伝説になるかもしれない話   作:三郎丸

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前回同様、原作軸なのに全く原作に掠りません。何故なら原作場面に遭遇すればする程、原作が進行してあっという間に渋谷事変へ突入してしまうからです。

可笑しいな…原作へガンガン突っ込もうぜ方針なのに原作が遠い。作者は一体何を書いているのだろうか。今回はマジで誰得状態。


8.契約(挿絵追加)

【前回までのあらすじ】

"命の選択"を我が儘で行うと自覚をしたスレ民達は全員共犯となった。そして10/3に分家とコンビニ店員が高専説明会へ行った後にコテハン組全員(フレンズはリモート参戦)が現実で会うことに。一方フレンズは壊相と血塗を拐って勧誘すると言うファンキーな『天狗の仕業作戦』を実行するため山じいとあだ名を付けた烏天狗の呪霊を自身の飲食店の従業員として誘ったのであった。山じいはその誘いを承諾しながらイカれたフレンズとの初対面を思い出していく…。

 

 

 

 

 

時刻は10/1(月)深夜まで遡る。丁度スレ主によってクソスレが立てられた時刻だ。次々と前世の記憶を思い出して様々なアクシデントに見舞われているスレ民(転生者)。所謂深夜の発狂タイムであり、当然フレンズも発狂しているかに思われた。

 

だが、この男は発狂していなかった。寧ろ納得すらしていのだ。己の中で何故か眠っていた知らない経験や知らない技術。前世を思い出すことでこれらの出所を知ってとてもすっきりな気分とも言える。前世の自分なら信頼出来るなと本人的に今後も活用出来そうでにっこり。

 

やはりこの男は既に狂気の向こう側に行ってしまっている人間。切り替えが速いとかそう言う次元ではない。己に眠る経験や技術が確かなものなのか、それに対して重きを置いている。

 

 

勿論、フレンズは呪術廻戦と言う原作を知っているし読んでいた。原作が大変な事になることも知っている。それをどうにかしなければ今後の日本がヤバいことも把握済みだ。その事を考えてもフレンズは特に動揺しなかった。

 

 

だって前の世界…自身が生きていた時代だって絶妙な均衡の上で偶々国を滅ぼす戦争が日本へ訪れていないだけで何処かでは国が疲弊する程の争いがあった。そしてフレンズ自体もそう言った地域へ訪れた経験や未開拓の地で襲われたことも麻薬や鉱石を巡った争いにも巻き込まれたことがある。

 

 

フレンズにとって死は身近な存在だった。未知なる"価値"を知るためにはそう言った場所に赴かなければならない時もある。例えるなら死の危険がある険しい山頂へ登り見ることが出来る風景。その人にとってそれは美しく気高い価値となるのだろう。そう言うものをフレンズは前世から探し求め旅をし続けてきた。

 

 

では今世の未知なる価値とは何か?

今一番求め焦がれる価値とは何か?

 

 

それは転生者(読者)が知らない未来、もしもの結末と言う類稀な価値。それをフレンズは是非とも見てみたいし知りたいしこの手にしたい!

そう言った狂気とも言える欲望を持ってフレンズはスレ民達が前世の記憶を思い出して騒いでる間、世界を変え命を選びそれを背負う覚悟を決め込んだ。控え目に言ってどうかしている。

 

 

そうして覚悟を決めたフレンズはふと背後に気配を感じて後ろを振り返ったのだ。

 

 

「おっと…うーんこれは報告」

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見る。

気付けば山頂へ立っていた。

 

夢を見る。

僧侶が話し掛けてきた。

 

夢を見る。

僧侶が食べ物をくれた。

 

夢を見る。

僧侶の寺が燃やされた。

 

夢を見る。

…醜い人間を見た。

 

夢を見る。

村を燃やし人間達の悲鳴が聞こえた。

 

夢を見る。

童らを拐い惨たらしく殺した。

 

夢を見る。

都を襲い平民貴族関係無く虐殺した。

 

