天才剣士がいたからって身内も同じだとは限らない 作:塩なめこ
ということでお待たせしました。今回もオリキャラ注意です。一応、原作で言及があった人ではありますが……。
『いいかお前たち。市川の技は弱者が強者と戦えるよう生き残ることに重きを置いた防御の術だ』
まだ俺が幼く、父さんが生きていた頃のことを思い出す。
『故に俺たちは必ず自身の火力不足という壁にぶち当たることになる。俺は一刀に全てを込めることにしたが……、幸いなことにお前たちは母さんの才能を継いだ。霊力は妖怪に最も効果がある。霊力を強めろ。それがきっとお前たちの強さに繋がるだろう』
霊力を込める。剣に、盾に、槍に、石に、体に。
霊力は人の体力と同じく、ギリギリまで使って回復させる動作を繰り返せば繰り返すほど増える。
今行っているのはその鍛錬兼武器の強化。
物体に霊力を込めればそれは等しく妖怪への武器になる。この威力は込める量が多ければ多いほど強くなり、安定性も増して霧散しなくなっていく。
兄貴が使っていた二振りの小太刀なんかはその完成系で、もう手入れをしなくなって一ヶ月ほど経つが、未だにその輝きは失われていない。どころか俺の使っているものよりもよく切れる。
霊力に関することにはつくづく及ばない。俺なんて霊力は三日持てばいい方だ。そんな未熟者だから兄貴の刀にさえ手を出すことができない。それが完璧な均衡で成り立っているあの名刀を汚すことになってしまうから。
「ふぅ……」
こんなものかと一息付く。この修行で大事なことは霊力を使い切らないことだ。ギリギリの限界まででなければ効率が悪い。使い切って気絶でもしてしまうと、体の自然治癒力が意識への回復に使われてしまう。
それではダメだ。それでは霊力の集中回復が行われず、容量は一向に増えていかない。日常生活に支障がない程度に霊力を使い、残りは普段から体に身に纏うことでジワジワと追い込んでいくことが成長への近道である。……らしい。
「どうしたものかな」
俺は今霊力の修行で苦心していた。
市川の技の方は順調だ。こちらに関しては家に残っている蔵書の中で次にやるべきことが記されているし、問題であった畏れに対して過敏になった体や心は、風見幽香の畏れを真正面から受けることで少しずつ調整できている。
しかし霊力に関しては完全に専門外。市川の家が元々霊力の扱えない人の集まりであったこともあって手本になるようなものがない。先述の鍛え方も『鈴奈庵』で借りた本に書かれていたことを実践しているだけなのだ。
ちなみにこの事で兄貴との思い出は宛にならない。生来から計り知れない霊力を持つ彼は霊力の増強で悩んだことがなかった。術に関しても身にやどる霊力のゴリ押しで発動していた節があり、非力な自分には真似するどころか参考にすることもできないのだ。
「待てよ? 確か兄貴はそういう術を博麗の巫女に習ったって言ってたな」
霊力を用いた妖怪退治はあちらの方が一日の長がある。訪ねてみるのも悪くない……か?
