1匹狼の幻想郷帰還   作:回忌

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そしてグロ




発見

あいつらが出ていって数時間、眠りこけていた

鼻呼吸をすると決まって饐えた匂いがする

奴らが掛けた糞尿だろう

神風部隊の訓練でも受けたが、やはり快いものでは無い

なんなら文句を叫びたいが…

 

あの後また頭陀袋を被せされられた

それでも匂いは鼻を刺す

かつての神風部隊一員が見れば笑うだろう

文、お前今最高に面白いことになっているぜ…と

だがそう言ってくれる部隊員は居ない

私の部下達も全員殺された、諜報班は私以外居ない

 

右の翼をひらひらと動かす

 

今の暇つぶしはそれくらいだ

もう疲れて動かす気にはなれないが

 

「…」

 

何か吹き飛ぶ音がした

その後に聞こえる怒号、悲鳴

 

恐らく、斬鬼達だろうか

 

もしくは第三勢力だろうか

 

何かが壊れる音がした

それと同時にドアが開く

誰だ?誰が入ってきた――…

 

何か言われる

頭陀袋が厚くて何か聞こえない

私は指で脱がすようにジェスチャーする

そいつは頭陀袋を脱がした

 

「聞こえるか?」

 

彼は私の顔を己の方に向けた

見えないが、声は斬鬼のものだ

私は感謝の言葉を伝えたかった

だが、まだ声が出せない

 

変わりに、口を動かす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――遅かったじゃない

 

彼は何も表情を変えずに呟く

 

「話は後だ、行くぞ」

 

 

大天狗宅の門を吹き飛ばす

それは合流したにとり率いる戦車部隊の攻撃だ

 

「進め!」

 

斬鬼は先陣を切って中に突っ込む

 

「止めろ!」

 

「うおおおおぉああああああああぁぁぁ!」

 

勇敢な天狗兵が斬鬼を止めようとする

だが、今回は相手が悪かった

斬鬼の視界に入ること無く切り刻まれる

 

「ほっ!」

 

天月は敵を薙ぎ払う

 

「下っ端め!」

 

「下っ端と言えど舐めるな!」

 

大天狗の翼を切り落として峰打ちをする椛

 

「さぁ、舞を踊りましょうか…」

 

「ひぁ…ぎゃあああ!?」

 

その妖艶な舞に魅力される者を扇子で切り刻む舞

 

「オラぁ!」

 

双剣で腹を突き抜き、返り血を全身に浴びる青年

 

この場に神風部隊に関係するものが集結している

そして、彼らに適う者は居なかった

 

「入るぞ」

 

室内に侵入する

中は騒乱だった

 

「俺は死にたくねぇ!お前についていけるか!」

 

「な!裏切――」

 

後ろから刀で刺される大天狗

味方同士で戦う天狗兵達

斬鬼はそれを尻目に散策した

 

「…ここか」

 

重々しい鉄扉があった

斬鬼は南京錠を切り落とす

ギギギと扉を開けた

むわりと広がる饐えた匂いに顔を顰める

そして、彼女は居た

 

右腕と右足が無い

翼も片方が力なく揺れている、折れているのだろう

頭陀袋を被せられている

 

直ぐに治るはずのそれが何故…?

 

斬鬼は文に近づき、屈む

 

「おい」

 

「――…」

 

彼女は顔を上げると左手で頭陀袋を示す

そして上に上げた

斬鬼はその意図を察し、頭陀袋を脱がせる

 

「聞こえるか?」

 

斬鬼は彼女の顔を己に向ける

彼女の目は濁った白色だった

いつもの赤色は何処にいった?

彼女は力なく震える、笑ったのだ

 

口が動く

 

 ―――遅かったじゃない

 

「話は後だ、行くぞ」

 

斬鬼はそういうと彼女の体をまさぐった

少し気になることがあったのだ

胸から腰、足に手を這わせる

文は恥ずかしそうに内股になる

そこに無理矢理手を突っ込む

 

「これか」

 

あったのは札

これに回復を阻害する術を入れたのだ

ポイと投げたのに妖術で燃やす

 

「行くぞ」

 

彼女の足に腕を通し、担ぎ上げる

少し足の締める力が強くなった気がした

 

 ―――変態

 

「なんか言ったか」

 

斬鬼はコンコンと背中を叩く文に聞く

彼女は何も言わずに叩いていた

少しずつ腕が再生しているのが見える

この調子で行けば目も見えるし喋れるだろう

 

斬鬼はそのまま外に移動する

 

「あ、文様?」

 

椛は冷や汗をかいた

己の上司がいつの間にかこんな事になっているのだ

好きでは無いが、嫌いではない

これはあまりに酷すぎると椛は感じた

 

「神風部隊に来たからってのもあるが…

 主体的には俺への脅しか」

 

「そうでしょうね、じゃないと文を捕まえないわ」

 

舞は扇子で口元を隠した

その瞳は氷より冷たい瞳だった

 

「…そうですね」

 

椛は納得した

神風部隊で同期であるならば迷うと思ったのだろう

だが、椛は何故か知っている

 

―――敵に降伏するな、味方を人質に取られても

 

それは掟の様なものに書かれていた

例え重要人物であろうと、とも付属されている

まぁそんな状況は本当に稀だろう

大抵そうなる前に終わるだろうし

 

「さて―――」

 

斬鬼は永遠亭に彼女を連れて行こうとする

 

「斬鬼」

 

そこには紫の姿があった

斬鬼は目を細めた

 

「何用だ」

 

「人里が襲撃されかけたわ」

 

斬鬼は思わず目を見開く

同時に底知れぬ怒りが湧いてきた

 

「やはりやりやがったか…」

 

「不思議よね、それなのに被害が出ていないもの」

 

「そらよかったな」

 

紫は目を細める

まるでこちらを疑っているようだ

 

「私は霊夢を出した覚えはない

 それに彼女自体出た痕跡が無いわ」

 

「で?」

 

「その殺された天狗達から"博麗の力"が残っていたのよ」

 

「…それがどうした」

 

「斬鬼…あなた――」

 

私に、隠し事をしてないかしら

紫は耳元で囁いた

斬鬼は顔色変えずに言う

 

「気のせいだ

 俺は仲間を永遠亭に届けに行く」

 

斬鬼はそれだけ言うと飛んだ

舞達は不思議な顔で紫を見た

その視線がこそばゆかったのか、彼女はスキマに消えた


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