未来が見える友達ができた話   作:えんどう豆TW

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ガールズラブというか友人というかなんというか


これまでの話
汝、皇帝の耳を見よ


 私の名はシンボリルドルフ、今年度から中央のトレセン学園に入学したウマ娘だ。ここに来た目的はもちろん、競走バとして名を挙げるために他ならない。もとよりそう育てられた身だ、自分はレースに身を投じるのが当たり前だと思ったし、その才能があることも自覚していた。ある種の責任感と言ってもいいかもしれない。それを差し引いても私は競走バになりたかった。走るのは好きだし走るために生まれてきた、そう思っていた。そしてこの中央トレセン学園は私が走るために必要不可欠なものを用意してくれる夢のような場所だ。

 トレセン学園にはたくさんの充実した設備がある。当たり前といえばそうなのだが、優秀なウマ娘を育て、優秀なトレーナーを抱えるこの場所は関係者各位が生活するのに不自由しない施設が揃えられている。そのお陰で私たちはそれぞれ自らの夢に専念できる、ということなのだろう。学生寮もそういった施設のひとつだった。

 1つ問題があるとすれば、この学生寮が基本的に2人1組で部屋を当てられるルームシェアのシステムを採用していることだろう。私は構わないのだが、生徒の中にはプライベートを見られることやパーソナルスペースに踏み込まれることを嫌う者もいる。

 しかしこれは仕方の無いことなのだ。このトレセン学園は膨大な数の生徒を抱えており、その一人一人に部屋を当てるのは流石に無理がある。逆にトレーナー寮が一人一部屋用意されていてなお空きがあるのは、このトレセン学園がトレーナーという点において人材不足であることを表している。だからこそ我々ウマ娘は自分と共に歩んでくれるトレーナーを探し、そしてそのままトレーナーにありつけずにデビューすらできないウマ娘も当然少なくない、というわけだ。

 もっともこういったトレセン学園の知識については英才教育の賜物という他なく、実際に自分の目で確かめてみないことには実状は語れない。入学して日の浅い私ではまだまだ百聞の知識を一見もせずに語っているに過ぎない。

 しかしながらルームシェアをするというのは紛れもない事実であり、例に漏れず私もその一人だ。あわよくばウマの合う友人でも出来れば、と期待はしてみるものの数日やそこらでは関係を構築することも出来まい。とはいえ第一印象は疎かにするべきではない。そんなわけで私は生涯初めてのルームメイトとの接し方を思案しているところだった。

 荷物を持って用意された部屋に足を運んでみると、部屋の前にいくつかの私物が混じっていると見られる荷物の塊があった。どうやら私のルームメイトは私よりも先に到着していたらしい。ふぅと息を吐き部屋のドアを開ける。そこには私より少し背の低い鹿毛のウマ娘がいそいそとスペースを構築していた。

 

「やあ、手伝おうか?」

 

 それが私と彼女との初めての会話だった。そのウマ娘はハッと顔を上げると罪悪感を誤魔化すように笑った。

 

「ゴ、ゴメン! すぐ終わらせるからね!」

 

 私の声は聞こえていたのだろうが、内容までは聞き取れていなかったのか、手伝う旨を伝えた発言は届かなかったらしい。いや、もしかして私の言葉は急かすような意味に捉えられてしまったのかもしれない。

 

「いや、急かすつもりはなかったんだ。大変そうだから手伝おうかと……」

「いいよいいよ! 初日から迷惑なんて掛けたくないし!」

 

 お互いに手伝った方が早い気もするが、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。良く考えれば私物を他人に触らせるのもあまりいい気はしないだろう。これは配慮が足りなかったか。

 

「……やっぱり手伝って貰える?」

「ふふ、困った時はお互い様だよ。それに私の手伝いもしてくれれば後腐れないだろう?」

「た、確かに! その方が早く終わるかも!」

 