夢を見る。

住みかにしていた山へ呪術師どもが来た。

 

夢を見る。

血潮と臓物が辺りへ散らばった。

 

夢を見る。

僧侶が封印した。

 

 

 

 

『烏、ほらお食べなされ』

 

 

 

 

 

夢を見た。

何処かの屋敷を彷徨う。

 

夢を見た。

誰かが此方を見る。

 

 

ゆめが…。

主は…主は、何故だ、何故裏切った?わしを殺そうとしたのか?あの人間等と共に結託しわしを…!主もやはり人間だ。人間とは醜い生き物だ。殺しておけば良かった。惨たらしく臓物を引きずり出し竹にでも突き刺しておけば良かったのだ!恨めしい恨めしい恨めしい!!!

 

 

 

 

夢が醒めた。

男が…あの僧侶に似た男が此方を見ている。

 

 

 

 

「嗚呼、今此処で惨殺してやろう」

 

 

迷いなく男の腹を掻っ切る為、鋭く尖った爪で襲い掛かる。漸くあの忌々しい封印から目が覚めたのだ。この男の臓物で宴でも開こうか。

 

だが、伸ばした爪は男の素早い動きで避けられた。その早さはまるで獣のようだ。呪力を身体に込めた様子はなかった。つまり、これは男の素の力と言う事。こいつ、まさか天与呪縛か?いや、それよりも思ったより身体が動かぬ。封印が解けきっていないだけではない!己自体が弱体化している。何たることか!

 

 

「嗚呼、憎し…わしの前からぁ!?」

 

 

男は一片の躊躇なく烏天狗の顔面を右ストレートで殴った。素早いかつ重心を込めた一撃は烏天狗をフレンズ達が居た六畳の和室から障子を突き破り、更には庭へと続くガラス張りの引き戸へ叩き付けた。引き戸は防弾ガラスだった為ギリギリ粉砕することは無かったがあと一発でも衝撃を加えれば脆く壊れ逝くことだろう。

 

 

「あ、ごめん。反射で殴った」

「…去ねっ!」

 

 

烏天狗はその場から滑空するようにフレンズの元へ殴り掛かる。その風圧で障子は吹き飛び、花瓶は倒れ、部屋に置かれていた小物は大体何処かへ転がっていく。そしてその勢いのまま烏天狗は突っ込んでいき、今度はフレンズが障子を突き破り庭とは反対側の中廊下を挟んだ居間へ吹っ飛ばされる。

 

 

激しい騒音が響き渡るが此処は埼玉のど田舎。辺りは大体自然豊かな山や田畑に囲まれ、お隣さんがめちゃくちゃ遠い。更に言えば秋に差し掛かり虫達が全力で騒いでる。騒音と騒音が相殺し合いご近所さん(めちゃくちゃ遠い)に気付かれなかった。不幸中の幸いと言える。

 

 

一方居間へ吹き飛ばされたフレンズは思いっきり畳に叩き付けられていた。だが、瞬時に身を起こし、上へのし掛かっていた烏天狗の首根っこを片手で掴み位置を取り替える。烏天狗は咄嗟に首を掴むフレンズの腕を両手で剥がそうとするが剥がれない。烏天狗の爪は腕の肉へ食い込み流血しているが、しかしそれでもフレンズは離さない。

 

フレンズは叩きかける様に再び右で烏天狗の顔面を殴り付ける。ゴッと言う鈍い音が殴る度に辺りへ響き烏天狗は血反吐を吐く。フレンズの右手は烏天狗の血潮で黒々く染まり、その場の凄絶さを物語っていた。

 

だが、烏天狗もやられっぱなしではない。

 

 

フレンズの身体で抑え込まれていた脚を絡み付け、その脚にある鉤爪でフレンズの足を裂いた。肉を剥ぎ取る勢いで繰り出された鉤爪での攻撃であったがフレンズの肉を削ぐ事はなく流血だけに留まる。けれど、その痛みで烏天狗を押さえ付ける力が一瞬弱まりその隙に烏天狗はフレンズを蹴飛ばし拘束から逃げた。

