斬鬼は穴の中を飛んでいた
すぐ横に舞も居る
穴の底は都の光とかがかろうじて入っていた
だが、半分位のところになると上からも下からも光は来ない
光っているのは斬鬼と舞の目だけだ
何分飛んだのだろう
ようやく、上から光が降ってきた
どうやら既に日が登っているようだ
なぜだか山が騒がしい気がした
何かの声が上から降ってくる
「見えたー!」
「斬鬼様が落ちてた!」
「あっ、ここかぁ!」
「…なんだ、お前さん達」
穴から出ると、天狗達に囲まれた
捕らえようという気持ちより心配という顔だ
「いえ!行方不明になったと女中さんから聞いたので!」
「いやー…ちょっと散歩してただけなんだよな…」
斬鬼は目を逸らしながらそういった
間違ってはいない
昂っていた気持ちを抑える為に散歩したのだ
…あそこにあった穴が悪い、全責任を穴に委託する
「いやー、迷惑掛けちゃったようですね」
「そうよ、舞」
文がふらりと降りてきた
「アンタも無茶するわね」
「喧嘩を吹っかけてきた鬼が悪い」
鬼、という単語を聞いて天狗達の顔が青くなる
どうやらその頃からいた哨戒天狗の様だ
斬鬼は安心させるように言う
「何、二回も占領はさせないさ」
「鬼に勝ったなら…」
「それは舞さんもいるぜ?こりゃ安泰だな」
天狗達の顔色が戻る
「それでは、不用事と言っておきます」
「あぁ、よろしく」
大天狗が何を言おうと「拳で」と言えば黙るだろう
いくら上下社会だろうと…寧ろ上下社会だからこそ
強い者が偉いのは必須な事だ
「さ、私達は帰りますかね」
「そうだな」
と、斬鬼はある気配を掴む
そしてそれを引っ張り出した
「出てこいクソッタレ」
「きゃあ!?」
紫が引き摺りだされる
彼女は嘘泣きをした
「よよよ…そんな酷い事…まって柄に手を掛けないで」
「黙れアホ、やはり貴様とは気が合わんな」
「…スキマ妖怪?」
そこに丁度椛が降り立つ
どうやら報告を聞いたらしい
「あ、ご無事でしたか?」
「鬼なんて楽勝さ…次の宴会辺りに勝手に来るだろう」
「あ、宴会と言えば今回の異変は…」
「終わったわ、彼女達の活躍よ」
紫は誇らしげに言った
斬鬼にとって、それはイライラする笑顔だった
宴会は今日中に行われるだろう
宴会に関しては此処は早いのだから
「今日中か?」
「そうよ…永遠亭っていうね」
「…永琳達か」
やはり彼女達の仕業だった様だ
これで確定だ
「動機は姫を守る為…ってか?」
「そうよ…何故知ってるの?」
紫は問いかけた
斬鬼は軽く笑う
「何、旧友さ」
「…ねぇ」
「おっとそれ以上は厳禁だ」
斬鬼は紫の唇に人差し指を乗せる
たったそれだけで紫は口を開けなくなった
だだ1つだけ、彼の別名を呟く
「…"
「へへ、懐かしい名前だ…お前には言われたくないがな」
「嫌われたものですね」
「はっ…気に食わん事が多いもんだったんでな」
「…では」
そういうと紫は扇子で顔を隠し、スキマに消えていった
辺りは風が吹き、心地よい日になりそうだった
「…斬鬼さん?」
「ん?あぁ…すまない」
斬鬼はある事に気づいた
椛がかなりお疲れの様子なのだ
少し、猫背というか、やつれているというか
「…?疲れているのか?」
「…いえー、その、ストレス、というか」
聞く話によれば最近酒を飲めていないらしい
まぁ、何が言いたいのかというとストレス発散出来てない
それならそんなに窶れるわなと納得できる
「…あ」
斬鬼はあることを思いついた
そうだ、上司が部下を思いやるのは当たり前のことでは無いか
「椛も宴会に来たらどうだ?」
「え!?いやー…仕事が」
「でも、このままじゃあ仕事、続かないわよ?」
舞が不安を煽るように言う
斬鬼はさらに催促する
「天魔達には俺から言っておこう、何…問題ないさ」
「ありがとう…ございます」
椛は頭を下げる
「そうだな…日が暮れた辺りからあるらしいな…」
斬鬼は真上を見る
丁度真上に居た太陽の光が目を刺す
眩しさに目を細めた
「…よし、暮れたら行こう」
「わかりました」
そういうと椛は飛んで行った
自宅に帰って準備をしているのだろう
そんな気がした
「さて、私達も帰りましょうか」
「そうだな」
斬鬼と舞は自宅に向かった
まずは土の付いた服を着替える事をしなければならなかった
〇
「…斬鬼」
八雲紫は机の前に座っていた
机の上には紙と、筆と硯が置いてあった
ここであらゆる書類を処理する…大抵は藍に任せているけど
紫の前に一枚の紙があった
何かが書かれたそれの一番上の真ん中に、ある物が書いてあった
"餓狼作戦"
その下にはサインの欄が2つある
1つには八雲紫の名前が書かれている
もう1つは、懐かしい友人の名前も書かれていた
だが、それを見る度に思い出す
『死ね!妖怪など全て死んでしまえばいい!』
『堕ちた巫女よ、せめてもの救いだ…俺が殺す』
『私は…』
『素晴らしい妖怪よ、貴方は…だから殺して』
『お前は…何故』
『
『じゃあな、最高で最悪な巫女』
『私は…』
「…っ」
ズキンと痛みが走る
最初の頃は酷かったが、もう"この程度"だ
斬鬼は沢山の物を引き摺っている
…それをいつ、放り出すのか紫には分からなかった