 どうやら迷惑をかけたくない一心だったらしい。真面目というか律儀というか、それが最初に彼女に抱いた彼女の印象だった。

 そうして私たちが荷物を運び終え、時刻は16時に満たないくらいになった。夕飯にはまだまだだがやることもないと言ったところか。親睦を深めるにはちょうどいい暇な時間が出来た。彼女に予定がなければの話だが。と、ここで自己紹介を忘れていたことに気づいた。

 

「今日から同じ部屋で過ごすことになる、シンボリルドルフだ。よろしく」

 

 そう言って右手を差し出した。彼女はその手を握り返し私の顔を見つめた。

 

「あなたが……噂は聞いてるよ」

 

 噂、というのはなんだろう。予想出来るのは大型新人がどうのこうのくらいだが、まあこの手の話題は尽きない。毎年注目の新人はいるものだ。

 ……見つめる時間が長すぎないだろうか。ジロジロとまるで観察されるかのような視線をぶつけられ流石の私も少し引いてしまう。

 

「噂通り……いや、噂以上だね」

「ええと、何か気になることでも?」

「あぁ、ゴメンゴメン! 話には聞いてたんだけど直接見ると実感するっていうか……あなた、凄いね」

「見るだけでわかるのか?」

「あー……まああなたほどのウマ娘なら誰でもわかるんじゃないかな? 風格っていうかなんていうか……」

「そう言って貰えるのは嬉しいが、そこまで褒められるとさすがに恥ずかしいな」

 

 そう言うと彼女はえへへ、と幼さの残る笑みを浮かべて話を終わらせた。どうやら彼女は言い淀むと笑って誤魔化す癖があるらしい。

 

「よければ君の名前も教えてくれないか?」

「一応知ってるんでしょ?」

「こういうのは本人の口から聞きたいものだよ」

「そ、そう? あたしはキリノアメジスト、よろしくね」

 

 キリノアメジスト、なるほど。彼女の瞳はまさしくアメジストと呼ぶに相応しい輝きを放っている。澄んでいてどこか妖しげで、惹き込まれそうな瞳だ。

 

「よろしく。私のことはルドルフとでも呼んでくれ」

「うん、ルドルフね。あたしのことはどう呼んでもいいよ」

 

 ふむ、そう来たか。アメジストは呼ぶには少し長いから、呼ぶならキリノか? 折角だからもう1文字削ってリノ……流石に馴れ馴れしいだろうか。うん、キリノにしよう。

 

「ならばキリノと呼ばせてもらおう」

「はいはーい」

 

 明るい性格のようだがなかなかに落ち着いている、というかあまり感情の起伏が激しいように見えない。ウマ娘は大抵の場合耳や尻尾に感情が表れるモノだが、彼女は驚いたり誤魔化したりしても外見にさほどの変化は見られない。まるでヒトのようだ。

 

「改めてよろしく、キリノ」

「こちらこそよろしくね~」

 

 せっかくなので食事も一緒に、と誘おうとしたところで彼女の端末が音を立てて鳴った。メッセージを確認し返信を終えたであろうキリノは、私の方に向き直った。

 

「ちょっとお呼び出し、また後でね」

「ああ、うん。また後で」

 

 それもそうか、彼女にだって交友関係はあるだろう。……生憎と私にはまだない訳だが。少しもの寂しさを覚えながらも私はトレセン学園の周辺を見て回ることにした。

 

 

 

 夕食の時間になったのでトレセン学園へと戻り食堂を目指す。時間も時間だったからか、食堂は大勢のウマ娘で賑わっていた。これは明日からは少し時間を外した方がいいな、などと考えていると肩を叩かれた。

 

「や、ルドルフ」

「キリノ。てっきり友人と一緒に食べるのかと思ったんだが……」

「そんな初日で友達が沢山出来るわけないじゃん。あたし一人で来たんだし」

 

 なるほど、先程は別件の用事だったらしい。

 

