1匹狼の幻想郷帰還   作:回忌

110 / 115
英雄のコトバ

気付けば目の前に黒い刃がある

斬鬼との戦いはそういうものだった

流石天狗の里を守る為に生まれた家の者

この実力があれば里を、山を守る事は容易だろう

こっちも負けてはいない、鍛錬を積んだ剣技は独特の物と成っている

 

親である斬鬼の荒々しさと舞の水のような優雅さ

 

それが2つともある、矛盾した剣技

大剣を上から叩きつけたかと思えば目に追えぬ突きを放つ

そこらの雑魚はおろか、実力を持つ者さえ圧倒する

 

だが、それを斬鬼は捌く

黒刀で弾き、切り飛ばし、避ける

右目が見えないのはもはや意味は無いと思える程

様々な戦線を、修羅場をくぐってきた経験は生かされていた

月から地底と場所も多種多様でもある

 

そして、術にも長けている

 

「燃えろ」

 

指パッチン

軽快な音がした直後、地面から無数の炎の柱が湧き出る

それらは全て熱と炎性を持ち、燃やし尽くす炎でもあった

盾で防ぎ切る事は出来ない

 

だが、避けるのは容易い

横から斜めからという訳では無い

これはただ地面から燃えでているだけなのだ

 

殆ど彼の術を見たことがある者は少ない

全て斬撃により切り伏せられることが多いからだ

炎を飛ばす、という戦い方は聞いたことがあまりない筈

どちらかと言うと彼は人物に教えている方が多い

霊夢に神の力を使わせたように、だ

 

長年の試行錯誤の結果様々な術を扱う事が出来る

 

「凍れ」

 

冷気が当たりを包む

一瞬にして地面は氷に代わり、氷の柱が乱立する

それらは鋭く、体を簡単に貫くことであろう

これは密度がかなりあり、避けにくい

 

だが、邪魔というほどでは無い

所詮は氷であるため盾と大剣で叩き割る

気持ちのいい音が辺りに響く

 

叩き割る時に斬撃が来ることもある

首を掻っ切られると思ったこともしばしばあった

どれにしろ、死に誘われる攻撃だ

 

恐ろしい攻撃は止まらない

 

左手の盾で攻撃を防ぐ

閃光の様な攻撃はいとも容易く盾を破壊する

緋緋色金のコーティングされたそれはボロボロになった

用無しの盾を捨て、頭を回転させる

 

今の状況をどうにかするには…

 

少し不安だが、あの技をしよう

 

打開策としてある技を使う

大地に大刃を突き立て、妖力を込め、振り上げる

地面と瓦礫が舞い上がったと同時に赤の光波が走る

その光波と同時に走り込む

 

「…」

 

斬鬼は光波を切り裂き、その後に切り込んでくる大剣を防ぐ

火花が散る、大剣に力を込め敵を潰さんとする

彼も負けてなく刀に力を込め、押し返していく

 

大剣と刀

 

それはどう見ても似つかない物であった

 

大剣は敵を薙ぎ払い、叩き潰す物

主に力自慢が用いて敵とした物を叩き切る

その大きさは大体身体より大きいか同じ位のものだ

それに比例して重量も酷くなっていく為筋力が無いとロクに振るうことも出来ない可能性がある

だが、それに見合う威力は持ち手を助けるであろう

 

刀は敵を切り裂くものである

主に技量が高い者が用いる

この日ノ本の国で最も有名な剣であろう

その特徴は素晴らしい斬れ味にあり、技量では鉄板も斬れる

ただ技量が無さすぎると逆に刀に振り回されるだろう

素晴らしい斬れ味も的確に当てないと意味が無いのだ

だが、その技量に見合った威力は持ち手を助けるだろう

 

太さも、重さも、全く違うのだ

それが折れずにずっと打ち合っている

 

緋緋色金を使った得物

それは決して折れることは無いと言われている

 

だが、斬鬼の振るっているソレは初代博麗巫女が使用した物

斬鬼の所有している刀とは全く違うもので出来ている

それが折れないのは、その黒い怨念が保護しているからなのか

 

ともかく、緋緋色金とは違うもの――

 

「!!」

 

椛は気付く

緋緋色金とは違うもの

それならばこの大剣で斬れるはず

この打ち合いに意味はある

その怨念が無くなるまで叩き付けてやる

 

能力を酷使している

全てを見通す程度の能力は素晴らしい能力だ

だからこうして彼の剣を見極め、避けることが出来る

 

そして、その目は刀を見る

 

 

 

ヒビが、一番入っている所

 

それがよく見えた

 

大剣を振り上げ、妖力を込める

それを見た斬鬼は咄嗟に横から斬撃をしようとする

 

大剣が振り下ろされる

 

それは寸分狂わずヒビに命中し

 

 

 

 

 

 

刀を叩き割った

 

黒い怨念が掻き消え、白銀の刃が数百年ぶりに姿を現す

その姿が斬鬼の瞳に入り込む

 

