冥界、白玉楼
閻魔に裁かれた罪のないの霊魂がここに集う
罪なき霊はここで転生を待ち、無き一時を過ごす
無論その管理者も居ないはずがない
冥界のお姫様とも呼ばれる管理者、西行寺幽々子
死を操る能力を持った彼女は冥界の管理者として適任だ
その庭師、剣術指南役として若き半人半霊も居る
そんな彼女達は…
「…あらー、可愛い娘」
「幽々子様!?斬鬼さんが舞さんになってるんですが!?」
「…うるさいですねぇ」
布団の中、斬鬼"だった"ものを抱える幽々子
そこには神をも頬を緩める可憐な少女が居た
しかしその瞳はどうしてこうなったと警戒の色で沢山である
布団の中ですりすりと彼女に肌を擦り寄せる幽々子に妖夢は困惑する
その少女はなすがままの状態から軽やかな身のこなしで幽々子から離れる
あーっと叫ぶ幽々子を横目に彼女は問いかけてくる
「一体貴方たちは?ここは?どういうことなんです?」
「いえー、そのー…」
「貴方が道端で倒れてたから介護してたの、当たり前でしょ?」
言い淀む妖夢の横で平然と嘘をつく幽々子
あまりの平然さに妖夢がその嘘に気付くことは無かった
ただの会話としか彼女は思うことは無かった
しかし相手も上手も上手である
「そんなわけないでしょう、ここ冥界でしょう?」
「そんなわけないわぁ、でしょう妖夢?」
「え、えぇ、そうですね」
嘘も休み休み言え
そんな顔に舞が変えた
まぁそこの刀使いは兎も角、亡霊姫は嘘を言ったことを無い日があるのか…
「空気が地上の倍冷たい、あなた達から生気を感じない
それだけでここが冥界とわかるのは十分です」
「そう?自分が死んだか分からないんじゃない?」
彼女はそれに対して毅然と答える
それが普通だと、ハッキリと示して
「私は死にません、死ぬなら寿命です」
「…そう、そうかしらね」
「…ですね」
幽々子は目を細めた
その目の奥に、悲しげな色を残しながら。
妖夢もまた同じような感情だった、目の前の少女の毅然とした態度に悲しみを覚える
斬鬼、そして舞の公的な記録と不明確な記録は拡散されている
そのうちのどちらでも確定しているのは"舞の死"である
彼女は生きていることは絶対に無く、また2度目の肉体を手に入れることは叶わない
斬鬼と魂を入れ替えることでさえ、完全な肉体とは言えないのだから
この2人は彼女の最後を聞いている
それだからこそ、この毅然とした態度が虚しく思えるのだ
「…どうかされましたか?」
「いいえ?貴方が生きているって言うのは証明できたと思うわね」
扇をばらりと開いて口元を隠す
舞はそれに興味なさげに歩き始めた
「行き場所は決めているのかしら」
「そうですねぇ、面白いものがあればそちらに。」
ぷらぷらとさまよったかと思えば、彼女の姿が霧のように消えていく
あまりの突然のことに、妖夢は声を上げてしまった
「あれっ!?いきなり消えたっ…、…も、もももももしかしてててて幽霊――」
「あらあら、本当に上手ね、いつの間に幻術を使ったのかしら」
「え」
「え?気付いてなかったの?もー従者失格よぅ、よーむー」
どうもいつの間にか幻術を使われていたらしい…
普通を装い、いつの間にか術式にハマっていた
掛け方が綺麗すぎてかけられたのが分からなかった
「…まぁ、いいわ、行くところはひとつだもの」
幽々子はそう言うと、白玉楼に戻っていく
舞のあの柔らかい感覚を指で名残惜しみながら、帰って行ったのだった
〇
「…美しい場所ですね」
「…」
横にいる霊にそんなことを呟く
霊はこくりと頷くととある方向を向いた
そちらには形が少し変わってはいたが、見覚えのある山があった
妖怪の山…故郷だ
とはいえ、山の様子はおかしかった
山の中腹辺りに変な神社が立っていたり柱が乱立する湖がある
山の下にある湖にはとても目に悪い館がある
これほどの高度というのに見えるのはなんでだろうか、真っ赤すぎるのだろうか
…それから、人里の様なものも山から遠いが存在している
というより人里なんだろう、あれは
建築様式が幾分か進んでいるような気がする
「…未来、なんでしょうか、ここは」
「…」
横の霊は何もしない
