しばらく飛んでいると我が家が見えてきた
夕日が我が家を照らしてオレンジ色に変わっている
斬鬼の家は他の天狗と同じく崖に作られている
ただ、他の家が投入堂位の大きさで彼の家は大きい
誰もが幼い頃に、特に男なら夢見ることもあるような家だ
一言で言えば崖に基地のように木造建築が張り付いている。
無論のことそれぞれに意味があって見せびらかしているわけではない
まず一番下の方にあるのは風呂場だ
河童の友人がどうにかしてお湯を沸かす装置を作ってくれたので
疑うところはどこにも無い。
そしてそこから内部か崖側の階段を通っていくと今度は
かなり広い宴会場のようなところに出る。
昔はここでよく大騒ぎを起こしてくれたものだ。
そこからいくつか倉庫や調理場などの部屋が繋がっている
他にも働いている四人の為の部屋もある
そうして階段をのぼり、事務部屋へと辿り着く
人魂はまるで実家にきたかのように動いている、楽しそうだ
斬鬼は懐から錆が少しついた鍵を取り出して挿す。
それを捻るとカチャリと音がするのを確認した後ドアノブを捻る。
中に入るとそこは静かな雰囲気の部屋だった
一番最初に目に入るのは部屋の奥にある大きな机
本と墨液が入った瓶に刺さった羽ペンに山積みの書類。
スタンドライトを置いて光源を確保している
ここで後始末や仲間のいざこざについて考えたものだ
その疲れた時には右の隅にあるベットで寝る
というか寝るときは別の和室で寝ることが多い
後で自室に行くとしよう。
ここは完璧に仕事専用になっているのでいらないものは置いていない
あるとすれば旅であった奴らの物くらいか。
“此処“にずっと戻らなかったわけではない。
時たまここに来て荷物になった貰い物を置いてくるくらいだった。
能力を使えばいくらでもここには来れるのだ。
斬鬼は机に近づく。
この机もあの時から変わらない。
ほこりが一つも付いておらずそれどころか汚れもない
まるでいつも誰かが掃除しているようー
―…リィン―
「お前なぁ…慣れないから後ろに立つなって」
「すみません、つい癖で」
振り返ると目の間に女がいた
巫女服のような赤と黒の和服を着た
黒上のロングヘアーに赤い双眸の、女性だ。
常人なら心臓バクバクになること間違いなしだが彼にとっては
もうあの時の日常の一部と言えた、いつの間にか後ろにいるなんて
「俺がいなくなってから何を?」
「彼女の世話を」
「…すまん」
「いえ、これは女中の役目なので」
「あの三人は?」
「元気です、あの時よりも成長しましたよ?」
「そらよかった」
斬鬼の言う三人と言うのは雇った天狗である
元は孤児だったのを彼が拾ったのだ
それにお手伝いさんとしての能力を叩き込んだ女中。
あの時だけは同情してしまった
微笑した女中は姿勢を正すと言う
「おかえりなさいませ斬鬼…いえ当主殿。もう夜が遅いので
お眠りになられればいかがですか?」
「そうだな…明日の朝は」
「お食事はこちらで決めておきましょう」
斬鬼は軽く舌打ちすると自室へ向かった
それを冗談だと知っている女中は一礼して煙のように消えた
事務室の扉を開き、中に入ると壁に向かう
そして壁に背中をピッタリと引っ付ける。
すると壁が回転して斬鬼はそこに行った
己の部屋だ。
障子が使われたこの部屋は縁側がある
と言ってもそこは崖なので手すりが設置されている
その部屋にはクローゼットと刀の整備道具があるだけで
他はがらんとしていた
斬鬼は障子を開けてそこから布団を取り出す
白色のシンプルな布団だ、シミもない純白な。
布団を敷くと今度は徐に服を脱ぎだす
袴の帯を緩め、和服を脱ぎ、鎧を外して。
先に言っておくが今の斬鬼は全裸では無い。
今の彼は上半身も下半身も黒いインナーを着ている
春先でも暑い夏であろうと寒い冬であろうと使える
とても便利なインナーである…これを作ってくれた友人の河童に感謝。
今度きゅうり一週間分でも用意しておこう。
脱いだ服を畳んで横に置く
そうすれば勝手に女中が持っていくだろう
あいつが知っていない部屋なぞ存在しない
どうやってここに来るんや?と聞いたら「半ば勘」と博麗の巫女のような
ことを言いやがる…彼女は今、どうしているだろうか
いや、どうもこうもない。斬鬼が知っているのは初代だ。
今の巫女がどんなのかわからないが期待はしたおこう
あれの子供なら、きっと強いはずなのだ。
すりすりと人魂が擦れながら布団の中に入ってくる
久しぶりにまともなところで寝ることができたと斬鬼は思った。
○
「私は…あなたと戦いたくなかった」
斬鬼の目の前に女がいた
由緒正しき、赤と白の巫女服。
しかし今はその大部分が赤く染まっており
寂しく笑う彼女の顔も赤かった。
その服は戦いの末ボロボロだった
所々に穴や黒い焦げ跡があって赤い袴は縁が裂けていた。
だが、それより深く記憶に入るのが紫の髪
「ああ…だがお前がこうしてしまった以上。
俺とお前が戦うのは仕方ない」
斬鬼も同じ気持ちだった
儚い人間の中に神風部隊最強と言われる彼に対等に渡り合える
強者を見つけてしまったのだ。
それからと言うもの彼女と関わるようになった
まだこの時はスペルカードルールなんてなかった遠い昔だ
死ぬ気で戦わねければ死んでいた
殺すか殺されるかだった。
彼女とは盃を交わすくらいには仲がよかった。
ただ、彼女の凶行が全てを切り裂いた
彼女は妖怪を皆殺しにしようとした。
愛すべき娘の1人を妖怪に無惨に殺されたから。
双子の妹が首を噛みちぎられて死んだ
その時彼女は狂った。
殺してやると
復讐してやると
「私は、大切な物の一つを奪われた…!」
「俺は自分から大切な物を手放した」
「だから!最後の約束を守ってもらう!」
「…あれのことか」
彼女が刀を構えたのに合わせて斬鬼も構える
「どちらかが死に、どちらかが生き残る」
『そして生き残ったものが影の英雄になる』
「さぁ!」
「覚悟しろ」
赤い刃と青の刃が交差する
○
「凜…!」
思わず手を天井にあげていた
懐かしく思い出したくない記憶だった
もう1000年位前の頃のことだった
「…夢か」
おそらく昨日博麗の巫女について考えたからだろう
それが脳にこびりついて離れない
彼女が言った通りになっている
斬鬼は起き上がると布団を畳んで元に戻した
昨日と同じように壁を回り事務室に入る
窓からは春の光が差し込んでいた
太陽が山から顔を覗かせている
斬鬼は上に上がった
崖の上に家が建てられている
そこが接客をしたりする建物だった
人が来ない時には飯を食べるための机になる
部屋にはいると見覚えのある奴がいた
「入室を許可した覚えはない」
「そんなものなくても入れるわ」
いつもの笑顔の紫が悠々と食事していたのだった。
金輪際後こんなことができないようにで喝を入れなければな