1匹狼の幻想郷帰還   作:回忌

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キモチ

「いいですよ、丁度お話のお相手が欲しかったんです」

 

彼女は笑顔でそう言ってくれた

もし拒否されたらどうしてただろうか…まあいいや

見かけでも笑顔で言ってくれたんだ、僕も答えよう

彼女に向けてお辞儀する

 

「それは良かった…です」

 

僕は敬語を無理に使う

彼女の眩い笑顔を見ていると、何故か頭が眩む

何でだろう、光に慣れる稽古はしている筈なのに

それに耐えながら、店の人に団子を数個、頼んだ

 

話題は、彼女から持ちかけてきた

まずは僕という個人の確認を

 

「君、紅白斬鬼君でしょ?」

 

「え、知ってるの?」

 

まずは、そんな事だった

彼女が僕を知っているなんて知らないし、有名とも思わなかった

だからこそ、こんなことを言われるとは思ってなかった

 

「天狗の里の守護を任されている紅白家の次代当主でしょ?凄いと思うわ」

 

彼女は純粋に褒めてくれた

それが、照れくさくて、嬉しくて

 

「…ぅん、凄い、かな」

 

そんな、ぎこちない返事しか出来なかった

それに反応してか、彼女は言葉を発する

少し、意地の悪い笑顔をして

 

「…もしかして」

 

彼女はずいと顔を寄せてくる。

薄い口紅の塗られた唇がすぐそこに、整った顔がすぐそこに

その赤い目には赤くなった自分の顔が良く見える

 

「こうして褒められたこと、無いんじゃないの?」

 

「…あう…うう」

 

「図星ねぇ、可愛い」

 

「かわ…ひうぅ…」

 

そう、男にすげーと言われることはあろうとも、女に"本心"から凄いと言われるのは初めてだ

僕が恋愛が好きでは無いのは、女が心にも無いことを言うからだ

 

『凄い』『かっこいい』『男らしい』『惚れる』

 

そんなことを何度も言われた

最初こそ、嬉しかった

 

でも、心にもない事だと、そのうち理解した

 

だからそこ恋愛を捨て、全てを稽古に回した

友達も、殆どが男で、女なのは射命丸とか、あの…名前を知らない娘とか

 

そんなナリで、久しぶりに心の籠った言葉なんて喰らえば…

 

「…いじわる」

 

なーんて言葉が出てくるわけで

 

「あらら、嫌われちゃった、悲しいなぁ」

 

「あ、いや!そういう訳じゃ…!」

 

「嘘嘘、冗談…ほら、団子来たわよ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

こんな感じで、弄ばれるわけで

僕は来た団子のひとつを食べる

 

はむはむと、少しまごつきながら食べる

いつもならパクパク食べてはいさよーならーの筈、だが

 

今日はいつもと違った

 

「た、食べる?みたらし団子」

 

「あ、いいの?」

 

「う、うん、大丈夫だよ」

 

「それじゃあ、頂きまーす」

 

彼女は皿に盛られたみたらし団子を取らず、僕が食べている団子を食べる

それは食べかけで、僕の唾液が付いた不純物だった

 

僕は慌てた

 

「あ、あわわわ…!え、あ、…うぅうう」

 

「どうしたの?そんなに慌てて」

 

「い、いやだって…」

 

僕の唾液が付いた

 

「私が君と何かしたの?」

 

「そ、その…」

 

それを彼女が食べた、つまり…

彼女は僕の耳元に口を寄せ、囁く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「関節キス、しちゃった?」

 

「――//////!!!」

 

顔が熱い

多分今僕の顔は真っ赤になっているんだろう

そんな僕に、彼女は言った

 

「そういえば、名前を名乗り忘れていたわね」

 

「ぼ、僕もだったよ」

 

相手が知っているとはいえ、自己紹介は必要だろう

もしかしたら違う人と間違えて――ほしくないな

 

僕は僕、今の僕は僕だ

 

「僕は紅白斬鬼、また、団子を食べない?」

 

「私は綾姫舞、ふふ、いいわよ、楽しみにしてる」

 

彼女は笑顔で、僕も笑顔で笑いあった

 

 

久しぶりに、楽しい人に出会った

彼は今まで見た事が無いくらい純情だった

噂とは全く違う、恋愛に興味を無くした男とは思えなかった

 

もしかしたら、私と同じかもしれない

 

周りの男が気を引くために言う心にも無い言葉

それを彼もまた言われてきたのかもしれない

それ故に恋愛を切り離し、稽古に全てを注いだ――

 

もしかしたら、そんな感じなのかもしれない

 

彼を弄るのも、楽しい

 

それ以前に、彼との会話が楽しい

彼を見た時何故だか湧いてくるものがあった

 

それが恋だなんて、今更思い出したが…

 

こんなキモチ、初めてだ

求婚を何度受けようとも現れなかった気持ち

 

もしかしたら、これが本当の恋なのかもしれない

 

…もっとも、あちらは恋自体気づいていないかもしれない

何故か私と話したら心が弾む、という謎の気持ちに汚染されているかもしれない

 

というより私を見た時から、恋をしたのだろう

 

もしかして一目惚れ?

あはは、今まで無いタイプだ

 

…私も、彼に一目惚れしたかもしれない

 

おかしな事だ

 

今までこの独特な戦技を稽古していたのに

常に頭が良いように勉強してきたのに

 

彼と会った時から彼のことばかり考えている気がする

何度も求婚されている私でこれなら、彼は…

 

今頃、ベッドの中で頭を抱えているのかしら

 

あ、もしかしたら枕を抱き抱えて足をじたばたしてるかも

 

そう考えてみたら…ぷっ、面白わね

 

うふふ、久しぶりにこんなに燃えたかもしれないわ

彼が見てくれるように努力する…いや、いいわ

 

彼がどのくらい私を想っているのか…

 

求婚してるヤツらと同じ位だったら、ビンタしてやる

 

…絶対に、性欲目的の奴らとは違うと思うけどね

 

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