「おーい、斬鬼ー」
とある家に女の声が響く
射命丸文はとある用を背負って斬鬼の家に来た
このとある家は斬鬼の家だ、今は娘と別居をしているのである
まぁ任務が終わったからここで静かに暮らすというのも分かるが…
腐っても天狗の一員、そんでもって妖怪の山住み
それだったらやることやってほし――
「…誰でしょうか」
「…エヒヘェ?」
ひょこっと出てきたその人物に思わず変な声が文の口から出る
何故かと言われれば、その人物があまりに"小さかった"からだ
ダボダボな和服とこの体付きに明らかにミスマッチな肩鎧と腰鎧
その人物は明らかに警戒した顔付きで文を見た
「アイツに似てる…誰ですか、貴方」
「…射命丸文と申しますが、貴方は」
"両目"をぱちくりしながら"彼"は手を顎に当てる
そのままブツブツと何かを呟いたかと思えば顔を上げた
そして、廊下に現れる
10、12程の幼い体に大きな狼の耳と尻尾が付いている
"あの"飄々とした顔ヅラとは思えないほど丸くなった顔付き
しかし瞳は常にジト目で何を考えているか分からない
彼は口を開いた
「…紅白斬鬼と申します、今、どうなっているのですか?」
彼は、そう言ったのだった
〇
「…ふむ、そうなっているのか」
「ええ、その、斬鬼がこの通りで…」
天魔は顎に手を当てる、そして改めて目の前の人物を見る
ふむ、とても懐かしい姿が目に入る
あの頃の斬鬼を見るとは夢にも思わなかった
「…こんにちは」
天魔がじっと彼を見ていると斬鬼は軽い会釈をした
しかしその目はじっと天魔から離れることは無く、何か値踏みをしているようだった
「…確かに斬鬼だな」
「え?」
「いや、なんでもない」
確かに彼は人間観察の癖があった
割と人をじっと見ている事が多かった、そういえば…
数回会った程度の仲でも分かるくらいの癖だった
「さて、どうしようか…椛は知ってるのか?」
「いえ、まだ知らないと思われます」
「…未来のアイツは敬語を使うのか」
文が天魔に対してそういうと斬鬼が気持ち悪そうにそういう
彼女は青筋を立てて斬鬼に叫ぶ
「私をなんだと思っているのよ!?」
それを聞いて斬鬼が顔を背けて呟く
「うわ本当に射命丸文だ」
文は握りこぶしを作り、天魔に顔を向けた
「この子シバいていいですか」
「止めておけ止めておけ…」
天魔はソレを制止すると再び考える
このまま白狼部隊にぶち込んでも面白い…
あの頃の斬鬼は鴉天狗を上回る技量を手にしていた
こいつが部隊のリーダーになるのは必然…
いや、待てよ?
「射命丸、確か近々博麗神社で宴会があったな?」
「ええ、確か…まさか」
「ああ、そのまさかだ」
彼女はにっこりと笑うと斬鬼に向き直る
目の高さを合わせるような事はしない、やったら多分斬られる
天魔はそう思いながら彼に行った
「宴会は好きか?私は長い時の中で君の事を忘れてしまっていたからな」
勿論、嘘である
それに対して斬鬼は言う
「ええ、まぁ、賑やかなのは好きではありませんが…
見たところ父も母もいらっしゃらない御様子、行かせて頂きます」
「分かった、射命丸、頼んだぞ」
「分かりました」
天魔はここまで会話して分かったことがあると心の中で思った
それは彼が小さくなったと同時に"記憶"も昔に戻ったということだ
この感情の無さは恐らく舞と会う前の頃だろう
ただ、彼女の事はもう勘から好きなのか分からない
多分好きだ、纏わりつく人魂にくすぐったそうな顔をしている
…好きでも無かった今頃追い払っているはずだからな
「取り敢えず、宜しく頼むぞ」
それだけ言って、天魔は自室に戻るのだった
「はい分かりました…で」
で、だ
快く了承(上辺だけ)したものの…
子供斬鬼なんてどう扱えば良いんだろう、あの頃みたいに接するのか?
