魂魄の胸辺りに注射器を刺し、注入する
ただの蘇生剤だ、麻薬ではない
「有難う」
「礼は大丈夫だ、立て」
十六夜の手を借りて魂魄は立ち上がろうとする
しかし、半身が動かないせいでそれはまともに出来ない
「…味方の位置に移動する」
「分かった」
魂魄は瞑る
十六夜は時を止め、魂魄を抱えた
「…マジかよ」
戦況を見てみれば、マズイ事になっていた
魂魄の応急処置を施している間に依姫が出陣していたのだ
長刀を振りかぶったその姿で止まっている
表情を見る限り、余裕では無さそうだ
「…まずいな」
十六夜は魂魄を急いで味方の元に運んだ
〇
時は少し戻りて、依姫が来る前
「撃て!」
タタタンと破裂音が続く
パタパタとヘリが飛び、カーゴからRPGが放たれる
鈴仙はまたリロードする
「…来るぞ!」
仲間のイナバが叫ぶ
バイザーを掛けた少し近未来な装備だったり今でいう米軍装備だったりとバラバラだ
ただ、ここを守るという意思だけは変わらなかった
「あがっ」
妖怪の牙の様なものが突然イナバの胸に刺さる
仲間がそいつを木陰に引きずる
「衛生兵っー!」
「今行く!」
凄惨だった
あるものは腕を裂かれ、あるものは上下がちぎられ、あるものは頭を…
生きながら地獄に落とされた気分だ
鈴仙の耳が自然とヨレヨレになる
それを気にせず、ただサイトを覗いて撃つ
薬莢が光を反射しながらいくつも飛ぶ
…私の心は、深く凍りついた
「まだまだ来るぞ!」
味方の叫び
それは戦闘がまだ終わらない事を示していた
「増援を呼べ!」
『依姫様が来る!それまで耐えろ』
それを聞いた瞬間兵士達に歓喜が満ちる
この戦況を打破できる者が来るのだ
といってもやる事は防衛
ロケットの発射準備が整えば逃げなければならない
また、引き金を引いた
〇
「くらえくらえくらえっー!」
霧雨は弾幕を放っていた
ブローニングには既に熱で溶け、使い物にならなかった
M134 通称「ミニガン」
六本の筒が回転し、弾丸を無数に放つ
この気持ちよさが霧雨を興奮させていた
「はっーはっはっはっはっはぁっー!」
笑いながらミニガンをぶっぱなす
そして霧雨はある事に気づいた
…射角が足りない
それが意味する事はただ1つ
「くそっ」
霧雨はミニガンを持ち上げ、飛ぶ
戦闘の様子がよく見えた
地面に向かって直進し、すんでのところでジェットを噴射する
「霧雨!」
「今来たぜ」
ミニガンの持ち手をしっかりと持ち、引き金を引く
ドゥララララララと弾丸が放たれた
「敵を引かせるぞ!」
「了解だぜ」
バラバラと音を立てながら薬莢が落ちる
その轟音は妖怪を呼び寄せる
「こっち来てるぞ!」
「まずいな…」
ナイフが刺さる
弾丸が頭を吹き飛ばす
もはや飽きてきたような光景だった
たが、波は止まらない
「もう諦めろよ!」
霧雨は叫ぶ
だが、知性無き者達にそれは届かない
「…畜生!」
カーンと音がなる
それは弾切れを示す音だった
「くそっ、リロード…」
ドラム型のマガジンを捨て、新しいマガジンをはめ込む
影が、深くなった
…深くなった?
「!」
霧雨は顔を上げる
そこには、妖怪の顔面
奴の吐く息が顔にかかる
「…!」
そいつが細切れにされた
「引きなさい、後は私がやります」
その紫色の髪は見たことがあった
「依姫!来てくれたか!」
「おい!少し下がるぞ!」
十六夜の提案を霧雨は蹴る
「ははっー!祭りだ祭りだぁっー!」
「…私に当てないで下さいね」
依姫はそれだけ言うと戦場に身を投じた
「…馬鹿」
「そういうな、照れるぜ」
「貶してんだよ!」
〇
時は進みて、依姫が余裕の表情を失った時
「多いっ…!」
切っても切っても妖怪は出てくる
それが少なくなる気配は無く、むしろ多くなっている
味方の援護があっても間に合わない程にだ
「クソっ…」
妖怪の体に刀を突き刺し、それを別の方向に投げる
その勢いをつけたまま流れるように斬る
「ギッギッ!」
「…」
静かに刀を構える
武人として、それは欠かさない
「…姉さん、そろそろ限界です」
『分かったわ、信号を送るわ』
「…信号?」
『見れば分かるわ、何か起こるまで耐えて』
その通信が終わると、基地から赤い光が放たれた
「フレア…?」
それは救難信号に使われるフレアだった
でも、誰にそれを伝えたのだろうか
「ギャア!」
「…!」
それに気を取られていたので妖怪が飛びかかってくるのにきづかなかった
依姫は刀を構えようとする
だが、それはあまりに遅すぎた
「…ここまで、か」
依姫は死を覚悟し、目を瞑る
「…あーあ、若いもんが死を覚悟するもんじゃないよ」
瞬間、目の前の妖怪が消え失せる
依姫は目を開いた
そこには天狗装束の白狼が居た
相違点は肩と腰に銀の鎧がある事
その黒い袴に燃えるような業火の模様が描かれている事
その尻尾と耳が普通の白狼より大きく、キリとしている事
「…貴方は」
依姫はそいつの名前を聞く
そこでようやく辺りの状況に気づいた
双剣を持った白狼が次々と妖怪を切り裂いていること
槍を持った鴉天狗が妖怪の体を突き刺している事
楓の形をした扇子を振り、妖怪を吹き飛ばしている鴉天狗がいる事
紅葉の模様が描かれた扇子を振るう白狼がいる事
彼は血塗れの刀を振り、血を飛ばす
こちらに手を伸ばしてこう言った
「俺は"神風部隊"...暗号名は"狼"。
もう会うことは無さそうだから本名は言わない」