1匹狼の幻想郷帰還   作:回忌

63 / 115
別れ

「さぁ、来い」

 

彼の言葉に反応するように突っ込む

まずは懐に、双剣の片方でもいいから飛ばそう

 

「せい」

 

「っ!」

 

彼は太刀筋に反応し双剣を振る

黒刀の一撃を防御、後ろに引いた

 

また、低く構えてこちらの攻撃備えているようだ

 

「ふぅ―――」

 

深呼吸を挟む

ハッキリ言って彼は油断ならない

彼の戦闘能力は斬鬼でも分からないくらいだ

本気を出したところを見たことも無い

 

分からないことが一番怖いのだ

 

もしを連想させてしまうから―――

 

「―――っ!」

 

「シィっ!」

 

上からの双剣で叩きつけ

それを刀で防ぎ、報復の斬撃を放つ

刃は彼の頬をかすめたのみだ

 

追撃を恐れたのか彼は後ろに下がる

 

良い判断だ、斬鬼はそう思った

刀を握り直して横に移動する

 

「…」

 

「…」

 

睨み合い

双方、横に移動しながら相手を観察する

緊張の糸は常に張り、緩まる事は無い

 

いや、緩まなくていいのだ

 

このくらいの緊張感が程よいものなのだ

 

そう思って瞬歩で彼に近づく

どうやら相手も同じ事を考えていた様だ

彼も瞬歩で攻撃してきた

 

「ふんっ」

 

「はっ」

 

刀で斬っては防がれて引く

そしてまた瞬歩で詰めて斬って、防がれる

これを数回繰り返す

 

「せい」

 

「やっ」

 

火花が散り、辺りを一瞬明るくする

その度彼の表情がよく見えた

 

「とうっ」

 

「おらっ」

 

焦りでも、悲しみでもない、表情

それは何も無い表情だった

ただ、喜びが滲んだ、少し狂気に犯された表情

彼は歓喜しているのだろうな、心の中で

 

彼が望んだ、「何かの為に死ぬ」という事がようやく…

 

どうして彼はそんなに死を望むのか

 

斬鬼には到底分からなかった

 

だが、その覚悟だけは斬鬼には理解出来た

 

だからこそ…

 

「俺は…お前を殺さなければ」

 

「殺されるために俺は闘ってきた」

 

彼はそういうと接近して下から斬撃を放つ

それを体を捻って避けると今度は横から斬撃。

黒刀を振って弾くとその腹に突きを放つ

それは一寸の狂い無く突き刺さる

 

「―――っ!」

 

彼は苦痛に顔を歪ませた後、後ろに引いて刀を抜く

斬鬼は付いた血を払わずにまた斬る

それは彼の右腕に小さな切り傷を生んだだけだ

 

「やるな」

 

「そうか、まだまだだ」

 

そういうと斬鬼は腰を低く下ろす

そして黒刀を両手で握り、顔の横あたりで地面と並行に構える

彼も腰を低く下ろして双剣を構えた

苦しそうな声で彼が言う

 

その視線は黒刀の黒い霊力に向いていた

 

「…"彼女"の演技は…本当だったのか…?」

 

「この怨嗟も、あの行動も、全て…演技だッ!」

 

「―――!」

 

怒りに身を任せるように刀を振る

その瞬速は彼の目に入らなかった

 

斬撃は彼の左腕を斬っていた

 

「がぁ―――」

 

「終わりだ」

 

黒刀を彼の足に向けて振り、行動力を無くす

立つ手段を無くした彼は後ろに倒れた

 

 

ゲッケイジュの花園には彼が横たわっていた

 

いや、正確に言うならば岩に身を預けていた

 

その左腕と足から出血は止まらず、流れ続ける

 

それが止まらないくらい、妖力が無いのが見て分かった

 

「…」

 

「…あぁ」

 

彼の目が開く

斬鬼の刀を見る後、己の状態を見て、力無く笑った

 

「俺は…ここで終わりか」

 

「そうだな、よく頑張った」

 

斬鬼は頷く

ここまで、よく頑張ってくれたものだ

 

「はは…"能力無し"でよくここまで生きてこれた…」

 

「お前が、本当の最強だ」

 

こいつに能力なんて無かった

元からある才能と努力が彼を今日まで生かしてきた

 

 

 

 

 

 

―――それを、今から斬鬼が奪う

 

 

 

 

 

 

俺は顔を上げる

そこにはポロリと涙を落とす斬鬼の姿が見えた

 

はて、何故お前が泣くんだ

俺はそう彼に質問した

 

「お前は…本当に…馬鹿だ」

 

刀をこちらに向ける

その刃先は震えている

 

「もう、止めてくれ…」

 

涙が落ちる

彼は懇願していた

 

「これ以上…俺の傍から居なくならないでくれ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理…だな」

 

俺は薄く笑う

斬鬼、それは無理だ

俺にはもう居なくなることしか出来ないのだ

 

だが、お前には娘が居る

 

俺は斬鬼に言う

 

娘を、娘の友を、お前が見守れ

 

言い聞かせるように、斬鬼に言う

痛みがどんどん深まっていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あの子に、本当の事を言ってやれ

 

俺は彼の口が三回開くのを見た

それが彼のムスメの名前であることを知り、安堵する

良かった、彼は忘れていない―――

 

そう思うと体が重くなった

 

今の今まで気力で保ってきたが…もう限界だ

 

ざんき、おわらせてくれ

 

言葉がどんどん短調になる

 

「じゃあ…な…白狼大天狗…画面の向こうの貴方?」

 

そういうと彼は黒刀を振り上げた

その瞳から涙が止まらない

彼の頭の上に丁度月が浮かんでいた

 

 

【挿絵表示】

 

 

…あぁ、最後にいいものを見れた

 

そう思うと同時に彼の斬撃が胸を切り裂いた

 

 

「…」

 

目の前で親友の命が潰えた

もう、この肉の塊は動くことはない―――

 

そう思っていると右腕から順番に灰と化していく

下駄を履いていた足が消え、足袋が平たくなる

彼という物が消え、残骸のみが残っていく

 

―――最後に、彼の安らかな顔が灰と化した

 

俺はその岩に彼の服を置き、双剣を突き刺す

それにはありったけの力を込めた

抜こうとするが、抜けない

それを確認すると俺は踵を返し、歩き始める

 

安らかに、眠ってくれ

 

そう呟くと斬鬼は闇に消えていった

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。