 

 

そして瞬時、お互いに距離を取る。

 

 

「汝、やはり天与呪縛か」

「やっぱそう?俺も今そうかなって思った。初戦闘これって面白いよね」

 

「…は?」

 

 

フレンズの発言によって

居間へ奇妙な空気が流れ始めた。

 

 

「おい、今自覚したと言う事か?それだけではなく呪霊と戦った事が無い等とふざけた事を言うでないぞ」

「え?そもそも呪霊見たの初めてだけど」

 

「…は?」

 

 

烏天狗には意味が分からなかった。この男の言い分が正しければ、呪霊を見たのは今日が初めて。つまりは呪霊との戦闘経験全く無し。それなのに何故か即反応してきて殴り合ったと言うことである。この男、何なんだ?怒りに燃えていた思考が冷や水を掛けられたように冷静へなっていく。そして今になって思う、あの坊主に似たこの男は何者なのか。

 

 

「…汝のその意味が分からぬ発言は一先ず置いておく。それよりも汝はわしを封印した者の末裔か?」

「封印?えっと見た目的に烏天狗か…あ、もしかしてあれかな。我が家に伝わる烏坊の話。うーん、現状確認のためにも一旦休戦しようぜ。取り敢えずこの居間にいる間は互いに傷付けない殺し合わないって事で」

 

 

烏天狗はこの男の態度に酷く屈辱的な気分へ陥ったが、情報を手に入れるため仕方がなく承諾した。利用した後、すぐさま殺せば良いのだ。

 

 

 

こうして深夜に座卓を囲んで呪霊と話し合うフレンズの構図が出来上がった。先程まで殺し合いが行われていたが互いに礼儀正しく座蒲団へ座り込んでいる。飲み物は休戦地帯の隣にあるダイニングへ行かなければ無いので座卓の上には煎餅だけが置かれていた。

 

フレンズはまずティッシュで血を拭き取った。ついさっき傷つけられた手足は既に血が止まっておりそこまで重症ではない(フレンズの独断)。見た目的にはだいぶ痛々しいので明日ご近所さんと会えばかなり騒がれることだろう。ちなみに烏天狗は血を拭き取る様子を引き気味に見ていた。

 

 

その後フレンズは居間の端に置かれた御仏壇の引き出しから幾つか古びた巻物や書物を取り出す。これ等にはフレンズ家へ代々伝わる逸話や慣わしが書かれており、現在北海道へ移住した両親から家を継いでいるフレンズも当然のごとく内容を把握していた。

 

 

 

 

 

その中に『烏坊主』と言う話がある。

 

 

〈平安時代の頃、楓山と言う場所に霊験あらたかなとある坊主が住んでいた。その坊主が修行の為鞍馬山へ訪れた際、山頂で一羽の烏の雛と出会った。飛びもせず地べたを歩く烏の雛に憐れみを持った坊主は話し掛ける。

 

『烏、どうした?主の親御は居らんのか?』

 

烏の雛は鳴きもせず翼をはためかせるだけ。坊主はその様子に見棄てられたのかと思い、烏の雛を寺へ持ち帰る事にした。それから暫く坊主は烏の雛を養護した。しかしある日、貧しさに耐えかねた麓の村人達が坊主の留守を狙って寺へ盗みに入る。だが金目のものが少なく、烏の雛が鳴いてるだけ。それに怒った村人達は寺へ火を点けた。

 

その後村人達に災いが起こる。数日の間に村で大火災が発生したのだ。村人達は烏を飼っていたあの坊主の祟りだと恐れをなした。更にその災いは辺りの村々へ広がっていく。近辺の山で遊んでいた童子らが神隠しに合うようになったと言うのだ。

 

その噂は烏坊主として都まで行き届いた。そして噂が蔓延る最中、都で暮らす平民が坊主の格好をした烏に襲われた。それを切っ掛けに平民貴族関係無く皆同様に烏へ襲われ惨殺されたと言う。事態を重く見た宮中に仕える陰陽師達は噂の元となった山へ赴いた。すると、そこには一羽の烏天狗が居り人々の血肉を啜っていた。

