天才剣士がいたからって身内も同じだとは限らない   作:塩なめこ

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財布様、評価していただきありがとうございます。


兄貴と仕事と俺と

 がしゃがしゃと夜の人里には似合わない大きな音が響く。

 それは祭りの音などでは断じてない。里を囲む壁よりも大きなそれは、里の出入口を探して大きな音を隠しもせずに歩き回る。

 

 それの正体はがしゃどくろ。

 

 供養や埋葬のされなかった死者たちの怨念や骸骨が集まり、巨大な骸の妖怪として再誕した存在。所謂怨霊の類に近い化け物だ。

 

 そのどくろに集まるように小さな光が群がっている。それこそが俺たち自警団の光であり、この夜の世界を照らす唯一の光源だ。

 

 

「状況は?」

「未だ被害は出ていません。一度里の壁に身体をぶつけたみたいですが突破できず、門を目指して迂回する形をとっているみたいです」

「了解、ありがとう」

 

 

 あれだけの図体を用いれば壁どころか家屋すらも破壊して進むことが出来ただろう。それをしてこなかったということは兄貴が考案した新しい防壁が機能しているという事だ。つくづくあの人は恐ろしいなとこの仕事をしていると思う。

 

 

「東門を開けてやれ。全員そこに集合。3人ほど伝令として博麗神社に回す」

「よろしいのですか、わざわざ里に侵入させるようなことをして」

「狙いがわかっているなら誘導が効く。ガチガチに固めて強行突破に舵を切られるよりかは、敢えて入口を作ってやって万全の体制で叩いた方が効果があるだろう」

「なるほど、分かりました。全員東門に集合! 門を開けたらすぐに伝令は博麗神社に行け! 」

「今は夜だ。道中他の妖怪にも襲われる可能性がある。帰ってくるのは朝になってからでいい。その分他のものには目もくれず全力で走り抜けろよ!!」

 

 

 指示を飛ばして俺も剣を抜く。東門には既に灯りがそこら中に点っており昼のように明るい。これならば視界に困ることもないだろう。

 

 

「来ます!」

 

 

 一人が声をあげると同時に門の端を大きな骨の手が鷲掴みにした。グイッと覗き込むように現れた白い顔は、夜の漆黒の色と相まって死神を連想させる出で立ちだ。

 

 

「────────!!!!!」

 

 

 それはどんな音だったか。咆哮と共に奴は里へと侵入する。威嚇とともに発さられた畏れが俺の全身を走っていく。

 

 がしゃどくろの全長は一丈を優に超える。その手だけで人を握りつぶすことができ、その体を倒すだけで生物を肉片へと変えることができる。

 そうしてできあがった物や生者を大きな口で噛み砕き喰らうのだ。その目的は生者の命を吸い甦ろうとせんがため。

 

 だが悲しいかな、奴はどんなに頑張っても他者を糧とすることは出来ない。なぜなら奴は骸骨、ただの骸、どくろ。

 その内に食道はなく、胃もなければ腸すらない。喰らえど喰らえど口を通ったそれはぼとりと落ちるのみ。化け物の通るところに血の道ができあがるだけに過ぎない。

 

 だがそれすらも奴には分からない。骸の複合体故に魂も混濁し知性など存在しない。だからこそ幻想郷の法など気にもせず襲ってくる。

 ただ災厄を撒き散らすことでしか自身を主張できず、誰かに討伐され、弔われるその時まで彷徨い続ける。それががしゃどくろという妖怪の本質だ。

 

 果たしてその体から鳴るがしゃがしゃという音は魂の悲鳴なのか、それとも恨みつらみのこもった呪いなのか。こちらとしてはどちらであっても迷惑極まりないが。

 

 