当たりなのか、外れなのかすら教えてくれない
この子に口は無い、そりゃ教えてくれるはずもないか
――そう思っていた時だった
『確かに、君から見たらそうかもしれない』
「…?この声は…」
どこからか聞き覚えのある声がした
この声は確か天狗を守護する白狼一族の長男の物のはずだ
この私の記憶に違いさえ無ければ恐らく確実だ
『過程が違うんだ
君が未来に来たんじゃなく、"未来の君"が記憶ごと若返ったんだ』
「…若返る」
その声の主は私の言葉なんて聞いていないようだった
にしても若返る、か…なんとも甘い言葉である
垂らせば何匹も蝿がたがりそうなとても甘い、飴だ
…そんなの、ただの延命でしかないのに
「それより、貴方は一体?」
『俺は…俺は…そうだな、君の夫にしておこう』
「未来に私の旦那が?まさか、そんな事起こりえない」
霊が肯定するように五、六回転した
私が結婚するなんてまるで夢のようなことだ
それが実現できるのなら私はこの"舞姫"である必要も無い
なぜなら、舞姫は純潔でなければならないからだ
『君には申し訳が、ここは未来だ
全てが起き、全てが終わっているさなかの世界だ
…取り敢えず人里に向かってはいかがかな?』
私は"彼"の言葉に自然に人里に目が向く
妖怪に囲まれた場所の中で唯一人が住む、人にとっての安全地帯
もしこの郷を作ったものがいるのならばこの楽園は不完全と言えるだろう
何故かって、人間と妖怪が一緒に住んでいないから
本質が似ている、人間が生み出した妖怪は共存できる筈なのだ
私の住んでいる妖怪の山がそうだったのだから、違いない
…まぁ、ダメなところはダメなのかもしれないけれども
〇
「あぁー…疲れた」
「炭がかなり売れたな」
「今から冬だからな、無ければ凍え死んじまう」
ぐいと背伸びをしながら妹紅はそんなことを言った
季節はそろそろ秋に入りかけ、少し肌寒くなってきた
妖怪ならそうでも無いが人間は死活問題である
「今年は何回死ぬ気かい」
そんな妹紅に慧音はそう聞いた
炎の術があるのに一切使わず、部屋で冷たくなっている
…本当に冷たくなっている時もあったが
慧音の質問に妹紅は答えた
「今年は死なない予定だ」
「おや、驚きだよ、いつもの君なら"何回でも"とか言うくせに
…何か死ねない事情でもあるのかい?」
「いや、師匠に会おうと思って」
「…斬鬼に?」
妹紅は山の方向を向きながらそういった
今の所彼は幼児化(普通に100歳くらい歳食ってる)している
そして前回白玉楼の主にいつの間にかお持ち帰りされていた
彼女がみだらな淫行をする訳が無いが何回か心配になった
…ただそんな心配も"斬鬼ならどうにかなるやろ"で解決していた
「どうしてだい?幼い師匠に何かかんじたのかい?」
「んな趣味は無い…まぁ、師匠の昔の話でも聞こうと思ったんだがね…」
戻りすぎて聞けそうに無いと妹紅は肩を落とした
その肩に手を置き、なにか励ましの言葉を言おうとした時だった
「すいません、人里で美味しい駄菓子屋って知りませんか」
「ん?そりゃあ菓子と言えば"山の舞"以外ない――」
振り返ると、慧音は固まった
それを見て話しかけた相手は首を傾けている
相手はなにかに気づいたのか深く頭を下げる
「挨拶が無かったですね、申し訳ないです
紅白舞と申します、以後お見知り置きを」
〇
斬鬼にとって舞とは運命を共にする伴侶である
山で見た時からそう思っていた
あの本屋で一目惚れした時から斬鬼の心は変わらなかった
幾ら年月が経とうとも共に生涯を進むと誓い合った
幾ら美しい女性が現れようともその心を乱すことは無かった
紫の策で死んだ時もそれは変わらなかった
彼女の為に紫を殺そうとも、思った
ただ、あれば俺のせいでもある
それ故
「未来の私に旦那が?ありえない」
「(痛み)」
あのような発言はかなりぐっときた
もう心臓が破裂して死ぬくらいぐっと来てしまった
死ぬほど回転してしまった
舞から見たら5、6回転に見えるだろうが本当はうん千回回転している
過去の嫁から否定されるってのはなかなか心にくる…
…そういや今の年代の奴らに(痛み)って伝わんのか…?
