1匹狼の幻想郷帰還   作:回忌

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月からの使者

都は大変な騒ぎだ

翁の館は更に警戒が強くなっている

 

「妖怪が出たんだとさ」

 

俺は黒い髪の毛を弄りながら八百屋の店主に言う

店主はそうかと笑いながら言う

 

「ははっ、それも天狗、紅白斬鬼だとよ」

 

もはやそれは都中に伝わっていた

俺は有名人の様だ

この八百屋に聞けば不思議な天狗と言われているらしい

妖怪の山で人間と妖怪が未だに共存している

それをきいて少し安心したのは気の所為か

 

「いやー、いいものだねぇ」

 

店主はこちらを見てニコリと笑った

そこで初めて気づき、冷や汗が出る

 

「…お前まさか」

 

「へへへ、ご想像の通りだ」

 

そいつの顔が一瞬変わった

その一瞬で見えた顔が知っているものだった

 

「なんだ、"蛸"か…情報収集中か?」

 

「そうだな、そういう命令なんだ」

 

コードネーム、"蛸"

 

その姿を自由に変え、性格までもを変える能力を持つ

 

正確な能力名は"変える程度の能力"

 

これにより己の性格と見た目を自由に変える

性格が変わったからと言って組織を裏切る事はない

 

「斬鬼の事はしっかりと伝えといてやるよ」

 

「迷惑だ、やめてくれ」

 

しかし彼は豪快に笑う

 

「ははっ!子供さんと奥さんを安心させる為だ、悪く思うなよ?」

 

「…性格がねじ曲がってるぞお前」

 

そこ俺は軽く咳をする

 

「何の任務だ?」

 

「"カグヤ姫ニツイテ調査セヨ"、まんまだよ」

 

都を騒がす人物を調査しておきたい、というものだろう

彼は既に報告したのだろうか

 

「いんや、今夜しだいだよ」

 

確かに今夜迎えが来るらしい

その時に居なくなるのならば報告したって意味が無い

 

「そうか、お疲れさん」

 

「皆…主に鬼がお前の帰還を待っているんだよ、早くな」

 

「だが断る、じゃあな」

 

そういって俺は振り返ることはしなかった

振り返るのも面倒だったからだ

 

 

「…この満月の夜、蓬莱山輝夜を迎えに行く」

 

月面では7人の生命体が居た

その内6人は月兎と呼ばれるもの達だ

 

そして、1人は奇抜な服装の人間だ

 

「八意殿、準備は」

 

「行きましょう」

 

そういって天車に乗り込む

それは一瞬の内に地球へと到達した

 

その天車の中で永琳は呟く

 

自慢の弓を握りしめながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていてください、姫様」

 

 

「…あれか?」

 

俺は小山で胡座をかいていた

その時月に影が見えたのだ

千里眼で見ると確かに7人確認出来た

 

…あの奇抜な人間、何処かで見たような

 

「まあいいか」

 

俺はそこで事の成り行きを見ることにした

今日の月は一段と美しく見える

 

 

「…構え!」

 

兵士達が弓を構える

その後ろに俺は居た

かぐや姫を庇う姿勢で、だ

 

「…藤原殿」

 

「恐らく、俺は死ぬだろう」

 

ぽつりと俺は呟く

あんな事が出来る奴なんて人間の筈が無い

そんな物と人間が戦うなんて不可能に近い

 

「己の事を考えて下さい、子供が居るのでしょう?」

 

「…彼奴に俺は必要無い、必要にされる訳にはいかない」

 

かぐや姫に全てを振った愚かな俺に着いてきて欲しくは無い

本当は全てをあの子とやり直したい

そう言っている天車が止まった

 

そこから黒い制服を着た兎女6人

 

そして天車の前に構える奇抜な女が居た

 

「…殺りなさい」

 

「――!かぐや姫!隠れろ!」

 

俺はとっさにかぐや姫の手を引いて柱の後ろに隠れる

瞬間昼と見間違うような光が溢れる

 

…ビームというものだ、それが兵士の体を貫く

あれだけ居た兵士は一瞬の内に全て死んでいた

 

「…あとは俺1人か」

 

翁は居ない

 

「覚悟を…決めるか」

 