「総員槍を構えろ! 傷は与えられなくても足元を崩すことは出来る。崩れたところを俺が押し出す! 手と奴の体に押しつぶされるなよ!」

「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

 雄叫びに続いて第一撃を入れる。奴の頭の目の前まで飛び上がり、霊力を込めた渾身の蹴りを放つ。奴はその図体に見合った重さをしているようでビクともしない。だが今はそれでいい。俺の役割は最も厄介な凶器とあの腕の攻撃を一手に引き受けること。

 

 

「──────!!!」

 

 

 狙い通り、目の前の羽虫を払うがごとくどくろは動き出す。その巨腕を振り上げ手のひらで押し潰すつもりだ。

 

 

『里の防衛において主戦場になるのは門の前後だ。あそこは里の大通りと直結してる関係でとても広い。大人数で戦える代わりに敵もその体を何不自由なく動かすことができるだろう』

 

 

 奴の一撃は他の妖怪に漏れず全てが致命の一打に有り得る。霊力持ちが少ない一般団員が受ければ死ぬのは必定。なぎ払いでも繰り出されたら一溜りもないだろう。だからこうして俺だけを狙ってくれるならやりやすい。

 

 

『防壁もないし、あったところで潰されるだけだろ? だから霊力が扱える俺たちが率先して抑えに入るんだ』

 

 

 それにその一撃も普段風見幽香から貰う打撃に比べれば、遅く、弱く、そして軽い。いなすことなど造作もない。

 

 

「オラァ!」

「─────ッ!?」

 

 

 左腕に霊力を溜め、盾で受けたその手のひらを頭上へとはじき返す。

 簡単に押しつぶせると考えていたであろう矮小な存在から、手元を吹き飛ばされるほどの力が加わった。その事に驚愕したのか奴は数歩後退ろうとする。そこが隙。

 

 

「「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

 両脇から挟むように槍がやつの脚目掛けて突っ込んでくる。しかしただの槍。突き刺すことどころかかすり傷をつけることもできない。

 

 

「──────」

 

 

 だが物理的に奴の邪魔になればそれでいい。足の踏み場が無くなった奴はその図体に見合った重量を支えようとして片足で踏ん張った。そんな体重が寄った姿勢を見逃すわけがない。

 再度俺は飛び上がる。狙いは先程と同じ。

 

 

「倒れろ!」

 

 

 下げた足は槍に阻まれ、地に足をつけて自重を支えることができないどくろは、その頭蓋に衝撃を加えられて盛大に転がる。上半身まで里に入っていたその体は完全に門の外へと押し返され、無様に腹を上に向けたまま仰向けに倒れた。

 

 

「あれなら立ち上がるのにしばらく時間がいるだろう。皆は次の用意を。追撃はするなよ」

「いいんですか? 貴方ならあのどくろだって……」

「あの大きさの怨霊は無理だ。ああいうのを祓うのは巫女の仕事さ」

 

 

 倒せないことは無い。だが倒すだけでは意味が無いのだ。

 これは上白沢先生を呼びに行かなかった理由でもあるが、怨霊の類はただ物理的に消し去ったとしても完全に消えることはない。彼らの魂は現世に縛られ続ける。

 しかもその性質上妖怪は近づけない。怨霊に呑まれれば、彼らの混沌とした魂と混ざり合う危険性があり、最悪消滅という死が訪れる。

 

 完全に奴らを消し去るには巫女に『お祓い』という形で成仏させてやるしかない。すなわち膨大な量の霊力をぶつけること。残念ながら俺では不完全に消滅させることしかできない。

 そうなれば待っているのは里での再誕。しかも正式な『お祓い』ではなかったがために、再誕時に病魔を撒き散らす恐れすらある。

 兄貴ならばその霊力でもって恨みすら消しされたのであろうが。

 

 

「とにかくこれを繰り返す。使者が博麗神社に着いて巫女が飛んでくるのを待つにしても1時間から2時間ほどかかるだろう。俺たちはそれまで時間稼ぎに徹するんだ」

 

 

