未来が見える友達ができた話   作:えんどう豆TW

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遅くなりました。書き直し無限。


雨天

 

 

 

 

 ブツブツ、ブツブツと不審につぶやく少女を横目に、シンボリルドルフは1つ息を吐いた。

 

「このレースも…………これもだ…………どうして、どうして気づけなかったんだ…………? 確かにヒントはあったはずなのに!」

「キリノ、後にしないか?」

 

 キリノアメジストは変わらず呟き続ける。

 

「ウイニングライブが待ってるんだ、申し訳ないが話はその後で……いや、聞こえてないか」

 

 キリノアメジストが見ているのは今回のジャパンカップの映像ではない。ジャパンカップを制したウマ娘、彼女の今年に入って出走したレースの映像である。

 しかし、とシンボリルドルフは考える。キリノアメジストがこうなるのも致し方なし、何せ驚きの戦法でしてやられたのだから。

 

(まさかの逃げ切り、しかもこの大舞台で……)

 

 そう、このジャパンカップは先頭のウマ娘が最後までハナを譲らずに幕を閉じた。そしてその作戦を誰1人として見抜けなかったのだ。

 シンボリルドルフは3着。2着は外国から来たウマ娘に譲る形となった。キリノアメジストが警戒していたミスターシービーは着外だったようだが、それに関して思うところは今はないらしい。

 

「誰の落ち度でもない。勝ったウマ娘に賞賛を送り、同じ轍を踏まないよう努力するべきだ」

 

 シンボリルドルフは表情こそ硬いもののどこか晴れやかである。対してキリノアメジストは敗北が認められないのか何度もレースの映像を巻き戻しては再生を繰り返している。

 

「私はもう行くからな、お前も東条トレーナーのところへ戻れ」

 

 シンボリルドルフはライブの準備のために部屋を出ようとドアノブに手をかけた。キリノアメジストはそれでも動かなかった。

 

 

 

 ライブ中もキリノアメジストの姿を見ることは無かった。

 

 

 

 シンボリルドルフが控え室に忘れ物を、と理由をつけ控え室に戻るとキリノアメジストはそこにはいなかった。流石にか、と思い東条トレーナーに連絡をするとまだ戻っていないと言う。

 

「私も控え室で別れたきりです」

『嘘っ!? 探してくる! マルゼンスキーといて!』

 

 焦った東条トレーナーの声を聞き、シンボリルドルフの額にも汗が滲む。

 東条トレーナーに言われた場所に行くと、マルゼンスキーが辺りを見回しながら立っていた。彼女も平静を装いきれない様子だった。

 

「ルドルフちゃん!」

「マルゼンスキー! トレーナーは?」

「探してくるからここから動くなって……」

「そう、か……」

 

 沈黙が2人を包む。周りにはまだ人がいるため、騒ぐことは出来ない。

 

「大丈夫よ! おハナちゃんがきっと連れてきてくれるから!」

 

 マルゼンスキーがシンボリルドルフの手を両手で握る。その手は微かに震えており、マルゼンスキーが強がっていることを再び感じる。

 

「この歳で迷子は恥ずかしいだろうに」

 

 シンボリルドルフも軽口を叩くが、やはり不安は拭えないようだ。

 しかしどうしようもないのも事実、2人は結局東条トレーナーの連絡を待つ他なかった。

 

「弱音、吐いてもいい……?」

「……ああ」

「すっごく嫌な予感がするの。何か、大切なものを失っちゃいそう……」

「それは、キリノが見つからないということか?」

「ううん、わかんない……。でもこのままじゃ…………怖い」

「大丈夫さ、どうせ人混みに流されて迷ってしまっただけだ」

「そうかも……ううん、やっぱり違う気がする。ねぇルドルフちゃん、キリノちゃんのことお願い……!」

「……? あ、ああ……」

 

 マルゼンスキーの言葉は要領を得ないままそれ以上は何も無かった。

 

 やがて人も少なくなってきたかと言う頃に東条トレーナーから連絡が入った。

 

『いたわ。とりあえず、戻るからそこから動かないで』

 