 

そして烏天狗は陰陽師達に襲い掛かりあっという間に皆殺しにしてしまう。その報せを聞いた宮中の人間は烏天狗を恐れ、これを退治出来る者は居ないかと人々に呼び掛けた。そこへ一人の坊主が手を上げ私が退治してみせましょうと言った。坊主はたった一人で烏天狗が住まう山へ行くとその手に持つ錫杖に烏天狗を封印したのだ。そしてその錫杖を麓の村人に祀るよう言葉を残すと何処かへと去っていった。〉

 

 

 

 

 

その錫杖は祀られていた村が無くなったり、戦火や盗難で巡りに巡ってフレンズ家の倉へ眠っている。この伝承はフレンズ家の何代か前の者が各地へ聞き取り調査や古書を読み漁って新たに纏められたものだ。故に信憑性は不明瞭。しかしフレンズ家の者はこう言う不思議なものが大好きだったので、錫杖は埃無く大切に仕舞われている。

 

 

「この伝承の烏坊主ってもしかして貴方だったりします?」

「…そう伝わっておるのか」

 

 

烏天狗は形容しがたい顔付きで呟く。何処か怒りを抱いたような懐かしさを感じたような…何とも言えない感情が言葉に込められている。

 

 

「始めに言っておくがわしは烏坊主と言う名ではない。わしは鞍馬山より生まれた楓来焔靖坊(ふうらいえんせいぼう)と言う名の烏天狗だ。そして災いの数々はあの坊主ではなく、全てわしがやったもの。わしの正体は烏坊主ではなくそれに飼われていた烏の雛だ。それを坊主のせいにするとは人間は誠に愚かな存在であるな。もっと殺しておくべきだった」

「うわぁ…村人達の自業自得感凄いや。あと、とても気になってたんだけど烏を飼っていたお坊さんは何処へ行った?」

 

 

烏天狗は忌々しいものを思い出したかのように顔を歪ませた。心なしか烏天狗の全身に生えている羽毛が逆立っている。

 

 

「あの坊主がわしを封印した。あれはわしを裏切り、このわしを殺そうとしたのだ。人間なぞろくでもない!」

「そうなのか?」

「そうに決まっておる。わしを退治すれば宮中から賞金が貰えたであろうな。…おい汝、いきなり煎餅を食らうとはどういう了見だ。話の途中であろう」

 

 

フレンズは烏天狗の話を真剣に聞いていたもののめちゃくちゃお腹が空いていたので普通に煎餅を食べた。パリパリと軽快な音を響かせている。

 

何故煎餅を食べ始めたのか。それはフレンズが夜0時頃に帰宅、そこから家事や風呂の準備を終え少しの休憩中にそのままスレ主による転生者ホイホイなクソスレへ引き寄せられたのだ。つまりまだ夜ご飯を食べてない。

 

 

「本当に失礼だとは思っている。でもどうしてもお腹が空いてね。俺は此処の家主だし茶請けとして煎餅置いてたから良いかなって。まぁ肝心のお茶ないけども。あ、この煎餅近所の長谷川さん家の商品なんだけど美味しいよ。お米の甘味が優しくて舌触り抜群。はい、おすすめ」

「先程まで殺し合いをしておったのに呑気過ぎではないか?」

「ほら、腹が減っては戦ができぬ的なやつ。正直煎餅だけじゃ足りない。そして喉渇いた。提案なんだけど休戦地帯、直ぐ隣の台所まで伸ばして良い?ご飯の後しっかり情報提供するからさ」

「ぬぅ…勝手にせい」

 

 

場は居間の隣にある台所へと移る。プロの料理人と言えるフレンズの台所(戦場)は、この屋敷の古めかしい風貌と打って変わって最新設備を整えたモダンシックな美しいカウンターキッチンが出迎えてくれる。また整頓された調味料が戸棚へお洒落に飾り付けられているだけでなくワインセラーも当然のように存在した。更にカウンターキッチンの後ろには業務用と思われる冷蔵庫が鎮座。最早此処で飲食店開けるレベルである。実際のところ不定期でちょっとした古民家カフェをやってたりもしてた。