「しかし多いなぁ……。ね、明日からは少し時間ずらさない?」

「そうだな、私も同じことを考えていたよ」

 

 だよね、とキリノは困ったように笑った。さて、座る場所があればいいのだが……最悪場所を変えて食べることになりそうだ。

 

「あ、ねぇあそこ空いてない? 先に荷物置いて場所取りしてくるよ」

「む、そうか。ならお願いしようかな」

 

 少しずるい気もしたが、他にも荷物だけ置いてある席がそこそこに見えたので自分の中でOKを出した。

 キリノは私の分の荷物を持って駆け出すと、するりするりとウマ娘の波の間を通り抜けていった。彼女ならバ群に飲み込まれてもいつの間にか抜け出してしまいそうだ。

 

「ただいまー!」

「おかえり。華麗なステップだったな」

「そ、そう? えへへ」

 

 私が褒めると彼女は照れくさそうに笑った。結構マジで頑張ったからね、と鼻を鳴らす仕草は可愛らしい。

 私がカレーを注文した横で彼女はハンバーグ定食を頼んだ。しばらくして運ばれてきた食事を受け取ると先程の席を目指す。

 

「好きなのか? ハンバーグ」

「ん? うーん、あんま嫌いな子いないんじゃない?」

「確かに、あまり聞いたことはないな」

「今日はハンバーグの気分!」

「なるほど」

 

 いただきます、と手を合わせてカレーに手をつける。好みは中辛なのだが、どうやらここのカレーは甘口らしい。

 

「美味しくなかったの?」

「いや、そんなことないよ。ただもう少し辛い方が好みだったな、というだけさ」

「ふーん……案外表に出るほうなんだね、ルドルフって」

「そんなに嫌そうな顔をしていたか?」

「いや、食べた瞬間に耳がへにゃってなった」

「……本当に?」

「マジ」

 

 どうやら私と彼女は真逆らしい。というか誰も言ってくれなかったぞそんなこと。……いや、敢えて言わなかったのか。何かと避けられがちで近寄り難いのは自覚している。

 

「ふふ、わかりやすくて可愛い」

「可愛い、か。なかなか言われ慣れない言葉だな」

「そう? あーでも確かに、王子様系だもんねルドルフ」

「王子様系?」

「うん。将来後輩出来たらきっとキャーキャー言われるよ」

「そうだろうか」

 

 あまり想像出来ない。私もウマ娘なのだが。

 

「そういうもんだよ、メスって」

「言い方」

 

 可愛らしいお口からかなり鋭い言葉が飛んできた気がする。きょとんとした表情のキリノに、自分の耳を疑うほどだった。

 

「明日入学式だね。同じクラスかな?」

「どうだろうな。私が学園側なら違うクラスにするが」

「なんで?」

「その方が1人でも多くのウマ娘と交流できるだろう?」

「ははぁ、そういう」

 

 尤もそこまで考えているとは限らないが。そんなことを話しているうちに2人とも食事を終え、席を立った。私たちが座っていた席にすぐさま別のウマ娘が座った。椅子取りゲームならぬ椅子取り戦争だな、とくだらないことを考えた。

 部屋に戻った私たちはそれぞれ明日の準備を始める。といっても教材を配られているわけでもなく、単純にそれぞれ予定を確認するだけだ。明日に響くといけないから、とキリノは早めにベッドに潜った。

 

「おやすみ、ルドルフ」

「ああ、おやすみ」

 

 とても長い一日に感じられた。学園生活で初めてできた友人はいい子だったし、私にとってはとても良いスタートを切れた。キリノも同じように思ってくれていたらいいな。確認を終えた私もベッドに潜る。

 少ししたら寝息が聞こえてきた。枕が変わっても眠れるとは言うが、同じ枕でも違う場所だとどうにも寝付きにくい。明日に響くといけない…………いけないのだがなぁ。

 




キリノ↑じゃなくてキリノ↓だけどキリノ↑アメジスト↓です。
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