その声の方向に斬鬼と天月、舞は向く
背中に浮く注連縄、赤い服に胸の鏡
「親玉のお出ましか」
ポツリと呟く
それに女か笑った
「ははは、確かに親玉だが…敵じゃ無い」
敵意が無い様子で言う
斬鬼と天月は得物に手を伸ばしながら聞く
「敵じゃない?襲撃してきた癖によく言う」
「あれは自分勝手な行動だ、すまなかった」
女は素直に頭を下げる
そこに悪の波動が無いことに気づき、武器を下げさせる
舞の腰辺りからちらりと娘がこちらを見ていた
「不意打ちしてきたら全滅させてやるよ」
一応杭を刺しておく
「覚えておくよ、紅白斬鬼」
そういうと女はどこかに消えていった
斬鬼ははぁとまたため息をついた
「まーた、面倒事か」
「…誰なんだ、あいつ」
「八坂神奈子、大和の神ね」
文が隣に降り立つ
そして娘の頭を撫で始めた
少しくすぐったそうだ
「あの特徴的な注連縄と胸の鏡、確定ね」
確かにあの格好はわかりやすい
いつの間にやら神々にスパイを忍び込ませたらしい
「まぁ、面白くなりそうですねぇ、旦那さん」
「警戒はしておけ、また身勝手な奴らが来るかもしれない」
恐らく神奈子が杭を刺しているだろう
刺さなかったら殺す
ともかく、不用意に襲いかかられる事は無いはずだ
それだけは信じておこう
「さて、対抗の準備はしておこう」
「首を突っ込んでしまったからね、全く」
文がため息をついた
コイツも面倒事は嫌いなタチだ
「おとーさん、大丈夫?」
娘が舞から離れてこちらに歩いてくる
その腋を持って高い高いしてやる
「お父さんは大丈夫だぞー、ほーら高い高ぁーい」
「わっー!高い高ぁーい!」
「和むなぁ…」
ピリピリとした空気の中でこれがあると空気が緩む
見ているだけでこちらが笑顔になりそうな図だ
斬鬼は娘を降ろしてやると、その頭を撫でる
娘は嬉しそうに目を弛めた後に舞の元に戻って行った
「お母さんも気をつけて!」
「よしよし、私も大丈夫よ」
「お留守番させよう、今の外は危険だ」
攻撃されて娘が死んだら何をするか分からない
…いや、フリとかじゃなくて本当に何をしでかすか分からない
多分、大和を滅ぼした後に娘の後を追うんじゃなかろうか
斬鬼は心の中でそう思った
「最近は育児と仕事が両立しにくいぜ…」
家に帰っていく2人を見ながらそう思った
何にしろ、面倒事が増えたのは間違い無い
「ほら斬鬼、会議よ」
「ほらな、やっぱりあるよな」
ああいう事が起きれば必ずあるのが会議
会議の場ではあるが、かなり長引く事もある
人間には分かりにくいが妖怪は感覚がおかしい
かなり鈍い方にあるのだ
それこそ…1年経っているのに気づかないとか
まる1日、と思っていても1年過ぎている
アホみたいに時間がすぎる事もある
暇を持て余したもの達の悩みどころだ
…といっても、斬鬼と舞…もとい神風部隊は訓練尽くしだ
それに時間厳守を決め込んでいるので適当にしていたら殴られる
いや、俺は殴る側の妖怪だけど
斬鬼は1人で笑った
「行くかぁ…」
〇
「終わった終わった」
会議場から出ながら背伸びをする
文と舞は欠伸をしながら、天月と青年を首を回しながら出た
「長いわねぇ、もう夜じゃない」
文が私語でそういう
彼女は公の場だと男のような口調になる
私的な場ではこんな感じな口調だ
凄い違うというか、ギャップがあるというか
「どっかで飲もうぜ」
「居酒屋、あそこでいいんじゃない?」
舞が指を指す
そこにはまだあかりのついた居酒屋があった
上手い夜飯が食べれそうだ
「酒は抜きで行こう、二日酔いで戦うなんてキツい」
「ご最もね、分かってるわよねぇ…舞?」
文は目をギョロリと舞に向けた
そんなに気にした様子も無く
「さぁ?私は早く食べたいわ」
「…私も、食べたい」
いつの間にやら娘が舞の腰に抱きついていた
斬鬼は頭に手を当てる
「帰ったんじゃ無かったのか…」
「ずぅーっと私の腰に抱きついてたわ
この歳でスニーキングが出来るのね」
ヨシヨシと娘の頭を撫でる
そういう事じゃ無いだろう、と斬鬼は思った
やれやれと大袈裟なジェスチャーをしながら
「ま、いいか…」
目の前にまで来た居酒屋の中に入る
既に零時を過ぎているが、客はポツポツと居た
「あー、服はこのままで良いか」
あの黒服、実を言えば職務の時にしか着ていない
団体様であるため、大きな席に案内される
「さーて、最初はササミとたこ焼きで行くかぁ」
「じゃ、私は枝豆と水で」
「そうですねぇ、焼き鳥、三本頂きしょうか」
「俺も焼き鳥三本頼むよ」
「うーむ、だったら刺身を貰おうか」
斬鬼、文、舞、青年、天月は各々頼む
これと言って規則性は無い、好きな物を頼んでいる
適当に、酒以外を頼んでいるのだ
「協調性がねぇなぁ…」
「ま、自由で良いじゃない」
「被りが嫌な感じに思えるがね」
斬鬼はポツリと呟いた
そして、間もなく料理が到着した
その辿り着いた料理たちを食べる
余程腹が減っていたのか、それともストレスが溜まっていたのか
その勢いに、斬鬼の娘は引きながらもチビチビと酒を飲んでいた