斬鬼は魂が消滅しそうな苦しみに耐えながら舞について行っていた
「山の舞…何だか私が創業者みたいな店ですね」
「HAHAHA、実際ソウナンジャナイカナ」
「ウム、確カニソウカモシレナイナ!」
誰がこの店を作ったか知っている妹紅と慧音は知らないフリをした
そらまぁ過去の自分に「この店はお前が作った(デデドン)」と言っても困る
てか最悪舞の場合山そっちのけで店の経営をしてしまう
彼女は作ったものに関してはかなり責任を持つタイプだったからナ…
「お邪魔します」
入っていく彼女達について行く
すると、カウンターに見覚えのある顔があった
いや、見覚えがあって当然の顔か…
「おや、慧音さん達ですか…」
犬走椛、俺の娘がそこには居た
恐らく舞が居なくなったので店番でもしているのだろう
多分恐らく業務が面倒くさくなったとかでは無いだろう
俺のスンバラシイ娘がそんなことするわけ無いだろHAHAHA
後彼女は舞と俺を見た瞬間全てを察したらしい
軽いため息をついていた
「何だか私みたいな顔ですね、とても似ている気がするわ…髪型が少し違うけど」
舞は自身の髪を弄りながらそういった
そらそうだろ、君たち親子なんだから
「ハハハ、似た者ってところですカネ」
思わず椛は苦笑いが出ていた
恐らく彼女は凄まじく複雑な感情だろうナ…
俺は椛に同情しながら妹紅達の前を通る
「…今思ったがその霊を何故連れているんだ?」
慧音は初めて会った時なら確実に思うことを舞に聞いた
俺と慧音は会ったことは何回もあるが今は舞が若返っている
ここで霊と認識があったら色々と面倒そうだ
慧音の質問に当たり前のように舞は答える
「さぁ?起きたら隣にいて、ずっと着いてくる、それだけ」
「それだけ?何か特別な感情とかないのか?」
「ないわ(バッサリ)」
「(お迎えの時間)」
「発狂しちゃった…お父さん…」
もう死にたい、いやある意味死んでるんだが
一瞬目を見開いた映姫が見えた気がする
霊の状態からマジで死ぬとかシャレにならない
その場で黄金の回転エネルギーを放ちながら泣く
あまりの発狂具合に妹紅が背中をさすってくれた
さする背中は無いが何故かさすられた気分になった
俺はもう死ぬのか(愕然)
「…でも、まぁ」
彼女は何か思い起こしたように俺に触れてくる
こちらは妹紅と違い、確実に触れてくる感覚があった
「何か他者とは違うというのは分かります
他の奴らとは違う…何か温かみを感じる」
彼女は優しい目をして俺を撫でた
記憶と身体ともに若返ろうとも何かが変わることは無かった
俺の欠片は彼女の中にちゃんとあったらしい
「…そうだ、妖怪の山にそろそろ帰ろうと思ったので一緒に帰りません?」
「あら奇遇、私もそう思っていたところですよ」
椛が時間を見たのかそんなことを言ってくる
年月がたって変わった故郷を見たいのか舞も同調した
慧音達は仕事があるらしく手を振って帰って行った
俺たちは故郷へと戻ることにした
〇
「…おや、この時期にあるのですか」
「何がですか?」
「舞姫の踊りです、天魔様に納めるとても重要な踊りです」
見てみれば天魔の屋敷前にて神楽を踊る白狼の姿が見える
顔を隠す前掛けをしており、服も特別な衣装だ
ただの白狼でも幽玄の気配を醸し出す…とても良い衣装だ
先の内乱にて失われたと言われていたがただのデマだったらしい
あの時吹き飛んだのは俺の家だけだ…
「…とても上手いとは言えないものですね」
「ハハハ…最近は教える者も受ける者も少なくて…」
確かに舞の言う通り、ぎこちない動きだ
緊張なのか天魔の御前だからか分からないが…
ただ確定で選ばれるのが白狼の為どちらともなのだろう
…ただ彼女からすれば許せるものでは無かったらしい
舞姫本人なら、仕方ないことだろう
「…教育が必要ですね」
「あ、ちょ」
音速を超えるスピードで舞が降りる
その後を椛が追おうとするが俺が止める
見ているだけでいい、そう言って俺は彼女を追いかけた
〇
「…」
年々舞姫の質が落ちている気がする
流石に天魔の前で踊るから鍛錬不足はないだろう
だとすれば優秀な舞子の少なさだろうか…
天魔の前で踊るには相応の覚悟が必要だ
何せとても重要な行事であるため失敗すれば処分は確定である
あまりに酷ければ処刑なって有り得る、過去に一回だけあった
「…舞が居ればなぁ」
思わずそう呟く
聞こえてしまったのか舞子の踊りがさらに固くなる
やべ…いやまぁ確かに事実だから呟いたのは悪くねぇ
だ、だろう?な?な?