 2人は顔を見合わせて、ほっと息を吐いた。マルゼンスキーはまだ何処か表情が優れないようだったが、一先ずは安心と言ったところか。

 

 そして4人が集まった頃にはとっくに日が暮れていた。騒ぎを起こした当の本人は何食わぬ顔で合流するものだから、シンボリルドルフは怒り心頭であった。

 

「どういうつもりだ!!」

「話し込んじゃってね、連絡がなかったのは謝るよ」

「何をしていたか言えと言っているんだ!」

「ま、まあまあルドルフちゃん! 見つかったしとりあえず良かったじゃない!」

「そうだよ、良かった良かった」

「お前が言うな!」

 

 はぁ、と東条トレーナーがため息をついた。

 

「とりあえず貴方から事情を説明しなさい」

「うん、ライブが終わったあとにね……」

 

 そこから語られた事の顛末はこうだ。

 キリノアメジストはライブが終わったタイミングを見計らい、今日のジャパンカップを制したウマ娘のもとへと向かった。直接聞きに行くとは非常識な、とシンボリルドルフは思ったが今はそれどころではない。

 会場を探し回っても見つからなかったため東条トレーナーが知り合いのトレーナー各位に連絡を送ったところ、件のトレーナーからうちの所にいると返信が来たらしい。

 

『こちらもつい熱くなって話し合ってしまい、申し訳ない』

 

 とのこと。ベテランのトレーナーらしいが、そんな経験豊富なトレーナーと話し合えるほどの知識がキリノにあったのかと驚くところでもあった。

 

「いい話が沢山聞けたよ」

「お前……!」

 

 怒り、安堵、色々な感情が混ざりあった結果シンボリルドルフは二言目を紡ぎ出せずに押し黙った。

 

「反省しなさいな」

「あんま怒んないねハナちゃん」

「そりゃもう、私の10倍は怒ってる子がいるからね」

「あーね」

 

 呑気に返事をするキリノアメジストの後ろでは拳を握りしめたシンボリルドルフが立っている。

 

「ルドルフちゃん! ステイ! 落ち着いて!」

「マルゼンスキー、こいつは1度本当に痛い目を見ないとわからないようだ」

「気持ちはわかるけど!」

 

 その後、キリノアメジストからの謝罪の言葉が出てくるまでシンボリルドルフの般若のような顔は治らなかった。

 

「まあまあ、有益な情報はしっかり持ってきたからさ」

「……なぁ、確かに私達は敗けた。完敗だったさ。だがどうしてそこまで焦るんだ? 次に繋げる、それだけだろう? また鍛え直せばいいだけじゃないか」

「ルドルフこそ、何を呑気に構えてるの? あたしはキミが初めての敗北にきっと耐えられないって、そう思ったから一刻も早く打開策を用意してあげようとしたのに」

 

 ピクリ、とシンボリルドルフの耳が動く。

 

「随分とナメられたものだな。1度や2度の敗北で私が崩れると、潰れてしまうと本気でそう思ったのか?」

「うん。ルドルフってプライド高いし、なんだかんだで無敗ってところに拘ってたところあるでしょ? ここまで簡単に勝ててきたのもあって、やっぱり壁は大きいんじゃないかなって」

 

 聞く者によれば煽っているようにすら聞こえるだろうセリフに、しかしシンボリルドルフは顔色を変えずに反論した。

 

「プライドが高いのも拘っていたのも認める、否定はしない。だが、それを受け止められず前に進めないほどヤワじゃない」

「そんなの強がりかもしれないじゃん。キミ、素直じゃないところあるし」

 

 シンボリルドルフはキリノアメジストの言葉にため息を吐き、少し苛立たし気に睨みつける。

 

「受け止められていないのはお前の方だろう」

「……は?」

 

 ピタリとキリノアメジストは動きを止めた。空気が凍りつく感覚に東条トレーナーとマルゼンスキーも思わず足を止める。

 