◆◆◆
「却下」
「即答っ!? せめてもう少し考えてくれても……」
「即断即決が巫女には求められるの。いいから帰ってくれない?」
で来てみれば門前払いを食らうことになった。ここまで来るの結構大変なので収穫無しで帰りたくないんだが。
「せめて何かそういう術の本でも貸して頂けませんか? そこからは独学でどうにかするので!」
「嫌。というかそれこれから使うし」
「お賽銭入れていくので!」
「ダメ」
「普通の人の十倍くらい入れてくので!!」
「…………ダメよ」
「百倍!」
「えぇいダメったらダメよ!」
「馬鹿な……」
あの年がら年中金欠の巫女が金で釣られなかった? 幻想郷の端にあるせいで参拝客もまともに来ず、たまにやる宴会で奉納される物しか食い扶持を繋ぐものがない博麗の巫女が……。
「アンタ、今失礼なこと考えたでしょ」
「い、いえいえそんなことないですよー」
「その敬っているかいないのか分からない敬語もやめなさい。というか一向に目を合わせないのが物をねだる側の礼儀?」
「……ははは」
博麗の巫女の容姿は言うまでもなく美麗だ。赤と白を基調にした派手な巫女服も難なく着こなしている。俺よりも歳を重ねているだろうにその姿はまるで少女のよう。この美しさが逆に怖いと思っちゃうからダメなんだろうね俺。
「真面目な話、あんたに術なんて必要ないわよ」
「対処の選択肢は多い方がいいと思うからなんですけども……」
「本当に選択肢になるの? 聞きかじっただけじゃ実戦では使えないわよ」
言いたいことは分かる。だがしかし決闘まであと三年はあるのだ。切り札とまではいかなくても、意表が突けるくらいの術一つくらいなら覚えられると思うのだが……。それを巫女はあまり良いとは思えないらしい。
「アンタの現状を知らないわけじゃないの。その上で言ってるの。そもそも霊術を使えるほどの霊力がアンタにあるわけ?」
「……その辺もよく分かんないんですけど」
「…………はぁ。少なくともこんな感じの霊力弾が簡単に出せないようじゃダメよ」
言って彼女は指の先に小さな光弾を出す。俺ならばこれを作るだけで数分かかるし、結構な量の霊力を消耗するだろう。
「ちなみにこれは術を扱える最低限のライン。戦闘で使おうとするならもっと大きいのをいっぺんに五個くらい作れなきゃ」
「無理ですね」
「はい、じゃあこの話はおしまいね」
「いやいやいやいや」
それでは困る。相手は妖怪だ。しかも実力はかなり高い。
もしかしたら俺の霊力は全く通用しないかもしれない。そうなれば待っているのは死だ。それ以外に彼らに対抗する手段なぞないのだから。
「大丈夫よ。見れば術を扱う才能はなくても霊力を扱う才能はあるみたいじゃない」
「同じじゃないんですかそれ」
「違うわよ。術ってのは霊力を介して現実に干渉するもの。アンタは霊力もそうだけどその干渉力ってやつも足りてないのよ」
「それが術を扱う才能……」
「そう。でもアンタは物に力を与える事が出来ている。体内の霊力を出したり戻したりっていう動作を行えているってこと。妖怪をぶちのめすだけならそれで十分なのよ」
巫女は続けた。例えば剣なら、斬る役目は剣そのものにある。霊力はあくまでもその補助。妖怪の再生を遅らせたり、畏れや妖力によって強靭になっている肉体を、霊力で緩和して柔らかくしたりしているだけ。切れ味自体は剣に拠る。
身体能力の強化もそう。跳躍力なら霊力という力を推進力にしたり、脚への外力を霊力が吸収していたりするために強くなったように見えている。
「その補助が効いてさえいれば人は戦える。アンタは私と違って近接戦闘の心得があるんだから、術なんて要らないわ」
「…………しかしそれでは」
「『兄のようになれない』とでも言う気? 憧憬に足を引っ張られてんじゃないわよ。アンタに求められてるのはそういうことじゃないでしょ」
言われてギクリとする。図星だった。俺は兄貴のように他を圧倒したかった。それがそこに存在するだけで皆を守れるような、そんな強さが欲しかった。
「この際だからはっきり言うわ。アンタは兄にはなれない。私にだってなれない。誰にもアレにはなれないのよ」
「……えぇ、そうです。その通りです」
分かっていたはずだ。理解していたはずだ。俺には資質も才能もないことを。一体何年兄貴の背中を見てきたというのだ。努力すれば辿り着けるという所にあの人はいない。なぜなれると思ったのだ!
