異界の戦士は故郷の帰還を夢見て空を舞う   作:フラッシュファントム

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今回は紅椿の初陣です。
この話の都合上、厄音は福音と表記しています。


狙われた紅椿

  旅館の宴会場は作戦会議室となり大部屋に集められた専用機持ち達は中央に設置された立体投影機を囲む形で座っている。投影機の隣に立つ千冬が全員揃ったのを確認、今回の事態に関する説明を始める。

 

「今から約二時間前、ハワイ沖にて試験稼働中だったアメリカとイスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が暴走。試験場を破壊した後に逃亡、米軍の追撃を振り切って領海から離脱したという情報が通達。IS学園に滞在する専用機持ち達がこれを迎撃しろという命令が出された」

 

 衛星から映された情報の進行方向の先はこの旅館と東京の都市部を通過する事が判明。暴走状態の軍用ISが都市部に攻撃した場合の被害は計り知れないからだ。

 

「では、まずここまでで何か質問のある者は居るか?」

「はい!目標の詳細な状態の開示を要請しますわ。どんな相手か知らなければ作戦が立てられないですわ!」

「わかった。しかしこれは両国の最高機密データに該当する物だ。外部に情報を漏らした場合、諸君には査問委員会による裁判に掛けられ、最低でも二年は監視が付く。この事を忘れるな」

 

 千冬の質問にセシリアはこれから戦う敵の情報開示を求める。彼女は厳しい条件をつけて軍用ISの情報を立体投影機に展開した。

 その内容は高機動型の広域殲滅を主体とした全身装甲型のISで翼に搭載された三十六門のシルバーベルというレーザー砲は厄介だ。しかし、この情報はアウルートが銀の福音のカタログスペックをコピーした物で本来の情報とは大きく異なる。これらの情報を元に作戦を練る。

 

「高機動かつ広域殲滅、こいつは厄介だ。海の上での戦いとなればかなり厳しい。しかも偵察は不可で接触は一回しか出来ない……どうしたものか」

 

 一夏は厳しい状況だと考えて思案をする。その時、束がこの部屋に侵入して紅椿なら展開装甲を使えば単独で対処できる事を話す。その意見に対して千冬は他の人員を用意すべきという事で一夏を指名した。

 

「俺が出ること自体は問題無い。俺達が堕ちる事を考えた上で第二陣と第三陣の防衛網が必要になると思う。だから他の専用機持ちは俺が時間を稼いでいる間に各々の作業を済ませろ。それが終わり次第、配置に着いてくれ。この状況で更識は簡易的な調整で出撃できそうだが頼めるか……? 無理なら第二陣で待機しても構わない」

「私は第一陣でも大丈夫です」

 

 彼は作戦が失敗した時の事も想定した上で防衛網を汲み上げて欲しいと要求すると彼女はその案を受け入れるが箒はそれに異議を唱える。

 

「一夏、私では不満だと言うのか!?」

「アンタは専用機を手にしたばかりで浮かれている事は明らかだ。だから俺と現時点で紅椿のスピードに追従できる簪を同伴させる。アンタのお目付け役としてな……」

「作戦は決まったな。では織斑と篠ノ之、更識は福音を指定したポイントで迎撃。他の専用機持ち達は其々の作業を済ませ次第、持ち場を防衛せよ!」

 

 作戦会議を終えた一夏と箒、簪は指定されたポイントに到着、福音の襲撃に備えて待機している。

 

「福音が目標地点に間もなく到着。なっ何だあれは織斑先生……くそっ、こちらとの通信が途絶えた。どういう事だ!?」

「私の方も通信が繋がらない!? どうして……」

 

 福音の姿を目にした二人は先ほど話した情報とは全く異なる姿を目にして急いで通信を入れるも応答が無い。純白だった福音は漆黒に染まり悪魔を彷彿とさせる機械仕掛けの翼に変わっていた。

 

(福音がこんな姿に変貌していた事を何故アメリカは気付かなかった。まさか……)

 

「相手が誰であっても私とお前の二人なら負けはせん、行くぞ!」

「止めろ、篠ノ之!」

 

 それに構わず箒は機体の性能を過信したのか無謀にも猛スピードで突貫。

 

『グガァァッーーー!!』

 

 福音は今回の鹵獲対象である紅椿の接近を確認、牽制として十個のメラゾーマを発射して迎え撃つ。このままでは灼熱の火球で撃ち落とされてしまう。

 

「いかんっ!」

「避けて!」

 

 一夏は咄嗟に魔法攻撃を反射する呪文【マホカンタ】を唱え、箒の前面に魔法を弾く鏡を作り出す。火球は彼女の前方に出現した魔法の鏡に当たると福音に跳ね返った。福音は火球を喰らうも怯む様子を見せる事なく箒に連続パンチとキックを叩き込み、目に当たる部位から紫色の破壊光線を照射する。

 

「のわぁぁっーー!!」

 

 連続攻撃をマトモに喰らった彼女のシールドエネルギーは半分以上削られるが福音は怯む箒に攻撃を仕掛ける。背中の翼に溜めた暗黒エネルギーを波動として放出、一夏達はそれに呑まれて動きが鈍くなる。

 

「こいつは……闇の波動!?」

「動きが遅くなってる……!?」

「そんな……。これは姉さんが作ったISなのにどうして」

 

 三人は闇の波動の効果で素早さが大幅に低下。福音は箒に闇の炎を放出、その業火に焼かれた彼女のシールドエネルギーはごく僅かしか残っていない。トドメの一撃で福音はイオナズンを唱えて一夏達諸とも爆発に巻き込んだ。

 

「うわぁぁっーー!!」

 

 箒を爆心地とする大爆発と強烈な衝撃で気絶、そのまま海面に叩き付けられる……。そう思われたが彼女の真下に黒い穴が生じてそれに呑み込まれ、消息不明になる。

 

『任務完了。これより帰還する』

「まっ……待て」

 

 アウルートに指示された目標を達成した福音は周囲に満身創痍の一夏と簪を無視して先ほど箒が飛びんだと思わしき黒い穴へ入り姿を消した。

 一夏と簪はくまなく周辺を探索するも箒の姿や紅椿と福音が見つからない。福音が去った数分後に通信機能が回復、千冬と山田先生にその件を伝えて帰還した。

 旅客に戻った一夏と簪は作業をしている専用機持ちがいる中で福音と紅椿が黒い穴に飛び込んだ事を話す。

 それを耳にした千冬は困惑。束は必死に妹である箒の反応を探すも全く見つからずに焦燥している。

 

「信じられん、一体何が……。取り敢えず福音の件で尋問等があると思うがゆっくりと休んでくれ」

「ほーきちゃん、ほーきちゃん! 返事をして!」

 

 彼女はそう言って彼等を部屋に戻らせるが束は何度も連絡を試みるも反応は無い。姿を消した福音と紅椿に乗った箒の行方は如何に……。彼女は束から授かった中途半端な力を得たばかりに早くも消えてしまった。

 今回の事件で箒はMIA(作戦行動中行方不明)として扱われ、便宜上は休学扱いとなった。その姉である束は彼女の行方を追うために奔走、クラスメイト達は箒の姿が見えない事を一夏達に問うもそれは機密事項に触れるので一切、答えられなかった。

 こうして林間学校は篠ノ之箒が任務で消息不明という形で終わりを告げる。これが悪夢の序章になるとは誰も思わなかった……。




これで箒と紅椿、福音(厄音)は敵側に回ります。
テンプレ展開になりがちな流れにこんな一石を投じて見ました。
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