天才剣士がいたからって身内も同じだとは限らない 作:塩なめこ
実は昨日のうちに投稿させる予定がアレルギーの悪化で遅れてしまうというね。体調不良には気をつけよう!
そしてまたまた評価を頂いてしまいました。カタナタカさん、投票して頂きありがとうございます!
UA数も1500近いですし、感謝感激雨あられです
「全く、貴方はまた勝手にやってくれたわね……」
「かかか、すまんな散らかして。ほら文、片付けてやりな」
「えぇ!? 私がやるんですか!?」
と、言いつつも射命丸文は風を使って器用に畳を並べつつ、壁まで吹き飛ばされた机を手で運んで部屋の真ん中に戻す。口ではああ言ったが天魔の無茶ぶり具合は今に始まったことではない。
「さて、悪いが新しい茶を淹れてくれないか? 茶碗は壊さないようにしたんだが中身は無事じゃないだろ」
「……藍、お願いしていいかしら」
「了解しました」
琥二郎に対して怒気にも似た妖力をぶつけていた彼女だが、現在は飄々としている。人里への天狗の報復なんて紫にしてもあまり喜べる事態ではないのだが。
「貴方、さっきのあれは本気なの?」
「あぁ本気だとも」
「貴方が望む商いという新しい遊び、実現できなくなるわよ」
「少なくとも今後十数年は無理になるだろうな。あいつが帰ってこなければだが」
ケラケラと笑いながら藍が差し出した茶をぐいっと飲む天魔。その様子を見て紫は思った。まさかこいつ、琥二郎にあれほど言っておきながら期待しているというのか?
「なんだよその顔。そんなに悪いのか? わしがあいつを期待しちゃよ」
「少なくとも先程までのやり取りを見ている限りだと、ね。……結局どうなのよ。今日彼と初めて会って、貴方のお眼鏡にはかなったの?」
「いや、まだ足りねぇなあれじゃ。
確かに武人の家の小僧ってだけのことはある。剣術や身のこなしはそれなりに体系化されたものを習得しているようだし、知恵はないが知識はたーんと溜め込んでるよ。まだ十五だってことを考えるとそれなりに強くなるだろう」
「足りないと言う割には結構高評価じゃない」
「それなりじゃダメだろ、龍一の代わりになるには」
何も天魔は最初から龍一とタメを張れる力を今の琥二郎に求めてはいない。霊力や剣の腕前なんかの生来の才能の差。これはどう頑張っても覆すのは不可能に近いだろうし、事実できていない。十五の龍一はこんなものではなかった。
だが、将来的にはそうなってもらわなければ困る。そうでなければ協力者としても頼りないし、競争者として物足りない。
「あのまま鍛錬を重ねて強くなったとしても、一昔前にたくさんいた退治屋とどっこいくらいにしかならねぇだろ」
天魔には琥二郎が生前の龍一と同等、またはそれ以上の存在になれる伸び代を持っているとは思えなかった。少なくとも今のところは。
「じゃあ何に期待してるのよ貴方」
「お前や龍一、風見幽香に見えてる市川琥二郎に期待してる」
「……」
過去、龍一は琥二郎のことを『俺を超えるかもしれない』と言った。風見幽香も一時の感情に任せて殺しても良かっただろうに、今は後生大事に育てている。そして八雲紫も彼のことを高く評価しているのを天魔は知っている。
「わしはまだあいつの本気を見れとらん。今の限界も知らん。だがあいつはがしゃどくろにも風見幽香にも本気を出さんし、ここまでの道中ちょっかいかけてた文にも手を出さなかった。いやー困った困った!」
「なるほどね。だからあの子の本気を出させるために里を引き合いに出して脅したわけ」
「その通り。あいつが龍一と違って憎しみで動かないのはよく分かったからな!」
はっはっはっと大きく高笑う天魔。この女、こんなふうに笑っているが内心では里の人間を殺す算段もしているのだから油断ならない。
しかも天魔の打つべき手は紫から見ても的確だ。一度の対談と龍一からの話だけで琥二郎の性格を分析し、彼が全力を出さざるをえない状況を完璧に作りあげた。
故に、紫には先の「本気だとも」という言葉が嘘偽りでないのが分かる。でなければ意味がないのだ。この先も琥二郎が全力を出させるためには、常に里が危険な状態にあるのだということを理解させてやらねばならない。
ひと吹きすればこの幻想郷から大多数の人間が消えかねない状況は、紫としても到底見過ごすことのできないものだが。
