1匹狼の幻想郷帰還   作:回忌

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想い

久しぶりにその名前を聞いた気がした

その、犬走という名前はもはや忘れた記憶だった

何故なら、紅白となった今では関係無い名前だからだ

 

最後に、その名前で呼ばれたのは何時だったか

 

「その名前は捨てました」

 

「せっかく俺があげた名前を…まぁ、良いだろう」

 

彼は神社の縁側に座っていた

のどかに、まるで平和の中に居るかのように

小鳥が飛ぶ空を見上げ、何も思っていないような目をしていた

何事にも無関心

 

その姿はまるで博麗霊夢だった

 

博麗の使命を作った男の性格だろうか

それが代々受け継がれているのか、違うのか

 

「博麗巫女には色々な奴がいたらしい」

 

斬鬼は知ってか知らずかそう言う

恐らく、思ったことを読んだのだろう

心読みとは違うと思うけど

 

考えている事が分かりやすからかもしれない

 

「アホみたいに真面目な奴から気狂いまで、多種多様だ」

 

まぁ、気狂いは"処理"されたらしいがねと斬鬼は付け加える

それはそうだろう、気狂いなんて何をしでかすか分からない

そんな奴なんぞ何かおこす前に消すに決まっている

 

「まぁ、どいつもこいつも死んだがね、任務の途中で」

 

自嘲気味に斬鬼は言う

自分の事では無いのに、自分の作った物なのに

彼が手を加えた訳でもないのに

 

「生き延びて寿命を迎えたのはほんのひと握りだ

 彼女、彼らからすれば誇らしいことだろうな」

 

かつての幻想郷は血に塗れていた

白い和服はあっという間に血に汚れる

故に巫女達は赤の服を好んでいたのだ

 

現巫女の霊夢の服

彼女の巫女服は元は純白の巫女装束になる予定だったのだ

 

だが、それはいつの間にか現代風の巫女服になった

彼女は恐らく、純白では無かったのだろう

 

どこかに、闇があったのだ

 

見てしまえば呑まれてしまうような暗い闇が

 

「博麗巫女の歴史はもう長いこと見ていない

 この語った事さえ、他人から聞いた事だ」

 

語りながら彼は立ち上がった

縁側から、賽銭箱の前に移動していく

足を動かす度、砂のような物がパラパラと落ちていった

ホコリか?

 

「長い事生きたが、こんな怒涛の展開も初めてだ」

 

それもそうだ

幻想郷に帰還した時から、雪崩のように異変が襲いかかってきたのだ

彼を待っていたかのように異変が連続的に起こった

 

まるで、仕組まれていたかのように

 

だが、それらは全て偶然だ

 

八雲が仕組んだ訳でもない

それ以外の誰かが仕組んだ訳でもない

 

それは、偶然なのだ

 

「こうもすんなりだと疑惑を捨てきれん」

 

黒刀が抜かれた

その刃は未だにどす黒く染まり、蠢いている

博麗の怨念と呼ばれるそれは本当に怨念なのか

昔を思い出せば、あの巫女はそんなに執念がある人では無い

どちらかといえば今の博麗巫女にそっくりにも思えた

 

いや、空気

 

人妖を呼び寄せる暖かい空気では無い

それは人妖を遠ざける冷たい空気である筈だ

 

大剣を背中から抜く

その大刃は父である妖怪に向けられていた

 

最近はいつもこんな気がする

 

殆どが己に味方しているか身内だったかのどれかだった

 

さっきは母の様な者とはいえ、母の残留意思に違い無かった

あの魂は既に裁かれ、罪を償っていくのだろうか

 

分からない、でも、確かなのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恩を、仇で返すという事のみ

 

最早それは外す事の出来ない要素(ファクター)となってしまったのだ

出来るのはこの敷かれたレールの上を走る事だけ

 

紅白斬鬼を抹殺することだけなのだ

 

 

「お父さん」

 

ポツリと椛は呟く

彼女からの質問を一つだけ、彼は許すことにした

剣士に言葉は不要であるから、でも、分からない事もある

 

「お父さんが怨念に駆られているようには見えないよ」

 

怒りが彼を動かしていると八雲は言った

だからこそこの手のひらから靄が止まらないのだ

ここまで来て、父と対面しても止まらない

 

「私には、何も変わらないように見えるよ」

 

「変わったよ、俺は」

 

ふっと彼は微笑した

それは何処かしら虚しさを感じられる寂しい微笑だった

親友と呼べる存在を失った悲しみがまだ渦巻いているのだろう

生まれてから10年の間に会い、話し合ったあの時

 

その時点で既に親友と呼べたのだろう

 

「答えは十分、後は倒した後に聞け」

 

物語の根幹である妖怪は構えた

黒刀の刃がぎらりと光った気がした

 

答えとしては十分なのだ

何故なら椛は変わらないように見えると聞いた

それに対して斬鬼は変わっていないと返したのだ

 

答えは、返された

 

後は

 

 

 

 

 

 

 

 

倒すだけ

 

「ふ――…」

 

深呼吸

 

体の余分な力を抜き、リラックスさせる

大剣を両手で握り刃を敵に向ける

やけに手がベトベトしている

その油っこい汗を揉み消すように柄を強く握り直す

 

頭から何かが垂れる

 

汗だ

 

冷や汗だ

 

「…」

 

今この瞬間、彼は何時でも私に攻撃出来る

それが殆ど確信できる程の殺気

 

この殺気は人生最初で最後の殺気となるだろう

 

この男は死ぬ運命にある

 

生きて帰る事は不可能に近い

対話不可能というのは決して話せないという訳では無い

 

話しても意味がないという意味であるのだ

 

実際、話しても諦める雰囲気はどこにもなかった

 

つまり殺される準備はOKということであるのだ

 

ならば望み通り殺してあげよう

私がお父さんに死を与えてあげよう

 

せめてもの救いは、娘に殺されることだ

 

安らかに

 

さぁ

 

「 いざ、参る 」

 

「 こい、俺を殺してみろ。

  俺に生きていくという姿を見せてくれ 」

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