「お前が認められていないのを私に代弁させようとしていると、そういうことだろう?」

「……じゃあ何? 敗けても悔しくありませんでした、順当な結果ですって言いたいの?」

「もちろん悔しいとも。だが敗けてしまった事実は覆らないし、今日の敗北を受け入れることでしか私達は次に進めない」

 

 東条トレーナーは驚いていた。ジャパンカップに執着していたのはシンボリルドルフであり、キリノアメジストは出走を最後まで反対した立場だった。だからこそこの結果を受け入れられずに時間がかかるのもシンボリルドルフの方だと思っていたのだ。

 

「へぇ、キミって意外と温厚なんだ」

「何度煽られようが私の意見は変わらないぞ。焦っているのはお前だ、お前が納得していないだけの話だ。……まあ、その悔しさは十分にわかる。私とて同じ気持ちだからな。だからこそこの悔しさをバネに……」

「……ざけんな」

 

 キリノアメジストがシンボリルドルフの胸ぐらを掴む。

 

「ふざけんな!!」

「キリノちゃん!」

「おい!」

 

 咄嗟にマルゼンスキーがキリノアメジストを引っ張り二人を引き離した。

 

「ふざけんな、ふざけんなふざけんな!! お前が出たいって言ったから、お前が勝ちたいって言ったからあたしはここまでやったんだ! それをこんな……クソ! 何とか言えよ!! あたしのせいだって言え!! あたしの力不足で敗けたんだって言えよ!!」

「キリノちゃん落ち着いて!」

「……お前だけのせいじゃない、私も力不足だった。私達の2人の力量が足りなかった、それだけだ」

 

 ギリ、と歯を食いしばり、マルゼンスキーの拘束を振り切るキリノアメジスト。勢いは止まらずシンボリルドルフの両肩を抑えて壁に叩きつけた。

 

「キリノ!」

「何が"2人の"だ。あたしは何も出来なかった、何も出来てないんだよ!! 今回の3着は紛れもなくシンボリルドルフ、お前だけの実力でとったものだ。何が2人だよ、ずっとワンマンだろうが! デビューからずっと、あたしが何をしたって言うんだよ!!」

「…………」

 

 シンボリルドルフは何も言わず、ただ睨み返している。キリノアメジストのあまりの気迫に東条トレーナーもマルゼンスキーも動けない。

 

「三冠だってそうだ! あたしがいなくても変わんない! だったらあたしに助言求めんなよ!! どの面下げてあたしの肩持ってんだよ!!!」

 

 もう観客は帰ってしまったのだろう。静寂の中叫んだキリノアメジストの声だけが残響する。

 

「……だんまりね」

 

 興が削がれたとでも言いたげに肩から手を離し、キリノアメジストはそのまま後ろを向いた。

 しかし、今度はシンボリルドルフがキリノアメジストの肩を掴む。

 

「なに?」

「……2人で」

「チッ……なんでわかんないか……っ!」

「2人で取った三冠じゃないか…………!」

 

 シンボリルドルフは涙を流していた。

 

「っ……なに、泣いてんの……」

「……君がなんと言おうと私は君に救われたんだ。君のおかげでここに立っているんだ。だからどうか、どうかそんな悲しいこと言わないでくれ…………!」

 

 涙を流しながらも、しかし毅然とキリノアメジストを捉えて離さない瞳に、彼女自身もまた目を逸らせずにいた。

 

「ひ、悲劇のヒロイン気取り……?」

「なんでもいい、どう思われてもいい。ただ、ただ自分を傷つけるようなことだけはどうかやめてほしい。私の大切な親友を、他でもない君自身が乏さないでくれ」

「うるさい……うるさいうるさい! そんな、そんなキモいこと言って…………っ!」

「お願いだ」

「う、うるさい……」

 

 ペタリと、キリノアメジストはその場に座り込んだ。

 

「なんだよ……なんなんだよぉ…………! なんで……どうして…………もう……もうわかんない………………」

 

 鼻をすする音が響く。やがてキリノアメジストは声を殺して泣き始めた。誰も、何も声をかけず、ただ時間だけが過ぎる。

 しゃくり上げる声が聞こえなくなるまで、時は止まったままだった。

 

 

 

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