いや、今の射命丸にあの頃の感覚は酷な事だ
そもそもこいつ自体が扱いにくい、うん、あの頃一緒にいたからわかる
…まぁ、どうにかなるか
「取り敢えず…自宅に行きますか」
「…貴方の家ですか」
何か文句がありそうな彼をこれ以上何かを言う前に連れて行く
何を言われようともこれに関しては黙ってもらおう
そう思いながら彼を自分の家に射命丸は連れて行くのだった
〇
「今の所順調?」
「えぇ、何も問題はありません」
「そう、なら良かったわ」
「…良かったのですか?」
「何がかしら?」
「いえ、こんなこと"彼"が許さないと思うのですが」
「いいのよ、今はどうせ"彼"は居ないようなものなのだから
過去の性格と今のせいかくは似たようで似てないものなのよ」
「…そういうものなのですか」
「えぇ、そういうもの…ふふふ」
「では、私は引き続き。」
「えぇ、宜しく頼むわ」
「…ふふ、良いわ、1度してみたかったもの
一度、一度だけ見たかったもの…文句は言われないわ」
「言われても、いつも通り、のらりくらりとすればいいもの」
〇
「ここが貴方の家ですか、ふむ、昔となんら変わってない様子」
「ちょっと一言多いわねこの子」
私の部屋のど真ん中に正座している青年
見た目よりもこんなに大人びていたのかと少し驚きを隠せない
こんなのと平気で関わっていたあの頃に戻りたいものだ
…今もかなり普通に関わっているが
「というか客人が来たというのにお茶1つ出さないんですね」
「なんだコイツ」
やべ本音が
わりといい家(古来から天狗を守護する家系)なので作法がうるさかったのだろう
あの頃の斬鬼と言えばまだ教育課程だった…か?
もしそうだとしたらかなり面倒そうだ…
「へー、へー…へー」
「分かった、分かったわよ」
めっちゃジト目でぶつくさ文句を言ってくるのでお茶を用意する事にした
とは言えど私がお茶を出したのなんて何十年ぶりか
今更良いお茶が作れる筈もないので菓子で誤魔化すことにしよう
一応彼の好みは知っているから合わせはするが
先人が鬼とやってたお茶会を思い出して見様見真似で淹れる
棚から適当な菓子を取り出してお盆に乗せる
それを一緒に子供斬鬼に渡す
彼は(恐らく)家の作法らしき動きでお茶を取ると軽く啜る
そして顔をわざとらしく顰めるとそれを飲み干した
お盆にある和菓子も小綺麗に食べる、そちらは余り顔を顰め無かった
彼は一息つくと感想を一言
「…良いお茶ですね、苦味が効いている」
「あはは、それはどう――」
…いや、お世辞だ
なんならこれは皮肉ですらある
なぜなら彼の好みは"甘い"お茶であるからだ
和菓子の方で余り顔を顰め無かったのは甘かったからだろう…
彼はお盆を横にずらすと軽く礼をする
「良い粗茶でした」
「どっちよ」
彼はどっちとも言える返事をする
やっぱ面倒な奴だわ、こいつ
こんなに愛想が無い奴だったか…
そう思っているとガラリと玄関の扉が空いた
誰と思って玄関に行こうとする前にその人物は現れる
「文さん、お父さん知りま――」
「…こんにちは」
その人物は椛だった、あらら
彼女は私の部屋のど真ん中に座る子供斬鬼を見て硬直する
斬鬼は軽く座ったまま会釈をした、呑気な
「…あれって父の服と鎧ですよね…?」
「取り敢えず会話してみなさいよ」
恐る恐る聞く彼女は私はそう返した、とりあえず話せ
少し難色を彼女は示したものの、取り敢えず話す事にした
ジト目で文を見ていた斬鬼は同じような目で椛を見た
彼女は軽く咳をすると彼の目の前に座る
「こんにちは、私…紅白椛と申します」
「…いつから僕に血縁者が?僕は紅白斬鬼と申します」
…見てわかる通りに椛が凍った
今は多分目の前の事実を咀嚼するのに忙しいことだろう
しかしわりとスグ飲み込めたのか彼女は私を見た
