「はぁ」
編笠を少しずらす
そこにあるはとある都
帝が住まうこの日ノ本の中心である都だ
斬鬼は軽く目を瞑り、ブツブツと呟く
すると、彼の特徴的な獣耳や尻尾は煙の如く消え失せる
その銀髪も人間と変わりない黒へ変わっていた
もう彼はそこらの人間と変わりない
これが変化の術である
陰陽師等にバレないようにするのが大変だった
偽名なんて面倒な物を使うつもりは無い
たまたま同じだったで済むのだから
「さて、いきますかね」
足を進める
斬鬼はこの日、初めて都に入った
〇
都の中は繁盛している
そこらの村じゃ見られない活気だ
常に話し声が絶えない都、とでも言おう
「…?」
だが、単なる活気では無いらしい
何処か興奮気味…何かあったのか
人々をよく観察すると貴族の乗った牛車が何個もある
しかも同じ方向へ向かっているようだ
これは人々に聞いてみようか
「もし、そこの」
「何だい兄ちゃん」
八百屋をの店主と思われる男に声を掛ける
「貴族達は何処に向かっているので?」
「あいつらァかぐや姫の所に行ってるんだよ」
そいつは面白くなさそうにいう
「かぐや姫?誰だそいつ」
「あんた知らないのかい?まぁ旅の者みたいだし当たり前かえ」
こちらの服装を見た後に言う
「かぐや姫ってのは竹取の翁が拾った女だ」
「何処でだ?」
「驚くことに竹の中らしい」
少し斬鬼は驚いた
そんな女、多分人間じゃねぇ
「育てていく内にあんなに美しくなったんだとよ」
店主はため息をついた
「だがなぁ…」
「だが?」
斬鬼は先を促す
「何でも月からの迎えが来るとかなんとか」
「月から?」
月から…ということは彼女は月の民か?
あいつらは月に何をする気だろうか
…害を成すなら殺すしか無い訳だが
「そうか、最近の都も大変なもので」
「いやーね、俺たちみたいな民草には関係ないよ」
それもそうかもしれない
まぁ、それがどうであれ俺にも関係無いのだが
「それじゃあな」
「また来ておくれよ、旅の」
斬鬼はまた歩き出す
行く場所はやはりそのかぐや姫の場所だろう
…それに最近畏れが足りなかった事だし
「さて、久しぶりに人を驚かしますか」
斬鬼は妖怪なので畏れは重要である
人間と共存を望んでいる、と言うだけで驚かさないとは言っていない
…食いはしないけど
「…あそか?」
見た感じ他の家より豪華な邸宅がある
そのかぐや姫の美貌が凄まじいなら帝との交流もあるだろう
貴族達の贈り物もあってここまで成り上がったか
「ほ」
俺は飛び、その邸宅の屋根に着地する
邸宅の庭に武人が何人も配置されている
今夜は満月だ、その時に来るのだろう
…月の民に勝てるか…?
あの時見たビームとかは完全装備だろう
未だに気づかれていないらしい
「さて」
俺は着地地点を探す
「――――」
女の喋り声が聞こえる
それは今までに聞いた事の無いほど綺麗な声だった
成程、こいつがかぐや姫か
その横くらいに老いた男の声も聞こえた
こいつが竹取の翁だ
「…」
「ええ、でも――!?」
静かに着地する
縁側に座っていたかぐや姫と翁がこちらを見た
それは接近に気づかなかった驚きで満ちていた
…いや?何か他のが混じっているような?
「何奴!?」
兵士が斬鬼の周りを囲む
俺は軽く手を横に振った
すると、俺の体がいつもの姿に戻る
「何、かぐや姫の容姿を見たかっただけだ」
「…!貴様天狗か!」
兵士の1人に居た陰陽師が叫ぶ
さらに警戒が上がった
「そうだ、だがただの天狗じゃない」
「何を白狼如き――!?」
そこで気づいた、俺の妖力の強さと量に
白狼でこの量、そしてこの見た目
「貴様!まさか…」
「俺は"元"神風部隊、紅白斬鬼…知ってる奴も多いだろう?」
それを聞くと兵士達に動揺が走る
あの人間と共存を目指す奴が何故ここに
「ただの暇つぶしさ、妖怪なら分かるだろ?」
「…お主、何しにここに来た」
翁が口を開く
「先程の通りさ、じゃあ俺は帰る」
俺は手をひらひらと振ると背を向ける
「待て」
それを彼は制止した
「本当にそれだけか?」
「…懐かしい雰囲気を感じてな、主にそこのかぐや姫に」
月の民と同じ…永琳と同じ雰囲気を感じた
月の民として持つ雰囲気が同じだったから来た
「…そうか」
「じゃあな、竹取の翁…もう会うことはない」
そう言って斬鬼は人々の目の前から姿を消した
かぐや姫が呆気に取られた顔をする
「…紅白斬鬼」
「不思議な妖怪だ、いや?噂通りか」
翁は少し笑った
「何処かで聞いた名前です」
「噂がかぐや姫に入ったのでしょう、じゃないと聞きません」
「…そうかもしれませんね」
かぐや姫は空を見た
そこには太陽がある
あと数時間すればそれは沈む
「…永琳」
輝夜はぽつりと名前を呟く
紅白斬鬼と言う名前は彼女が言っていた
翁と同じで不思議な妖怪、と
「また会えるかしら」
貴族にも、帝にもしたことの無い期待を斬鬼に抱く
それは今夜叶えられることとなった