「…という感じで!今ざっと説明したのが青葉がここでやってるお仕事の内容だよっ!」
「なるほどっ!」
…かくかくしかじか。青葉と朝潮ちゃんが一緒に依頼をこなすにあたって、まずは普段青葉がどういうことをしているのかを一通り彼女に説明してみた。
それにしても朝潮ちゃんはやはり真面目だ。私の言葉を一言も聞き漏らさないと言わんばかりに鬼気迫る表情を浮かべ耳を澄ませていた。相槌もしっかり打ってくれていた…その様子がどこか首振り人形を彷彿させてちょっと怖かったとは口が裂けても言えないですけどねぇ…。
「青葉さん、質問いいですか?」
ザ・優等生という感じでまっすぐ挙手する姿がまぶしい。はい、朝潮ちゃん!何ですか?
「依頼を引き受けるとのことですが…これ、全部匿名ですよね?鎮守府には百人以上の艦娘が所属していますし…どうやって依頼主を判別するのですか?」
お、いいところに気が付きますね!
確かに匿名である以上、依頼主が誰なのかを判別するのは難しいところがある。もちろん依頼主を介さず解決出来る場合もあるけど、依頼主に接触を図って一緒に解決を目指すケースも少なくない。
ふふふ!そんな時、青葉がどうしているかというと…
「しっかりと声を拾う…ですか?」
「そう、それですっ!それが大事なんですよぉ!」
悩んでいる子たちの声をしっかりと拾うこと…これが鍵になってくるのですっ!
「…すごいっ!!!」キラキラ
朝潮ちゃんから尊敬のまなざしが向けられている…。えへへ、青葉ちょっとかっこいいですかね?
話が逸れちゃいましたね、ゴホン!えっと声を拾うって言うのは具体的に言うと依頼主が投函したものをしっかりと読み込むってことなんです!
例えば…
『飼い猫を探してほしいのにゃ!もうどこ行っちゃったか分からなくて夜も眠れないのにゃ!助けてにゃ!一緒に探してにゃ!ちなみに私は猫じゃ……』
これなんかすごい簡単ですよ!まず依頼主は猫を飼っている…これだけで結構絞られてきますね。それに『にゃ』という特徴的な語尾、自分は猫ではないという意味ありげな主張…。
はい、もう分りましたっ!これは軽巡多摩さんからの依頼ですっ!
『テートクに不貞疑惑がありマース!ワタシという者がありながら…いかがわしいお店に通っているようデース!!ふぁっきん!場合によっては沈めマース!絶対にユルサ……』
これもイージー!朝飯前ですよっ!
わざわざ文章にカタカナを織り交ぜてまで…というところを見るに、相当自己主張の強い方だと見受けられますね、これは!そしてあふれでる司令官へのLOVE、まぁなんか嫉妬っぽいですけどね。これはもう言わずもがな、ですねっ!
…その他の依頼についてもよくよく読み込めば依頼主の特定に足りうる情報があったりするもんなんですっ!まぁ、紛失物ともっこりの件についてはちょっと謎が多いですけどねぇ…。
と、得意気に語ってみるけど、朝潮ちゃん置いてきぼりになってないかな…。青葉がこういう話始めるとドン引きされることもあって…。
「す、すごいっ!!コールドリーディングってやつですねっ!?」
うん、それは違うと思う。というかよくそんな難しい言葉知ってるね。
でも安心した。少なくとも朝潮ちゃんはドン引きはしてなかったみたいだ。むしろここまで食いつき高く聞いてもらえると…なんだか青葉、照れちゃいますっ!
「あ、ちなみになんですけど…」
ん?どうしたのかな?
「この、司令官の不貞疑惑というものについてなんですが…」
あれ、なんか朝潮ちゃんの顔つきが険しくなったぞ…?
なんで…?
はっ!?しまった!やらかしたかもっ!?