…話を戻して
彼女程の完璧な舞子は他に居ないだろう
舞が舞姫になってからというもの彼女が死ぬまで彼女に舞で勝ったものは居ない
舞姫の世代交代には舞で対決というまぁそれらしい行事がある
…舞と対決したのは二三人しかいなかったケド
それもどれも惜しいと言われるところまで行かず全員等しくボコボコにされた
彼女の醸し出すオーラに勝てる者はおらず、産まれから負け確とかいうチートをしている
産まれた時からあんなオーラ出せとか不可能だろうがボケェ
それに、彼女らが舞に負けたのは斬鬼の存在もあった
あいつら最後の最後に共同で舞を踊り、ボコボコにしてくるのだ
その剣技と扇子が混じった舞は美しいなんてもんじゃない
…と、思っていたところだった
「…!?」
「よっと」
しゅたり、と1人の少女が現れた
舞子を優しく追いやり、その場でバッと扇子を広げた
「何奴!?」
「…いや、代わりの舞子だ、気にするな」
私は槍を構えようとする部下を嘘で牽制する
舞子の衣装では無いが、まぁ間に合わなかったと言えばどうにかなるさ…
そういえば、久方振りかもしれない
かつての"舞姫"の舞を見るのは
「…はっ」
広げていた両手の扇子を水平にぐるりと回し、その場で回転する
見るも可憐、そして幽玄な舞
幼くなってもそのキレは変わらなかった
過去の彼女を見ているというのに、"今"の彼女を見ているようだった
そう思うと彼女は何も変わっていないのだろう
あの舞こそ、頂点なのだから
それ以上、その先は存在しないのだから
完璧なる完成系、究極の形
それこそがあの舞なのだろう
辺りを見てみればここにいる全てが彼女に釘付けにされていた
兵士も、黒子も、大天狗も、今まで踊っていた舞子も
誰もかもが彼女の虜にされていた
「…素晴らしい」
思わずそんな声が漏れた
どこにも一切の無駄がなく、そして完成されている
(恐らく)齢100を少しすぎた位の娘がこんな踊りをしていいのか
今思えばかなりの異常と言えるだろう
あの頃、産まれたものは異常なものしか居ない
音速を超えるスピード、射命丸
誰も気づくことのない暗殺、…名前忘れた
全てを狂わせる舞…紅白舞
全てを切り伏せる剣技…斬鬼
ビッグネームがあの時代に誕生していた
あの時鬼が気まぐれで攻めてこようものならこんな今にはなっていないだろう
ある意味、奇跡なのかもしれない
「舞も終幕に近付いております」
舞はくるりと回った後、そういった
長い銀髪が風に揺れ、白銀の光を放つ
後ろから後光が差しているかのような光だった
「…では、これで"フィナーレ"です」
「…?」
彼女の言葉に何か、違和感を覚えた
しかし、その違和感は次に見えた光景でかき消された
「…」
どこからともなく、1人の若い男が歩き始める
その姿をよく私は知っている、何せ数日前から見た姿だ
ゆっくりと彼は舞に近づく
舞は彼を見る前から何かをするつもりだったようだ
…感覚で分かるのだろうか
幼い斬鬼が幼い舞と背中合わせになる
…そして、刀と扇子が抜き払われた
「おぉ…」
美しい剣技と舞
それらが絶妙に混ざり合い、この世ならざる感覚を覚えさせる
刀が舞を斬ることは無く、逆に扇子が斬鬼を突くことも無い
絶妙なタイミングがそれらを可能としていた
彼女達が夫婦だったというのが当たり前だと思えるくらいの一体感
…確かに、これに勝てる舞子は居ない
今の時点では、勝てる者は誰一人としていないのだ
「…くっ、やはりつくづく、夫婦なんだな…お前達は」
嫉妬か、何かの果ての感情が天魔である私に言わせる
羨望か、どうにもならないことに私は腹を立てた
私は、彼女達に畏怖していた
その、圧倒的な技術と影響力に
…年最後の投稿がこれでいいのかねぇ
え?さっさと最新作出せ?
…だが私は謝らない
あ、あとメリークルシミマス、そして良いお年を