「…父、ですか?」
「私の記憶にある斬鬼と寸分狂わず同じよ」
ほえーと逆に彼女は興味を持ったらしい
様々な角度から彼をじーっと見る
彼は何も気にせず、人魂をじっと見ていた
「うりゃー」
「あばーっ」
ふと何かを思いついたのか椛はうりゃーっと子供斬鬼の頬を伸ばす
わりと伸びた、本人はあばーっと適当に返している
あれ、なんか椛に皮肉が飛んでいかないんだが
「そういえば文さん、子供用の着替えとかないですか
流石にこのままじゃダボダボで…」
「なんで私に子供用の着替えがあると思うんですか」
「え、文さんって子供を誘拐してはおねショタプレイをre」
「アンタは私をなんだと思ってるのよ」
心外である
そんな私が天狗攫いを利用してビッチな真似をする訳が無い
何回でも言うが私は清く正しい射命丸文なのだ
…あ、でも確かあれはあったな
「少し待ってなさい、アレがあったハズ…」
私は隠し部屋からあれを持ってくることにした
もしもの為にとっておいたが、ここで役に立つとは…
〇
「お待たせ…って何してるの」
「彼に現状を説明していただけです」
「…取り敢えず自分が大人から子供になったのは理解しました」
彼女達はどうやら現状についての会話をしていたらしい
…その状態が抱っこというのもどうかと思うのだが
椛が正座をして、その上に斬鬼が居る形だ
わりと椛が大きいのと子供斬鬼が小さいのもあってすっぽりと入っている
…あれ?
「私とだいぶ扱い違いませんかねぇ!?」
「だって未来の娘さんらしいですし」
「ねー」
「ねー」
「なんだコイツら」
謎な所で息があっている
というかなんでこいつらこんな仲が…
あ、そういや娘と父親だった、そうだった
それだったら仲良いのも納得…
「いや私も昔からの友達ィ!」
「うるさ」
「ですね」
「黙らっしゃい!」
うむ、とても腹が立つ
そう思いながら彼に持ってきたソレを渡した
彼はどうやら見覚えあったようで直ぐに着替える
「…僕の服だ、全く変わりがない、少しほつれがあるけど」
「…文さん」
うわぁ、みたいな目をして私をみる
あ、もしかして彼から盗んだみたいな理解されてる?
「違うわよ、彼が捨てたのを私が貰っただけよ」
「なんで捨てたのを拾ったんですか」
「いやねぇ、理由が納得いかなかったからよ」
目線を斬鬼に向けると彼は懐かしい服になっていた
遥か昔の名家が着る着物、とても懐かしい
あの頃と全く同じの彼を見ていると、勝手に体がシャッターを切る
その光に彼はジト目だった
「…何今の」
「気にしなくても大丈夫ですよ!さぁさぁ…」
「斬鬼君、こっち」
「はーい」
「椛ィィ!その子こっちに渡しなさい!」
「嫌です、なんか寝盗られた感じがするので」
こんな感じの会話をしながら、夜まで私の家に居たのだった
…少しだけ、懐かしい気分になった気がする
とても、昔の…もう、なる事の無い気分に
「ちょっと!?私の私物荒らさないで!?」
「いえ、少し拝見してるだけです」
「拝見で物は飛ばないわよ!?」
いや、なってねぇわ
〇
「ひゃーっ、酒がうめぇ!」
「それ前も聞いたわよ、萃香」
「いいじゃないか!お前ものめェー!」
「あらあら、鬼って怖いわねぇ」
「幽々子様、喋りながら普通に食べないでください…」
いつも通りの宴会
この様な騒ぎも最早当たり前であり、慣れるものである
神聖な神社に邪悪な妖怪が大量に集まっているのも慣れである
その証拠に少し離れた所で普通の人間が宴会料理を食べている
そんないつもの宴会に特異点が投下される
「こんにちはー!清く正しい射命丸です!」
「うわ詐欺天狗」
「おお、射命丸じゃないか!」
「あ、こんにちは…」
勢いよく射命丸が挨拶をして萃香に捕まっていく
その後に大剣を背負った人物が子供を連れて降りてくる
