1匹狼の幻想郷帰還   作:回忌

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餓狼作戦

話は直ぐに伝わった

"博麗の巫女がただの怨嗟の鬼に堕ちた"

それは人里から地底まで広がり、怯えの声は大きくなるだけだった

それもその筈、靈夢はその紅白の服で妖怪の記憶に刻み込んでいたのだ

 

故に妖怪の被害は小さくなり、強大でも無くなった

 

だからこそ妖怪達は声を上げる

 

博麗の巫女を殺せ

 

怨嗟の鬼を殺せ

 

あんなの、楽園の素敵な巫女じゃない

 

もはや無視できない程のそれはどんどん大きくなっていった

人間も、同じことを叫ぶ

 

いつしか暴走し、人に被害をもたらす

 

そんな爆弾、無くした方が良い

 

何もしないことは出来なかった

ならば、やるしかないのだ

 

「斬鬼、あなたに管理者として命令するわ」

 

友人関係を全て断ち切り、立場として命令する

この楽園に住まう彼は跪いた状態で、聞く

 

「 任務は今代博麗巫女、博麗靈夢の抹殺 」

 

その言葉が、深く身に刻まれる

命令している側で、こんな気持ちなら、命令される側は…

 

心に影を落としながら、言葉を続ける

 

聞いている斬鬼の顔は能面の様で、動きもしない

恐らく心情は様々な物が渦巻いてぐちゃぐちゃになっているのだろう

 

「…俺には、無理だ」

 

無機質な声がした

迷いが少しもない、静かな声で

 

紫は、ため息をついた

 

「無理なんて言わないで、これは幻想郷の為」

 

「俺には無理だ、彼女を殺す事なんて出来ない」

 

「じゃあ、私が殺るわ」

 

斬鬼のとなりから、声がした

その柔らかい声はいつも、隣からした

 

斬鬼は、手で制す

 

「君がやる仕事じゃない」

 

「誰かがやるしかないわ」

 

「だからって、君がやらなくても」

 

「じゃあ、誰がやると言うの?」

 

「…」

 

言葉の投げ合い

それは斬鬼が押し黙る事により、終わりを告げた

舞はスっと立ち上がり、畳を歩む

 

「貴方が、やらなければならないのよ」

 

それだけ告げて、彼女は屋敷から出る

 

残ったのは、斬鬼と八雲家だけで――

 

 

「…ッ!!」

 

斬鬼はワープホールに飛び込んだ

この空間にいるのが嫌だったのだろう

 

こんな所に居たくなかったのだろう

 

 

「…ごめんなさい…」

 

ポツリと呟く

 

こんなことになるなんて…

 

斬鬼が拒否するなんて

 

 

だったら、シナリオを変更するしか…

 

でも、このシナリオは…

 

他に選択肢は…無い

この他にやれることは無いのか

 

どうして、こうしてしまったんだ

 

 

とある岩の上にて、あぐらをかき、目を瞑る

カサカサとなる葉っぱの音が鮮明に聞こえる

スグ後ろで落ちる滝の音が、静かに聞こえる

 

水滴が跳ね、時々己の服を濡らす

 

瞑想というのは心を水平にするのに最適である

冷静な判断ができない時、迷いがある時に、すると良い

その状態が1番冷静で物事を捉えやすいからだ

 

…"リィン"

 

「…お前か」

 

ポツリと斬鬼が呟く

 

それに答えるように、声が聞こえる

 

「当主殿」

 

「やめてくれ、俺はお前にソレを言われる筋合いは無い」

 

女はニヤニヤした―多分している―感じで言う

目はまだ開けなかった

 

少し、時間が経った気がした

彼女はそれ以外と言葉を放ってない

 

斬鬼は、少し苛立ったように言った

 

「何だ、何用だったんだ」

 

「いえ、伝えたい事が」

 

「…早くしてくれ、"部隊"の同期とて、俺は気は長くない」

 

部隊の中で暗器を使用していた彼女

天魔や部隊に都合の悪い人物を消す事だけに命を捧いだ女

 

ふと、目を開けると傘を持った彼女の姿があった

 

和服の、女

着ている和服の下には数えるのも億劫な位の暗器がある

そして、その持っている傘も、仕込み刀である

 

「舞さん…舞殿が、任務を負いました」

 

「…舞」

 

心に波が生じた

彼女が任務を請け負ったか

 

どうして、何故お前が…

 

「当主殿…いや、斬鬼..."貴公"はこれでいいつもりですか?」

 

彼女が機械のような声で言う

やけに無機質で、生気を感じない声

 

「…いい筈が、無いだろ」

 

「貴公、このままだと彼女は…」

 

「死ぬって、いいたいのか」

 

斬鬼は立ち上がり、彼女を睨む

相変わらず、手を前にし、傘を支えに佇んでいる

 

少し、感情を顕にする

 

「お前はアイツの強さを知っている、だから、殺れる…殺れる筈だ…!」

 

「心に迷いがあっても、ですか?」

 

「…、…!」

 

迷いは使命的な傷である

人を迷わせ、太刀筋をおかしくしてしまう

狙いは外れて、ブレて、当たらない

 

そんな状態で、彼女に勝てるのか

 

「…それに、強さは貴公の方が強いでしょう」

 

「…」

 

斬鬼は立ち上がる

ここで、燻っている訳にはいかなかった

 

ここで座っていたら、全てが終わってしまう

 

俺はワープホールを開く

少なからず、この借りは自分にナイフとなって帰ってくるだろう

だが、そんなものなら受け入れようじゃないか

 

俺は、どんなものでも受け入れてやる

 

舞、お前が斃れる前に

 

間に合ってくれ――

 

青い空間をくぐり抜け、出てきた場所で最初に見えたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最愛の妻の心臓に、黒刀が突き立てられていたところだった

 

 

 

 

「…不甲斐ない旦那様ね」

 

ポツリと私の口から言葉が漏れた

旦那は彼女を友人として、殺すのを躊躇った

あれを殺さなければこの幻想郷は終わりというのに

 

確かに、良い友人ではあった

 

同じ子持ちで、同じ女として、話が弾んだ

 

ただ、それだけ

 

それだけの、筈なのに

 

 

「私も旦那様と変わりないのかしら」

 

なぜだか、抵抗がある

彼女を殺すのは惜しいと、何かが訴えてくる

 

でも、やらなければならないのだ

 

選択肢は2つしかない

 

 

 

 

 

 

死ぬか、生きるか

 

 

 

 

 

 

誰であろうと後者を選び、生きていく

 

そう、生きていくんだ

 

ふふふ、と乾いた笑いが何故か口から漏れた




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