自責の念が強まり、全身に力が入るのを抑えられない。
これは俺の立場や役目とは全く関係のない奢りだ。履き違えるな。俺は里の守護者。里の存続こそが俺の使命だ。目的だ。強くなるというのはその手段だということを忘れるな。
「そも妖怪を圧倒できるというのがおかしな話。例外中の例外よ、彼は。確かに学ぶべきところはあるのでしょうけど、追いすぎるのも毒よ」
「肝に銘じておきます」
結局、今までの積み重ねを続けていくしかないということだ。方法が間違っていないことは博麗の巫女が証言してくれた。大丈夫、大丈夫だ。焦るな。あと三年はあるのだから。
「それよりもアンタはアンタんとこの技を極めなさい。私の目から見てもまだまだ中途半端よ、それ」
「……家の技、知ってるんですか?」
「当たり前でしょ。アンタの親父と同世代だったんだから」
こんなところで市川と繋がるとは意外だ。そうか、この人は父さんと歳が近いのか……。まてよ? ということは三十路はもう過ぎ───。
「殴るわよ」
「何も言ってないんですが!?」
「私の勘がアンタを殴れって言ってるのよ。なんか無礼なこと考えてるからってね」
嘘だろ……。巫女の勘は当たりやすいと聞くが、そこまで具体的なものを感じ取れるならもはや読心術である。
「そんなことはどうでもいいのよ。ともかく、アンタは兄よりも父親の背中を追うべきよ。戦術も似てるんだし」
「兄貴の方は似てないんですか?」
「似てないわよ。アンタは市川の技を主軸にして霊力を補助に使ってるけど、兄はその逆よ。……あぁなるほど、だからアンタは兄にいつかは追いつけるかもって誤解したのね」
……確かに? 兄貴の戦いはいつも弾幕の嵐が吹き荒れていたり、炎が辺り一面に燃え盛っていたり、風が吹き荒れてところ構わず切り刻んでいたような。
あれ、こうやって思い返してみると市川の技法を兄貴から学んだ割には、兄貴自身はあまり使ってない……のか? こう言っちゃなんだけどあの家の武術って派手じゃないから傍目からだとよく分からないな。
それにしても父さん、父さんか。
「……俺、父さんの戦いを見たことがありません。存命の時は母さんと共に留守を任されることが多かったので」
「なら父を探すところから始めなさないな。里にならあの人を知っている人がたくさんいるでしょう?」
◆◆◆
父の名は市川鉄心。鬼との戦闘後に捕食され死亡、享年34歳。
父さんとの思い出はほとんどない。七つか八つに初めて指導を受けるまで、あの人は兄貴と共に自警団の仕事に出ずっぱりだったからだ。
鍛錬が始まっても俺は実戦に出されることはなかった。あの人が俺に期待していたのは市川の秘技を後世に繋げること。争い事に関しては当時既に父さんを超えていた兄貴に任せ、弟の俺には血を繋ぐ事を第一に考え育てていた。
この判断が間違っていたとは思っていない。
父さんも兄弟がいたらしいが全員が全員子孫を残さず亡くなったと言うし、祖父も父さんを遺してすぐに亡くなってしまった。俺の代まで繋げるだけでも至難の業だっただろう。
市川は人里でも数少ない古くから続く武人の家。自警団に所属している中では唯一の武張った家系である。血はともかく技術まで断絶してしまうのは里にとって大きな損失になる。
幸い兄貴は歴代最強の戦士。彼ならばあらゆる厄災を払い、里の守護を完遂するだろう。父さん自身だってその天寿をまっとうできるかもしれない。
となれば弟である俺は無理に戦う必要が無くなる。命の危険なく技の修練に専念でき、子を設ける余力も生まれてくるだろう。そうなれば市川の家は俺の代で大きく発展する。
その父さんの思惑を俺は信じて疑わなかった。父さんは会うことは少なかったけれど愛情を注いでくれていたのを実感できたし、母さんは言うまでもなく優しかった。両親は今でも最高の家族だったと言いきれる。
俺は市川の家を繋ぐのだと張り切り、父さんのいない間も鍛錬を積み、勉学に励み、数少ない父さんとの修行の時間で最大限吸収できるように努めた。
それも父さんが死ぬことで一変してしまったが。
兄貴はまだ十二。まだ自警団を単独で任せるわけにいかず、代理を立てながら運営について学ぶ途上。そんな彼も消えてしまえば俺の番だ。当然、実戦経験のない次期団長候補など認められるわけが無い。この日から俺も里の外へと出向くようになった。
