色々あるけど、なにもない棺に突然出現したことを知っていて、ボクに心酔してくれている相手。

 信頼できる存在なのは疑いようがないんだ。

 何より、彼女には嘘を付きたくないと思った。

 彼女を棺の中から引っ張り出す時、今にも消えてしまいそうな顔をしていたからかな?

 

「女神様……! クリエ様! 女神様! クリエ様!」

「うわぁ抱きついてこないでくださいよ! あ、おっぱいが柔らかい……」

「す、吸ってもいいよ!」

「はしたないですよ!?」

 

 なんか服をめくりあげようとしてきた。娼館育ちだから躊躇いが薄いんだろうか。

 

「話を戻すと、ボクはこの世界の救済をするためにやってきました。そのために、まずはダグラスをどうにかしたい」

「……この世界は、ダグラス一人をどうにかしたって、どうにかなる世界じゃないよ」

 

 ふむ? と問いかける。

 彼女は現地住人だ。あそこまでわかりやすい悪役を排除してどうにかならないとは、どういうことか。

 話を聞く必要がある。

 

「西方地域では、『カリフ病』っていう病気が蔓延してて、その特効薬はダグラスしか作れないの。だから、特効薬が作れないのにダグラスをどうにかすると……」

「ああ、それなら問題はないでしょう」

 

 ――どうやら、この地域の問題は結構単純なようだ。

 

()()()()()()()()()()()()です。ダグラスをどうにかすれば、なんとかできると思いますよ」

「……ど、どういうこと!?」

 

 いいながら、ボクは女神様が持たせてくれた旅のしおりを取り出す。

 いや、旅のしおりではないんだけど、分厚い攻略本のような書物は、評するなら旅のしおりが一番適当だと思う。

 そこには、こう記されていた。

 

「カリフ病はダグラスが生み出して、ばらまいているんですよ。自作自演ということですね」

「…………!」

 

 マリアにもピンとくるものがあったらしい。

 女神様曰く、

 

 『西方地域はその地域を取り巻く問題が、修道会のダグラス・トレインに集約されている。他の地域と比べて悪の親玉を一つ排除してしまえば物事が解決するため、最初に関わるのに向いている』とのことだ。

 合わせて、ボクの転移先を西方地域にしたのも女神様のはからいのはずだ。

 さすがにあそこの棺にピンポイントシュートされたのは、別の要因があると思うけど。

 

「ボクがあの場に現れた時、ダグラス以外の全ての人間が一斉にお腹を抱えて苦しみはじめました。ダグラスの小間使と思われる子たちも、です」

「あそこにいるのは、その小間使の子たちと、ダグラスにお金を払うことで特権階級を得ている、信徒って呼ばれる富裕層のはずなの」

「ダグラスは富裕層を信徒にするために、信徒へカリフ病を感染させたんですね。彼らは命を握られているから、ああしてダグラスの下で信徒をしている、と」

 

 どっちにしろ、倒すべきはダグラス・トレインだ。

 だったらスグにでもあそこに乗り込んでいって、ダグラスをぶん殴ればいいんだろうけど。

 

「顔を見られちゃってるんですよね」

「……? えっと」

「ああ、ダグラスにボクの顔を見られてるって話ですよ」

 

 なるほど、と頷くマリア。

 これで向こうがボクを知らないのなら、取れる手段は幾らでもあるんだろうけれど。

 ああ、でもその代わりに……

 

「といっても、その御蔭で君を助けられたんですから、安い買い物だったと思いますけどね」

「クリエ様……マリアは今貴方の元へ逝きます……」

「やめてくださいねー?」

 

 感極まりすぎて昇天しかけているマリアは放っておいて。

 つまるところ、問題はボクのことを警戒しているダグラスにどう打って出るかというところ。

 さすがの最高権力者、ボクが加護を持っていることは見抜いているような反応を見せていた。

 であれば、無闇矢鱈に正面から突っ込むのは愚策だと思う。

 じゃあどうするか?

 

 ――まぁ、一番素直でわかりやすい方法を取るのが一番だろう。

 

 ボクのもう一つのスキルの試運転にもなることだしね?

 

 

 =

 

 

 ――それが西方修道会の本拠地である街に出現したのは、クリエイトが棺の中に出現した次の日の昼のことだった。

 ダグラスはマリアの捜索を急いでいた。

 相手は意味不明な神々しい光を放つ女、加護の具合でいえば、おそらくあの女のほうが上等な加護を持っているのだろう。

 

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 ダグラスがマリアを欲するのは単純に容姿だ。

 あんなちんちくりんで胸の薄い女などダグラスの趣味ではない。

 おっぱいぼいんぼいんでむっちむちな女でなければ意味がないのだ。

 

 そんなダグラスの前に、それは突如として現れた。

 

 

『はじめまして、そうでない方もいらっしゃるでしょうが、名乗らせていただきましょう』

 

 

 それは巨女だった。

 とても大きい女だった。

 三十メートルはあるかという巨大な女だった。

 