 

 

「お茶出すから天狗さんはそこに座ってて。この狭山茶、丁度今日貰ってきたんだ。そんで今からミートパイ作るけど食べる?」

「人間の食い物など食べるわけなかろう。何が入っているのか分かったものではない。それにみーとぱいとはなんだ?」

「天狗さん、なら一緒に料理しよう」

「汝は何を言っておるんだ…?」

 

 

フレンズは意気揚々と烏天狗をキッチンへ案内しエプロンを投げ渡す。本人もエプロンを装着し颯爽と手を洗い出している。幸いなことに流血したのは腕と足首だけだったので雑菌とかは問題なかった。一方烏天狗は渡されたエプロンを持って呆然としている。この男は何がしたいのか?これは何かの罠なのか?そういった具合に意味が分からなかった。

 

そこへフレンズがエプロンの付け方はこんな風にするよと言った感じに烏天狗へ話し掛けたがそれでも烏天狗は動揺で固まっていた。

 

困ったフレンズは仕方がなく烏天狗を煽った。

 

 

「今時の幼子でもミートパイ作れるんだぜ。このままだと天狗さんは幼子以下」

「あ"?みーとぱいくらい作れるわ!」

 

 

Let's cook!

 

 

 

 

以下ダイジェストcooking。

 

「天狗さん手の雑菌とか大丈夫?鳥類の爪とか凄く汚そうなんだけど。まって俺の傷口消毒してないわ」

「わしは汚くない!」

 

 

「大丈夫?包丁使える?人参ごと手を切らないようにね」

「包丁くらい扱える。汝はさっさと他の準備をせい!」

 

 

「赤ワインやブイヨンで炒めま~す」

「む、嗅いだ事のない香ばしい匂い」

 

 

「卵割れる?粉砕しない様に気をつけて」

「ぬぅ、力の入れ加減が難しいの」

 

 

「こんな感じに具材の上へ網掛けしながらパイ生地を乗せる」

「中々興味深い模様であるな」

 

 

「卵黄を生地へつけて艶出し」

「これをつけるとそこまで色が変わるのか?」

 

 

「オーブンで30分!」

「今更だが竈ではないのだな」

 

 

「折角だから待ち時間にスープ作ろうか」

「すーぷとはなんだ?」

 

 

「10月だしかぼちゃスープで!」

「見たことない野菜だ」

 

 

「あはは!!え?かぼちゃ片手で粉砕とかマジ?俺も出来るけどヤバイわ」

「笑い事ではない、南瓜が弾け飛んでおる!」

 

 

「あ、ミートパイ出来た」

「此方も良い煮込み具合だぞ」

 

 

「良い感じだよ天狗さん!」

「ほう…これはこれは」

 

 

 

そして座卓がある居間でミートパイと南瓜スープの宴が開かれた。もちろん酒もある。ただしフレンズさんは流石に呪霊相手へ酒を飲むのは色々と不味いのでジュースにしている。

 

料理が出来上がり席に着いた頃には烏天狗の殺意はかなり削がれていた。削がれざるを得ないと言うべきか。

烏天狗はずっとフレンズを観察していた。だが怪しい動きもなければ術式を使うような真似もしない。他に仲間でもいるのかと思えばそうでもない。そういう訳で警戒するのも馬鹿らしくなってきたのだ。

 

 

「うん、最高に旨い。今が食べ頃だね」

 

「…旨いな」

 

 

烏天狗は今まで食べたことがないとても美味しくて忘れ難い味を噛み締めた。

 

それと同時にあの坊主を思い出す。あれは(呪胎)だった烏天狗へ話し掛け餌をくれた。そしていつの間にか消えて最後は烏天狗を封印し、再び姿を消した。

 

 