「あ、朝潮ちゃん、あのこれはね…その!」
「…………」ゴゴゴゴゴ
朝潮ちゃんは明らかに何か言いたげだ。
それもそうだろう。そもそも司令官に関する依頼はセンシティブなもの、色恋についてのものがほとんどだ。それだけ多くの子が彼のことを気になっているのだ…そしてもちろんその中には朝潮ちゃんも含まれているだろう。
常日頃から彼の側にいて、口を開けば彼への忠誠、尊敬しか出てこない。彼女にとって彼は絶対的存在なのだ。
そんな彼女のことだ…もし彼を冒涜するような内容があればどうするだろう?きっと全力でそれを潰しに来るだろう。
いやああああっ!よく考えたらこの件については彼女の目に触れさせるべきじゃなかった!というかもうすでに司令官の不貞に関する有力な証拠、いくつか掴んでるんだからリストから外しておくべきだったあああああ!
ふおぉぉぉぉぉぉぉっ!!青葉、もしかしたら朝潮ちゃんに八つ裂きにされてしまうのでは!?情報を開示する間もなく消されてしまうのでは…?
まぁ、司令官にとってはそっちの方が都合よさそうですけどね…。
「…これは本当ですか?」ゴゴゴゴゴ
長い沈黙の後、彼女が切り出した言葉に私は血の気が引いていくのを感じていた。
ああ、さようなら。短い人生…艦生でした。
「…はい」
リストも見せているし、あれだけ饒舌に語った以上、今更あれは嘘でしたなんてごまかせるわけがありません。尤も今にも肉薄してきそうな彼女を前にしたら嘘なんてつく勇気出ないですけど。
だから私は覚悟を決めて正直に答えました。
「…そうですか」
ふぅ、と小さく息をつくと朝潮ちゃんはじっと青葉の目を見つめて何かを考えているようです。正直、生きた心地がしません。蛇に睨まれた蛙とはこのことか…。
「…それについてはもう調査済みなんですか?それともこれからですか?」
「あ、もうほとんど情報は…その、証拠は掴んでまして…」
「その証拠はどこに?」
「あ、えっーと青葉がいつも使っているUSBの中に全て…」
「この件について私以外の誰かに話しましたか?」
「い、いえ…」
「…………」
なんだこの死刑執行を待っているような息苦しい時間は…。尋問!?尋問されているのかっ!?
朝潮ちゃんのギラギラした目が青葉の体を射抜くように見ている…。ああ、いったいいつになったら…。
「そうですか!もしそれが本当なら司令官には反省してもらわないとですねっ!」
え?
「青葉さんのお陰でやることがちゃんと理解出来ましたっ!この朝潮、いつでも出撃出来ますっ!」ニコッ
「…!」
「…司令官のことになるとつい熱くなってしまって!すみませんでしたっ!」
な、なんかよく分からないけど…
た、助かった~~~!!
ペコリと頭を下げた朝潮ちゃん、さっきまで纏っていた気迫はどこへやら…。あの険しかった顔つきも今はちょっと照れたような可愛らしい笑顔になっている。
「どの依頼から片づけていきましょうか?」
「あ、ああ!えっと…!」
うん、そうだ!そうだよ!さっきは司令官のことで頭がいっぱいになっていただけで、本来は真面目でいい子なんだ!そんなのもう分かりきったことじゃないか!
さっきまでのことが急に馬鹿らしく思えてきて、思わず笑みがこぼれる。
「じゃあ、えっと最初は多摩さんの依頼を片付けに行きましょうか!実はもう彼女に声掛けてあるんです!」
「はいっ!」
ホッと胸をなでおろす。
さぁて、気を取り直してさっそく依頼に取り組んでいきましょうっ!多摩さんが依頼主なのは確認済み…!今朝早くにアポは取っておいたからきっと彼女はすでに待ち合わせ場所で猫の捜索を始めているだろう…。
■
「…ところで青葉さん、さっき話したUSBっていつもはどこに保管しているんですか?」
依頼主多摩さんの元へと向かう途中、朝潮ちゃんは思い出したようにそう言って青葉に尋ねてきた。
あー、実を言うとね…。本当、お恥ずかしい話ではあるんだけどさぁ…。
「紛失…ですか」
「…はい」
いや、本当にっ!あれだけ苦労して証拠も集めたのにっ!まさかそのデータが詰まったUSBを失くすなんて誰が想像できますかっ!?ええっ!?
でもこれだけは信じてほしい。確かに整理整頓が出来なくて汚部屋にしちゃったり、よく物を失くしちゃったりするけどっ!あのUSBに関しては失くしたんじゃなくて、盗まれたんですっ!
