異界の戦士は故郷の帰還を夢見て空を舞う 作:フラッシュファントム
『グルァァッーーー!!』
「ちっ……!?」
暮桜擬きが飛び掛かるも一夏は咄嗟に剣と盾で受け止める。しかし途轍もない力により圧倒されており彼が劣勢なのは明らかだ。
『お前の本気を見せろ……!』
暮桜は彼に語るとその背後に黒い穴を出現させて両者を呑み込むと同時に穴は閉鎖した。千冬と山田は管制室から何度も通信を試みるも反応は皆無である。
『織斑、応答しろ!』
『ダメです、ボーデヴィッヒさんも呼び掛けていますが応答ありません!』
異常事態を前になす術の無い二人は歯軋りして見守るしか無かった。彼等が到着した異空間は果てしない灰色が広がる何もない虚無の空間だ。
『これで邪魔者はいなくなった。さぁ……殺し合いを始めよう!』
「良いだろう……。本気の戦いをするぞ!!」
一夏はそう語ると共にラファール・アサルトを脱ぎ捨て、ポーチから白銀の鎧と剣盾を取り出して装着。これが織斑一夏が戦士として戦う本来の姿である。
「この姿になるのは久しぶりだがしっくりくる。……行くぞ!」
『それでいい。本気となったお前を倒すことに意味があるからな!』
彼は本気の戦いをすると宣言。それに応じた暮桜は自身の形を甲冑の姿から二本の角と二振りの曲刀を持った魔神に変貌。その姿は
「地獄の帝王……。その姿でお前と戦うのは皮肉と言えるな」
『無駄口をほざく暇が無いことをここで教えてやる……!』
彼がそう語った瞬間、にせエスタークは神速の如く二振りの剣を振り下ろす。一夏は剣と盾で咄嗟に受け止めて防御するが圧倒的な力の差で彼は膝を着いた。
「この力……本物と大差がない!?」
彼はその恐るべき力に戦慄するがにせエスタークの攻撃は止まらない。二振りの剣に灼熱の炎を纏わせた剣技【灼熱斬り】を一夏に叩き込もうとするが咄嗟にスカラを唱えて何とかダメージを減らした。彼はその隙を突き、刀身に風の力を込めて繰り出す
「やってくれるな……」
『少しはできるようだな』
二人は軽口を叩くと共に改めて距離を取って態勢を立て直しつつ互いにベホマを唱え、傷口を塞いだ。この呪文は対象者の傷口を癒す魔法であるがISはシールドエネルギーを動力源にしているので使う意味が無い。
ベホマは肉体の刻まれた全ての傷を癒す魔法であるが疲労までは回復しないので応急措置として使用されている。
「これを使うぜ!」
一夏は赤い宝石が埋め込まれ、豪華な装飾が施された
「まだだ!」
彼は槍を失ったがそれに構わず懐に飛び込み、渾身の力を込めた右正拳突きを腹に直撃させた。
『ガァッ……!?』
にせエスタークは大きく後退して蹲る。一夏は追撃として炎のように燃える真紅に輝く
『グガァァッッーーー!!』
にせエスタークは二本の剣を打ち鳴らし、紫色の竜巻を発生させてぶつける
「これで打ち消してやる」
一夏は斧に込められた魔力を解放。
「そこだ!」
にせエスタークは斧の吹雪で怯んだ隙をついて斧の刃に氷を宿した
ブリザードアックスを空中から斧を投げつける
『グガァァッッーー!?』
立て続けの連続攻撃を喰らったにせエスタークは片膝をついて怯むも一夏は怒涛の連続攻撃を繰り出す。はぐれメタルの剣を取り出し、音速を越える速さで何度も往復して敵を切り裂きその肉体に深い傷を刻む。彼の手に持った剣をにせエスタークの左足に深く突き刺して手放す。
更に竜王のツメを装備した一夏は気合いを込めて疾走、そこから跳躍と同時に渾身の
『グッ、ココマデカ。シカシ……!』
己の最期を悟ったにせエスタークは瞑想を始め、眠らせていた力を完全に解放。両手の剣に灼熱の炎を纏わせて敵に投げつけて爆発を起こす
この一撃で道連れを図るも一夏はそうはさせまいと竜王のツメを前に突き出し、錐揉み回転をしながら真っ正直から突進。つばぜり合いとなり両者の力がぶつかる。
「これで決める……!」
竜王のツメに秘められた力を最大まで解放、目覚めの力に打ち勝って錐揉み回転で突撃。にせエスタークの腹を貫いて彼が使える高火力の呪文を唱える態勢に入る前に警告される。
『ふふふっ……。我を倒せばその器となった少女も跡形もなくこの世から消え去る。その覚悟がお前にあるなら使えば良い。最も、お前は既にその事を悟っている事は明らかだかな』
にせエスタークから警告が出る一夏だが未完成の進化の秘法を使用した時点でその事を悟っていた。
ここに来る前から一人旅をしていた彼は魔物に魂を売った人間と何度か戦い、その人間の命を奪った事がある。もしも彼等を殺さなかった場合、大勢の人間が犠牲になる。
その事は承知の上でやったので後悔は無い。しかし、心に来るものがあった。だからこそ彼はラウラ・ボーデヴィッヒの十字架を一生背負う覚悟を決めて呪文を放つ。
(ラウラ・ボーデヴィッヒ……今からお前の命を奪う。俺が死ぬまでその十字架を一生背負うからな)
腹を括った一夏は大きな火球を作り出して放つ呪文【メラゾーマ】を発射、にせエスタークの全身を包み込んで焼き付くす。その火球に呑まれたにせエスタークは抵抗する意志を見せることなく真面に浴びた。
『グォォォッ……』
火柱が消え、弱々しい断末魔を上げたにせエスタークは力尽きると同時に灰色の空間が崩壊。一夏は元いたアリーナに戻るが大破したISの待機状態のアクセサリーしか見つからなかった。
(さらば、ラウラ・ボーデヴィッヒ……。お前の命を死ぬまで背負うからな)
その後、アリーナに通じる出入口のセキュリティが解除されてISを装備した教員部隊が入り込むも一夏以外の姿しか見当たらない。
「織斑、ボーデヴィッヒはどこにいった……」
千冬の質問に彼は残されていたラウラの待機状態になったISを差し出すとその顛末を悟った。
「あの姿になった時点で彼女は死んでいた。織斑先生が気に病むことはないです。それでは事情聴取を受けますので失礼します」
一夏はそう告げ、事情聴取を受けるためにアリーナを後にする。その後、彼女が所持していたISの戦闘記録によれば
それ以上に不審な所はVTシステムが作動した瞬間、突如起動した謎のシステムにより上書きされた。異様な魔神に変貌した理由は不明だがそれに関しての記録は解析が全く進んでいない。肝心の映像を視聴するも激しいノイズにより一切の調査が不可能となっているからだ。
これと戦った彼に尋問をするが完全な黙秘を貫いており一切答えが出なかった。仮に一連の出来事が発覚しようものなら一夏は研究所に送られる事が確定するので答えられない。
全試合が中止になった後、ラウラ・ボーデヴィッヒはVTシステムの負荷に耐えきれず死亡した事が表向きで発表される。これにより学年対抗戦は已む無く閉を閉じるのだった。
ラウラ推しの人々には申し訳ありませんが彼女はここで退場します。
未完成の進化の秘法を使った段階で死ぬことは確定していたので悪しからず……。