「何故あの坊主はわしを封印したのだと思う?」

「さぁね、俺には分からない。俺よりもお坊さんについては余程天狗さんが詳しいだろ」

「そうか…そうか」

 

 

この目の前の男を見ていると人間の事が分からなくなってくる。

 

烏天狗は人間が醜い生き物だと思っていた。あれらは何もせずとも殺し合いをするし、ならばと殺せば、更に喚き散らす。あれらを殺すのは愉快だったが、幾ら殺せど蛆のように湧いて出る人間どもに何処か虚しさすら感じる。

 

そんな人間と飯を共に作り囲うことになるとは俄には信じがたい。

 

 

「天狗さん、俺と飯友にならない?貴方とご飯食べるのとても楽しいわ」

「は?」

 

 

本当に信じがたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は10/2午前1時、現在の時間帯へ戻る。

 

あのフレンズによる『飯友になろう』発言から更に一悶着あったが彼等は不思議と絶妙な綱渡りで和解(?)をした。そこから彼等は一日間、フレンズによる奇行と山じいの平成ドキドキツアーでボケ倒したのである。そして一緒にジャンプを読んだりテレビを見たりクソスレ検証したりまた料理したりと平成ライフを満喫していた。

 

満喫後、フレンズによるプレゼンが唐突に始まったのだ。山じい(和解の印として山じいとあだ名付けられる事を許した烏天狗)はフレンズの奇行に慣れたのでそこまで驚かなかった。その後怒涛の御誘いにより山じいはフレンズの元へ就職することを承諾。

 

 

「はい、これ雇用契約書。隅から隅まで確認していくよ!具体的な仕事内容は今日俺と過ごした作業が本格的になった感じね。給料は埼玉の平均時給より高く付けとく。期待の新人社員第一号おめでとう」

「雇用…要は主従制約みたい解釈であっているか?」

「うーん、呪霊的なあれそれならそうかもしれない。呪霊に法律ないから縛りを便宜上法律として使用するけど」

 

 

山じいは平安生まれのおじいちゃんなので、平成生まれの契約内容をフレンズが代わりに音読しつつ詳細説明をしていく。

 

 

「それで特典として、あと封印解除ね」

「主はやはり阿呆だろ。幾ら承諾したとはいえ気軽にわしの封印解こう等愚行過ぎやせんか。わしにとっては利点になるが確実に力関係がわし優位になるぞ?」

 

 

封印解除──呪霊を寄せ付けない程強力な封印が施されている錫杖。呪霊には封印を解くことは困難だが人間だとある程度力があれば解けるものである。此処にいる山じいは完全にはまだ封印が解けきれていない。故に二級相当まで弱体化しており、術式も使用できない。その為、天与呪縛によるフレンズパワーで何とか出来た。それを解くと言うことは、フレンズではもう山じいを抑えきれなくなる。山じいは呪術最盛期生まれにして実際に当時災いをもたらした烏天狗なのだ。実力的に言えば紛う事なき特級クラスと推定される。

 

 

「その下の米印、仮にこの契約を破った際の罰則項目がある。まず前提として俺を殺しても特に問題はない。オーナー店長足る俺の力不足だったで終わる」

「そこを一番どうかした方が良いと思うが」

「でも俺の知り合いや店のお客さんを害するような真似があれば問答無用で弱体化すると言う縛りをつける。勿論これは俺が山じいを従業員として解雇しない限り続く。言っとくが俺の知り合いは全国各地に点在するから無差別に人を殺すような事をすれば山じい詰むぞ」

 

 

フレンズはわりとえげつない永続トラップを雇用契約書に縛りとして記載していた。山じいはそれを聞いてマジかよと思いつつも此処まで来たなら引き返す事はない。だってこんなおもしれぇ事態今後もう無いかもしれないし。互いに契約へ認知の相違が無いか細かく確認し、時刻が早朝4時を回った所で契約が相成った。

 

 

そして契約が相成った

その5秒後にフレンズは告げる。

 

 

「じゃあ新たな従業員候補(壊相&血塗)を勧誘するために3日から遠征するので山じいの封印解除した後に予定確認ね。取り敢えずもう眠いから昼頃起こして。山じいの寝床は…客室に布団とかあるからそこでよろしく。では、お休み」

「待て待て待て!」

 

 

山じいは此処からオーナー店長であるフレンズの無茶に振り回され続ける事になる。こうして埼玉に眠る特級仮想怨霊:楓来焔靖坊はとある開業予定の飲食店の優秀な従業員:山じいとして新たな道を進むことになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、そろそろ原作陣営と接触したい!