霊夢をそれを見て少し怪訝に思った
他の…咲夜やレミリアなども同じである
「こんにちは」
「…天狗の子供なんて連れてどうしたのよ」
「あぁ、いえ…少し」
椛が軽く話を逸らそうとした瞬間子供が頭を下げる
「こんにちは、紅白斬鬼と言います…少し宴会を見に来ました」
「…は?」
その言葉に、宴会会場が固まった
皆食べる手を止めてじっと斬鬼を名乗る人物を見る
ジト目の彼は視線に囲まれても何も言わずに辺りを見回す
そしてポヤポヤとした空気を漂わせている幽々子を見つける
トテトテとでも擬音が出そうな走り方で幽々子に近づく
そしてそのまま彼女の膝元に座った
「えぇ…?」
声を出せたのは、連れてきた椛だけだったそうな
そして声を出せた彼女はこの場を見て、口元を抑えた
こりゃ説明が必要そうだな、と
〇
「…つまり、彼が子供化したってこと?」
落ち着つ為か霊夢はお茶を啜ながらそういった
「生まれて100年程度かしら、すごい大人びてるのね」
口元に手を当ててレミリアがそうこぼした
「うわーっ、凄い可愛い!ちよっと耳触らせてー!」
フランが可愛らしい笑顔でそういうが触らせて貰えない
逆に貰えたのは斬鬼のジト目だけだった
「…凄い皆をジト目で見てるんだけど」
最早誤解されそうなくらいの時間彼は皆を見つめていた
そして時折近くの杯に徳利から酒を入れて…
「いや待ってそれ鬼殺し」
「…何それ」
魔理沙がそう突っ込んでも彼はジト目を変えず、軽く飲み干す
それを見た萃香が目を輝かせて文をほっぽりだし駆け寄る
凄く興奮した様子だ、気持ち悪と彼は呟いた
「酒!酒飲めるのかい!?」
「…えぇ、まぁ」
「飲もうよ!もっと!」
嫌そうな顔をする彼をシカトして酒を注ぐ
それに斬鬼が口を当てることは無かった
萃香はめっちゃしょんぼりした
「ほらほら、それ以上はイジメよ」
幽々子が彼の獣耳を弄りながら言った
彼はあいからずジト目を…頬が赤くなってるな、うん
彼女達はさっきから疑問になっていることを聞くことにした
「なんでさっきから幽々子の膝の上にいるのよ」
「…一番ここが落ち着くので」
彼は目を閉じてそう言ったの
すると幽々子の目が怪しく光り、彼の耳に口を寄せる
「本当は他の理由があるんじゃないのー?」
「何も無いで……くすぐったいですそれ以上触らないで下さい」
幽々子は右手を尻尾、左手を獣耳で弄っていた
その手つきがヤラシイので斬鬼はやめちくりーと言っていた訳だ
まぁ勿論幽々子が止めるはずもなく
「…クゥン」
一瞬、斬鬼がそんな声を出した
聞き取れたのは至近距離に居た幽々子だけだった
それはどう考えても喘声だった
幽々子はにっこりと笑うと斬鬼の耳元で囁く
――もっといじってほしいのかしら
欲しくないなら、という言葉は無かった
なぜなら言う必要も無かったからだ
幽々子は斬鬼がそういうのを理解する勘が強いのはとうの昔に知っている
それに、今の彼にこの状況を打破出来る頭脳は無い、まだ青い果実だ
「…っ」
斬鬼は少し嫌そうな顔をしたがこれ以上やられるのも不味いと思ったのだろう
ため息をついてそれに、ついて言うことにした
「…母と同じ雰囲気だったので、感じも同じだし」
「そうなのねぇ〜、私の家こない?」
「ナチュラル誘拐やめろ、人間じゃないから別にいいけど」
ちなみに斬鬼言ってるのは九割くらいマジである
昔の斬鬼を知っている文は確信した
彼は嘘をつかない、特にあのジト目顔では
目がパッチリしている時は普通に嘘をついている時があるので怖い
「ん〜、可愛いわぁ〜…」
「…ん」
母と同じ雰囲気だからか、斬鬼は撫でれる事に抵抗が無かった
幽々子はそんな彼を見て、1日くらいお持ち帰りしても大丈夫だろうとも思ったのだ
そう思いながら、彼女はこの宴会を彼を膝に乗せながら過ごしたのだった