結局その兄貴も亡くなり、父さんの予想に反して俺が里の守護者として台頭せざるを得なくなった。
父さんがこの現状を見たらどう思うのだろうか。大切に育ててくれてはいたが、そこまで推測するにはあまりにも過ごした時間が少なすぎた。
「と言うわけで、俺は父さんの人となりをあまり知りません。息子として、赤の他人から聞くというのは恥ずべきことなのでしょうが」
「それが里の未来に繋がるなら恥も外聞もあったもんじゃないでしょう。それが立場ある人間の務めと言うやつです。気にしないでください」
俺は博麗神社から里に戻り、巫女の助言通り父さんの足跡を追うことにした。それで思い浮かんだ場所がここ『霧雨店』である。
父さんとここの親父もまた巫女と同じく同年代の仲間だ。寺子屋時代からの友人同士だった二人は、お互いがお互いの家を継いでからも密接な関係を築いてきた仲であった。
「あ、確かにこれは俺の役目に関係することですが、私人としても興味のある話です。話しづらいのでしたら普段通りで構いませんよ? というか、歯に衣着せぬ物言いの方がこちらとしても好ましい」
「ん、あぁそうかい。んじゃ遠慮なく。とはいえ日常生活での奴くらいしか話せないんだがそれでもいいのかい?」
「大丈夫です。普段の身なりからも市川の技というのは見えてくるものなので」
「ほーん。俺が知らんだけで何かしらやってたわけかい。どうりでモテたわけだ」
そうして霧雨の親父さんは幼少の父さんの様子を話し始めた。
父さんはそれはそれはモテたらしい。人懐っこく年上相手でも物怖じしない。頼まれたことはそつなくこなすし、他人の心の動きにも機敏であったのか気遣いもできた。必然的にあの人の周りで不和が生まれることはなかったのだという。
「最初の頃は気に食わない奴だと思ってたね。なんせ武人の家の人間でいかにも正義感丸出しの顔をしてやがった。斜に構えてると思って何度か喧嘩を売ったこともあったよ。まぁものの見事に返り討ちにされたがね」
「そうでしょうね。普通の人とは鍛え方が違いますから」
「伊達に武張った家の人間じゃねぇってこったな。気づいたら転がされてたよ」
あの人自身は静かな出で立ちであったという。だからこそ何をされたか分からなかった。痛みもなく地に伏せられ、手を差し伸べる父さんの顔はとても慈愛に満ち溢れていたとか。
多分この時から感情の操作をしていたんだろうなと推測する。敵意を感じさせない雰囲気を醸し出していたのかもしれないし、逆に敵意を敏感に感じ取って動きを読んだのかもしれない。
「思えばあの時から奴の戦い方の基本ができてたのかもな。坊主は知っとるかい、奴の得物。まぁ俺も自警団で働いていた時にちらっと見た程度なんだがな」
「えぇ、そちらは存じています。太刀を用いた神速の抜刀術。それが父さんが極めたものだった」
「良くもまぁあんな長ぇもんを振り回せるなと思ったね。実際それで妖怪共を屠るんだからすげぇわ」
がはははと笑いながら話す親父さん。その後も色んなことを教えてくれた。
例えば好物が天ぷらだったとか、親父さんが商売を始める時に助けてくれた話とか、その関係で今でも自警団に武器を卸している話とか。母さんとの馴れ初めの話とか
「お前さんの母親は結構いいとこの娘さんでな。顔がまぁべらぼうに良かった! 俺たちの年代は揃いも揃ってあの人を射止めようと奔走したもんさ。そうしなかったのは鉄心の奴くらいだったな。仕事が忙しくてそれどころじゃなかったのよ」
「でもあの人はその仕事中に母さんの心を奪った。生前母さんがよく話してくれました。『あの時助けてくれた鉄心さんはまるで物語の中の英雄のようだった』と惚気けながら」
「そうそう、そうなのよ! 俺らはびっくりしたもんさ。なんの接点もない二人がいつの間にか夫婦の仲になってんだからよ! どんな魔法を使ったのかと思ったね。お陰様で俺の婚期は最近まで訪れなかったわ!」
「うっさいわねぇ! 魔理沙の奴が起きちまうだろ!!」
「「…………はい」」
どうやら盛り上がり過ぎたらしい。奥さんの方からダメ出しが入った。続いて大きな鳴き声が部屋の奥から響いてくる。
「おめぇの声の方がバカでかいわ」
