"俺"はある原っぱに立ちすくんでいた
もう既に日は暮れ、辺りは暗い
だが、満月であるお陰で視界は良好だった
この原っぱには俺しか居ない
そこにはある花が咲き乱れている
ゲッケイジュ
その花がいつここに咲いたか知らない
だが、それはつい最近の事であるはずだ
俺はゲッケイジュの花を摘む
その花言葉は、"裏切り"
「俺に丁度いい」
花を離す、それはゲッケイジュの海に沈んでいく
そして空の月を見た
「何処で俺は間違えた」
ポツリと呟く
その独り言は空の月へと消える
返答が帰ってくる事は無い
最初はただの嫉妬だった筈だ
仲間から慕われる、それだけの嫉妬
己もその1つの筈なのに何故か大きくなる
それは斬鬼があまりにも強大だったからか…
神風部隊の1人として恥ずかしいと今でも思う
「本当に…」
馬鹿らしい、何故俺はあの言葉に乗った
俺はどうしてこんな過ちを…
だが、後悔しても遅い
もはや賽は投げられた、戻す事は出来ない
事には始まりがある
生まれた時から"これ"が決められていたなら…
なんて…
「―――なんて、馬鹿らしい」
笑いが出てしまう
本当に馬鹿らしい
やっぱり、俺は"そっち側"では無かったらしい、斬鬼
ふわりとゲッケイジュの花びらが飛んだ
俺は息を吸い、上を向いて吐く
後ろでさくりさくりと土をふむ音が聞こえる
―――来たな、紅白斬鬼
俺はそう振り返らずに言った
〇
予想はついていた
奴らの攻撃にしては的確だ
特に天月を多人数で襲うところなど特にだ
彼は直ぐに詰められるのを苦手とする
懐に入られると槍が使えないからだ
刀もそこまで行く相手なら抜く前に殺られる
そんな弱点を天月が風潮するわけも無い
つまり、それを知る裏切り者が居る
簡単な事だった、それは友人に居た
―――同じ神風部隊に居れば嫌でも弱点は分かる
そして、生き残る神風部隊の隊員は6人のみ
順に挙げていき、犯人を探せば…
天月風―――襲撃されていた、違う
自分―――自分、違う
紅白舞―――んなわけねぇだろアホ
射命丸文―――捕まっていた、違う
未だに名前を知らない女中―――襲撃されていた、違う
友人の大天狗白狼―――聞けば途中で居無くなっていた
これだけ見れば、分かる
犯人は友人―――信じたくは無い
だが、真実だろう、文も分かっているはずだ
聞かなかったのは何故だろうか、分からない
まぁ、犯人は分かっていた
だが疑う事が出来なかった
彼は俺にとっての親友だった
原っぱに着陸する
そこにはゲッケイジュが海のように広がっている
ゲッケイジュの花言葉は"裏切り"
アイツにお似合いな言葉だ
彼はその原っぱの真ん中で突っ立ていた
そして、俺が歩き始めて数秒後…数メートル程で声が聞こえた
「―――来たな、紅白斬鬼」
彼はこちらを見ずに言った
俺は何も言わない、彼もそれきりだった
ただ1つ言葉を絞り出す
「どうして裏切った」
「さぁ、俺にも分からない」
彼はこちらを向いた
その顔と一人称、どうやら部隊に居た頃の性格に戻ったらしい
少し窶れたような疲れた顔をしていた
俺はまた言う
「何故だ、お前には不利益しかないはず」
「そうだな…はは、橋姫にやられたのかね」
その単語でどうして裏切ったか分かった気がした
彼は嫉妬に駆られたのだろう
俺への嫉妬というやつだろうか
己に脚光が浴びせられられないというのは辛いものだ
だが、まぁ…
「なんとも、情けない理由だ」
「そうだな、俺もそう思う」
彼は薄く笑った
そして、こちらを見る
「お前も情けない、だろ?」
「あぁ…だが」
柄に手をかける
「お前よりかは、マシだ」
「へへ…どうだか」
彼はいつもと違う様子だった
もはや何もかもを諦めているような感覚だ
目もどこか遠くを見ている気がする
「質問を変えよう…
お前は…どうして…そんな"役"を選んだ」
俺は酷く悲しそうな声で言う
分かっている、彼が自らそんな事をするとは思えないからだ
それを知られて…彼ははにかんだ
「何もかもお見通し…か」
彼は諦めた
そして、全てを話す
「かつて、俺たちは1つだった
そうだ…反対者の居ない完全な組織
だが…今を見てみろ
賄賂が横行し、政治は堕落した
今や大天狗に録な連中は居ない…居なかった
それを見かねて、の事だ
"彼女"も同じ事を感じた、足並みを揃えてもらいたい
だからこそ守矢をここに転移させたんだ
チャンスを作るためにわざと…
俺は'彼女"に従った」
「…あいつめ」
俺は血が滲み出る程拳を握る
既に柄から手を放していた
彼は軽く笑う
「こういうのもなんだが…俺は彼女みたいになりたかったんだ」
「…舞」
最愛の妻の名前を呟く
彼女みたいになりたい…まさか
「お前…」
「そうだ、俺は裏切り者としてここで殺される
ちょっと彼女と違うが…犠牲無くして勝利無し、仕方ないことだ」
「…分かった」
「一刀流で来い、全力だ」
彼は双剣を抜く
俺も黒刀を引き抜いた
それは獲物を求めて黒い霊力を纏う
「終わりだ」
俺は呟く
「オーケー…」
刃を上に、腰を下ろして彼は構えた
「―――いざ、参る!」