『ボクはクリエイト、この世界の救済を目的としてやってきた、聖女です』

 

 とてつもない美貌を誇る、完成され尽くした肢体の少女である。

 ダグラスからマリアを奪った、憎い敵でもあった。

 ――それが、街の端に出現している。

 

『この世界は腐っています。多くの人々が傷つき、苦しみ、少数の人間がそれを貪っているのが現状です』

 

 最初に贄納めの儀に現れたクリエイトは特徴の薄い白のローブをまとっていた。

 しかし、今のクリエイトは美麗なドレスに身を包み、威厳と慈愛に満ちている。

 

『それを嘆いた神が、ボクをこの世界に遣わしたのです』

 

 幻想的な光景だった。ドレスを下から覗き込んでも光に包まれてその奥は覗けなかった。

 

『つきましては、手始めにこの地の悪を排しましょう。この地の悪、西方修道会、その会長ダグラス・トレイン。そして――』

 

 力強く、クリエイトは断言する。

 

『カリフ病を、ボクは排します』

 

 それはまさしく希望だった。

 驚くべきほどに力強いその物言いは、人々に希望を教えるものだった。

 西方修道会の本拠地であるこの街は、ダグラスと信徒を中心とした富裕層の街であるから、こうした宣言が街を震わせることはあまりない。

 それでも、そんな信徒に仕える奴隷のような立場のモノが大多数を占めるために、動揺というものはそこそこ広がるものだ。

 

 そもそも、この宣言の目的は、宣戦布告が本命ではない。

 

「――これは目くらましだ」

 

 ダグラスは冷静である。

 葉巻を吸いながら、側に控える奴隷たちに支持を出す。

 

「相手は認識を誤魔化す類の加護を持っているのだろう。あれは映像だ。奴はこの混乱に乗じて行動を起こすつもりだろう。警戒に当たれ」

「かしこまりました」

 

 恭しく礼をする二人の奴隷。

 ダグラスはそれを見て頷くと、外にでかでかと出現しているクリエイトから目を離し、教会の中へと入っていった。

 後には二人の奴隷が残される。

 

「――ダグラスは思いの外優秀ですね。あの映像と、一度の邂逅からこちらのスキルを推測しています」

「仮にも、世界の四分の一を手中に収める男だから。それくらいは当然だよ」

 

 その声は、先程と打って変わって、マリアとクリエイト――つまりボクのものである。

 ただし、その容姿は元来の両名とは打って変わって、今にも折れてしまいそうな奴隷の佇まいであった。

 

「ただまあ、流石にこっちのスキルがどういうものか、までは完璧な予測ができなかったみたいですけど」

 

 いいながらも、手を奮って自身の様子を確認する。

 “幻術”は完璧なようで、目の前にボクとマリアがいたにも関わらず、ダグラスは一切それに気が付かなかった。

 ――あの映像も、今こうしてボクらがダグラスの元へ侵入しているのも、ボクのスキルによるものだ。

 

「素晴らしい物だよね、“幻覚創造”という加護……スキルは」

「あくまで下位スキルですけどね」

 

 上位スキルとはできることの幅が異なる。

 とはいえ、今はこれで十分だ。

 幻覚創造、ボクがこれだと思ったスキルだ。

 効果は『見せたい幻覚を思うがままに創造する。ただし人体に限る』といったもの。

 

 できることは見ての通り、ボクの巨大な幻覚を投影したり、誰かになりすましたりするといった効果。他人にも使えるのが便利だ。

 けれども、何よりこれの素晴らしいところは、簡単なキャラクリを思う存分できるところにある。

 

 今回は潜入という形を取るため、あくまで奴隷に扮したが、場合によっては別の存在に変身することも考えられる。

 たとえば怪盗とか、そういう新しいキャラクターを創造(クリエイト)できるのがこのスキル一番の強みだ。

 

 ……このスキルがあればキャラクリいらなかったんじゃないかって?

 ボクもそれは考えたけど、あくまでこのスキルは簡単なキャラクリしかできない。

 というか、二週間かけて創り上げた最高傑作であるボク自身を超えるキャラクリがそうそうできるわけないのだ。

 

 あくまでボク自身は最高のボク自身でなければならない。

 キャラクリは一日にしてならず、妥協は許されないわけで。

 

「――さて、それじゃあ行動開始です」

「まずはどこを目指すの?」

「ダグラスを殺したら、あいつが抱えてるカリフ病がどうなるかわかりません。だからあそこでダグラスは殺さなかったのですからして」

 

 いつでも殺せるだろう、という目算もあるけど。

 ――本命はあくまでカリフ病だ。

 

「カリフ病の原因を突き止めます」

 

 端的な宣言。

 ボクたちは行動を開始する。

 さぁ、ためらってはいられない。

 この世界を救済する大事な初戦、ダグラス・トレインと西方修道会を、打倒するための戦いが幕を切った。




キャラクリオタク、スキルすらキャラクリに寄せる。
今後も重宝しそうなスキルですね。

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