「いやーでも天魔様、流石にこの屋敷に閉じ込めるのはやりすぎなんじゃないですか?」
「なんだ文、お前もそんなことを言うのか」
「だってこれ、龍一さんだって生前達成したことないじゃないですか」
「だからこそいいんだろう? そういうのをやり遂げてもらってはじめてあいつに価値が生まれるのさ」
兄のなし得なかった偉業の一つ。それを今の琥二郎が達成できるかどうかは分からない。紫は彼を見守る者として生還を心から祈った。
スキマを通して見える彼は、まだ一つ目の部屋から動こうとすらしていない。
迷ったらまずは状況整理。行動するにしてもコレをやらねば何もできない。
現在、俺は天魔の風に吹き飛ばされてマヨイガで生成された何処かの部屋にいる。ここは畳が敷かれた四畳半の小さな部屋だ。家具は一切なく、部屋の一辺に障子の戸がひとつずつ。つまり四つの隣接する部屋に接続していると考えられる。
そして、そんな状態の俺に求められたのは自力での脱出。故に八雲紫や八雲藍の力を借りては駄目だ。
達成できなければ天狗たちの報復が里を襲う。……兄貴があちらでどの程度暴れていたのか知らないのでその被害を予想することは不可能だ。
手持ちの道具は剣と盾、そして小袋に入れて置いた石、握り飯、水筒と小刀が一本だ。
「ふざけんなくそが」
そう言わないとやってられなかった。
野良妖怪ばかり狩っていたと思っていた兄貴も、唐突に現れては資格無しと判断してここにぶち込んだ天魔も、ふざけてやがる。
あぁでも、自分の行動がこうやって里を害することに繋がると分かったから、兄貴は立場を得てから妖怪狩りをしなくなったのか。最初の一回以外風見幽香に手を出さなかったのも納得できる。
まぁそもそもの話、吸血鬼異変中に自分が亡くなるなんて思ってもいなかったんだろうな。生きていたら全部丸く治まった話である。
「……はぁ」
そう考えるとやっぱり俺にも払うべきツケがあるように思えて、しかし理不尽であるのも変わりなくて、それでもやはり納得できなくて、どうしようもなく大きなため息が出てしまう。
ともかくやることは変わりない。里云々以前にここに閉じ込められれば俺だって死ぬのだ。脱出を目指す。
「とりあえず検証だな」
伝承は確かに人里にも伝わっている。だが、ああいうものは大抵、人々に警鐘を鳴らすために誇張表現されているものが多い。
だからそれと真実のすり合わせは必要不可欠なことだ。
「さて、と」
とりあえずやることは決まった。であればいつまでも吹っ飛ばされた時のまま仰向けになっている理由はない。
起き上がりとりあえず近くの戸を開ける。隣の部屋もここと同じく何も無い四畳半の部屋。変わったところと言えば戸が障子から襖になっていることくらいか。
そこを開けたまま、更にふたつ目、みっつ目、よっつ目と順番に障子を開けていく。その先はひとつ目に開けた部屋とほとんど変わらない。
つまり、基本的にはこのような狭い部屋が無限に続いているというわけだ。
「これなら確かに、家具を持って帰れれば幸せもんだ」
先程会談していたような部屋というものがそもそも特異なのだろう。役割の与えられていない部屋がこのマヨイガの大部分を占めているようだ。
だからこそ、この屋敷から何か持ち出せたのならそれは幸運の証として機能する。
ここから持ち出せるものなどせいぜい床に敷かれた畳くらいなもの。常人ではまず持ち運びながら出口を探すなんてことは出来ないだろう。
「それじゃあ次は……斬るか」
第二の検証。この壁や天井の破壊が可能かどうか。……実は結果は目に見えているのだが、まぁやっておくに越したことはない。
「……ふっ!!」
剣に霊力を込めて大回転切りを二回。一回目は四つの壁全てを斬るように。二回目は空中に飛び上がり床と天井を斬り裂けるように。
しかしどれにも手応えは無い。壁や天井、そして障子に貼られた和紙に至るまで無傷だ。
強いて傷をつけられたものといえば畳のみ。しかしその先に見える床にもやはり傷はない。
「やっぱりか……」
天魔の豪風を受けていて何一つ傷がついていないことから予想はしていたが、この『部屋』という空間を形作る境界に関わる全てのものは無敵の耐性を持っているようだ。