その目は、懐かしさが、溢れ出ていた

 

「…あぁ」

 

「終わりですッ!」

 

彼の懐に入り込み、思い切り左手を突っ込む

それは簡単に肋骨を破壊し、左胸を突き抜けた

 

数秒の後、左手を引き抜く

彼は、英雄は旧博麗神社の真ん中に、倒れ込んだ

 

 

灯篭は2つとも崩れ落ち、奉納と描かれた賽銭箱も割れていた

神社はまだ倒壊してないが、これ以上の戦闘をすると崩れ落ちそうだった

 

「…舞も、こんな気持ちだったんだな」

 

俺の瞳に、彼女の姿が写った

靈夢を埋めた後、急いで抱き上げた彼女

既に体温は低下し息も胸元をよく見なければ分からない程の物

彼女は薄い涙を流していた

 

「『ごめんなさい』」

 

お前が、謝る必要は無いだろう

俺も多分泣いていたと思う

視界が歪んで、彼女の服に水滴が落ちて

傷は深く、生存は絶望的だった

多分永琳に頼んでも無理な傷だ

 

心臓が、ダメになっている

 

『ふふふ…ごほっ…駄目よねぇ…私…』

 

血の咳をしながら、彼女は笑った

それは思いを振り切れなかった自分への罵倒だった

俺は精一杯それを否定する

 

俺が、俺が悪いんだ

 

『旦那様は悪くないわ…悪いのは…ふふ…そのうち…』

 

声がどんどん小さくなる

俺は彼女に泣きついていた

 

行かないでくれ、俺を、置いていかないでくれ

 

『最後に…相応しいわ、これが…』

 

冷たい感覚が、唇に触れた

目を見開くと彼女はふっと笑い、力を抜いた

 

いや、抜けた

 

 

舞?舞!?

 

それに命は宿っていなかった

魂は既に三途の川に移動していたのだ

 

あ、ああ…

 

「こんな、結末になるなんてな」

 

俺も後を追うことになるらしい

胸の傷を見ながら斬鬼は軽く笑った

 

椛はそんな彼を無表情で見下ろしていた

 

「もう、俺はダメだろうな」

 

何かが欠けた感覚が胸から外れない

 

「俺は不自由だったよ、色んな物に縛られて」

 

死ぬからこそ、俺は娘に告げることにした

彼女を俺のようにしないために

 

「お前達は自由だよ、自由、普通に生きていいんだ」

 

「紅白という性を捨てていい」

 

「普通の白狼として生きていい」

 

「これからの人生、お前の好きにしろ」

 

お前の人生はお前の物

俺とは違うんだ、お前は

 

「俺は人と共存したかった

 何故か…分からないが、どうしても人に惹かれてな

 どんなに理解しても同じ過ちを繰り返す人間というのが

 努力すればする程強くなっていくという人間というのが

 

 とても好きになってしまっていたんだ

 

 昔から妖怪の山は人と共存していた

 この事実は消せないことなんだよ、"犬走"

 人の協力が無いと出来ないことも、訓練もあったんだ

 頭の回転も早く、強い奴もいたさ

 俺にはどうしてあれを追い出したのか分からない

 

 だがな、俺は完全な共存は出来なかった

 

 外の世界では人種が違えど普通に暮らせる

 だけどな、この幻想郷じゃ普通に暮らせない

 恐れられ、差別される、酷ければ退治される

 

 俺には、無理だったよ、共存なんて」

 

俺は、こいつの道を間違えさせない

この意味を、分かってくれ

 

「お前にその思いは渡せない

 これ以上は自然に交わるようにならなければ

 今も昔も言えるのが"時間が解決する"だ

 この問題はそうとしか言えない

 

 だから、お前は共存を目指さなくていい」

 

俺は共存を目指した

全てが平等になり、全てが笑顔になれる世界を

 

だが、俺は途中で倒れてしまった

 

ここで倒れ、その思いは俺が閉じておくべきだ

 

娘に、この思いは渡せない

 

「自由だよ、本当の自由

 俺は共存に縛られて全く、自由はなかったよ

 とても苦しい生涯だったが不思議な事に後悔は無い

 

 ははは、楽しい人生でもあった

 

 お前は自由、そうだ、フリーなんだ

 俺とは違って己の目標を作り、目指すことが出来る

 

 道草も出来て、休憩も出来る」

 

 

視界が霞む

その視界には愛娘がポロポロと破顔している姿が見えた

ああ、幸せだな、こんな最後

 

俺に許される最高の最後だ

 

 

 

 

 

 

 

「俺は自由になれなかった、お前も、いや、お前は自由だ」

 

 

 

 

俺は、満足気にそう言うと、瞳を閉じた

その瞳はいつまで経っても、開くことは無かった

 

 

 

 

 

 

 

ポロリと、白い粒が目から落ちた

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。