※今回の話で、アナザーエデン外伝「二人の騎士と祈りの魔剣」のネタバレを含みます。終わっていない方は回り道をするかすぐに外伝ストーリーを終わらせてきてください。
それでは本編どうぞ!
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「ってて…」
背中をさすりながら、俺はゆっくりと起き上がった。まだ少し朦朧としている頭で、状況を整理する。
たしかについ先程まで、俺はいつもの4人組で昼食をとっていた。そのはずなのに、突如出現した緑色の光に吸い込まれ、気が付けばこの場所――見知らぬ海岸で仲良く倒れこんでいたのだ。
「先輩、大丈夫ですか?」
隣で起き上がった黒髪の少女が、心配そうにこちらを見つめてきた。俺は握りこぶしを作り、ぶんぶん腕を回してみせた。
「あぁ、この通りぴんぴんしてるぜ」
俺のジェスチャーに、彼女はようやく笑顔を見せた――苦笑だけれど。
「まったく、変わらないですね――キリト先輩は」
かくして、俺、アスナ、ロニエ・アラベル、そしてティーゼ・シュトリーネンの4人は、このよく分からない異世界に降り立ったのである。
俺が――というかネットゲーマーが突然見知らぬ世界にやってきたら(そんな経験をしたことのある人物は俺が思いつく中だと片手で数えられるほどしかいないが)、真っ先にすることは限られているだろう。
まず俺は自分の全身を確認し、ほっと息をついた。俺の服装はアンダーワールドにいた時と変わってはいないし、俺の愛剣――《夜空の剣》はしっかり俺の背中の鞘に収まっている。それはアスナたちも同じようで、アスナは創世神ステイシアの専用神器《ラディアント・ライト》を、ロニエは自ら銘を付け剣の記憶を解放した《月影の剣》を、それぞれ撫でていた。しかし、ティーゼだけが地面に目を伏せ、冷や汗をかいている。けれど彼女の所有する《青薔薇の剣》は確かに彼女の足元にあるし、では一体何がなかったのだろうか、もしかしたら俺の知らない間にユージオからギガスシダーの枝でも貰っていたのかなどと逸れかけた思考を頭を振って元に戻すと、俺は口を開いた。
「えっ、嘘……」
「どうした、ティーゼ?」
「出ないです――《ステイシアの窓》が」
「んなっ……」
人口フラクトライトであるロニエとティーゼはここにいるし、俺達の服装だってアンダーワールドのものと何一つ変わらない。しかし、ステイシアの窓――ステータス・ウィンドウはこの世界には存在しないようだった。ティーゼに倣って俺がいくらS字を空中に書いても、《窓》は出てこなかった。
「ということは、ここはアンダーワールドの中じゃないの……?」
アスナが疑問に思ったことを口に出したと同時に、俺はある不安が沸き上がってくるのを感じた。
「まさか、ソードスキルもッ……」
半ば焦りながらも俺は夜空の剣を抜くと、左手を前にかざして右手の剣を肩の上に大きく引いた。俺が何度も助けられたソードスキルの構えだ。後はシステムアシストにより、体が自動で技を出してくれる。
果たして俺の漆黒の剣、《夜空の剣》は、血のような赤いライトエフェクトに包まれた。それと同時に、俺は地面を蹴って夜空の剣を前に突き出した。何もないところへとソードスキルを突き出したせいか、俺の放った一撃は光をまき散らしながら虚空へと消えていった。
片手剣重単発ソードスキル、アインクラッド流秘奥義《ヴォーパル・ストライク》――俺の予想通り、夜空の剣は確かに答えてくれた。
「良かった、ソードスキルは生きてるみたいだな」
しかしそれにより、別の疑問が浮かび上がってくる。それは、ロニエやティーゼ、アスナも同様だった。
「ステイシアの窓が出ないのに、秘奥義が使える――それじゃあここは、一体どこなんでしょう……?」
ティーゼが頭を抱え込んだその時、俺は背中に嫌な視線を感じた――誰かが、いや何かが、こちらを殺すつもりで見ている。同時に、ロニエが小さく悲鳴を上げた。
「せ、先輩っ…!」
ロニエが指差す先には、斧を持った人ではない影――恐らく、オーガ族の類だろう――が、こちらを見つめていた。
「へへっ、人間だな?」
「……そうだったら何だ」
「その剣、高そうだな。売れば大儲けできそうだ」