彼女から距離が離れたがために風の威力が弱まった結果……という希望的推論はこれで無惨に消え去った。
「……んじゃ、この部屋を離れる前に最後のお土産をっと」
懐から小刀を取り出し、部屋の真ん中に突き刺す。ちょうど前後の壁と垂直に、左右の壁と平行になるようにだ。
「いくか」
恐る恐る適当な戸の先の部屋に侵入する。片足を踏み込んだその瞬間、ストンと静かな音を立てて俺が選んでいない障子が全て閉められた。
そのままゆっくり静かに体を進ませる。ちょうど腰に下げる剣が部屋に入ったくらいのところで、俺が開けていた戸も独りでに動き、閉じた。
即座に今入ってきた戸を開ける。
「……境界ができあがれば混ざるのか」
そこには無傷の畳が綺麗に敷かれた四畳半の部屋。先程突き刺した小刀は跡形もなく消え去っていた。
そして見つける。それはおぞましいものであると同時に、俺にとって値千金の情報をくれる存在。
「……ぅあ?」
精神のイカれた先駆者様だ。
◆◆◆
「こんな、美味いもん食ったのはひぐっ、久しぶりで……っ!」
「おおそうか食え食え。俺は人より食べるからな。握り飯を六個も作っといて良かったよ」
まぁ水筒の水は一人分しかなくて心許ないんだけどね。
握りと一緒に水を飲ませながらその男の状態を観察する。
髪は金髪だが生え際が黒っぽい。服はボロボロだが、人里では見た事のない種類のもの。そんな衣類の穴から見える肌には、どこで付けたか分からない土汚れがあり、状態はまだ新しいように見える。
風体の次は体調を診る。がしかし、おかしなことに体には何一つ異常がない。泣きながら食事を頬張るほど久しく食べていなかったにしては不自然だ。
「ようやく……っ、ようやくここに来て人に会えました! 貴方は救世主? 救助隊? それとも警察です!?」
「おぉう、落ち着け。お前よりぱっと見歳下の小僧が救助に来た人間に見えるか?」
「え、あっホントだ……。じゃあもしかして貴方もここに閉じ込められちゃった人ですか!? ひょぇぇえええええそんなあああああああああぁぁぁ!!!」
「落ち着けって言ってるだろ!」
「あひんっ!」
頭に軽く拳骨をくらわせて無理やりに黙らせる。
しかしそうか、『警察』という言葉でよく分かった。通りでそんな不思議な風体な訳か。
彼は幻想郷の外から来た外来人だ。先の『警察』という語句は、これまで里に訪れた外来人が書き残した書物に記されていたものだ。
そこから、しばしば騒ぐことがあったがその外来人の話を聞くことが出来た。
彼の名前は久野一輝。
オカルトなるものを探るのが好きで、頻繁にそういう曰く付きの所にフラフラと出かけるのが趣味な男。
そんな趣味のために山に行ったらいつの間にか幻想郷に辿り着き、野良妖怪に襲われたところこのマヨイガに逃げ込んだと言う。服がボロボロで汚れているのはそういう経緯だからだった。
「あの変な化け物からは逃げられたけど、玄関を開けてみればこの部屋に繋がってるし、いくら移動しても同じ部屋しか出てこないし」
「……そうやってどれくらいの時間が経った?」
「どれくらい? あー、えっと、どれくらいだったかな? 二年、三年いや、いやいやいや、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌────!」
時間については禁句だったようで、何かを思い出したと思ったら彼は発狂した。
俺は収まるまで彼の背を撫でる。彼には話してもらわなければならないのだ。この空間における時の流れを。
ガチガチと震える彼を落ち着かせるために俺は妖精の気配を真似た。それは外の世界を連想させる自然の温もり。人が営みの上に築いた平穏を感じさせるような穏やかな気配。
それにあてられたからか、震えは収まらずとも久野は必死に口を動かしてくれた。
「お、おかしいんだ。おれ、俺はた、確かに、確かに何年も……何千年もこ、この場所に居たんだ。で、でも腹は空かねぇし、眠くもならねぇんだよォ……だから、だから俺、おれは……あぁぁぁぁあああああああああぁぁぁ───」
「ありがとう。よく話してくれた。だからもういい、もう思い出さなくていいから」
これで俺は確信を得ることができた。このマヨイガは外とは違う時間軸で時が流れている。幾万倍かは分からないが、あちらでの1秒が数時間、もしくは数日になるほどに延びている。
