あれからの後始末は大変だった
反対の意見も少なくない訳で、本当に大変だった
それでも抑えられない程では無かったのが幸いか
だが、同時に大切な物も失った
その命はもう二度と戻ってくる事は無いだろう
それを思いながら書類に目を通した
あれから山は変わった
己の事では無く、全ての事を考える事
全て、とは行かないが…
だが、今までより自由になったのは確かだろう
昔のように人間が里に住むのは難しいかもしれないが…
交流くらいは出来るようになるかもしれない
というより、してみせる
彼もそれを望んでいるはずだ
「…当主殿」
不意に女中が話しかけてきた
斬鬼は作業を止めることなく進めていく
「どうした」
「少し、休まれては」
「いや、ダメだ」
斬鬼は首を振りながら作業を進める
休む暇なんて無い、早く終わらせなければ
そんな斬鬼を止めるように舞が覆いかぶさった
「休みなさい」
舞の有無を言わさない声が聞こえる
だが、斬鬼はそのペンをずっと走らせる
「斬鬼」
不意に声がしてペンが止まる
いや、止められたのだ、誰かの指がペンを止めている
スキマから紫が半身を出していた
「貴方、今日まで寝てないわ」
舞が肩に手を置く
だが、斬鬼は全く気にしていない
「だから」
「"なんだ?"何日起きてると思っているのよ、斬鬼」
紫がため息をついた
その間にも斬鬼はペンを動かそうとする
「ほんの数日くらい徹夜しようがどうでもいい」
「違うわ、もう1年半以上寝ていないのよ」
と、斬鬼の力が緩む
それを利用して紫はペンを取った
斬鬼はそのクマが真っ黒になっている顔を上げる
充血した目で外の景色を彼は見た
雪景色―――
はらはらと降る雪に自然と斬鬼の手が震える
そして机の上にあるマグカップを手に取ろうとした
「あ―――」
それが空を切った後彼は机に突っ伏した
瞬間、全ての力が失われていく
無論起き上がる力も例外では無い
斬鬼の意識はここで途切れた
〇
「―――はぁ」
目の前で寝る旧友にため息をつく
それは舞にとっても同じだったようだ
「彼の悪い所ですね、無理をするのは」
無理をしたのは無理のない話しか
親友殺しなんて、私には出来る気がしない
仕方なく、なんだろうけど…
「よいしょ」
彼女は斬鬼をお姫様抱っこすると、ベッドに寝かせた
その寝顔はあまり見たくないものである
「これは丸一日寝るでしょうね、恐らく」
「そうでしょう、1年半以上の疲れがとれるとは思えませんが」
そんなんで疲れが全てとれたら皆徹夜するだろう
斬鬼の場合普通に出来そうで困る
「後は任せるわ」
「分かったわよ、じゃあね」
私は舞に斬鬼を任せるとスキマに入る
そこでまたため息をついた
彼は引き摺り性だ
"あの時"の事をまだ引き摺って娘に真相を伝えていないのがそれだ
彼は山を離れた、帰ってきてくれた
だが、あんな事が起きるなんて私は―――
私が起こして事で、こんな事になるなんて
あれを記録する訳にもいかない
仕方なく彼が山に帰ってこなかったことにした
「はぁ」
また、私は溜息をついた
〇
「―――っ」
目を開けると見慣れた天井が見えた
それはいつもの自分の部屋の天井…いつの間にかここに居た
当主の部屋で寝ていた筈だ、どうして…
「舞…か」
「正解」
後ろからの声
上半身を起こすと後ろから温もりを感じた
舞が後ろから抱きついている
「ふふ、お疲れ様…気分は?」
「マシになった」
俺は立ち上がると当主の部屋に歩き始める
が、ふらりと立ちくらみがしてしゃがんでしまう
「くぅ―――」
「少し大人しくしていた方がいいわ」
そういうといつの間にかお粥を持っていた
スプーンを置くと、そのまま立ち上がる
「貴方は1人が良いでしょう?落ち着いたら呼んで
貴方が休んでいる間は私が変わりをしておくわ」
そういうとこの部屋から出ていった
よく見てみると、ここは舞と暮らした部屋だった
懐かしさが込み上げてくる
"家族3人"で初めてベッドに寝たのも―――
「…はぁ」
"お前"に言われても、無理かもな
俺はこれを理由に動けないで居る
意気地無しめ
俺は自虐するとスプーンを持つ
腹が減ったが、固形はあまり食べたくない
舞はそこも理解している、いい嫁だ
そう思いながらお粥を食べ始めた
〇
「はいはいこれはこれ、あれはあれ!」
舞はほぼ棒読みで仕事を進めた
斬鬼の変わりとして最も適役である
「舞様、こちらを」
「櫓の修理、兵装強化…はい、どうぞ」
「…わかりました」
舞から返された書類に目を通した後部下が移動する
するすると書類が少なくなっていく
というより今市役所に移動している
書類を持ってここに移動したのだ
一応我が家の机の上にここに行くという手紙は置いてある
元気が戻れば彼はここに来るだろう
彼にガッツがあればだが
「ま、良いでしょう」
書類をさささっーと処理していく
重要な物があるか無いかくらいすぐわかる
斬鬼はよく見すぎなのだ、あんなに見なくていい
―――と、思っていれば来たようだ
「待たせたな」
彼はそういうと舞の肩に手を置いた
舞もにっこりと笑う
「ええ、今丁度終わりましたわ」
「ありがとよ、明日は少し散歩といくか?」
「貴方が行きたいだけでしょう?」
「それもそうだな、ははは!」
笑う夫婦を暖かい目で見守る同士達
その目はこそばゆくなく、逆に心地よいものだった
―――良い夫婦だな
そんな声が聞こえるくらい、ほのぼのしていた