と思っているとかぐや姫が縁側を降りる

 

「永琳…」

 

「姫様、どうなさいますか」

 

彼女は俯いた

そして数秒後、顔を上げる

 

 

 

 

「地上に、居たい」

 

「御意」

 

「八意…!?貴様裏切――」

 

その兎女の首は消えていた

それを見て永琳と呼ばれた女はかぐや姫の近くに行く

 

「…いいのか?それで」

 

俺は裏切り者に聞く

そいつは弓を構える

 

「主の言うことに従者が従うのは必然、でしょう?」

 

「…そうだな」

 

俺はそいつを退かす

 

「…何を」

 

「先に行け」

 

そいつは冷静な顔でこちらを見る

 

「死ぬわよ」

 

「その為にここに来た」

 

「…じゃあお願いね」

 

俺は柄に手をかける

そんな俺に後ろから声がかかる

それはかぐや姫のものだった

 

「しっかり足止めして」

 

「…喜んで」

 

そういって俺は月兎に突っ込む

人間がそんなスピードを出せるとは思わなかったのか、簡単に首が斬れる

 

「はは、余裕だな」

 

俺はそういってまた月兎を切り裂いた

 

 

「こちらです、この都から脱出します」

 

路地裏を走り抜ける

永琳が連れてきたのはあの6人のみ

そしてその6人をたった1人の男が制している

 

「早く」

 

もつれる足に鞭を打ちながら走る

その痛みが無くなるほど走る頃には都をとっくに抜けていた

 

「…はぁはぁ」

 

森の中で止まる

止まった場所は軽い広場になっていた

 

「ここまでなら追ってこないよね」

 

輝夜は額の汗を拭った

 

「…良かったの、これで」

 

永琳に確認した

これは月自体を裏切る重大な行為だ

捕まれば死刑所では無いろう

 

「…えぇ、ですからこれを」

 

「蓬莱の薬」

 

それは永琳の持ってきたのだろう

試験管に入ったサンプルの様に見える

 

だが、それは寿命を永遠の物にする禁忌の薬だ

 

輝夜が地上に落とされたのもこの薬を飲んだからだ

 

己が持っていたものは翁に渡した

それからは帝に渡るだろう

 

それを永琳は躊躇すること無く飲む

 

「…私は貴方の従者です」

 

膝立ちになり輝夜へ土下座

輝夜はその肩に手を置いた

 

「これからも、よろしくね」

 

輝夜は精一杯の笑顔を顔に出した

 

 

 

 

 

「――」

 

永琳が即座に弓を構える

聞こえてきたのは3回の拍手

そこには白狼天狗が居た

普通の天狗では無い

肩鎧と腰鎧をした天狗なんて聞いた事は…

 

「…ここは天狗の領域?」

 

「いや、俺は旅の天狗さ」

 

永琳の質問に笑って返す

そいつは腕を組んだ

 

「…紅白斬鬼」

 

「お、覚えていたか…光栄だなかぐや姫」

 

「…紅白斬鬼?」

 

永琳が反応した

 

「貴方なのかしら?斬鬼」

 

斬鬼は眉をひそめた

だが、それをゆっくりと咀嚼した

 

「…あぁ、永琳か…久しぶりじゃないか」

 

何年ぶりかも分からない握手を俺たちは交わした





「…もうダメそうだな」

日が昇る頃、俺は木下に居た
脇腹には綺麗な穴が空いていた

「あーあ、いい所まで行ったんだが」

相打ちだった
最後の1人が決死の刺突銃撃をしたのだ
それは見事に腹を貫通した

「…悪ぃな、妹紅」









「…親父?」

「…」

前から聞こえる声
だが、それはあまりに掠れて聞こえにくかった

「親父!」

妹紅が体寄せる
しきりに俺の体を触った

「本当に、ごめんな…妹紅」

「何で親父が…謝るんだ…」

「俺はもうダメだな…はは」

少し眠たくなってきた
必死に目を開ける

「あぁ…俺は良くやれたな…かぐや」

「親父…!私を見てくれよ!私を!見てくれよぉー!」

俺の意識は潰えた
だが、その憎しみの篭った声は確実に聞こえたのだ









「…殺してやる、殺しやる――!」
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