だが、俺たちの生理現象を含めた外から来た物の時間は外が基準で動いているのだ。だから久野は何千年もこの場所にいたというのに餓死していない。健康状態を見ても餓死寸前に見えなかったのはそういうからくりがあったからだ。
これは中に入った人をさらに狂わせるだろう。明らかに長時間閉じ込められているというのに、自分の腹時計は宛にないほどにゆっくりだ。その齟齬はここで暮らす時間が長ければ長いほど精神に負荷をかけてくる。
久野の飢餓状態からして、彼がここに入ってからまだ一日とちょっとくらいしか経っていない。しかし、その数万、数億倍もの時間を彼が過ごしていたと考えると恐ろしい不快感が込み上げてくる。
「う、ううぅ……っ」
「大丈夫だ。俺がここから出してやる。実を言うとな、俺はこの辺にある里の兵士なんだ。だから強い。安心しろ。守ってやるから」
「……ぁ」
久野は静かに頷いて瞼を閉じた。俺と出会い少し精神的に回復したからだろうか。ようやく訪れた眠気にその身を委ねることが出来たのだ。
「ありがとう久野。俺はこれでじっくりとこの屋敷を攻略できる」
ここと外の時差がそれほどまでにあるということは、天魔たちが里を襲うまでの間であってもかなりの時間がある。俺は急いでこの屋敷から出ようとしなくていいということだ。
だが問題もある。生理現象も含めた俺の時間が外基準となると、霊力の回復には数千万年かかるということになる。つまり、霊力に関しては今まで以上に慎重に扱わなければならないということだ。
「ちょっとそれ借りるぞ」
俺が羽織っていた着物と、久野の上着を切り裂き結んで長い紐を作る。これで久野の体を背中に括り付けることができるだろう。……勝手に使ってしまったがボロボロでみっともなかったのでまぁ許してくれると信じる。
「いくぞ!」
四畳半の部屋を駆ける。駆ける。駆ける。
どれだけ進んでも景色は変わらない。ただひたすら霊力を込めた脚を回し、戸を開き、前へ、前へ、前へ、前へ───。
「……んぁ……?」
なんだかとても温かいものに包まれて目が覚める。俺なんで寝てたんだっけ? ていうかこれ布団……? じゃあ出れたのか? あれは全部夢だったのか!?
そう思い至ってカバっと起き上がる。そして気づく。この布団は自分が普段使っていたようなものでは無いことに。遥か昔のことなのでその詳細はもう覚えていないが、少なくとも敷布団ではなかったはずだ。
「夢じゃない……。はっ!? ならあの、えーと市川……さんはどこにっ!?」
「ここにいるぞ」
声の方向に振り返る。布団の横、小さな窓の前で座布団にぐったりと座っている市川さんの姿がそこにあった。
そして周囲をぐるりと見渡す。この部屋は今までいた四畳半の何もない部屋などではなく、布団が敷かれ、棚や花瓶が置かれていた。部屋を囲うようにあった戸も、布団の前にひとつ襖があるのみだ。
「良かった! 迷い込んだのは夢じゃなくて残念だけど市川さんと出会えたのは夢じゃなくて良かった!」
「忙しい奴だなー。あと、俺のことは琥二郎でいいよ。市川呼びもさん付けも慣れてないし」
「でもいくら歳下とはいえ命の恩人を呼び捨てでしかも名前呼びなんて」
「本人がいいって言ってるからいいんだ。それにまだマヨイガから脱出できたわけじゃないしな」
「え? この部屋は外じゃないんすか!? そこにある窓だってどう見ても外写してるでしょ! 」
「でも開いてみたらご覧の通り、だ」
そう言って琥二郎は目の前の窓を開けた。その窓は手前に引くタイプのもので、ガラス越しに開けた琥二郎さんの顔が見ることができる。普通に考えれば彼の視線の先に映るのは真昼の空になるはずだ。
だが実際に首を動かして自分の目で捉えた景色は、何千年も見た四畳半の小さな部屋だった。
「う、うひゃあ!? どうなってんすかこれ!」
「そう言えばマヨイガの詳細を話してなかったな。分かったことも含めて説明してやるから安静にしてな」
そう言って琥二郎さんはこの屋敷、通称『マヨイガ』の仕組みについて教えてくれた。
まずこれは先程も聞いた時間の話。外の物とこことは進む速度が違うってやつ。それで次が内装の話。基本は四畳半の小さな部屋が無限にあって、ここみたいな役割の与えられた部屋が数個あるだけ。