とどめの一撃を放ったのは奥さん自身だった。苦笑いするしかないが、親父さんのように文句は言わない。元はと言えば俺がここに上がり込んできたことが原因だし、何よりその後のことが容易に想像できたからである。
「いっでぇ!」
どこから聞きつけてきた奥さんは既に親父さんの後ろにおり、その拳を脳天に突き刺していた。
「殴られたいのかい」
「殴ってから言うな!」
「もう一発喰らうかって聞いてんだがね?」
「……すまなかったよ」
親父さんはそう言いながら彼女の手の中の赤ん坊を抱いてあやし始めた。「ごめんなー父ちゃん母ちゃんがうるさくてなー」と小声で言っている。さりげなく奥さんのせいにもしているのは聞かなかったことにしておこう。
「娘さん、元気そうですね。お名前は決められたんですか?」
「あぁ、琥二郎さんにはまだ教えていませんでしたね。娘の魔理沙です」
「この辺りではあまり聞き慣れない名前ですね。由来は?」
「霖之助さんが拾った外の書物を参考にしたんです。旦那が悩んでいた時に相談に乗ってもらったらしく、色々あって『誰も付けたことがない俺の娘だけの特別な名前にしよう』と」
「それで魔理沙ですか。……可愛らしい響きです」
そう言って幼子の顔を見る。奥さんに似てかなり綺麗だ。まだ薄い茶色っぽい髪色も伸びたら良く似合うことだろう。
「もう日も落ちてきますし、帰ります。今日はお忙しい中急な訪問にも対応していただきありがとうございました」
「良いってことよ。親友の息子が自分の父親を知らないと言って上がってきたんだ。何かしてやらなくちゃ友達失格ってもんだろう。それに子が親を知らないって言うのは哀しい」
「…………。そうですね。とても貴重なお話でした。俺の九年間に新たな色が宿るようで。このお返しは必ず」
そう言って霧雨店を後にする。
もう夕日が差し込める里の中を歩きながら、今日見聞きしたことを頭の中でまとめていく。強くなるための道標、父の背はまだ形を成していない。明日は上白沢先生のところにでも行こうか。
「……こんなんで皆を守れるかな、俺」
思い出すのは先程の赤子の笑顔と、博麗の巫女の話。
『しかし霊術の本を使うって、貴方がですか?』
『違うわよ。次の巫女───霊夢って言うんだけどね? その子の指導のためにまとめておこうと思って』
『────傷、ダメなんですか?』
『……まぁね。今はまだいいわ。でもその内確実に妖怪に勝てなくなる。それを聞いた紫が見つけてきたのよ、霊夢を』
博麗の巫女もまた代替わりの時期が近づいてきていた。まだ若い彼女を引退に追い込んだのは吸血鬼異変での負った大きな傷だ。
彼女は一度伯爵に手酷くやられている。故に俺と兄貴が駆り出され、巫女ではなく兄貴が伯爵との一騎討ちに臨むことになったのだ。
『少ししたら巫女の座が空になるわ。その時人間を守れるのはアンタだけになる。だから約束しなさい。霊夢が巫女に就任するまでの間、絶対にやられるんじゃないわよ』
俺が天狗との決闘で負けて困るのは、今を生きる子供たちだ。
天狗の報復とやらがどのようなものかは分からない。だがあの天魔が人を滅すことで被る不利益を把握していないはずがない。とりあえず里は存続する。
しかし、子供たちの親世代や、働き盛りの俺のような若者の過半数が死ぬかもしれない。そうなれば残るのは大量の孤児たちだ。
させない。それだけは絶対に。
繋いでみせる。次世代の子たちが安心して暮らせる世の中を。
来週は忙しいので次の投稿は再来週になると思います。
それまでお待ちいただければ。
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簡単人物紹介
市川鉄心
琥二郎と龍一の父親。享年34歳。
市川の技法と抜刀術を用いて妖怪と戦ってきたが、彼自身が単独で討伐した事例は少ない。大抵慧音か博麗の巫女にトドメを任せている。
それは彼に霊力を扱う才能がない故である。主人公が霊力を使えるのは母方の血の影響である。
結果、彼の一刀は強靭な鬼に通用せず敗北。そのまま捕食されて人生の幕を閉じる。
兄弟や父親、つまり琥二郎の祖父が亡くなっても動じることなく、里を存続させるという使命のために一生を捧げた。自制心含め琥二郎は父親似である。