 結局、敵が風見幽香ほど強くなかったとしても自警団のやることは変わらない。人々の壁となって人間でも最強格の巫女の到着を待たねば勝てないのだ。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 それから博麗の巫女がやって来てがしゃどくろを滅したのはもうそろそろ朝日が出てくるであろうという時刻だった。

 

 既にどくろのいた痕跡はない。知性もなく力も大妖怪に比べれば劣る奴を足止めなんて、準備さえ整っていればどうということは無い。

 数名の負傷者を出したがそれも軽微で、伝令の無事も確認したため死者はいない。今奴がぶつかったという壁の方にも確認に行かせているが、今のところ家屋の被害もあがってきていない。

 

 壁が壊されていればこんなに簡単には行かなかった。武器を複数持たせていたから簡単に止めることができた。

 兄貴が準備し、残したものは十全にその成果を発揮したのだ。

 

 

(だからどうか、安らかに眠っていてくれ。俺が生きている限り里は俺が護るから)

 

 

 門の横には簡単な墓が作られており線香の煙が立ち昇っている。俺は心の中でそう呟きながら、そこで先の亡霊に対して祈りを捧げていた。

 

 実はがしゃどくろの出現というのは、この幻想郷では基本起こり得ないことだったりする。

 怨念や亡霊の存在は確かに至る所で観測できる。だがしかし、怨念の融合体であるあのどくろが現れるのは皆無に等しいと言っていい。

 

 まず、ここには閻魔様が管轄する地獄が三途の川を隔てて存在している。いくら正当な手順を踏んで埋葬されなかったと言えど、死んだ者の魂はそちらに流れていくはずなのだ。

 そして収容しきれなかった魂たちが怨霊や人魂になって幻想郷を飛び交う。彼らは閻魔様の判決を待つ身分であり、転生前の気晴らしに動き回っているだけだ。

 そんな彼らがわざわざ複合体になって魂をごちゃ混ぜにし、生者を襲っても何の得もない。そうなれば転生が先延ばしになるだけだし、生命として不純な存在となるため、酷い時は転生することが出来なくなってしまうだろう。

 

 では何故今回、奴が出現したのか。多分、先の吸血鬼異変のせいだ。憶測だが十中八九そうだと言っていいだろう。

 

 先の異変では外から来た妖怪もここにいた妖怪も、そして人間もたくさんの人が死んでしまった。その経緯はどうであれ、本当にたくさんの命がひとつの場所で散った。

 また、特に怨霊となるであろう死に方をした者たちもいた。吸血鬼に血を吸われた奴らだ。彼らは食屍鬼と化して魂の輪廻から外れ、吸血鬼の所有物となって生き長らえた。

 それを巫女や兄貴、俺が手当り次第に葬った。それは死者に対する鎮魂では断じて無かっただろう。彼らの魂はこの世に残り続けたのだ。

 

 そして彼らだけではない。俺の兄貴もまたその遺体を埋葬してやることが出来なかった。彼の体はこの世から粉々に消えてなくなってしまっている。

 弔わなかったわけじゃない。だが、精一杯の供養と言っても本人のいない墓と仏壇が家にあるだけだ。死者がいないそれに一体どれだけの価値があるというのだろうか。

 

 俺にはあれに兄貴の魂も含まれていたんじゃないかと思えてならない。だから今、巫女による『お祓い』が済んだ今、こうして仮設の墓を作り弔うのだ。他の魂たちと共に安らかに眠って欲しいが為に。

 

 

「後で花を持ってくるか」

 

 

 一連の動作で冥福を祈り帰路に経つ。そろそろ農家の人が起きて田畑を確認しに来る頃合だ。……がしゃどくろの出現が深夜になったのも、あの日吸血鬼異変が起こったのが深夜だったからなのか。

 

 そんな考え事をするが思考はまとまらない。ほぼ徹夜状態で流石に眠いからだろう。花屋が開くのも数時間後だし、一眠りしてもいいかと今日の予定を立てながら玄関を開けてみると、その計画を無惨にも破壊するものがそこにあった。

 

 

