未来が見える友達ができた話   作:えんどう豆TW

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汝、皇帝のステータス画面を見よ

 入学式が終わり、各々のクラスへと生徒が案内されていく。結果からいえば私とキリノは別のクラスだった。

 

「シンボリルドルフ……」

「あれが……」

 

 ザワザワとした喧騒の中に確かに聞こえる声。予想通りといえばそうだ、思えばキリノの反応も彼女たちと大差なかった。これは友人ができるのはもう少し先になりそうだ。ふぅと息を吐くと、窓の外に目をやる。家柄のせいでただでさえ人付き合いが悪くなるというのに、私のこの近寄り難さはもう少しどうにかならなかったのか。……まあどうにもならなかったのだが。そういう振る舞いを仕込まれたのだから、そうなるしかないじゃないか。

 いや、こんなところでいじけても仕方ない。まだ学園生活は始まったばかりだし、明日には選抜レースも控えている。選抜レースとは新入生がトレセン学園に属するトレーナーにアピールする機会のことで、基本的に選抜レースでの走りを見てトレーナーは誰をスカウトするのか決める。つまり私たちウマ娘にとってかなり重要なレースなわけだ。

 

「はい、皆さん席に着いてくださーい」

 

 教育担当の声が教室に響く。まずは目の前のことからだ。私は余計な考えを頭の片隅に追いやり、耳を立てた。

 

 

 

「おかえり、ルドルフ」

 

 全ての日程を終え寮に戻ると、一足先に戻っていたらしいキリノから声をかけられた。

 

「ただいま、キリノ」

 

 鞄を机の横に立てかけ、中から予定表を取りだし明日の予定を確認する。今日の案内でトラックを走る機会があったが、流石はトレセン学園と言ったところか。芝の整備はしっかりしていたしとても走りやすい以外の感想は出てこなかった。

 

「……ストレッチした?」

「ん? いや、軽く走っただけだからな」

「しなくてもいい、と?」

「……ダメか」

「した方がいいよ、というよりする癖をつけた方がいいね」

 

 何故わかったのか、という疑問が浮かんだがキリノがあまりにも断言するので大人しく従うことにした。

 

「明日は選抜レースなんでしょ? コンディションが悪かったじゃ言い訳になんないよ」

「それはそうだが……何故わかるんだい?」

「何故って言われても、わかるからとしか」

「ふむ」

 

 見ただけで相手の状態がわかるなんて聞いたことがない。彼女はもしやとんでもない才能を持っているのではないだろうか。

 

「もしかして君には私の現在の状態が全て見えているのかい?」

「うん、そうだよ。例えるならゲームのステータス画面みたいな感じかな? どの距離に適性があって何が得意なのか、スピードやパワーがどれくらいあるか、ってな具合にね」

「……にわかには信じ難いな」

「当ててあげようか? いや、自覚してない場合もあるか……まあいいや」

 

 キリノは少し思案する素振りを見せるが直ぐにこちらに向き直る。その後彼女は出会った時と同じように私の体をくまなく観察した。宝石のような瞳が爛々と輝く。

 

「シンボリルドルフ。得意なのは中~長距離で反対に短距離は苦手。スタミナが自慢で脚質的には先行か差しがいいのかな? 現在はスピードの向上に力を入れており最後の直線を重点的にトレーニング中。コンディション的にはやや寝不足気味……昨日眠れなかったんだ。どう? 間違ってるところあったら教えてほしいな」

 

 絶句した。明らかに見え過ぎている。コンディションや脚質ならまだしも、どこに力を入れているかまでわかるものなのか。もはや才能なんて言葉では片付けられない、異能と呼ぶべきだ。

 

「他の同期と比べたら圧倒的だね。Tierみたいにアルファベットでランク付けしてもいいけど、流石に無粋かな。しかもコレでまだまだ伸びしろがあるんだから驚きを通り越して笑えてくるよ。まさしく怪物だね」

「……褒めちぎってくれるのは嬉しいが、私も今同じ感想を抱いているよ」

「そう? もっと気味悪がられるかと思ったよ」

「れっきとした才能じゃないか」

「かもね」

 

 キリノは吐き捨てるようにそう言うと黙り込んだ。なにか気を悪くするようなことを言ってしまったのだろうか。これだから人付き合いは苦手なのだ。

 

「まあルドルフなら明日の選抜レースで困ることも無いでしょ。明日からスカウト地獄だろうしそっちの心配した方がいいねー」

「そんな上手くいくとは思わないが……お互い頑張ろうじゃないか」

 

 私がそう言うとキリノはキョトンとした顔で固まった。その後漸く意味を理解したのか、ああと漏らしたあと誤魔化すような笑みを浮かべた。

 

「あたし競走バにはならないんだよ。だから選抜レースも走らないんだ」

 

 その言葉を聞いた私はきっと先程の彼女と同じような顔をしていたのだろう。

 

 

 

 彼女の説明を聞き少しづつ咀嚼する。

 

「つまりキリノはトレーナーになるためにトレセン学園に入学したという事だな?」

「うん、そうだよ」

「……聞いたことの無い話だな。競走バとしての経験を生かして引退後にトレーナーになるウマ娘の話はよく聞くのだが」

「あたしも聞いたことないねー。そもそもこの年でトレーナー目指すウマ娘もほとんど聞いたことないし、学園側にも特別プログラムを組んでもらってるからね」

「……というと?」

「平たくいえば現役の新人トレーナーみたいな研修を受けさせてもらえるんだって。座学はそれと並行してやるから、資格を取る頃には即戦力になれる、らしいよ」

 