東京都立呪術高等専門学校説明会編始まれ!!

 

 

─────────────────────────

 

 

「皆さんごきげんよう、

私は吸血鬼現状を纏めるおじさん」

「吸血鬼現状を纏めるおじさん!?」

「では今回の登場人物を纏めていこう!」

 

○今回の登場人物

 

・フレンズ

実は天与呪縛で性機能が死んでると言う種の保存的な意味合いで失われたものが大きい人。代わりにフィジカルが強く、呪力もある程度持ち合わせている。でも宿儺の指1本分には普通に負けると思われ。今回雇用契約に法律が作用しないので縛りを法律代わりにした。全国に知り合いが多数いるし、世界にも多数いるのでえげつねぇ縛りと化す。呪霊を飲食店の従業員として雇ったやべぇ奴なので正しい意味で破天荒。

初手殺し合いや山じいの殺伐とした過去について『まあいいか!!よろしくなあ!』で済ませた。

 

 

・山じい、もとい楓来焔靖坊(ふうらいえんせいぼう)

(出身的な意味合いだと鞍馬天狗)

フレンズ家に伝わる錫杖に封印されていた烏天狗の呪霊。鞍馬天狗の系統であり、その力を継ぐ者。封印が解けきれて無かったのでフレンズさんにでも殴り飛ばせた。封印解除前は術式も使えなかったし弱体化もしていたので二級相当。封印解除後はしっかり特級仮想怨霊の烏天狗するはず。どの程度強いのかはまだ未知数だがきっと活躍してくれる。人間は醜い蛆みたいなものと思ってたけど、フレンズを見て違う側面に可能性を感じた。呪霊の本能として人間への殺意はあるが、それよりも烏の本能(知的好奇心)が今回上回った感じ。烏坊主に色々と思うところがある。

【挿絵表示】

※山じいのイメージ図

 

 

・雇用契約

一般的な飲食店の雇用契約+α

法律の代わりに縛りを持って契約としている。しっかり機能するか不明だがお互いに呪術的な合意をしているので効果はあるはず。前代未聞過ぎて謎の多い契約書。

 

山じい側のメリットは封印解除、給料、賄い、社宅、未知なる価値(冒険)等々。罰則発動条件は"フレンズの知り合い及び店の客へ害をなす事"。罰則自体は本人の弱体化。つまり暴れれば暴れるほど確率で雑魚になる呪い。雇用主であるフレンズから解雇されない限り縛りは有効のまま。

 

フレンズ側のメリットは料理がわりとできて空も飛べる一般人には見えないおもしれぇー従業員。渋谷事変を乗り越えたら多分アマゾンの奥地とか一緒に連れていくと思う。此方の罰則発動条件は"従業員としての山じいの働きに報酬を提供しない"。罰則自体は契約無効。つまりは報酬を払わないと山じい側の罰則が発動せずフレンズの知り合いとか殺し放題。

 

 

・烏坊主

名を与え烏を可愛がっていた。最期まで後悔し続けた人生。フレンズの祖先かどうかは不明だが、フレンズと似ているらしい。

 

 

 

 




フレンズさんは呪胎九相図を
従業員として雇うつもりらしいです。
怪談レストランでも作るつもりか…?

ちなみに烏天狗の話は作者が無から観測した奴です。どう言った経緯で爆誕したかは活動報告で書いときます。


次回は原作陣営が出てくると良いなぁ。
その前に作者の気合いが死にそう。

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