「紛失と盗難では全然違いますよっ!いったいどこで…」
私の記憶が正しければ、USBは一昨日まではあったはず。でも昨日のお昼に鎮守府の外にあるベンチに腰掛けて衣笠たちとご飯を食べてた時、ちゃんとあるかなって確認した後にそのままベンチに置きっぱなしにしちゃったんだよ…。部屋に戻った時に無いことに気が付いてすぐに戻ったけど…もうベンチには置いてなかった。今のところUSBの忘れ物は届けられてないみたいだし…はあ。
「…なるほど」ウーン
朝潮ちゃんは私の話を聞いて、腕を組んで唸っていた。私も考える…果たして私のUSBはどこに行ったのか、誰が持って行ったのか…と。
「分かりました!」ポンッ
…突然手を叩いたかと思えば、なんだって!?分かったんですかっ!?
「あ、いえ…犯人とまではいかないですけれど。もしかしたら青葉さんのUSBを持って行ったのってリストに載っていた紛失物の件と関係あるんじゃないですか?確か鎮守府の外で紛失物が多発しているとのことでしたよね…そして青葉さんがUSBを失くしたのも外…」
「つ、つまり…?」
「つまり件の依頼を調べれば、青葉さんのUSBも見つかるってことですっ!」ドンッ!
お、おお!!!エッヘンと胸を張る朝潮ちゃんの姿がまぶしいよ…。
でも確かにその通りですね。その依頼を調べていけばUSBの手掛かりが見つかるかも!
「でも青葉さん!大事なものはしっかり肌身離さず持ってないとダメですよっ!ほら、このように…!」
うんうん、本当にそうだ。まあ、今回は肌身離さずに持ってたがゆえに盗まれることになったんだけどね…。
…って、え?
ええっ!?
ええええええええええええっ!?
ちょ、ちょっと!朝潮ちゃん、なんでスカート捲り上げてるの!?
「このように肌身離さず持つことが大事なのですっ!」ドヤァ
その時、私の目には得意気にスカートをたくし上る朝潮ちゃんの姿が映っていた。
というかパンツ!パンツ見えちゃってるっ!!縞々のパンツが露出されてるぅ!!!
というかそれだけじゃないっ!?
晒されたパンツをよく見るともっこり…!?隆起してる…はへぇ?
アイエエエエ!?アサシオチャン!?アサシオチャンナンデ!?
「ふふっ…!こうしておけば失くすことはおろか、盗まれることも絶対にありえませんっ!そして必要になったらこうして…んんっ!」
…そう言って下着の中に手を入れた彼女は甘い吐息を吐きながら何かを取り出した。
「はぁ、はぁ…ちなみにこれは部屋の鍵です///」
頬を赤らめた彼女は手に持った鍵を私に見せるとまた甘い吐息を吐きながらそれを下着の中にしまった。
「あ、えっーと…朝潮ちゃんはパンツの中に大事なものをいろいろしまっているってことでいいのかな?」
「はいっ!ぜひ青葉さんも真似してみてくださいっ!」ドヤァ
誰が真似するか、そんなことっ!!
朝潮ちゃんの新しい一面が知れたのは嬉しいことだけど、出来れば違う形で知りたかったなぁ…。朝潮ちゃんがこれを他の子の前でやってないことを今は祈るばかりだ…。
あ、それと朝潮ちゃんのパンツがもっこり隆起していたのはそういう理由ね…。
もしかしたら朝潮ちゃんは司令官と同じものをお持ちなのかと思ったけど違ったみたいで安心しましたっ!
というかリストの一つ、もう解決したのでは…?
「おーい!!こっちにゃー!!」ブンブン
「あ、多摩さんです!」ブンブン
いろいろと怒りすぎて頭がパンクしかけていたところ、私たちに呼びかける声が…。
ああ、多摩さん!よかった!
声のした方を見ると多摩さんが大きく手を振りながら私たちを呼んでいる。隣のいる朝潮ちゃんはもうスカートを降ろしていて、多摩さんに負けないくらいの勢いで手を振り返している。
「行きましょうっ!」
そう言って元気に駆け出した朝潮ちゃんの後姿を見ながら、私は依頼が一段落したら彼女にしっかりと常識を伝えてあげなければいけない、そんな使命感に駆られていたのだった。
次でラストの予定です。