「これは……文?」

 

 

 差出人は『八雲紫』と記されていた。

 その無駄に綺麗で逆に不気味な文字を見つめていると、ゾワリとした感覚が背中を撫でる。

 

 

「っ……?」

 

 

 咄嗟に柄を握って後ろを振り向けばそこには一輪の彼岸花。先程の一瞬、何者かが俺の背後を取っていたのは間違いないようだ。こんな芸当ができるのは一人しか思い浮かばないが。

 この花は追悼の意、ということなのだろうか。とにかく妖怪関連の厄介事が舞い込んできたというのは間違いない。

 

 

「風見幽香に続いて妖怪の賢者まで……。俺のことはほっといてくれよ」

 

 

 怒鳴る気にもなれない呆れた声が()()()()()()()()()広すぎる家に響いた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

『日が昇りきった頃にお待ちしておりますわ』

 

 

 それが手紙の最後の一文。酷いもんだ、朝一で妖怪退治をしたばかりだというのに昼過ぎを指定してきやがった。あちらもその事を知らないわけじゃないだろうに。

 

 きっとこれも兄貴と接するのと同じ感覚だからなのだろうと結論付ける。いや、俺は空が飛べないので兄貴よりもスピードが出ないし、道中で妖怪に出くわす危険性もあるんだが。

 身勝手な妖怪に合わせてやるのもまた器量というやつだろうか。ともかく、出発は朝食を食べて直ぐにすることにした。二時間程しか眠れなかったが致し方ないだろう。

 

 

「それでは上白沢先生、留守の間よろしくお願いします。一日で済むとは思いますが、何かあったら直ぐに博麗の巫女まで。相手が賢者なら彼女から私に連絡がいくでしょう」

「あぁ、任された。……琥二郎、それとは別にだな、お前はまだ十五だ。私に対してそんなに気を使わなくてもいいんだぞ? せめて名前で呼んでくれないか」

「ありがたいことですが申し訳ありません。今は立場というものがありますから」

「そ、そうか」

 

 

 うぐっ。上白沢先生が泣きそうな顔をしてしまっている……。やはり皆には慧音先生と呼ばれているのに俺だけに呼ばれないのは心にくるものがあるのだろうか。

 だが、どうか許して欲しい。別に嫌いというわけでは断じてないから。こうして立場や責任を武器にして取り繕っていないと俺はてんでダメなのだ。女性の、特に綺麗な女性に対しては顔を向けることすら出来なくなってしまう。あぁ、黄泉の国で今でも笑ってるんだろうな兄貴。

 

 ……分かっている。分かっているさ、これをどうにかしなきゃならないことくらい。こんな性分だから博麗の巫女とか今まで直で会ったことがないし、敵認定してる風見幽香にでさえ、戦意を無くすとすぐ直視できなくなっちまうし。

 今回の件に関しても果たして俺は人里代表として恥じない振る舞いができるのだろうか? 妖怪の賢者は吸血鬼異変でちらっと見た程度だったがかなりの美人だった思い出がある。……憂鬱だ。

 

 

「と、とにかく、行ってきますね」

 

 

 心を押し殺し、愛用の盾と剣といくつかの道具を持って西門から出発する。

 目指すは博麗神社とは真逆の方向にあるという幻の舘、マヨイガ。

 

 

『先代からの約束の件でご連絡させて頂きました』

 

 

 文の第一文にはそう書かれていた。全く、里の守護者たる自警団には政治の役割なんて求められていないのに、あのバカ兄貴は何を勝手に約定など結んでいやがるのだろうか。しかも内容を誰にも伝えていないし。嫌な予感しかない。

 

 

「せめて俺にだけでも話してくれても良かったじゃないか」

 

 

 そんなに頼りなかったのかな、俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実はこの一話でゆかりんに会うつもりでした。がしゃどくろは前置きだったのにねーおかしいねー。

なんで少なくともあと一話は構想が出来上がっております。お楽しみに。
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