そう言いながら、オーガは夜空の剣を指差した。自然な受け答えができているということは、こいつも人口フラクトライトなのか――しかし、俺はその疑問を一度捨てて答えた。
「悪いけど、この剣は売り物じゃない――お前にやすやすと渡すものではないぜ」
「そうかい、それじゃあ力づくで奪い取るしかないなぁッ!!」
そういうと、目の前にいるオーガは持っていた斧を構えた。大きく振りかぶりながら、こちらに向かって突撃してくる。どうやらソードスキルを出してくることはせず、何の考えもなしに突撃してきたようだが――俺は相手の攻撃をひらりとかわすと、夜空の剣を再び構えた。今度は、青白いライトエフェクトが俺の剣を包んだ。
「なっ……!?剣が、光って――」
「はぁぁぁッ!!」
俺の体は一直線に突進し、右下、次いで左下から斬り上げた。
「がぁぁァァァッ!!」
オーガは叫び声をあげ、反撃をしようとする。だが、このソードスキルは2連撃では終わらない。振り上げた剣を今度は再び振り下ろし、俺は最後にもう一度――右下からの斬り上げをお見舞いした。片手剣4連撃ソードスキル、《ホリゾンタル・スクエア》。
「あぁぁぁァァァ――」
俺の攻撃によりHPがゼロになったらしい敵は断末魔の悲鳴を上げると、ポリゴンの欠片となって四散する――のではなく、その場で倒れ込み動かなくなった。倒れた骸から、留まることなく赤黒い血が流れ出ている。
「無駄にリアルだな……制作会社の中に絶対サイコが混ざってるんだろ」
「まるで
アスナと敵の死骸を見下ろしながら呟く。と、ロニエとティーゼが駆け寄ってきた。
「流石です、先輩!」
「私なんか、足が震えてしまって……」
「こっちでの戦闘も、アンダーワールドと大して変わらないさ。すぐに慣れて、剣を振れるようになるよ」
そこで言葉を止め、俺はニヤリと笑みを浮かべた。
「もしかしたら、ロニエ君もティーゼ君も実は物凄い剣幕でバーサクぶりを発揮してくれたりして……」
俺の冗談に、ロニエは頬を膨らませた。
「もうっ、そんな先輩みたいなことしないですよ!!」
「お、俺みたいな!?俺だって傷つくときは傷つくんだぞ……」
弱みを突かれ小さくなりかけた俺の耳に、別の足音が入ってきた。そして、金属の鎧によるがちゃがちゃという特有の音も聞こえてくる。間違いない、今度は人間だ――そこまで考えたところで、足音は俺の目の前で止まった。顔を上げると、白銀の鎧に身を包んだ女性が、後ろに護衛らしき男性を何人か連れて、こちらを不思議そうに見つめていた。俺と目が合うと、彼女は軽く礼をした。
「私はアナベル。ミグランス王国騎士団に所属しています」
略式の敬礼を解くと、アナベルという名の騎士は一歩進み出た。
「あなた達は一体……?どうやら、その魔獣を倒したのはあなた達のようだけど」
アナベルの問いに、俺が先陣を切る。
「俺はキリト。一応、剣士です」
「私、アスナって言います。会えてうれしいです、アナベルさん」
「えっと、人界騎士団所属、ロニエ・アラベルです!」
「同じく、ティーゼ・シュトリーネンです!」
俺達の自己紹介を聞き終えて満足げに微笑んだ彼女は、質問をさらに続けた。
「にぎやかで楽しそうな仲間ね。私のことはアナベルでいいわよ。……ところで、あなた達はどこから来たのでしょう?どうやら、並の実力ではないみたいだけれど」
「そうだな、きっと信じてもらえないかもしれないけれど……」
そう始めた俺は、今まで起こったことを話した。意外なことにアナベルは俺達の話に動じず、話が終わると意味深な発言をした。
「そう、あなた達もアルドと同じなのね……」
「……?」
「いえ、何でもないです。少しあなた達のような人を思い出してね……それよりも、王都で休息をとってはどうでしょう?あそこの宿屋で出るお豆の王国風スープ、私も大好きなのよね。…あと、あなた達の戦った敵はオーガじゃなくて魔獣っていうのよ」
俺達みたいな奴らがほかにもいるんですか、オーガはこの世界にいるんですか、とか聞きたかったが、何しろアナベルが一緒についてきた護衛すらおいていってしまうほどの速さで走って行ってしまうのだ。俺達はアンダーワールドで鍛えたAGI値にものを言わせてついていくしかなかった。
* * *
「すごい……」
ティーゼが思わず声を出した。恐らくこの世界の中心部であろう王都の大きさに、俺も息をのむ。その広さはアンダーワールドの央都セントリアと同じか、それ以上だ。