彼がここで休憩しているのはここが寝室であり、休むのにぴったりなものが沢山置かれていたからだ。
最後に、この屋敷が迷宮化してる最大の理由、部屋の位置がランダムに変化するという特異性について。
なんでも、壁とか窓とか扉とかで境界だか敷居を作っちゃうと、その瞬間に部屋は移動してしまうらしい。
「この窓を一旦閉めて開けた時の部屋、同じ四畳半の部屋に見えるけど実際は全く別のものだ。どうやら部屋と部屋との繋がりが何かによって遮られた時、瞬間移動みたいな形で転移してるんだ。しかも多分接続する方向も毎回変わる」
「えぇとつまり、目印を付けて部屋割りを把握しようとしても意味ないってことっすか? 例えば以前も来たことがある部屋で以前と同じ扉を選んでも、全く別の部屋に繋がるってことですもんね」
「その通り。もしかしてそういうことやってた? いくつかの部屋に爪で引っ掻いたような跡が見えたから」
「はい、やってたっす。ていうかマジかぁ……。無駄だったんすねあれ」
結構傷つけるの大変だったんだけどなぁ。壁とか障子とか何故かかすり傷すらつかないし。
ていうか、あれ? 琥二郎さんがこう言ってるってことはもしかして……。
「琥二郎さんでも脱出するのは不可能ってことっすか……?」
「……今のところは、まぁそうなる」
琥二郎さんは俺が眠っている間に起こったことを話し始めた。
俺の上着と琥二郎の服を使って俺を背に背負い、霊力とかいう不思議な力で身体能力を強化してとにかくひとつの方向に走りまくったらしい。霊力の限界ギリギリまで。
霊力っていうのは時間が経てば回復するものらしい。だから彼はここで力を抜いて回復に努めているのだ。
「キリのいいところでこの部屋を見つけられたのは幸運だったよ。……2つ目に入った部屋で久野を見つけられたし、意外と今日の俺は運がいいのかな?」
「言ってる場合っすか!? それって収穫なしだったって……あぁ俺が寝てる間に十分に回復したってことっすか!」
「そんな奴がこんなぐったりとしてるか普通。久野が寝て八時間、俺がここにきてもう五時間くらい経ってるけど駄目だわ」
「あ、俺そんなに寝てたんすね。眠気が来るまでは長いのに寝てる時間は普通……って、やっぱりダメだったんすね!!」
あわわと頭を抱える。よく見たら出会った時はあれほど頼りになりそうな笑顔を浮かべていた琥二郎さんも、顔の疲労感を隠せないほど消耗していた。
霊力とかいうファンタジーに出てくる力を持つ彼。そんな彼でも無理なのかと思うと、また絶望で体が動かなくなりそうになる。
「まぁそんなに暗くなるなよ。実はまだ手があるんだ」
口は軽いが息は荒い琥二郎さん。だが彼の表情は明るい。まだ諦めていないというよりかは、何か確信に似たものを得ているような顔だ。彼は続ける。
「実はな。俺は三つのものを待ってたんだ。
一つは俺の霊力、体力の回復。これでも結構マシになっててな。もう少し待てば問題なく動けるようになるよ。
んで二つ目に久野、お前が起きること。これからやろうとしてることは一人じゃ無理なんだ。ほんと、お前と出会えたのは俺にとって奇跡以外の何物でもねぇよ。
最後に三つ目、俺をここに叩き入れた野郎が外に出るのを待ってた。アイツが玄関前に居ないと外がどこだか分かんねぇからな」
「な、何を言ってるんすか……?」
色々と理解できない言葉にそう返すしかなかった。外が何処か分からない? それはまるで部屋の位置がどこだか分かっているような言い方だ。
「あー……説明するよりまず見せた方がはやいか」
そう言うと彼は、この部屋唯一の戸である襖の前に座り込むんだ。そしてその引手に手を当てると、目を瞑り集中し始める。
「予言してやる。俺が次にここを開けた時見える部屋には、畳が乱雑に斬り裂かれ、真ん中に小刀が刺さっている───ッ!!」
スパーンッ、と音を立てるほど勢いよく彼はその戸を開いた。
「本当だ───」
そこには予言通り、小さな刀が綺麗に垂直に突き刺さっていた。まるで俺たち二人の行く末を祝福するように、輝きながら。
ということでまた八千字です。しかもこの話でマヨイガ終わらなかったし……。
なんでまだまだ話数が増えます。区切りは一応決めているんですがどこまでかかることになるんでしょうね。