 なるほど、やけに寮に帰るのが早かったりするのはそういう関係で日程にズレがあるからなのか。

 

「もちろん一般教養はみんなと一緒にやるんだけどね」

「理解したよ。しかしいいのか? 競走バを目指した後でも遅くはないと思うが」

「んー、別にかな? あたし競走バとしては結構ダメダメな方だし」

「そんな……」

「それにいつこの『才能』がなくなるかわかんないしね。適性のある方を目指した方が効率いいと思わない?」

 

 才能の部分を強調したことに違和感を覚えつつ、その言葉に私は頷けなかった。どのウマ娘も可能性を諦めるべきではないといえば聞こえの言い綺麗事のようだが、それでも私はそう叫びたかった。理想であることはわかっている、自分がその立場に立っていないのに何をと言われても文句は言えない。それでもやはり最初から諦めてしまうのはとても悲しいことのように思えた。

 そんな私の様子を察したのか、キリノはこの話題を早々に切り上げた。

 

「まあそんなわけで所謂特別扱い枠なあたしだけど、他のウマ娘と同じ扱いでよろしくお願いね」

「あ、ああ、もちろんそんな区別をするつもりはないさ」

 

 その言葉に満足したのか、うんうんとキリノは頷いた。口元に浮かべた柔和な笑みを崩さずに。

 

「あたしがマッサージしてあげようか?」

「いいのか?」

「大事なレースなんだから、ベストコンディションじゃないとね」

 

 そういうことならば好意はありがたく受け取っておこう。これ以上地雷原で踊っても良くないことしか起こらないだろうからな。

 

「これでもトレーナーの卵だからね。いい実験体になってもらえて助かるよ」

「ああ、こちらこそ……うん?」

 

 なんだか前後の文が噛み合ってない気がしたのだが。

 

「実験体という不穏な言葉が聞こえなかったか?」

「あ、間違えた。練習台ね」

 

 うーん、大差ないように思えて仕方がない。

 

「大丈夫大丈夫、多分体壊れないし」

「どうしてさっきから不安を煽るような言葉ばかり聞こえるのだろうな」

「スパイスだよ」

「本当に意味が分からない……」

 

 やはり私は彼女を怒らせてしまったのだろう。

 

 

 

 翌日、選抜レースを終えた私が寮に帰ると、案の定部屋には先に帰っていたキリノが待っていた。

 

「おかえり、思ったより早かったね」

「ただいま。何時だと思ってるんだ?」

「21時」

「何時に帰ると思っていたんだ……」

 

 今日は帰らないのかと、と当然のようにキリノは言い放った。

 

「で、どうだった?」

「満足のいくレースができたよ」

 

 思わず目を逸らした。

 

「そーうーじゃーなーくーてー」

 

 キリノはため息をついてずいと顔を近づけた。

 

「収穫は?」

「収穫、というと……」

「……」

「……」

「はぁ……」

 

 再びため息をつくキリノ。

 

「上手くいかなかったの?」

「まあ……そう、なのかもしれない……」

「らしくないねぇ。歯切れ悪い」

 

 だって仕方ないじゃないか。あれだけ持ち上げられておいて担当トレーナーがつきませんでした、なんて言えるものか。

 

「まだ1日目でしょ?」

「それはそうだが……」

「まあそりゃね、トレーナーさん方の気持ちもわかるけどね」

 

 キリノはそういうと人差し指を立てた。

 

「だってこんなウマ娘を捕まえて結果を残せませんでしたなんて許されないしね。それにこれだけ完成されたウマ娘に手を加えるのも怖いとは思うよ。君のその走りはトレーナーさん方を保守的にさせてしまったみたいだね」

「そう、なのか」

「君の欠点がわかるのはあたしの目があってこそだよ。他の人には完璧に映っても仕方ない」

 

 それほどまでに君の走りは洗練されてるよ、とお墨付きをもらった。私がよほど落ち込んでいるように見えたのだろうか、普段は笑みを浮かべているキリノも真剣な表情だ。

 

「別に焦る必要はないよ、あたしが保証する。君はいずれ日本のトップに立つウマ娘なんだから。今日躓いたところでその覇道が揺らぐことはない、と断言しよう」

「君は私に甘いな」

「甘いなんてとんでもない、これは叱咤激励だよ。こんなところで挫けちゃいけない」

「ふふ、ならばそれに応えなければな」

 

 正直、初めて味わった挫折だった。悩みがなかったというわけではない、ただどうしようもなくなって途方にくれたのはこれが初めての経験だったのだ。そんな私に関係なく彼女はまっすぐ向き合ってくれた。ああ、そうか、私はこの彼女の平等な態度が気に入ったのだ。自分の才能に驕ることなく、かといって過度に謙虚でもなく、私を相手にしても臆さず遠慮せず対等に。そんな彼女の接し方が嬉しかったのだ。

 ありがとうキリノ、出会って三日だけど君は間違いなく私の心の友と呼べる存在だよ。

 

「あ、ストレッチしてない」

「……今からするよ」

 

 母か。

 




キリノの目に見えてるのはいつものステータス画面に映ってる数字とかスキルとかそんな感じです
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