「ここが《王都ユニガン》よ。私はこれからお城の詰め所に行くけど、あなた達も一緒に来てもらえないかしら?」
「??それは、どうして――」
「その必要はないぞ、姉さん」
ロニエが聞きかけたとき、俺達の前に紫髪の剣士が現れた。アナベルとは違い、こちらは紫色の鎧で身を覆っている。腰に佩びている剣に、俺はアンダーワールドの神器と似たような気配を感じ取っていた。
「あんたのその剣、何か感じるな――恐らく、ただの剣じゃないだろう」
「ほう、フェアヴァイレに興味があるか。いい目をしている――だがこいつは、人に売れるようなものではない。こいつと共にあることが――」
そこでフェアヴァイレと呼ばれた剣を一振りし、胸の前で掲げる。
「私の生きる意味でもあるからな」
「へぇ……俺の黒いやつと同じだな」
「おっと、申し遅れたな。私はディアドラという。姉さんの――アナベルの妹だ」
「え、えぇっ!?」
ロニエが素っ頓狂な声を上げた。それもそのはず、彼女の容姿はアナベルとはとても似ても似つかないのだ。第一、髪色が全く異なっている。混乱したままの頭で、俺は頭の中に浮かんだ質問をそっくりそのまま投げかけていた。
「……染めたんですか」
「……斬られたいのか?」
ディアドラに一瞥され――フェアヴァイレからも睨まれたような気がした――俺は思わずたじろいだ。だがそんな俺を見て、彼女は満足げに笑っているではないか。
「ふ……冗談さ。この髪はもともと、姉さんと同じ色をしていた。だがフェアヴァイレから譲り受けた力の余波が、こんなところにまで浸透するとはな。……さて」
笑みを消し、ディアドラは表情を改めて俺達に向き直った。
「これからお前たちは、立場上傭兵としてだが、私と共にカレク湿原の魔物討伐に行ってもらう。お前たちの実力を見せてもらいたいと思ってな。これは数日前に届いていた討伐依頼なんだが――」
そういうと、ディアドラは一枚の羊皮紙のようなものを取り出して俺達に見せた。曰く、カレク湿原にいる魔物が荷物の積み下ろしの邪魔をするのだが、それはもうとてつもない強さ&とてつもない数の多さなので誰も太刀打ちできない、と。
「なるほど……この魔物を、俺達で討伐すればいいんだな?」
俺の問いにディアドラは頷いた。
「あぁ、理解が早くて助かる。付け加えておくが、この依頼の報酬は全てお前たちが持って行っていい。見たところ、お前たちは無一文じゃないか」
ディアドラはそう言って、依頼書の下の方を指差した。そこに書いてあった報酬金額は――100,000Git。
「じゅまっ…」
ちーんじゃらじゃらと頭の中で武具リストが自動的に展開される。先程立ち寄った鍛冶屋で面白そうな武器や防具がいくつ買えるだろうか――だが俺は頭を振り、強引に思考を「4人での生活費」へとシフトさせた。この世界でのお金――Gitの価値は分からないが、少なくとも4人でしばらく宿屋に泊まりこむのには申し分ない金額だ。
「あぁ、ありがとう。しばらくは傭兵として、この街にいさせてもらうよ」
その後俺達はディアドラと連れ立って魔物討伐へと向かい、見事に勝利した。特にロニエとティーゼが奮戦し、かのバーサクヒーラーさんもかくやという勢いで猛攻を繰り返していた。その後俺達はディアドラの勧めで宿屋に泊まり、これからの俺達の方針を「この世界は一体何なのかを探る」というものにした。
それから1か月ほど経ったある日――討伐依頼の中にいつもとは違った内容のものがあり、俺達の目を引いた。曰く、
「緊急 アルドという剣士についての情報を持っている方は、**日に酒場まで来て下さい」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
そういえばこの小説のサブタイトル、Chapter.0を除いたらある法則が出来上がっちゃってたんですよねぇ…不本意ながら。
((お知らせ))
デートアライブ読み始めたのでそのうちコレの二次創作も描けたらなぁ、と思ってます
それでは次回予告!
「――遺憾である」
A.D.1100、最果ての島――謎の夢意識に潜入したアルド達の前に、これまでとは全く異なる番人が姿を現す。
次回[Dividing]
お楽しみに!