1匹狼の幻想郷帰還   作:回忌

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妖怪

己が生まれたのが何時かは忘れた

こうして飛んでいるときですら考えることがある

いつの間にか、物心があったくらいだ

いつの事か直ぐに思い出せるのに、年齢は定かじゃない

 

「なんて、どうでもいいか」

 

そんなの考えても意味は無い

特に続くことないのだ、今の者も

 

暫くすると、妖怪の山が見えてきた

というより、最初から見えている

 

己の生まれた場所に着地する

その家は崖にあり、崖の上にもある

父から継いだ家でふたつと無い物

 

風が少し吹き、木々を揺らした

 

「お帰りなさい、旦那様」

 

玄関の前に居た妻がニコリと言う

俺はいつも通り、彼女に返す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ただいま

 

 

帰ると、迎えてくれたのは妻のみだった

娘はどうやら仕事に勤しんでいるらしい、帰ってきていない

とはいえ日はもう少しで落ちるので顔くらいは見せてくれるだろう

 

本当は跡継ぎとしたいが、本人が悩んでいるため保留してもらっている

今のところは哨戒の仕事についてもらっている

 

まぁ、親も"白狼天狗"だし別にいいだろう

 

「はい、旦那様…出来たわよ?」

 

「あ、すまん」

 

食卓の上に夕飯が置かれる

3人分だ、彼女が帰ってくるか、分からないのに

ただまぁそこは親としての勘なのだろう

 

…俺は父親だぞ、おい

 

本日の夕食は鮭と味噌汁、ご飯という点綴的な食事だ

特に鮭、お前はどこからやってきた

幻想郷に湖はあっても海は無い

 

多分スキーマから強奪したのだろうな

舞は家族と仲間の事だと、手段を選ばないし

 

と、玄関が開く音がした

 

 

「あ、帰ってきたわね」

 

「マジでか」

 

本当に帰ってきた

すこし遅れてお邪魔しますという声が聞こえてきた

その足音は迷いなくこちらに向かってきて――

 

「お腹空いたー、美味しそう!」

 

娘が、椛が嬉しそうに飛んだ

舞がニコニコ笑いながら彼女を窘める

 

「コラコラ、暴れないの」

 

「はは、元気があって良い奴だ」

 

「今日は文さんと談話したんです、面白かったですよ!」

 

「彼女、この山じゃ1番情報に貪欲だからねぇ」

 

椛はパチンと手を合わせる

その無邪気さに微笑しながら、夫婦共々手を合わせる

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「頂きます」」」

 

その日の夕食は久しぶりに家族で食べれた為、絶品であった

やはりただの和食でもこういう場合は極上と化すものだ

 

 

そう、感じれるのもここまでだった

 

 

それから日年が過ぎたある日、始まった

 

「…あ?どうした」

 

「居ないの、何処にも何処にも、何処にも!」

 

行方不明者が現れた

それは靈夢の娘のうち1人が消えた

 

愛弓と言われた方の娘である

文字通り消えた訳でなく、いつの間にか居なくなっていたのだ

 

おそらくふらりとどこかに行ったのだろう

博麗結界はつい最近できたばかりだ

妖怪達からすれば小娘なぞただの餌

 

この幻想郷には危険な場所しかない

幽香の向日葵畑はまだ良し…この際は良しとして

魔法の森やらなんやらに行ってしまったらろくな事にはならん

 

しかもあんなの、極上の飯に以外なんといえるか

 

早急に探さねば

 

靈夢は目に見えて動揺し、落ち着きを失っていた

 

「探さなきゃ…!妖怪如きに私の娘を…!」

 

「おい!待て…」

 

喋りし言葉は彼女の耳に届かず、彼女は飛翔した

不味い、とても不味いぞ

 

このままでは俺の予想しうる最悪の結末になりかねない

 

彼女の姿は点となり、どこかの森に降りていく

そこにならまだ間に合う

 

スピードを上げろ、上げるんだ

思い切り力を使い、飛翔する

幻想郷は意外と狭いもので、直ぐについた

 

森の中に着陸し、探索する

 

「靈夢!何処にいるんだ?」

 

鬱蒼とした森の中で視界が広いわけがない

日は既にてっぺんを過ぎ、落ちている

木の根草の根掻き分け探していく

 

 

 

 

 

 

見つけた

 

 

見つけてしまった

 

 

「…あぁ」

 

遅かった

目の前にあったのは既に事切れた死体だった

仰向けに倒れ、四肢は丸投げ

その四肢は一部欠損し、指が数本無かった

 

食いちぎられた腹から臓物が溢れる、ちぎれている

 

顔は片側半分が存在しなかった

 

その姿はよく通う博麗神社でよく見たもので

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛弓は、既に死んでいた

 

 

 

 

 

「…靈夢」

 

先程から、異様な音がする

死体の周りをよく見ると、ポツリポツリと血痕がある

 

まさか、そんなはずは

 

その血痕を辿る

 

歩く度音は多くなり、聞きたくない怨嗟の声が大きくなる

 

見たくない、聞きたくない

 

このまま進めば――

 

そう考えているうちに、たどり着いてしまった

 

少し開けた場所の草原

 

 

その、真ん中に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね!死ね、死ねェェェ!!!」

 

ただひたすら肉塊に拳を振る巫女の姿があった

もはや原型すらとどめてないそれを殴る、殴る

 

ぐちゃ、ぐちゅ、めきゅ、ごきゅり

 

殴れば殴るほど何かが折れ、何かが潰れる

肉片が辺りに飛び散っていて、直ぐにそれが終わったと察せられる

 

ふと、彼女の動きが止まった

 

「お前も…お前もか…!」

 

彼女目にはただ炎が燃え滾っていた

しかしそれは暖かく人を安心させるような生ぬるい物ではなく

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の、ドス黒い怨嗟の炎が燃えていた

 

次の瞬間には彼女は呪いに染まりきった黒刀を振っていた

 

ガキン、火花が飛び散る

 

「落ち着け!止まれ!止まるんだ!」

 

「死ね!妖怪なぞ全て死んでしまえばいい!」

 

少しの刀の鍔迫り合い

火花を散らしに散らし、攻撃する

 

斬鬼は彼女の腹を蹴る

彼女は後ろに下がった

 

俺は、彼女に切っ先を向ける

 

「分かった」

 

俺は決心した

こうなったのなら仕方ないと

 

「堕ちた巫女よ、せめてもの救いだ…俺が殺す」

 

「やってみろ…次は無い!」

 

彼女は何処かに消えていった

後に残されたのは肉片と、いつの間にか近くにあった愛弓の遺体

 

斬鬼とそれらを、冷たい風が嬲っていった




博麗の黒刀

かつて初代博麗巫女が振るったとされる刀

元は純白の神聖な刀であったが
娘を殺された怨念により漆黒に染まっている
その本当の姿は刀が砕けるまで見ることは出来ないだろう
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